デビュー25周年を迎える
スチャダラパーが、通算12枚目のアルバム
『1212』をリリース。前作
『11』から、実に6年ぶりのオリジナル・アルバムだ。その間も、ライヴ活動を続け、ライヴ会場限定で作品を発表してきた。つまり彼らにブランクは一切なし。本作には、テレビ東京系ドラマ
『山田孝之の東京都北区赤羽』のオープニング・テーマ「中庸平凡パンチ」、
チャットモンチーとのコラボ、“スチャットモンチー”名義の「M4EVER」、
清水ミチコが参加した「Off The Wall feat. 清水ミチコ」などバラエティに富んだ楽曲が並ぶ。さらには、
ANIがソロ・ヴォーカルを披露する「哀しみ turn it up」もインパクト絶大。世間一般の普通と自分たちの普通の隙間を巧みにラップする彼らに、新作にまつわる話を聞いていこう。
――アルバム・リリースは6年ぶりとなりますが、ライヴ会場限定アルバムはコンスタントに作っていたんですよね。
Bose 「そう。時代に合わせてというか、ライヴ会場だけで買えるとか面白いなと思って、そっちにグッと振って何年かやってたんです。それが大成功すれば、おおっぴらにニュースになるけど、まあ、ちょうどだね、トントンだねっていう(笑)。結局、CDでアルバムもリリースした方がいいんだなって。でも、両方あっていいと思いますけどね。やっぱりCDを出さないと、世の中的には“何もやってない人たち”ってことになるのをすごく感じました。YouTubeとかいろいろメディアもある世の中なのに、CDを出してないと、“最近、音楽やらないんですか?”って言われるし(笑)」
ANI 「amazonとかiTunesの検索で引っかからないと、やってないってことになるじゃないですか」
Bose 「それも、僕らを知ってて検索する能動的な人ですよ。スチャダラパーをふわっと知ってるくらいの人だったら、絶対に出会えないっていう」
ANI 「なので、ここ数年のまとめですよ。まとめサイトのようなアルバムです(笑)」
SHINCO 「“スチャダラパーをざっくり言うと”みたいな感じ(笑)」
Bose 「“スチャダラパーってなんだっけ?”というのが大体分かるアルバムです(笑)」
――(笑)。アルバムを通じて、今の時代に対して思うことをズバっと言うスチャのスタンスは変わってないですね。
Bose 「そうそう。前から言ってたけど、結局、世の中との距離感が変わらないというか。世の中で普通とされてるものと、自分らのズレ感が同じまんまで、むしろ、より離れたかなって思いますね。ネットで、それがよりハッキリ分かってきた。ネットは何でも反対してればいいんだって感じになりがちだし、逆に切って貼ったような正論しか言わないヤツもいるし。まともな批評とかないなって」
ANI 「ヤジ馬が乗っかってくるだけですよ、今の世の中(笑)」
Bose 「ニュースになるから、そっちが勝っちゃったりしてね。なので今回も、基本、なんかイヤだなって思ってることを曲にしてますね。とは言え、もちろん売れた方がいいとは思うんですけど。じゃあ、いわゆるヒット・チャートに入ってるような曲の良さが分かるのかと言ったら分からない。“どうしよう?”みたいな(笑)」
――“世間一般ってどこなんだ?”ってことですね(笑)。
Bose 「僕の考える紅白歌合戦って、
二階堂和美と
ハナレグミが競うヤツだし全然違うなって。もう、僕らは違う世界で生きてるのかなって思ったりしてね。それこそ
『マトリックス』みたいに、僕らが見てるのは違う世界なのかなって」
ANI 「パラレルワールドですよ。どこか遠くにJ-POPのユートピアがあるんですよ、きっと(笑)」
Bose 「こっち側はザイオンで格好ボロボロみたいな(笑)」
――(笑)。曲はどれからできたんですか。
Bose 「パックマン30周年(2010年)のときに話をもらって作ったんですけど、〈ゲームボーイズ 2〉を作ったのは最近なんです。結構、時期的には離れてるんだけど、内容は一緒な感じで面白いなって。〈ゲームボーイズ 2〉も、“もう、ゲームでもねぇな”って内容なんだけど(笑)」
ANI 「ゲーセンも全然だもんね」
