30年前のライヴ音源が、ここまで鮮烈かつ今日的なインパクトを持ってよみがえるとは。
バービーボーイズのデビュー30周年を受けてリリースされたBOXセット
『REAL BAND -1st OPTION 30th Anniversary Edition-』がもたらした興奮は、なにはさておき、まずそれだった。85年2月に発表されたファースト・アルバム『1st OPTION』の最新リマスター盤に加え、同年9月29日・渋谷公会堂で行なわれたステージの模様を、Blu-spec仕様のCD2枚に収録。しかもノーカット、無修正。MCはもとより、ギターが数十秒の間無音になるという“トラブル”まで、当夜の全容をつぶさに捉えた、文字通りのリアル・ドキュメントということになる。
ちなみにメンバー自身、マルチ・テープの存在を知らなかったのだそう。それだけに30年越しの“再会”には、単なる感慨に留まらない発見の数々があったようで、今回インタビューに応じてくれたギターの“イマサ”こと
いまみちともたかと、バンド解散後はソロで活躍してきたヴォーカルの
杏子、二人の口もほぐれる一方。お互い知らなかったというエピソードも交えながら、どこまでも闊達に語ってくれた。
――今回、大ブレークのきっかけとなった2作目ではなく、あえてファースト・アルバムをリイシューしたいきさつからうかがいたいんですが。
イマサ 「簡単な話で、ちょうど30年前の2月25日が、『1st OPTION』の発売日だったんですよ」
――シンプルに記念日的な。
イマサ 「そう。当初は今年デビュー30周年だし、ファーストをリマスタリングして出しますか、くらいな話だった。まあいいっすけど、でも本当にいいの? 1枚出し直すだけで……って、なんかもやもやした状態が続いてて。そうこうするうちに、実は30年前のライヴを録ってあって、そのマルチ・テープが見つかったって話が出てきたんです」
――じゃあ、ライヴ・レコーディングしていたこと自体、知らなかったんですか。
イマサ 「知らなかった」
杏子 「だから、メンバーを呼んで試聴会やりますって連絡が来た時、まず頭に浮かんだのが“やばいっ”(笑)」
イマサ 「なにせ30年前のことだから。俺にしても杏子にしても、のどがカラッカラだったことくらいしか覚えてなかったもん(笑)。しかもアナログのマルチを回して、ちゃんと聴かせますからって言われて」
杏子 「もう、逃げちゃおうかと思った」
イマサ 「俺も(笑)。ところが、いざ爆音で聴かせてもらったら、“やりよるな、こいつら”。記憶していたより、演奏がはるかによかったんです」
杏子 「記憶では、勢いだけってイメージがあったんだけど、これがナカナカ」
イマサ 「レコード会社の思惑としては、試聴会をやることが景気づけになって、“再結成ライヴでもやりますか”ってノリになってくれるんじゃないかという、隠れた動機があったらしいんだけど(笑)。音源そのものがあまりに良くて。“これこそ、みんなに聴いてもらえたらいいんじゃない?”って、ライヴ・テイクをつけたBOXにしようという話が、急遽生まれたんです。最初はどの曲を入れようか、ってレヴェルだったんだけど、だんだん面倒臭くなっちゃってね(笑)。“もう、全部入れよう”」
――間違いも全部。
イマサ 「間違いっていうか、俺のギターの接触トラブルなんだけど。でも、そのこと自体自分たちが忘れてて、聴き直したらスリル満点でおもしろかったから、それでいいじゃん、って」
――聴き手としても、デビュー1年目とは思えないくらいバンドのアンサンブルがしっかりしていて、あらためて驚きました。
イマサ 「自分でも驚いた。セカンド・アルバムのレコーディングが終わった、その直後のライヴだったはずなんですよね。なのにセカンドの曲も……」
――(スタジオ・ヴァージョンとは)かなり変わってる?
