デビュー15周年を迎えた
LOVE PSYCHEDELICO が2作のベスト・アルバム『LOVE PSYCHEDELICO THE BEST
I &
II 』を同時リリース。これまでに発表された代表曲、ヒット曲をアトランダムに収録、「2015年のLOVE PSYCHEDELICOの音をイメージした」(NAOKI)というリマスタリングを施し、新たな音像を提示することに成功している。今回はメンバーのKUMI、NAOKIにインタビュー。本作の制作を軸にしながら、15年間ブレることのないクリエイティヴィティについてじっくりと聞いた。
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II
――ベスト・アルバム『LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I & II』がリリースされます。05年にリリースされたベスト盤『Early Times』 は完全生産限定だったので、カタログとして残るベスト・アルバムがこの作品が初めてですね。 NAOKI 「はい。買ってください」
KUMI 「宣伝(笑)」
――(笑)。「15周年でベスト・アルバムをリリースする」というアイディアはレコード会社のスタッフから?
KUMI 「いや、自分たちも……」
NAOKI 「そろそろ欲しいなって」
KUMI 「思ってたんだよね。ちゃんとしたベスト盤は出てなかったから。私たちの15年間の紹介できるものが欲しいっていうタイミングだったのかもね」
――ひとつの節目として?
KUMI 「というより、出会いだよね」
NAOKI 「そうだね。入口というか、出会う機会を増やしたいっていうのもあったし」
KUMI 「これくらい長く活動してると、“LOVE PSYCHEDELICOは知ってるし、曲も聴いたことあるけど、アルバムは持ってない”っていう人とか、“何から聴けばいいかわからない”っていう人もいるので」
NAOKI 「CMとか映画だったり、配信なんかで1曲と出会う機会は増えてると思うんだよね。でも、その人たちに“アルバム6枚買って”とは言えないじゃない? 点と点を線で結ぶじゃないけど、そういうものがあってもいいんじゃないかって」
KUMI 「出会いのきっかけだよね。若い人たちもそうだし、自分たちと同じ世代に対しても」
NAOKI 「
レッド・ツェッペリン のリマスターズ(90年)ってあったじゃん? あそこから入ったからね、僕は」
KUMI 「学生のときだよね」
――ベスト盤から聴き始めたアーティストとかバンドって、他にもありますか?
NAOKI 「いっぱいあるよ。順番に行こうか(笑)」
NAOKI 「アルバム2枚くらいだよね」
KUMI 「そう。だからベストでほとんど全部聴けるっていう(笑)」
NAOKI 「僕は
ザ・バーズ とか、
ザ・モンキーズ とか。LOVE PSYCHEDELICOも、そういうふうに出会ってもいいと思うんだよね。よく“(オリジナル)アルバムで聴いてほしい”って言うじゃない? LOVE PSYCHEDELICOの場合はアルバム曲も代表曲も同じスタンスというか、シングルだからって特に張り切ってるわけでもないので(笑)、ベスト盤から聴いてもらっても誤解されないと思うんだよね」
――どの曲から入っても「これがLOVE PSYCHEDELICOです」と言える、と。
KUMI 「うん、そう思います」
――今回、すべてリマスタリングされているんですよね?
NAOKI 「そう。最近いつもやってもらっているジョー・ガストワート(* )にやってもらって」
KUMI 「今回はデータのやり取りだけどね」
NAOKI 「メールで“ここを直して”“こっちも直して”って」
――曲を作った時期によって機材の状況や録音環境がまったく違うわけじゃないですか。マスタリング、大変じゃなかったですか?