Bose 「アーケードなんてヒドいもんだよ。今行くと『妖怪ウォッチ』に並ぶ列のみ(笑)」
ANI 「宇田川町のデカいゲーセンもプリクラと、あとはUFOキャッチャー。でもコイン落とすヤツ流行ってない?」
Bose 「昔からあるヤツ?」
ANI 「あれが派手になってジャックポットになってて大量にコインが出てくるっていう。ダイエーのゲームコーナー行くとそんなのばっかでしたよ。正月だから結構盛りあがってましたけど(笑)」
――(笑)。スチャットモンチー名義での「M4EVER」ですが、チャットモンチーとのコラボはどういう流れから実現したんですか。
Bose 「チャットモンチーとはだいぶ前から知り合いで、特にあっこちゃん(福岡晃子)は仲良くて遊んだりしてたんです。コラボのアイディアを出すとき、僕ら、つい放っておくと、“電気グルーヴとスチャダラパー”みたいな、平均年齢が下がらない感じになっちゃうから(笑)」
ANI 「コラボも違うパターンを模索したんです」
Bose 「実際、チャットモンチーは好きだから、一緒に何かやりたいと思ってたんです」
――コラボ相手の年齢を下げたけど、橋本絵莉子さんの歌は母親目線っていう(笑)。これ、まさに母親から電話がかかってくるときのパターンの曲ですね。
Bose 「男のひとり暮らしのあるあるですね」
SHINCO 「“このタイミング、うぜー、出るのやめよう”とか(笑)」
Bose 「ほんとそうなんだよ。母親って電話のタイミングが変だよね。“なんかあったのか?”って思ったら、“CMで流れてるやつ観たよ”とかさ(笑)。野菜とか送られてきても、葉ものが多くて使い切れないし。で、絶対、隙間をみかんで埋めるっていう」
ANI 「いつも焼き海苔と味付け海苔は来るな。缶のヤツ。あと米」
Bose 「米はいい(笑)。でもそういうのが、この歳になってまであるのがアホっぽいなって(笑)」
――曲の最後に、アコギとドラムをバックにみんなで“ハ〜ハ〜”ってコーラスする展開が面白いです(笑)。
Bose 「〈ウィー・アー・ザ・ワールド〉的に、面白い感じに、ほのぼのして終わろうっていうことで、こうなったんです(笑)」
――「哀しみ turn it up」は、かなり振り切った80'sチューンになってますね(笑)。
Bose 「これ、ゲラゲラ笑いながら作業しました。まず、ANIの歌ものっていう時点で爆笑で、内容も変な感じだし」
SHINCO 「ちょうどデモが活発になってきたときだったので、舞台はデモになっています」
Bose 「設定が、デモの中で見る風景で、ラヴ・ソングだったらバカだなって作ったんです(笑)」
ANI 「デモで見かけた可愛い子との距離が縮まらないっていう切ない話です(笑)」
――(笑)。あと、ANIさんの好きな少女時代「GENIE」の“DJ プリ・バック・オン!”を、ついに導入しましたね(笑)。
Bose 「あれがまたクダらないんですよ(笑)」
SHINCO 「あそこ大好き(笑)」
ANI 「インパクトがあっていいですよね。まあ、今さらやるのかって感じですけど(笑)。これ2年前に作ったけど、その時点でも微妙にタイミングずれてたし(笑)」
――(笑)。この曲もそうですが、今回のアルバムは、昭和感と今みたいな対比が多いですね。“変わってるんだか変わってないんだか”っていう気分が色濃く出てるなと。
SHINCO 「確かに」
Bose 「言うほど僕らも変化ないしね。僕ら、70年代の頃の音楽をたくさん聴いて90年代に音楽作ってたけど、90年代から2010年代の差ってどれくらいあるんだろう?って話をよくするんですよ。細かいものは変わったけど、70年代から90年代ほどの大きな変化って特にないんじゃないかなって」
Bose 「進まないですね。空飛ぶスケボーに乗ってるわけでもないし」
SHINCO 「まさかね、自分が21世紀になって、20世紀にやってなかったデモでシュプレヒコールを挙げるとは思いませんでしたよ」
Bose 「いよいよ日本も追いつめられてきたっていうね。世界中でデモが起きたりってあるじゃないですか。世界のどこでも、今までで一番格差がついてる状態なんじゃない? やっぱり支配する側が上手になってきて、そうじゃない側と、どんどん差がついていくみたいな。まさに『マトリックス』ですよ。ちょうど年末にWOWOWで『マトリックス』三部作やってて、これ、わざとかなって(笑)」