イマサ 「かなり変わってるし、かなりモノにしてる。1枚目、2枚目の頃はライヴがメイン。相当リハーサルしてたからだろうね」
杏子 「デビュー前から、とにかくすごい数のライヴをやってたよね」
イマサ 「それが3枚目あたりから、スタジオ作業に時間がかけられるようになって、リハする代わりにスタジオにこもって、ああでもないこうでもないと音をいじり回すようになっていった。もともと、音楽オタクのはしりみたいな野郎の集まりだったからね。そこが杏子からすると、“なにやってんだか〜”って事態に見えてたんじゃない?」
杏子 「例えばコイソ(小沼俊明 / ドラムス)のスネア一個の音決めるのにも、こだわりを持って何時間もかけたり……。今にして思えば、そういうスタジオ作業に、もう少し興味を持つべきだった、とも思うんですよ。でも当時は“もう、ええやん”って(笑)。夜中の2時に六本木のスタジオを一人で出て、ところがバブル真っ盛りだったからタクシーがつかまらないの。かと言って、啖呵切って出てきた以上、戻るに戻れない、なんてこともあったな〜」
イマサ 「今回のライヴはそうなる前。理想の音色は出せてなかったかもしれないけど、その分“てやんでい!”って感じが、メンバー全員の歌にも演奏にもある。
エンリケ(ベース)が言ってたけど、試聴会を境に“ちょっと考え直そう”って。俺自身、機材をシンプルにして、わざとギターを弾きにくくしているんです。初心を思い出させてくれてサンキュー、30年前の俺たち、って感じなんですよ」
REAL BAND-1st OPTION 30th Anniversary Edition-
――杏子さんのヴォーカルも、男性メンバー相手に、「喧嘩上等!」って感じで対等に歌っている姿が爽快ですけど。
杏子 「私、後から入ったメンバーじゃない? しかもアマチュア時代に対バンしたことを通じて、男子4人だけでやってた時代のバービーボーイズが、どんだけかっこいいことをやってたかを知ってる。渋公の時点では、まだまだ自分の居場所を模索してる最中だったと思うんです。迷いがありつつ、でも迷ってたからこそ、過剰なまでに自己主張しようとしていた面がある。試聴会で聴いてる最中も、いろんな感情が浮かんでは消えて……。頑張ってた自分がいとおしくもあり、聴き進めば進むほど、“お願い、失敗しないでね〜、あたし”って」
イマサ 「“頑張れ、あたし”だ(笑)」
杏子 「聴き終えた時、どっと疲れたもん」
――そこでイマサさんにぜひうかがいたいのが、つきあいが長かったコンタさん(ヴォーカル、ソプラノ・サックス)に杏子さんを加えて、男女のツイン・ヴォーカル編成にした、その理由なんです。 イマサ 「ほんっと申し訳ない。さっき杏子が言ってたように、アマチュア時代対バンしたときに、杏子がいたバンドの観客動員がすごくよかったんですよ(笑)。ゲスト・ヴォーカルで参加してくれたらチケットがこれくらい売れるかも、みたいな計算があって」
杏子 「でも、男女かけあいの歌は、もう作ってたんでしょ?」
イマサ 「いやいや(笑)。杏子をゲスト扱いでバービーに引き入れようとして、あわてて書いたんだから」
杏子 「本当(驚)? 知らなかった。じゃあ、〈暗闇でDANCE〉は?」
イマサ 「〈暗闇でDANCE〉はまだなくて、〈タイムリミット〉だけコンタが女言葉で歌ってたの。そこに杏子がゲストで来てくれることになって、〈タイムリミット〉はソロで歌ってもらえるからいいとして、その1曲だけじゃ足りない。男女かけあいの曲を作らなきゃと思ってあわてて書いたのが、〈暗闇でDANCE〉だった」
――ある意味、“当て書き”だったんですね。
イマサ 「それはいつもそうで、大体俺が曲書くときって、そのヴォーカルの声に惚れて、この人がこういう感じで歌ってくれたらぐっと来るぜ〜、というのが基本なんです」
――そう思うと、バービーの曲の場合、まずはコンタさんと杏子さんの声ありきだった。
イマサ 「〈暗闇でDANCE〉の歌詞を書き上げて、それを初めて杏子が歌ったとき、思ってた通りだったわけ。こう響いてほしい、とイメージしていた通りの歌だった。たぶん俺にとっては、メロディ以上に声になったときのアタック感がキモなんだと思うんですよ。〈暗闇でDANCE〉なんか、メロディがほとんどない。それをバッチリのテンションで歌ってくれたからオッケーだなと。しかもゲストで来てもらったくせに、デモ・テープも録っておいたんです。それを無断でソニーのオーディションに送ったら、審査に通ってしまった。だったら“君、もうメンバーね”みたいな」
――もはや、だまし討ち的な。
イマサ 「はっきり言って、だましたね(笑)」
杏子 「私としても、実際お客さんの前でコンタとかけあいで歌うとものすごく盛り上がって、とにかく楽しかった。だから生まれて初めてスタジオでデモ・トラック録りして、後から“送ったよ”って聞かされたときも、万一グランプリとか獲ったら、それはそれでチケットははけやすくなるな、とか(笑)」
イマサ 「ははは。だから、企んでたとか言っても、かわいいもんだった」
