「ペプシマン」「カーキン音頭」など、数々のヒットCMの音楽作家として知られるジェイムス下地。映画『PARTY7』のサウンドトラックを手がけるなど、映画音楽の世界でも活躍する彼が映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』のオリジナル・サウンドトラックを担当。『PARTY7』ではテクノ、ハウスといったクラブ・ミュージック、新作では2014年的な解釈のジャズ・ファンク、ブルースを聴かせたりと彼の音楽性は幅広い。ジェイムス下地の持つ音楽のバックボーン、『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の音楽へのこだわりなど、話を聞いていこう。
「はい。あとちょうど88年に、マッキントッシュがパフォーマってアプリケーションを出して、音楽業界を席巻しだしたんです。2MBのメモリーに40MBのハードディスクで、150万円コースって時代でした(笑)。プリセット表を見ながら、音を出して打ち込んだりしてましたね(笑)。それでいろいろやってたら、いろんなミュージシャンの間で、“あそこの会社で働いてる小僧が結構やり手らしい”って噂が広まったんです。あと当時はMR.MUSICってレコードの制作もやってたんです。今でこそカリスマになってますが、近田春夫さんが専属作家で、President BPMの〈Hoo! Ei! Ho!〉(高木 完と藤原ヒロシのユニットTINNIE PUNXがフィーチャリング)とか、ヒップホップの走りとなるような作品を全部そこで制作してたんです。ちょうど僕が入ったくらいにキョンキョン(小泉今日子)のアルバム『KOIZUMI IN THE HOUSE』を近田さんが作ってて、あの作品も全部一緒に作業したんです」
――では、映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の話題にいきましょう。これまでのサウンドトラックはプログラミング主体の音作りでしたけど、今回は生音ですね。オファーが来たときはどんなものを作ろうと思ったんですか。
「去年の7月くらいに、小池 健監督からTwitterのDMで“ルパンの映画を作ってるんですが、音楽をやってもらえますか?”ってきたので、“喜んで”と返信したんです。その前に『LUPIN the Third -峰不二子という女-』(2012年放送のテレビ・シリーズ)という作品があって、それは女性がメインだから音楽(菊地成孔が担当)も誘惑的な甘い感じだったんです。映像も音楽も、作品全体のトーンがレトロを狙ってる感じだったので、打ち合わせに行ったときに、こもった音の70年代風にするか、2014年版の音にするかって話をしたんです。それで、匂いは70年代風だけど音はアップデートしたものにしようという話になったんです。あと最初の打ち合わせの段階では、まだ線画しかなかったので色調の雰囲気も聞きました。僕は、サウンドキャンバスって呼び方をしてるんですが、どういう音のパレットを作るかを考えるんです。小池監督は、“1回ビビッドに色を付けるけど、そこから一段階色を抜いたスウェーデンの映画みたいなカラーリングにしたい”って言われたので、じゃあ今回は生音で行こうと思ったんです。生と言ってもディストーション・ギターよりもオルガン系、例えばプログレでも歪みの強くないものの方がいいかなって。あとは、完全おまかせで作っていきましたね」
「やっぱりクールさですよね。あとハードボイルド、男くささ。スピンオフ作品ではありますが、『LUPIN the Third -峰不二子という女-』は完全に不二子のストーリーだったんです。だけど、今回はルパンの話で次元が中心にフィーチャリングされてる内容だったので、流れとしては、山下毅雄さん、大野雄二さんが作ってきた世界観をあまりにも壊すと、ファンもがっかりするだろうなって。自分もルパンのファンだったので、作りながらシーンを見てると、“ここにチャーリー・コーセイのあの曲が入るとカッコいいだろうな”って脳内再生されるんです(笑)。それに替わるものを作らなきゃいけないっていうのは、ちょっとハードルが高かったですね」
――山下毅雄さん、大野雄二さんの世界観を踏襲しつつの現代版ってイメージはありますね。
「はい。特に1stルパンの山下さんの世界は相当意識しました」
――ベーシックな質問ですが、映画音楽を作るとき、どういった順番で作るとかありますか。
「いろんな人がいるみたいですが、僕は毎回頭から作っていきます。例えば、10分目に流れる曲を作るにしても、頭から映像を観て流れを考えます。映画のテンポ感で気分が変わるように、音楽も同じように作っていくんです。ただ、劇中歌〈Forever And A Day〉とエンディングテーマ〈Revolver Fires〉は、曲がないと作画ができないということで先行して作ったんです。それ以外は、絵ができるのを待って音を作りました。どういう曲をつけてくれって発注はなかったので、1回全体的に曲を作って、そこから抜いていった感じですね。とはいえ、あまり楽曲が主張してもしょうがないし、あくまで音でストーリーを演出するという感覚です」
「ないです(笑)。僕は昔から、特に“こういうものを作りたい”ってモチベーションがないんですよ。音楽を作ることは嫌いじゃないんですけど、来た依頼に対してゼロから考えて、何がいいかなって作っていくタイプの作家なんです。『HARBOR TALE』(2011年公開)は、チェコの歴史のある〈ZLIN FILM FESTIVAL〉のアニメーション部門で最優秀賞と観客賞をいただいた作品なんですけど、クレイアニメに対して生の室内楽で作ったんです。絶対に僕が作ってると思わないくらい、いつもの作品とはテイストが違います。つまりケース・バイ・ケースでなんでもやるってことなんですけどね。何がその作品にとって一番幸せなのかということを考えて音楽は作ります。スタイリッシュなものはそうなるし、CMではバカなノリの楽曲も多いし(笑)。でも音楽の根本は一緒なので。みなさん表面的なスタイルを見るけど、その音楽に込められている“意味”はなんなのかってことなんですよね」