ウルトラ・ヴァイヴから発売された、DJの黒田大介が選曲・監修したCDコンピレーション『MASTERPIECE - CLARENCE REID 45S COLLECTION FROM T.K. 1969-1980』と『SOUNDS FUNKY! - JAMES BROWN 45S COLLECTION FROM T.K.』の2タイトルのリリースを記念し、5月21日に渋谷のレコード・ショップ、ULTRA SHIBUYAでイベントが行なわれた。
the SharkらのDJと、TKについて語る座談会形式のトークイベントは大盛況のうちに幕を閉じたが、今回はそのトークイベントの模様をお送りします。
――本日は『MASTERPIECE - CLARENCE REID 45S COLLECTION FROM T.K. 1969-1980』と『SOUNDS FUNKY! - JAMES BROWN 45S COLLECTION FROM T.K.』発売記念ということで、TKについて語る座談会形式のトークイベントを行なうことになりました。登壇されるのは、ステージに向かって右から、DJの黒田大介さん、ジェームス・ブラウン愛好家で仙台のCafe & Bar SUPER GOOD店主の佐藤潔さん、ディスコ・クリエイターでディスコ研究家のT-Grooveさん、レコード・コレクターのthe Sharkさん、コンピ制作にあたって資料提供などもされたデザイナーのMASKMANさんの5名です。そして、本日、司会進行を務めます音楽ライターの林剛と申します。よろしくお願いします。
黒田「今回のコンピで個人的に注目してほしいのは、CD1枚目の真ん中あたりですね。コンピのタイトルにした〈Masterpiece〉(70年)と、その周辺の2〜3曲。自分はディープ・ファンクというムーヴメントに関わってきましたが、そこでもよくかけていた曲なので。あと思い入れがあるのは、〈Miss Hot Stuff〉(71年)かな。あれはthe Sharkさんとトレードしました。 20年前ぐらい、the Sharkさんのご実家に伺って、上品なお母様にお茶とお菓子を出していただいて、正座しながらトレードしましたね(笑)」
――ウィリー・クラークと一緒に作っている曲が多いですが、有名曲を自分風にアレンジして作り変えるみたいなものも多いですよね。ルーファス・トーマス風の「Chicken Hawk」(70年)や、ジャクソン5っぽい「Three Is A Crowd」(71年)あたりは狙っていますね。「Caution! Love Ahead」(76年)はヴァン・マッコイのディスコを意識しているようです。
黒田「さっきもthe Sharkさんと話していたんですけど、フレーズの引用が多いよねと。〈Nobody But You Babe〉(69年)もアイズレー・ブラザーズの〈It's Your Thing〉を真似たとしか言いようがない」
the Shark「そこらへんも考えてリリースしてるんだよね。でも、考えているわりには売れなかった。ただ、影響力がないシンガーは2枚ぐらいで終わっちゃうから、その点はすごいよね」
黒田「シンガーに対しての影響力はすごくあった」
the Shark「クラレンスのヴォーカル面に関しては、J.P.ロビンソンと並べて聴くと似てるんだよね。だから、歌唱指導とかやってたのかなとは思いますね。こういう風に歌えとか。ただね、今回のコンピを通して聴くとわかると思うんですけど、最後のほうはヴォーカルの力が弱くなるんですよ。もう、ソウル・シンガーとしては歌いたくなかったんじゃないかな。それでブロウフライみたいなこと(エロ漫談)をやらざるをえなかった。そんな人だから、ベティ・ライトがやるような一流のコンテンポラリーなセッションに呼ばれなかったような気がしますね。クラレンスはベティ・ライトの恩人ですよ。それなのに使われなかったのは、ソウルをやらなくなったからなんじゃないかと」
the Shark「でもね、真面目に曲を作っても報われなかったクラレンスの身にもなると、フラストレーションが溜まって、そうなっちゃうかもしれない。心の闇みたいなのが爆発したんじゃないかな。孤独な独身の狂気みたいなのもあって、それでいて覆面を被っちゃうようなシャイな部分もある。コインの裏表というか。『Wax Poetics』誌のインタビュー記事でも言っていたけど、自分はいい曲を書くのに売れない……チキショー!って。それでブロウフライになったと」
MASKMAN「あんまり社会的に通用しない人ではあるよね。ブロウフライはエロ漫談だから…」
