日本のダンスホール・レゲエ界のオリジネイターといえば、やはり
RANKIN TAXIだ。レゲエ・ディージェイ(ヒップホップで言うところのラッパー)として活動を始めたのが83年。以降、前人未到の活動を続けてきた彼が還暦を迎えて作り上げた通算10枚目のアルバムが
『RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI』である。近年はLESS THAN TVより、フィーチャリングした7インチ・シングルが2枚リリースされるなど、レゲエ界を越えて支持される彼に話を聞いた。
「いろんな理由はあるけど、サボッたってことでしょうね(笑)。2013年の還暦に向けてアルバムを作り始めたんだけど、結局2年遅れてしまった」
――そもそもRANKINさんの活動においてアルバム制作ってどういう位置づけなんですか。
「とりあえず“生きてるよ、楽しく音楽やってるよ”っていう証明みたいなものかな。それをみなさんにアピールして、そのことによってライヴが続いていけばいいわけだから」
――活動の中心はあくまでもライヴ?
「そうだね。ライヴの活動が制作にフィードバックすることもあるけど、ライヴをやるために曲を作ってるような感覚もあるよね。ただ、それだと曲のパターンが窮屈になっちゃうので、アルバムとなると“ちょっと暴れておこうかな”という曲も作る」
――アルバムじゃないとできないことがある、と。
「ジャマイカ人みたいなレゲエはできないからさ、RANKIN TAXIというジャンルを極めるためには興味のあるものを試していかないといけないからね」
――そういう考えた方は最初のアルバム(89年の『火事だぁ』)から変わらないですか。 「どうでしょうねえ……“他人と同じものは作りたくない”というのは変わらないし、自己主張のためには新しいものを仕込んでいかないといけないわけだけど。そういうアイディアや閃き、テーマやフレーズはあくまでも先人から借りてるものなんだよね」
――RANKINさんの場合、そうした“パクリ元”が年齢を重ねるごとに広がってるように見えるんですよね。ブラジルやアフリカの音楽から引用したり。
「自分の気持ちのなかでは“レゲエ”という言葉にこだわる必要がなくなっちゃったからね。昔から
フランク・ザッパもR&Bも
大滝詠一も好きだったわけだけど、結局そういうものが出てくる。オマージュしたくなってしまうんだよ」
――“レゲエ”という言葉にこだわる必要がなくなった?
「うん。10年ぐらい前から聴く音楽の幅を意識的に広げたんです。イギリスのワールド・ミュージック専門誌『SONGLINES』についてたオマケCDを聴きながら、どこがおもしろいんだろう?と探したり、アフリカとブラジルに渡ったり」
――ジャマイカのレゲエに対する思いが10年前を境に変わってしまったわけですか。
「やっぱり2000年代に入ってからのジャマイカからはそんなにフレッシュなものが出てきてないよね。スティクリ(註1)時代ほどの興奮はないという」
註1: スティクリ / 80年代以降、打ち込みトラックがトレンドとなったジャマイカのダンスホール・レゲエ界をリードしたプロデューサー・コンビ、スティーリー&クリーヴィの日本における愛称。
――RANKINさんにとってのレゲエの黄金時代はスティクリが活躍していた90年代前半?
――2011年にはブラジルのサルヴァドールに行かれますね。
「そうですね。ちょうどカーニヴァルの時期。やっぱり強烈だったよ……まあ、騒ぎすぎですね(笑)」
――RANKINさんの場合、何かの音楽に関心を持つと、その音が鳴ってる場所に行きたくなっちゃうんですね。サルヴァドールもそうだし、アフリカのマリもそう。83年に初めてジャマイカに行かれた時もそうですよね。
「“音楽を楽しんでる人たちを楽しむ”感じかな。レゲエを好きになったのはジャマイカ人を見たからだよね。こいつらがこの音を作り出すんだな、と思ったもんね。鑑賞の仕方や熱狂の仕方も音楽という存在を構成している要素だと思うんだよ」
RANKIN TAXI / RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI
――今回のアルバム『RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI』なんですが、制作にあたってテーマのようなものはあったんですか。
「やっぱり2011年3月のことは重要なきっかけだよね。たくさん考えさせられたし、考えたことについては歌っていかなきゃいけないし。だから、政治的なテーマは当たり前のように出てきちゃって。世の中の動きとか見過ごしちゃいけないものに警鐘を鳴らすというのはレゲエ・ディージェイとしてやるべきだと思ってるからね。……でも、その一方ではセックスやお酒のことから逃れられない自分もいるわけで(笑)。戦うことと楽しむことの2つに人生のテーマは集約される気がしててね。“どちらかが欠けていてもダメ”というのがここ5年ぐらいの着地点」
――3.11以降で歌詞を書くのが難しくなったということはあります?