――『マトリックス』は1999年の作品でしたね。
Bose 「21世紀に向けての象徴的な映画だったってことですよね。ほんとそうなりましたって感じがするなぁ」
――アルバムの裏テーマが『マトリックス』に思えてきました。そして、「中庸平凡パンチ」は、ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』のオープニング・テーマになってますが、ドラマとつながるMVが強烈ですね。
Bose 「ドラマの監督と舞台になってる赤羽に行って、フィクサーである清野とおるくん(※ドラマの原作者である漫画家)にちゃんとセッティングしてもらって、あの世界観に僕らがポンと入るっていう感じで撮影したんです」
SHINCO 「あれ、海外の人が観たらどう思うんだろう?」
Bose 「逆にあれこそ、“日本っぽくてカッコいいね”ってなるんじゃない? だって鷹匠が出てくるんですよ(笑)。“見たことねー”って(笑)」
ANI 「あと、ジジイとババアのキスがヤバい(笑)」
SHINCO 「あれギョッとする(笑)」
Bose 「あれは子供に見せちゃいけないね」
――あの濃い人たちの感じから、人間の根っこの部分をむき出しにして見せられてるように思えてくるという(笑)。
Bose 「あの数値化できない人たちに、結局勝てるのか?っていう面白さはありますね。あのギョッとする感じの面白さは不思議でした。しかも、今までは街の変わった人たちだったのが、ドラマに出たことで役者感が出ちゃってさ。清野くんが作った虚構の赤羽が、現実になってしまったっていうね(笑)。まったくスマートじゃないし、あれがまだまだ日本ですよ。っていうか、僕らもどっちかというと、そっち側に入りそうな感じがする(笑)。バーでSHINCOと、居酒屋「ちから」のマスターを見てたら、“あれ? あんま変わらない、友だちに見える”って思っちゃって(笑)。自分もこうなのか、ヤバいって」
SHINCO 「立石とか武蔵小山とか、楽だわって思うもん」
Bose 「だから、ウチらも大きく分けたら鷹匠サイドの人間ですよ(笑)」
――ザイオンの住人としては、そうなりますね(笑)。
Bose 「そうですよ(笑)。そういえば、この曲ウチの子供に聴かせたら一発で歌ってたわ。そんなの初めてだったから、“すげーいい曲なんじゃない?”って思っちゃった(笑)」
――それは素晴らしいじゃないですか。あと、清水ミチコさんとの「Off The Wall feat. 清水ミチコ」は、コントとモノマネ全開のナイスなコラボですね。
Bose 「清水さんの天才っぷりを発揮してもらいました。清水さんは大好きでプライベートでも仲いいんです。前から、
山口百恵さんフィーチャリングみたいな、普通だったら不可能ことが、清水さんとならできるぞって妄想してたんです」
SHINCO 「そうそう。くだらないラップで、サビが
ユーミンだったら超面白いとか」
Bose 「こんなの考えてるんですってメールしたら、“いいよ”って返事が来て、割とすぐコントの台本みたいなのが届いたんです。それを一緒にやるって感じでした」
ANI 「お得でファンタジーな1曲です」
――確かに(笑)。さて、アルバム・タイトルは『1212』となりましたが。
Bose 「通算12枚目ってことでSHINCOがパッと思いついたんです。“ワンツーワンツー”って、ラップでもよく言うし。しかも12月12日はANIの結婚記念日でもあるので」
SHINCO 「しかも結婚12年目なんです」
ANI 「オレが忘れないようにって理由もあるんです(笑)」
Bose 「マスタリングしたのも12月12日だし」
――コンセプチャルじゃないですか(笑)。
Bose 「結局、数字に引っ張られるところがありますね(笑)。だから、前のアルバムが『11』で、これが『1212』だから、次『131313』になっちゃうのかなって(笑)」
Bose 「いきなり怖いヤツになるかもしれない(笑)。次作もぜひお楽しみに(笑)」