黒田「でも、クラレンス・リードとしては、他人に提供した曲では売れたものもあって、ベティ・ライトの〈Clean Up Woman〉(71年)もそうですし、クラレンスが先に自身でシングルを出していた曲ですがグウェン・マックレーの〈Rockin' Chair〉(75年)も有名ですよね」
――ブロウフライ名義の作品は、特に今の時代、無邪気に笑えないところもあるのですが、裏方としてのクラレンスも女性アーティストへのセクハラが酷かったようですね。グウェン・マックレーのインタビューで、彼女がTK(傘下のCat)での最後のアルバム『Melody Of Life』(79年)を作る時、それまでクラレンスと組んでいたけど、セクハラが酷すぎてベティ・ライトに制作をお願いしたという話を読んだことがあります。
the Shark「レコーディングにセクハラ持ち込むっていう話は聞きますね。クレランス・リードって、ガール・グループをよくプロデュースしています。でも、すぐにグループがいなくなるのは、やっぱりレコーディングにセクハラを持ち込んだのが大きな理由だと思います。(クラレンス主宰のReid's Worldから登場した)リード・インクとかも、クラレンスがセクハラをしなかったらセカンド・アルバムが出ていたかもしれません」
――佐藤さんからジェームス・ブラウン(JB)の話が出たところで、『SOUNDS FUNKY! - JAMES BROWN 45S COLLECTION FROM T.K.』(ライナーノーツは佐藤潔氏)について、お話していただきましょう。ジェームス・ブラウン絡みの7インチ・シングルを集めたコンピレーションですけど、これもまた素晴らしい選曲です。全曲ジェームス・ブラウンがプロデュースをしているようですが、クラレンス・リード絡みの曲もあります。
佐藤「懐かしいですね。〈Rapp Payback(Where Iz Moses?)〉ですよね。Pファンクとラップが合体したような感じのディスコ・サウンドで、長い曲ですが、不思議なことに12インチ・シングルにはロング・ヴァージョンが入っていないという」
T-Groove「ディスコ時代のJBとしては、あのアルバムがいちばんいいかもしれないですね。JB自身がプロデュースしているだけあって出来がいい。ただ、79年の『The Original Disco Man』は、好きな人がいたら申し訳ないですが、個人的にダサいと思っていて。やっぱり時代に飲まれた感はある(笑)」
MASKMAN「いちばん聴かないアルバムだもんな」
佐藤「そうですね(苦笑)。まあ、私はどれも大好きで、ジェームス・ブラウンに駄作はないと。『The Original Disco Man』は中古レコード店でずっと残っているジェームス・ブラウンの代表格でした。私も若い頃にそれを聴いて、これはファンクじゃないなとか思ってたんですけど、年を経るにつれて、あの時代でもジェームス・ブラウンはきちっとやっていたんだなっていうのがわかるようになりました」
佐藤「〈Screwdriver〉も“じゃあ、ヘンリー・ストーンよろしく!”で、クラレンス・リードが全部やったのかなっていう。調べたんですけど、ちょっと不明で。リー・オースティンはディープな感じがよく出ている〈Put Something Of Your Mind〉のほうがいいな。解説にも書かせていただいたんですけど、リー・オースティンはジェームス・ブラウンの幼馴染みで、ピアノの弾き方をJBに教えた方で、付き人でもある。60年代はシングルを何枚かJB系列から出しながら、70年代入ってからもInternational BrothersやPolydor系列からシングルを出しています。そういえば、74年の“キンシャサの奇跡”の音楽祭の模様を収めた映画『ソウル・パワー』(2008年)にも彼が出てくるんです。最後のシーンで、 ジェームス・ブラウンのライヴが終わって、控え室まで戻ってく様子をカメラが追うのですが、その時に付き人としているのがリー・オースティン」
佐藤「そのレコーディング・メンバーで、ホリー・ファリスという白人のトランペッター(70年代中期頃から30年間JBのバックを支えた)がいるんですけど、その方に当時のレコーディング・メンバーを憶えてますか?って聞いたら、だいたいこんな感じですって返事が来て、解説に反映させてもらいました。そのやり取りの中で、スウィート・チャールズが亡くなったというメッセージをいただいて、私もびっくりしていたら、その後ニュースになりました。スウィート・チャールズはアルバム『For Sweet People』(74年)に収録されたクローヴァーズのカヴァー〈Yes It's You〉をカーティス・メフィールドみたいな裏声のヴォーカルで歌っていて、フリー・ソウルで有名になりましたよね。バンド・メンバーとしては60年代後半から、今で言うBlack Lives Matterみたいなテーマの〈Say It Loud,I'm Black And I'm proud〉(68年)とか〈Funky Drummer〉(70年)でベース弾いたりとか、ジェームス・ブラウンの作品に貢献しました」