「いや、まったくないね。自分のことをエンターテイナーだと思ってるんですよ。ただ単にお説教するだけだとおもしろくないし、そういうカリスマを持ち合わせていないということもあり(笑)。かといってセンチメンタリズムに流れるのもイヤなので、そうなると笑いの方向にいく。たとえ小難しいことを歌っても、やっぱり何回聴いても楽しめる歌であってほしいし。あとはドキッとするような直球をド真ん中に投げかけるのも意味があることだと思っていて。まあ、自分がおもしろがりたいから、いろんな工夫をするんですね」
――あと、歌唱法が昔と変わってきてますよね。2000年代以降、トースティング(註2)というより歌に近づいてる。
註2: トースティング / レゲエにおける喋り芸のことをこう呼ぶ。
「日本語のライミング(押韻)に興味がなくなってきたんですよ。トースティングやディージェイっていうのはライム(韻)が基本じゃない? ジャマイカにしても内容より語呂のよさを重視していた時期があったけど、日本語だとそれは厳しい。ライムにこだわりすぎるとリリックが窮屈になってくるんだよ。自分の場合、伝えたいことを重視するとシンガーに近くなってきちゃうんだね」
――NODATINさん(註3)とのデュオでも活動されていますが、アコースティックだとトースティングよりも余計歌に近くなってきますよね。
註3: NODATIN / 80年代から活動するギタリスト。RANKINとは“RAN-TIN”名義のアコースティック・デュオでも活動中。新作収録曲にも多数参加している。
「そうだね。RAN-TINは基本的にリズム隊を入れてないから、余計歌に近くなってるんだよね。言葉の押し出し方とか勉強になってますよ。ライヴをやりながらノドを鍛えてる感じ。あと、官邸前で“再稼働反対!”っていうシュプレヒコールを続けているのも、声を出すという意味ではいい訓練になってると思うね」
――収録曲に関しても新曲を中心にお聞きしたいんですが、まず3曲目、「ポジティブ100%」はHOME GROWN(註4)との1曲ですね。 註4: HOME GROWN / 日本を代表するダンスホール・レゲエ・バンド。
「HOME GROWNとは1曲作らないといけないんじゃないかと思って、やるんだったら〈Dance This Ya Festival〉(註5)のリメイクかなと。フェスティヴァル・ソングだよね。毎年出演しているHIGHEST MOUNTAIN(註6)をイメージした曲です」
註5: Dance This Ya Festival / 76年、チャンネル・ワン・スタジオで録音されたフレディ・マッケイの名曲。
註6: HIGHEST MOUNTAIN / 西日本を代表する野外レゲエ・フェス。今年の開催は8月8日を予定。
――「愛の賠償責任」はNODATINさんのアコースティック・ギターを中心とするアフロ・ペルー音楽(註7)調の曲ですね。
註7: アフロ・ペルー音楽 / 南米ペルーの黒人系大衆音楽。
「アフロ・ペルーをNODATINに完コピしてもらってね。NODATINの息子であるSEAIにもフラメンコ用のカスタネットを演奏してもらった。おセンチな響きがあればどんな曲だってできちゃうんだ(笑)。それが原発事故で避難したシングル・ママの歌になっちゃったわけだけど」
――これは実話ですか?
「もちろん。沖縄で出会ったシングル・ママでね……いい女なんだコレが。恋をしたんだけど、それ以上なにもできないから(笑)歌を作った。沖縄には福島から避難したシングル・ママがたくさんいるからさ、みなさんにそういう思いを届けたくて作りました、はい」
――この曲や「KKPK」など、今回は生楽器の割合が多いですよね。
「そうだね。生楽器は耳に心地いいし、耳を惹くからね。年も年だからさ、デジタルな音でグイグイ押していくってことはありえないよ」
――ブラジル・サルヴァドールのサンバヘギを演奏する打楽器隊、Bloco BARRAVENTOが参加した「イタプアンの娘」ではサルヴァドールで会ったという女性、ジルマイアのことが歌われていて。
「サルヴァドールでコロッケを売ってた女の子。まあ、言うほど可愛くもなかったんだけど(笑)、想像のなかで可愛い女の子にしちゃえばいいんだと思って。でも、ジルマイアに片思いしている男にしちゃうと汚れちゃうから、あくまでも飼い主であるジルマイアの帰りを待つ犬の視線で歌ってるというのが慕情があっていいだろ(笑)。ワンワン!」
――ファンにはお馴染みの「CCPP(チンチンピンピン)」などライヴの定番曲も入っていて。
「RANKIN TAXIがやってるのは“遊ぶこと・楽しむこと、それと戦うこと”、つまり“エロスとポリティクス”だよってところですよね。性事と政治(笑)。この歌も散々歌ってきてるんだから、オマケみたいなもんでしょ。ただ、“ラフ・ガイド”というアルバム・タイトルだからね、これは入れなきゃいけないだろうと。アルバム・タイトルは同じ題名のワールド・ミュージックのコンピ・シリーズのモジリでもあるんだけど、“ROUGH”じゃなくて“RUFF”というスペルでジャマイカへのリスペクトも示しているという。まあ、ちょっとしたこだわりですね」
――アルバム発売記念のライヴも予定しているそうですね。
「うん、6月7日にリリパをやります。場所は渋谷と恵比寿の中間にあるLIVE GATEというライヴハウス。HOME GROWNとNODATINを呼んで、今回のアルバムの曲中心にやります。渋谷からも恵比寿からも徒歩12分だけど、好きなヤツはどこでも来てくれるだろうなと思ってね」