REAL BAND-1st OPTION 30th Anniversary Edition-
――あと、今回のBOXを聴いてもうひとつ思ったのが、コイソさんって実は16ビートを叩くのも、すごくうまいじゃないですか。
イマサ 「うまいうまい」
――ファンキーな音楽への志向もありつつ、その上に男女のかけあいが乗っていく。バービーならではの構造だなあ、とあらためて思ったんです。
イマサ 「デビュー時期のせいで80年代のイメージが強いかもしれないけど、杏子も含めてバービーのメンバーって、実は70年代ソウルとか、さらにさかのぼってシックスティーズやフィフティーズの洋楽も聴いていた。俺自身、男女のツイン・ヴォーカルといったとき、
アイク&ティナとか
キャプテン&テニールだっていたしな、と思ってたくらいで、とりたてて変わった試みをしてるという意識はなかったんです。杏子だって、初めて会った頃、
スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)が大好きだったし」
杏子 「学園祭とかで、〈ハイヤー〉を完コピして歌ったりしてたよね」
イマサ 「杏子が当初いたバンドのライヴ観たときにも、“オトコっぽいやつだな〜”って。要は声にパンチがあって、(力を)抜いて歌ってない。コンタも杏子も、一切手抜きなしの全力声。一瞬、こいつ大丈夫か?って思えてくるぐらい(笑)。そういう感じが、ギターで言うとディストーションに当たるんだよね。かならずしも動員だけが理由じゃないんですよ、杏子の歌に惹かれたのは」
杏子 「しかもイマサが書く曲を歌うことによって、私も本来の自分とは違う人格、自分なりの仕掛けみたいなものを作っていった気はしてるんです。はじめのうちは、“私、イマサが歌詞で書いてるような女とは全然違う”って……」
イマサ 「ははは」
杏子 「……思ってたんだけど、結局そういう部分も、まんざらないことはなかった。ていうか、とんでもなく激しい側面とかにも、思い当たるふしが出てきたんです」
イマサ 「そう思うと野郎どもがサウンドのこととか一所懸命に考えてる、そのかたわらで、杏子はバンドにおけるポジション取りとか、ヴィジュアルなイメージ作りとかを、ものすごく考えてたんだろうね」
――そういう女性像を造形する上で、イマサさんなりのきっかけというのは……。
イマサ 「ごめん! 言葉の響きだけで、つじつまを合わせてただけです」
――その意味では、あくまでサウンド重視の歌詞。
イマサ 「……と思ってるけど、実はどっか自分の好きなタイプが入ってんだろうね(笑)。でも、とにかく今もって変わらないのが、メロディと母音の関係とか、歌詞のアクセントとメロディの高低の関係。そこがシンクロしてないと、どうにも気持ちが悪いんだよね」
――アタック感の強い単語、お好きですよね。
イマサ 「大好き!です」
――それがあるから、一見変わった歌詞であっても、聴いてる側が受け取りやすい。ヒットした要因でもあったと思うんです。
イマサ 「コンタと杏子の歌のスキルのおかげですよね、そこは。二人とも滑舌がいいし。しかもアンサンブルがいいから、演奏中に縦のビートが崩れることもなかった。結果、歌詞がカンカンカンと、気持ちよく入っていった側面はあったかもしれない。多少不快な言葉を歌ってはいても」
――“目くそ、鼻くそ”とか歌ってましたからね(笑)。
イマサ 「それでもなんとなく気持ちよく聴けちゃうところが、バービーらしいのかも」
――そう言えば、イマサさんは昨年来久々にバンドで活動されているそうですが。
杏子 「そう! “ヒトサライ”というすごいバンド。私がやってる“東京恥犬特捜部”と対バンやったりして」
――今回、引き抜きはなかったんですか。
杏子 「なかった(笑)。ていうか、
椎名純平くんというすごいヴォーカル兼鍵盤が真ん中にどん!といるんで、私がつけ入るすきはないんだよね、残念ながら」
イマサ 「純平に俺のギター、あとベースとドラムスを加えた4人編成でやってます。思えば、バービー以前にコンタとやってたのを入れても、生涯3つ目のパーマネント・バンド。少ない人数だけど演奏はリッチ。発想的にはどっかバービーに似てるかもしれない。バンドらしさをなくしたくないから、ライヴの時、譜面を見るのは厳禁なんですよ」
【杏子】
SHOW-YA PRODUCE
「NAONのYAON2015」
2015年4月29日(水・祝)
東京 日比谷野外大音楽堂〒100-0012 東京都千代田区日比谷公園1-5出演: SHOW-YA / 杏子 / 相川七瀬 / 山下久美子 / 田村直美 / FLiP / Gacharic Spin / PIGGY BANKS / 渡辺敦子、富田京子(ex-PRINCESS PRINCESS) / 中村あゆみ / 土屋アンナ / 平野綾 / シシド・カフカ / 仮面女子 / PINK SAPPHIRE / 安達久美 / Yuki、Chiiko(D_Drive) / はたけやま裕
開場 14:00 / 開演 15:00全席指定 7,560円・杏子 オフィシャル・サイト
www.office-augusta.com/kyoko/