――ボビー・バードの曲は、クラレンス・リードとウィリー・クラークが書いたことになっている「Headquarters」(75年)はオージェイズの〈For the Love of Money〉(73年)を意識していそうですし、「The Way To Get Down」(74年)は「バンプでゴキゲン」という邦題もついていて、意識的にディスコに向かってます。
佐藤「〈Headquarters〉は確かにオージェイズの曲にリフが似てますね。〈The Way To Get Down〉は日本盤シングルが75年に出たんですけど、邦題はコモドアーズの〈The Bump〉(74年)に便乗しようとしたんじゃないかな」
――ボビー・バードはスティーヴィ・ワンダー「Signed,Sealed & Delivered」のカヴァー(73年)がありますね。カヴァーということでは、最後に登場するジョニー・ザ・マンによるサム・クック「A Change Is Gonna Come」のカヴァー「A Chance Is Gonna Come」(73年)も印象的です。
佐藤「ボビーのカヴァーは、71年3月にパリのオランピア劇場で行なったジェームス・ブラウンのライヴからの音源ですね。そのライヴは90年代に『Love Power Peace』(92年)として世に出ましたが、じつは72年に3枚組LPで出そうとしたけど、Polydorに移籍したばかりで、バンド・メンバーもブーツィ・コリンズたちが辞めた後だったので、それはお蔵入りにして、新メンバーとアポロ・シアターでやったライヴを『Revolution Of The Mind』(71年)として出したんですよね。ジョニー・ザ・マンが歌うサム・クックの素晴らしいバラードは、あれを黒田さんが最後に選んでもらって、いい締めになったなと」
黒田「これはたぶん世界初CD化ですよね。今のところYouTubeにも上がっていない。このシングルはカップリングもサム・クックのカヴァー〈Win Your Love For Me〉です」
佐藤「TKらしいなと思ったのが、オリジナルの〈A Change Is Gonna Come〉ではなくて〈A Chance Is Gonna Come〉(チャンスはきっとやってくる)にしていて、わざとですが、さすがはTKだなと」
――今回新たに組まれたコンピレーションではないですが、2020年にはT-Grooveさん選曲・監修によるTK のディスコ・コンピ『T-GROOVE PRESENTS T.K. SUPER DISCO CLASSICS 1977-1979』がウルトラ・ヴァイヴから出されました。黒田さんも以前、他社でTK Discoの曲を集めた『Sound Of T.K. Disco〜12" Choice For Boogie Generation』を出されていましたが、選者が違うと、同じレーベルのコンピでもここまで違う内容になるのかとあらためて思いました。
――T-Grooveさん監修のコンピは、ベディ・ライトやジョージ・マックレー、フォクシー、ビーター・ブラウンのような王道から、グレッグ・ダイヤモンド、さらにはさっき話が出たワイルド・ハニー、ユニバーサル・ラヴといった通好みの曲も入ってますね。特にシャイ・ライツの「Higher」(79年)は、Mercuryと20th Century Foxの間に出された知る人ぞ知るシングル。LPだけでシャイ・ライツを追っていると、この曲を聴き逃しているかもしれません。
T-Groove「そうですね。どこにも書いてないですけど、おそらくニューヨーク録音で、プロデューサーは白人。TKは、75年くらいまではジョージ・マックレーの〈Rock Your Baby〉(74年)、ベティ・ライトの〈Where Is The Love〉(74年)、KC&ザ・サンシャイン・バンドの〈That's The Way(I Like It)〉(75年)みたいなマイアミ・サウンドのソウル〜ファンクでしたが、76年くらいにディスコ・ブームが始まると、ディスコ・アーティストを売り込むようになった。TKがディスコ・レーベル化するきっかけになったのは、やっぱりリッチー・ファミリー。それまでマイアミ・サウンドだったところにフィリー・サウンドが入ってきた。リッチー・ファミリーの〈ディスコは恋の合言葉〉(76年/原題〈The Best Disco In Town〉)がヒットしたことでTKが変わったと思うんですよね。一気にユーロ・ディスコ路線になったというか、インターナショナル化していくんです。フランスとかヨーロッパから出しているレコードもどんどんライセンスして、アメリカで出してヒットさせていく。そのあたりが僕は大好きなんですけど、ソウル好きからすると面白くなかったりとか、賛否が分かれるみたいで。僕的な踏み絵はセリ・ビー&ザ・バジー・バンチの〈恋するマッチョ〉。これが好きか嫌いかで、TKディスコが好きか嫌いかを判断しています(笑)。当時リアルタイムでディスコを聴いていた人たちからしたら、ジョージ・マックレーの〈Rock Your Baby〉とKC&ザ・サンシャイン・バンドの〈That's The Way(I Like It)〉と並ぶ名曲なんじゃないかと」