NAOKI 「大変だった(笑)。まず、メディアをアナログ・テープに統一したんですよ。データだったり、DATテープに録ってあったりしたんだけど、オープンリールを回して、ぜんぶアナログ・テープに落として。それをエンジニアのジョーに渡してリマスタリングしてもらったんだよね。だから、初期の曲なんかはかなり聴こえ方が違うと思う」
――確かに。オリジナルとの違いを特に感じるのはデビュー直後の曲ですよね。
NAOKI 「実際、違う聴こえ方にしたいと思って、積極的にリマスタリングをやったのは初期の曲なんだよね。たとえば〈Your Song〉はとてもカジュアルな曲だったけど、今回は大人びた印象になっているかもしれないし、もともとデジロック的に聴こえていた〈Freedom〉はエレキ・ギターを強調することで、ロックンロール調になっているんじゃないかなって。あとは“流れで聴いて気持ちいいアルバムにしたい”“統一感があって、古さを感じることなく楽しめるようにしたい”ってことだよね。“2015年のLOVE PSYCHEDELICOの音”として、全部生まれ変わらせようって。そういう意味では、いままでいちばんサウンドを変えたかもしれないね。勇気を持って……」
KUMI 「勇気というか、楽しみを持ってだね」
――おふたりの好きな音も時期によって変わってきてますか?
KUMI 「自分たちが好きな音というより、その時の音かな。時代の音というか、肌触りみたいなものは繊細に変わってきてるんじゃないかな」
NAOKI 「平たく言うとさ、マスタリングの方向性にも流行り廃りがあるからね。いまはハイレゾとかもあるから、広いレンジが楽しめる音が好まれてると思うんだよ。今回はそのあたりも意識しつつリマスタリングした感じなのかな。ソングライティングに関して言うと、いつまでも風化しない、普遍性を大切にした曲作りをやってきたつもりだからさ、15年前から。昔、よく言ってたでしょ? “10年経ったときに残っているのは、自分たちじゃなくて曲だと思ってる”って」
――デビュー当初から言ってましたね。
NAOKI 「そういう発想でずっと作ってきたから、あえてランダムに並べてるんだよね。過去の曲も新しい曲も同じように楽しんでほしいし」
――ベスト・アルバムを聴いて思いましたけど、本当にスタンスが変わらないですよね。もちろん進化はしてるんだけど、芯の部分というか、大事にしているところがまったく同じだなって。
KUMI 「ルーツに忠実だしね。ホントに変わらないなって、自分たちも最近思うようになりました(笑)」
NAOKI 「何でだろうね? 迷いながら曲を作ったことがないからかな」
KUMI 「確かに迷った状態のまま作品にすることはないね」
――それ、どういうことですか? 作品作りの過程では、当然、迷うこともあると思うんですが。
KUMI 「もちろんそうなんだけど、私たちなりの答えを見つけてから、それを作品にすることを続けてるというか」
NAOKI 「よくわからないまま“何か出来ちゃった”ってことはないよね。いろんな心の旅をして、それが終わったときに初めて作品を作る準備が出来るというか。その前まではたくさん迷うし、悩んでるんだよ。どんな仕事でもそうだと思うけど、“次はどうしよう?”とか“自分はどうあるべきか”って考えるじゃない? 辞めたくなることだってあるしさ。その状態のまま作品を作るのではなくて、“こうしよう”っていう自分たちなりの結論を見つけてから曲に取り掛かるから、作風にブレがないように聴こえるんだろうね」
――それもホントに稀ですよね。キャリアが長くなると、「あのアルバムはよくわからなかったな」って思う作品があるじゃないですか、ふつうは。ボブ・ディラン だってルー・リード だってそうだし。 KUMI 「それはよくわかる(笑)。ただ、自分たちは狙ってこういう感じになってるわけじゃないんだよね。良いか悪いかは別にして、結果的にそうだったというだけで」
NAOKI 「ホントだよね。最初はよくわかってなかったし、〈LADY MADONNA〜憂鬱なるスパイダー〜〉とかは、“出来ちゃった”みたいな感じだったかも(笑)。〈LADY MADDONA〉とか〈Your Song〉もそうだけど、初期の何曲かは自分たちだけで思い付いた感じがしないんだよね。何か目に見えないものに助けられてるというか、僕は無宗教だけど“音楽の神様っているんだな”って思ってしまうようなことが起きてたんじゃないかって。振り返ってみたときに“あのときの自分にこんなコード進行を操るスキルがあったかな?”って不思議になる曲もいくつかあるし。手前味噌みたいだけど、良く出来てるなって」
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――逆に「この曲はまだ拙かったな」と思うことは?
