“待望の”という言葉がこれほど似合う作品も近年なかったのではないだろうか。電気グルーヴが約8年ぶりとなる待望のニュー・アルバム『J-POP』を完成! リリース前から大きな話題を呼んでいた今作について石野卓球とピエール瀧に話を訊いた。 前作
『VOXXX』は混沌を極めていた。それは、石野卓球自身が「バンドを取り巻く状況も、作り方も混沌としていた」と語るように、楽曲それぞれが情報過多な上に捩じれや歪みがあり、ゆえに強烈なスクラッチを脳内に刻み込むような、壮絶なアルバムだった。あれから8年が過ぎ、電気グルーヴはどうなったのか? その答えは、この奇妙にシャープでソリッドなジャケット写真を見てもらえば分かるだろう(ページ右上を参照。ちなみに、これが最新のアーティスト写真でもある)。音数は過去最小で、楽曲それぞれもスッキリ、カッチリとミニマルに纏まっている。でも、歌詞にはしっかりとした濃厚な後味がある。この待望の最新作『J-POP』で、彼らは完全復活と同時に、自身のルーツを革新させたような新しい音楽性を提示して見せた。
「8年間、俺たちも完全に沈黙していたわけじゃないんでね。それぞれの活動もあったし、“電気グルーヴ×スチャダラパー”もあったし。そういう活動をしていたら、段々と月日が流れちゃって、気づいたら6年とか経ってて(笑)。ただ、曲自体は数年前から作ってはいたんですよ。だから、レコーディングをはじめる頃には、だいたいどんな作品になるのか、青写真は見えてましたね。意外にも最後まですんなり終っちゃって、“なんだ、今回は誰も死なずに終るのか”と思って」(石野卓球)
「いままで人が死んだことなんかねぇだろ(笑)」(ピエール瀧)
この『J-POP』というタイトルも、リリース前から物議を呼んでいた。誰もが、そこにアイロニックな意味性を感じてしまうからだろう。
「ほら、この質問きたって感じ(笑)。このタイトルについては、絶対に聞かれるからね。これはね、僕らだって“J-POP”だってことです。深い意味なんて、一切ないですよ。キャッチーだし、今回、僕たちが作った音楽に一番しっくりくる言葉が“J-POP”だっただけで。自分たちは今の“J-POP”についての知識はないし、それについて批評することで責任を背負わなきゃいけないとか、嫌ですから」(瀧)
「シングルで
〈少年ヤング〉と
〈モノノケダンス〉を出す機会を偶然与えてもらってということもあるとは思うけど、最初から歌もののポップ・アルバムにしたかったんです。歌ものでポップスとなると、自分たちの知識の中では必然的にエレクトロなニューウェイヴとか、そういうものになってしまうんですよ。今回は、小難しいことは一切考えずに、素直に作ったアルバムです」(石野)
清々しいまでに無駄を排したサウンドとポップさで、完全復活を証明してみせた彼らだが、インタビュー中に驚くべきニュースが2人の口から告げられた。
「秋ごろ、もう1枚フル・アルバムを出します。これは『J-POP』に収めることができなかった楽曲がメインになるけど、完全なオリジナル作品です。その後でツアーにも出ますよ」(石野)
「これもまったく無計画なだけで、とくに深い意味はないので、はい(笑)」(瀧)
取材・文/冨田明宏(2008年3月)