音楽シーンにおいてもインターネットから新しい才能が発掘され、それが当たり前にすらなってきた今。発信者であるアーティスト・サイドもプロモーションに活用するべく、クオリティの高い映像 + 音楽をセットにアピールするケースも増えてきた。“踊るヴァイオリニスト”としてセンセーションを巻き起こした
リンジー・スターリングも、間違いなくその1人だろう。メジャー・デビューは2013年だが、すでに彼女に対する評価はスター級。彼女自身が憧れていたという
ヴァネッサ・メイや
ボンドといったアーティストたちに負けず劣らず、エモーショナルかつアクティヴな音楽とパフォーマンスでオーディエンスを圧倒する。
『リンジー・スターリング』
『踊る!ヴァイオリン』
――日本でもリンジーさんのYouTubeのチャンネルを楽しんでいるファンが多く、ライヴ・パフォーマンスを早く観たいという人が多いと思います。
「じつは2013年の〈サマーソニック〉に出演したんですよ。そのときはまだ1枚目のアルバム
『リンジー・スターリング』がリリースされた頃だったので、誰も私のことは知らなかったと思います。だからみんな、私が弾きながら踊ったり跳ねたりするのを観ながら“あの娘、いったい何者?”みたいな感じだったけれど、とても盛りあがってくれてうれしかったわ。2枚目のアルバムに収録した〈千本桜〉(日本盤のみのボーナス・トラック)も、そのときの素敵な印象があったから日本のファンのために演奏しました。私自身、ゲームの
『ファイナルファンタジー』シリーズを参考にしたステージ衣装を作ったり、
ポケモンや
『千と千尋の神隠し』『ゼルダの伝説』などが好きだったから、こうして日本のファンに音楽をプレゼントできるのは本当にうれしいんです」
――演奏しながら激しいアクションのパフォーマンスができるようになるまで、大変でしたか?
「最初は誰もそんなことできるわけがないと言っていたし、自分でもちょっと試してみて“ああ、無理かも”と思ったくらい。だから、ヴァイオリンを身体の一部だと思って、考えなくても弾けるくらいに一体化することを目指したんです。そこから少しずつ、こんな動きはどうかしら? と試していって、今ではアドリブの動きを入れられるくらいになりました。でも私にとっては、あくまでもヴァイオリンで奏でる音楽が主役なんです。この楽器ひとつで多彩な感情を表現できるし、音楽のジャンルやスタイルも超越できますから。音楽はユニバーサルな言語だと思うし、音楽の持っているパワーを信じたいんです」
――デビュー・アルバムの『リンジー・スターリング』にも2枚目の『踊る!ヴァイオリン』にも、リンジーさん自身のオリジナル曲が多く、単にヴァイオリニストという肩書きでは表現しきれないと思いますが、映像制作もご自身でされていますよね。 「肩書き……そうね……Dancing Pixie Violinistなんてどうかしら(笑)。でも実際、演奏だけではなく曲も作るし、映像のアイディアも自分で出すし、映像編集も自分でやるし、もちろんステージでパフォーマンスもするから、これという肩書きは決められないかな。曲を作るのは信頼できるプロデューサーとの共同作業ですけれど、誰かにすべてのトラック(カラオケ)を作ってもらって自分はヴァイオリンを弾くだけ、ということはしません。今まで知らなかった音楽に出会うとエキサイティングだし、どんどん新しいアイディアを曲にも反映させたいんです。たとえば『踊る!ヴァイオリン』に収録した〈SWAG〉という曲ではジャズ・ヴァイオリンの弾き方を試しているし、最近はトロピカル・ハウスやジャマイカン・スタイルの音楽に興味があるんですよ!」
――近いうちにそうした新曲ができそうですね。音楽はもちろん、ビデオ・クリップも楽しいアイディアにあふれていますね。
「学校で映像の勉強をしていましたから編集作業まで自分でできますし、映画が好きだった父の影響で子供のころからいろいろな作品を観ていました。だからでしょうけれど、面白いアイディアがどんどん浮かぶんです。(西部劇風の)〈ラウンドテーブル・ライバル〉のように、映像のアイディアが先に生まれて、それにフィットした曲を作ることもよくありますよ。この映像だったらカントリーやケルト・ミュージックが合うなと思い、フィドルをイメージした演奏にチャレンジしてみたんです」
「わっ! さっそく
J.J.エイブラムス監督にメールを送ろうかしら(笑)。ビデオ・クリップは監督とディスカッションを重ねながら作っていますが、いろいろなアイディアを考えつくので、やりたいことはまだまだたくさんありますね」
――どういった映画がお好きなんですか?
「恋愛映画も大好きだし、
『アベンジャーズ』のようなアメリカン・コミックを映画化したものもいいわね。それから父が昔の素敵な映画をたくさん観せてくれたんですが、その中でも
ジェームズ・ステュアートが大好きなんです。本当に彼は素敵よ。
『素晴らしき哉、人生!』がいちばん好き。ああいった古い映画の感じでビデオ・クリップを作れるといいかも!」
――ところでデビュー・アルバムと2枚目のアルバム、ジャケットに映っているリンジーさんの印象はずいぶん違いますね。
「じつはアルバムのジャケットも私のアイディアなんです。1枚目はちょっとマジメっぽい私の姿が出ているけれど、ヴァイオリンに顔がついていてコントラストが面白いでしょう? 2枚目はスノードームの中にいるバレリーナが、殻を破って飛び出るイメージ。これは私自身のことですね。いろいろな場所へ行ってコンサートをしたり人に会って視野が広がり、ますます好奇心が湧いてきているんです」