NAOKI 「それはないかな。録音環境のことではいろいろあるけど、それも“あの環境じゃなかったら、このサウンドは出来なかったな”って思うし。独特のローファイな感じとかね」
KUMI 「それはそれで素敵なことだからね」
NAOKI 「うん。
ベック の1st、2ndあたりもそうでしょ」
――確かに。もうひとつ改めて感じたのは、しっかりとルーツ・ミュージックを持っていることの強さで。
KUMI 「それは大きいよね。ルーツはいつも大事に思っているし」
NAOKI 「そうだね」
――この15年の間にも、新しい価値観、新しいスタイルを持ったバンドがいくつも登場したと思うんですよ。そういう音楽に影響されることはなかったんですか?
NAOKI 「うーん……。たとえば?」
――アークティック・モンキーズ なんかは、もっとも顕著な例じゃないですか。あのバンドが登場して、日本にも数え切れないほどのフォロワー・バンドが出てきたし。 NAOKI 「なるほど」
KUMI 「そういうこととはまた違うのかな?」
NAOKI 「世の中とリンクしていないつもりもないんだけどね」
KUMI 「そうだね」
NAOKI 「ただ、影響は受けてないかも。意識するとしたら、やっぱりマスタリングのことくらいかな」
KUMI 「その時代の音ね」
NAOKI 「そのときの空気とか時代の風みたいなものはあるけど、ソングライティングは常に温故知新かな。新しいものというより、ルーツを探ることでヒントを得るというか。新しいと言われているバンドも、何かしらのルーツ・ミュージックがあると思うんだよね。それをリスペクトしながら、新しいものを生み出すっていう。それは自分たちも同じだから。ルーツを感じない音楽にはまったく興味がないんだよね、僕は。それはやっぱり、音楽というものが、ずっと昔から続くバトンの連続だと思うから。ここ20〜30年の話ではなくて、何百年も続いているわけでしょ、そのバトンは」
――そうですね。
NAOKI 「ルーツって言ってもさ、カントリーやブルースじゃなくてもいいんだよ? 演歌でも何でもいいんだけど、ルーツに対するリスペクトって、すごくポジティヴなことだと思う。それはオリジナリティよりも大切なことだと思うし、自分たちもそういう音楽をやりたいんだよね」
――探れば探るほど奥深いですからね、音楽は。単純に「これ、まだ聴いてなかった」って思うことも多いし。
KUMI 「あるねー(笑)」
KUMI 「ポイント10倍だから(笑)」
NAOKI 「番組は木曜日だから、これはとってもいい流れなんです」
――楽しそう(笑)。
NAOKI 「ラジオで紹介したいから、いろんな音楽をたくさん聴くでしょ? その影響は〈Good times, bad times〉なんかにすごく出てると思うんだよね。リフに頼らないというか、新しい角度からソングライティングに入れたので」
――歌詞に関してはどうですか? サウンドと同様、軸になるメッセージはブレていない印象がありますが。
KUMI 「基本、伝えたいことは変わってないからね。楽曲の世界観によって、それにふさわしいシチュエーションを描くわけだけど、“どれも言いたいことは同じ”という感じはあるかも」
NAOKI 「こっちは変わってないんだけど、世の中の反応が変わることはあったかもね。最初の頃は“愛と平和なんて、ホントにそんなこと考えてるんですか?”って鼻で笑われることもあったんだよ。夢見がちな人たちというか……」
――それって70年代の話ですよね? みたいな。
NAOKI 「そうそう。“ヒッピー?”とか(笑)」
KUMI 「ハハハハハ」
NAOKI 「でもさ、ナイン・イレブン(9・11)を境にして“どう思います?”って聞かれるようになったり。愛と平和ということを世の中の人たちが考えるようになったというかさ。ああいう悲しい事件がなくても、そういうイマジネーションが伝わればいいなと思って音楽をやってきたんだけど。だから、本質はまったく変わってないんだと思う」
――なるほど。それにしても本当にブレないですよね、LOVE PSYCHEDELICOは。若いときからそんな感じだと、さぞかし周りと話が合わなかったと思いますが……。
NAOKI 「ハハハハハ! まあ、ホントはバンド・デビューしたいと思ってたからね」
KUMI 「でも、なかなか仲間がいなかった(笑)」
NAOKI 「だけどさ、2004年くらいに今のバンド・メンバーたちと出会えたから。ホリー(
堀江博久 )、圭くん(
高桑 圭 )、権藤くん(
ゴンドウトモヒコ )、賢ちゃん(
白根賢一 )。仲間が増えたことは、その後の自分たちの音楽人生にとって本当に大きかった」
KUMI 「そこで変わったよね」
NAOKI 「やっぱりね、仲間ですよ。それはミュージシャンだけではなくて、スタッフも含めて」
――音楽性にも影響があった?
