ボサ・ノヴァ、サンバ・カンソン歌手、
吉田慶子が
カエターノ・ヴェローゾ集を発表した。ブラジルを代表する1942年生まれの人気アーティスト、カエターノの作品およびレパートリーから10作品を厳選し、彼女がイメージする世界と共鳴させた深く静かなアルバム。繊細なプレイで寄り添う
黒木千波留(p)と
増根哲也(b)とのコミュニケーションから生まれたサウンドは余韻と間が非常に美しく、その響きに溶け込むように歌う吉田のウィスパー・ヴォイスはまるで別次元で聴いているかのよう。緊張感と心地良さが同居した新作
『カエターノと私』について、さらには彼女が表現する音楽へのこだわりなど、じっくりとインタビューした。
――カエターノ・ヴェローゾ作品集を制作するにあたり、まず最初に共演したいミュージシャンの顔が浮かんだとか。
「私がカエターノのナンバーを歌うのであれば、こんな雰囲気にしたいという、ぼんやりとしたイメージが浮かび上がりました。だったら、一緒にアルバムも作ったことがあり、プライベートでも親しくお付き合いしているピアニストの黒木さんにお願いしたいと思ったんです。私のやりたいことを理解してくれていますし、とにかく、音の選び方が素敵。彼が美しいと感じる音楽を私も美しいと思えるほど共感しているミュージシャンなんです」
――ベーシストの増根さんは黒木さんが引き合わせてくれたそうですね。
「5年程前に3人でライヴをしたことがありまして、そのときの感覚がふと蘇り、それでお声をかけました。増根さんとは初めてのレコーディングでしたが、とてもおもしろかったです。と言うのも、こう来るだろうなとイメージする音が来ないんです(笑)。つまり、私の想像を超えた演奏をしてくれる。それってとっても素敵なことでしょう?」
――彼らはボサ・ノヴァ専門のプレイヤーではありませんが、その点に関しては?
「だからオファーしたというのもあります。ふたりは原曲を聴き込んでいないぶん、ガチガチに染み込んでいる私を自由に解き放してくれると思いましたし、楽曲そのものと純粋に向き合い、膨らませてくれそうな気がしたんです。実際、その通り、いや、それ以上でしたね。それと、ギターの弾き語りをしているカエターノの世界から離れたかったので、私もギターを弾いたのは2曲だけにしています」
――アレンジは?
「とにかく音数を限りなく少なくして欲しいとお願いしました。あとは、この曲はピアノとデュオ、もしくはベースとデュオといったような編成に関する希望を伝えましたが、音の細かい部分やプレイに関してはおふたりに任せています」
――なぜ、音数を少なくしたいんですか?
「このアルバムに限ったことではなく、それが私の求めている世界なんです。音数が少ないと相手の音をしっかりと感じ取れますし大事に思えますから」
――収録曲を選ぶのはすいぶん悩んだそうですね。
「カエターノはたくさんの引き出しがありますので、どんなふうにでもできると思うんです。ロック・ミュージシャンがカヴァーしてもカエターノ集は成立しますしね。そう思ったときに、私は私なりに作りたいと思いました。でも、そこからが大変。彼のアルバムを聴き直してみたんですが、とにかく好きな曲が多すぎてキリがない。本当にキリがないんですよ(笑)。それで、試しにカエターノ好きな友だち数人に“あなただったら何を選ぶ?”とリサーチしてみたんですが、これがみんなまったく違っていて。いろいろな側面を持っているミュージシャンだけに、各々自分にとってのカエターノがあるんでしょうね。最終的に、黒木さん、増根さんと演るということを基準に曲を決めていきました。あとは言葉かな」
――歌詞ということですか?
「それ以上に、ポルトガル語の響きです。じつはブラジル音楽が好きな理由のひとつに言葉の響き、とくに、
ジョアン・ジルベルトやカエターノが歌うポルトガル語がたまらなく好きなんです。ポルトガル語がメロディと重なったときに響きあう美しさに惹かれ続けていますし、だから、私はポルトガル語で歌っている。歌詞の意味云々以上に、言葉の響きで曲を選ぶことも多いんです。ときどき“日本語で歌わないんですか?”と言われることがあるんですが、単純にポルトガル語で歌いたいだけ」
――日本語で歌う理由がない(笑)。
「そう。ボサ・ノヴァの曲を訳して日本語で歌うことにも興味がないんです」
――では、吉田さんはカエターノのどんなところに惹かれているんでしょう?
「声はもちろん、存在そのものが大好きです。とくに80年代以降のアルバムに魅了されていますね。じつは、カエターノの曲を歌いたくなった最初のきっかけは、私にとって1番大きな存在であるジョアン・ジルベルトがカヴァーしていたからです。その後、カエターノのアルバムを全部聴き、ライヴにも足を運びました。だからといって、自分がカエターノの曲だけでアルバムを作るとは思ってもいませんでした。今回、あらためて彼の音楽と向き合えたことで再発見もありましたし、本当によかったと感じています」
――吉田さんが歌うときに大切にしていることを教えて下さい。
「なるべく歌わないようにすること。ようは歌い上げないでお喋りするような感じで表現するのが理想で、それができたときにすごい充実感がありますし、お客様に伝わると本当に大きな喜びを感じます。でも、仙台のライヴハウスで歌い始めた初期の頃は、もっと大きな声で歌わないとダメだとかいろいろ言われました(笑)。私は小さな声で歌うことを大事にしていたのに、その気持ちをなかなかわかってもらえなかったんです。当時はボサ・ノヴァだけを歌うミュージシャンがあまりいなかったというのもありますけれど、けっこう苦労しました。でも、その頃、お世話になったトロンボーン奏者の田庫秀樹さんに“それでいいんだよ”と背中を押して貰えたので自分の目指したスタイルを保てたんです」
――そんな吉田さんの世界が味わえる11月7日、東京、渋谷のサラヴァ東京でのCD発売記念ライヴ、とても楽しみです!
「アルバム収録曲はもちろんですが、それ以外のカエターノ・ナンバーもたっぷりとお届けする予定ですので、是非、皆さん、お越しくださいね」
2014年11月7日(金)東京 渋谷 SARAVAH東京〒150-0046 東京都渋谷区松濤1丁目29-1 クロスロードビル B1
03-6427-8886出演: 吉田慶子(vo, g) / 黒木千波留(pf) / 増根哲也(b)
開場 18:30 / 開演 19:30
ご予約 3,800円 / 当日 4,300円(税込 / 1ドリンク付)
※ご予約: WESS サラヴァ東京
www.l-amusee.com/saravah