――それこそ、今回CD化されたクオーツのアルバム(78年)はフランス産のエレクトリック・ディスコですし、「Shades Of September」がDJに人気と言われるオバタラのアルバム(77年)はNYのエレクトリック・レイディ・スタジオ録音だったりと、76年以降の作品は多様化していますね。
the Shark「オバタラは怪獣みたいなジャケットのやつだよね」
T-Groove「クオーツは、昔、ネスカフェのCMで使われた〈Concerto Para Uma Voz〉(69年/邦題〈ふたりの天使〉)を作曲したフレンチ・イージーリスニングの巨匠、サン・プルーによるディスコ・プロジェクト。それがなぜかアメリカではTKから出された。Casablancaとかほかのレーベルからは相手にされなかったみたいで。そうやってTKが受け皿となった結果、曲がどんどんヒットしていく。そうしたらヘンリー・ストーンも気分が良くなって、TK Discoという12インチ・シングル専門のレーベルも誕生させた。TK Discoの第一弾シングルはフィリー・ソウルのワイルド・ハニーなんですよね」
――反対にフィリー出身のグループだけど、マイアミで録音したのが、今回一緒に出たブルーノーツのGlades原盤作『The Truth Has Come To Light』(77年)。テディ・ペンダーグラスが抜けた後のブルーノーツで、ハロルド・メルヴィンがいた本家ではなく分家。プロデュースがジョージ“チョコレート”とはペリーで、マイアミ録音。フィリー・ソウルとマイアミ・ソウルの合体みたいな感じです。
MASKMAN「昔、ジョージ・マックレーやKC&ザ・サンシャイン・バンドがヒットしていた時、日本のレコード会社で“Miami Sound Explosion”とはというTKのキャンペーンがあってね。その時にサンプラーLPを作ったんですよ。リトル・ミルトンの曲をバックに小林克也さんが〈マイアミ・フロリダー!〉ってDJをかぶせたやつで、その内容が良かったんだよね。その前からTKのことは知ってたんだけど、LPにはラティモアとかが入っていて、そこでクラレンス・リードも知った。それからクラレンス・リードを追い続けて50年ですよ。『SOUL ON』誌でもTKの特集をやったし、真剣にレコード会社と組んでいろいろやってましたね。だから、NUMEROから出た“Eccentric Soul〜THE DEEP CITY LABEL”が出た時はびっくりした」
the Shark「TKの音って、案外とっつきやすい。中古レコード屋さんでも安かったりするんです。もちろん、高いものもあるよ。でもね、TK Discoの12インチなんか安いし、ぶらぶらするついでにオリジナルをつまんだりしてほしい。今回ウルトラ・ヴァイヴさんから出たCDなんて、2枚組で1500円ですよ。すごいもん出してるよね。そういうのを買って 家に帰って晩酌するのがいちばんじゃないかなと思います」
佐藤「先ほども言いましたが、ヘンリー・ストーンは自分の哲学として、音楽業界誌に〈Record should be in the market〉と語っていたそうなんです。つまりレコードは市場に出るべきで、玉でも石でも、どんな音楽でも音楽には価値があると。今回ボビー・バードのTK関連の曲を集めた『Back From The Dead』(2005年)も日本初CD化になったのですが、最後に〈I Know You Got Soul〉や〈Sex Machine〉のライヴ音源が入ってるんですね。音質がイマイチで、普通だったらリリースしないだろうなと思われるものも入っていて、でも聴いてみると、ものすごい熱いライヴなんです。それをTK側が、これはレコードとして出すべきだと判断した、その哲学が素晴らしいなと。私はジェームス・ブラウン関連の解説を書いていますが。T-Grooveさんのディスコ・コンピとか、今回のクラレンス・リードのコンピとか、TKには幅広い音源があるので、皆さんそれぞれ好きなものをチェックしていただければ楽しいんじゃないかなと思います」