KUMI 「どうだろう? みんなで“せーの”で録った曲とかはあるけど」
NAOKI 「〈This Way〉だね。音楽性というよりも、音楽のやり方かな。“このままでいいんだ”とはっきり思えたというか。デビューしてから曲がどんどん世の中に出て行ったわけだけど、たとえばこういう取材とかでも“もっとロックぶって、カッコつけなくちゃいけないのかな”とか“もっとキャッチ―なこと言わないとダメかな”って考えてたこともあるんだよね。そのうちに“ここはもしかしたら、自分たちの居場所じゃないかもしれない”って悩みそうになったり」
――戸惑いがあったということですか?
NAOKI 「ロック・ミュージシャンの定義がすごく狭かったんじゃないかな。それは窮屈だったんだけど、自分たちと同じ目線で音楽に向き合っている仲間と出会えたから。“やっぱりこのままでいいんだ。良かった”って思えたんだよね、そこで」
――この15年で音楽業界も様変わりしましたからね。パッケージのビジネスが成り立たなくなって、次のモデルを模索し続けて。
NAOKI 「“手を変え、品を変え”みたいな時代ではないよね。戦略的に音楽を発信していくというよりは、自分たちが信じている世界を“どうだい?”って正面から表現していい時代だと思うんだよね。今ってさ、聴き方が多様化してるでしょ。配信やハイレゾもあるし、アナログ・レコードで聴く人もいれば、CDが好きな人もいる。同じメディアを共有するということが起きづらいからこそ、こちらとしてはよりシンプルに伝えたいメッセージを届けたほうがいいんじゃないかなって」
KUMI 「うん」
NAOKI 「ただ、ミュージシャンはどんな状況でも音楽を作れるからね。稼ぐためにやっているわけではないから、“どうしよう”なんて騒ぐようなことじゃないんだよ」
――ビジネスとして成立しなくなっていることと、音楽自体の本質とは……。
KUMI 「関係ないよね」
NAOKI 「音楽はもともとタダだったんだから、そこに戻ってるだけかもしれないよね。そう考えると、20世紀だけが特殊な時代だったのかもしれないし。(インターネットが普及して)いろんな国の人に知ってもらえる機会が増えたのもいいことだよね」
――ベスト・アルバムのリリース後には全国ツアーを開催。高橋幸宏 さんがドラマーとして参加することも話題を集めています。 NAOKI 「ドラマーとして全国ツアーに参加するのは、80年代の
矢野顕子 さんのツアー以来らしいよ。幸宏さんのドラム、大好きなんだよね。〈LADY MADONNA〉のドラムを叩いてほしいって、ずっと前から思っていて」
――幸宏さんのシャープな8ビート、ピッタリですね。
KUMI 「そう、イメージできるでしょ?」
――めちゃくちゃ楽しみです。ちなみに新曲は作ってるんですか?
NAOKI 「常に作ってるよ。新しい曲も10曲くらいはあるんじゃないかな。どの曲が世に出るかはわからないけど、また近々会えると思うよ」
――え、ホントですか?
NAOKI 「何、その疑いの目は(笑)」
KUMI 「“近々”かどうかはわからないけどね。落ち着いてレコーディングできるのは、ツアーが終わってからだと思うし」
NAOKI 「もっとがんばりたいと思ってるんだけどね、自分たちとしては」
KUMI 「何それ(笑)。でも、本当にいいペースでやれてると思う。まわりのみんなが尊重してくれているからね」
NAOKI 「自分たちの曲にも助けられてるかもね。次の作品を作る間、これまでに作った曲が世の中に流れて、そこで知ってくれる人もいて。そうやってジックリ制作できる時間が作れてるんだと思いますね」