すべての体験を糧にして、次へ先へと目を向ける。22歳のフロントマン、ドム・ギャンダートンの話を聞いていると、時代をうまく追い風にしたバンドならではの勢いに目がくらみそうだ。なにしろこの
スーパーフードが登場したバーミンガムは、現在“B-town”と呼ばれ個性的な新人バンドが続々と登場している地。とはいえこの4人組は、「僕らが結成したころは周囲に
マイ・ブラディ・ヴァレンタインのような、ギター・バンドだけどドリーミィな音作りを目指す連中が多かった」こともあり、自分たちが演ることでしか成立しえない音楽を追及。その結果、デビュー作
『ドント・セイ・ザット』は90年代半ばの
ブラー直系のポップさも持ちつつ、バングラやガラージ、USオルタナなど多彩な要素を混在させた曲たちが、聴く側の気持ちを勢いよく盛り上げる。
ちなみに制作の際にはAlalalことアル・オーコンネルがプロデュースを手がけ、ミキシングは重鎮スティーヴ・オズボーンが担当。自分たちに何ができるかを好奇心たっぷりに見つめながらデビュー作を制作した経験は、この先も長く続く彼らの道を、きっと明るくしっかりと照らすに違いない。
――ついに完成したデビュー作は、明るさだけでなくダークさも宿したメロディに、光も闇も見据えた歌詞で、あなたたちのポテンシャルの豊かさに驚く一枚になりました。
「すごく気に入ってるよ。自分で思っていたよりも、かなり洗練された音になったという印象がある。なんて言うんだろ、音作りにキラキラしたところがあって。まあ、すごく優秀な人たちとの仕事だったから仕上がりに期待はしてたけど、音作りでここまで変わるんだな、という感じ。だから全体として、次のアルバムで何ができそうか、今回のアルバムを作って見えてきた気がするんだ。どんなことが可能なのか、そういう下地を作ってくれたのが今回のアルバムだと思う」
――それにしてもバーミンガムって、今、次々と新しいバンドを生んでいますね。歴史的にも、いいバンドを多く出しているし。
「でも、僕らがやり始めた頃のバーミンガムって、けっこうドンヨリしてたよ。魅力的なクラブなんて……とくにバンドでライヴをやれる場所なんて、2つぐらいしかなかったし。何か面白いことをやろうと思ったらロンドンに出て行かないと無理って感じで、バーミンガムで何かやろうって気持ちにさせられるような、モチベーションになるものは何もなかった。実際、僕らもロンドンに出てきちゃったしね。でも僕らは、バーミンガムにいるうちから、地元の音楽的な盛り上がりを感じられた方かも。やっぱり友だちや知り合いがバンドを始めて順調にやってるのを見ると、自分もやるぞって気になるから、その連鎖反応みたいなものだと思うな」
――なるほど。では本作、初めてのアルバムということで描いていた青写真のようなものはありました?
「アルバムということで意識したのは、サウンド面、つまりプロダクションだね。どういう音にしたいかっていうより、スタジオでどんな音が作れるのか試してみた。曲はすでに揃ってたところにギリギリまで書き足したから、一貫したテーマとかはないんだ。だから、次のアルバムで目指したいのはそこなんだよね。バラバラに曲を集めるんじゃなくて、曲同士に繋がりが見えるような、全体として筋が通るような」
――もう、気持ちは次のアルバムに行ってしまっているのかな(笑)。
「そう、そう! もう曲はいくつか書けてるし。今のアルバムからシングルをカットする合間に、次のアルバムに入れる曲もシングルで出しちゃおうかって思ってるんだ。おもしろくない? それって」
――いいですね、勢いがあって。じゃあ音作りで意識してたことは、プロデュースのアル・オコンネルとミキシングのスティーヴ・オズボーンに期待したことに繋がります?
「あ、アルには録音時にスタジオでいろいろと助けてもらったけど、最終的な音はむしろスティーヴ・オズボーンが作ったものだよ。録音してあった音に、ミキシングの段階でさらにレイヤーを足してくれた、っていうのかな。正直、彼がいなかったらああいう音の仕上がりには到達してなかったと思う」
――へええ。ちなみにスティーヴ・オズボーンの仕事ぶりって、どんな感じなんです?
「あの人、一つの曲につき100ぐらい違うミックスを作るんだ。とにかくどんどんやって、自分が納得するものができるまでやめない。あの忍耐力はスゴイよ! 音楽を作っていて、我慢するのが僕には一番大変だから。僕も作業にはかなり立ち会ったよ。意見も言った。でも、ほとんどは見学している感じ。彼はツマミの回し方ひとつとっても穏やかで、どこまでもリラックスしているのが印象的だった。すごい人だよ」