昨年12月に
中島みゆきと「夜会」で共演。さらに今年に入ってからも舞台「マーキューリー・フォー」「ベター・ハーフ」に出演するなど、舞台俳優としての才能も発揮している
中村 中からニュー・シングル
「ここにいるよ」が届けられた。70〜80年代の歌謡曲、ニューミュージックを想起させる音像、写真のなかの“あなた”と“私”を思い返す歌詞がひとつになったこの曲からは、様々なキャリアを重ねて来た中村 中の充実ぶりが伝わってくる。
――最近は舞台人としての活動も目立っています。以前から舞台をやってみたいというビジョンはあったんですか?
「そういうわけではないんですが、歌手としてデビューしたとき、最初に人前で歌を歌ったのが、じつは舞台だったんですよ。ただ、そのときは好きになれなくて。自分で書いた曲を、舞台用の解釈で歌うということがよくわからなかったんですよね。歌うことと演じることはぜんぜん違うし、“こういう形で表現したいわけではないんだけどな”なんて思ったりしもして。それかも2年に1回くらいのペースで舞台のオファーをいただいていたのですが、やっぱり楽しめなかったですし……。それが変わってきたのは、『ガス人間第一号』という舞台に参加させてもらってからですね。芝居を好きにさせてくれた演出家と出会えたというのもあるんですけど、こうやって声をかけ続けてもらえるということは、きっと何かがあるのだろうと思って、少し気持ちを入れ替えてみたくなったんです。これからもオファーがやればやっていこうかなと思っていますし、いまは“こういう形の表現もある”と思えるようになりました」
――演出家、俳優との出会いも大きい?
「うん、そういう出会いはやっぱり刺激になりますね。それを何と言葉にしたらいいかしら……たとえば音楽の現場では、自分の名前で歌って、自分で曲も詞も書いているわけじゃないですか。集まってくれるミュージシャン、スタッフの皆さんも――もちろんチームワークが大事なんですが――あくまでも中村 中を良く見せるためのチーム作りだし。芝居のほうはそうであなくて、まず脚本家や演出家がいるわけですから。自分はひとりの出演者としてフラットに扱われるわけですが、それが気持ちいいんですよね。“コレできる? アレはできる?”と言われると、“できないって言いたくないな”とかさ(笑)。そういう経験をしていると、“そうか、私にはこんな部分もあるんだな”とか“こういう声も出せるんだ?”って気づくこともあって。自分が知らなかった自分を知れるというのかな。それは音楽に持って帰ることもできるんですよね」
――なるほど。では、今回のニュー・シングル「ここにいるよ」について。失ってしまった恋をノスタルジックに振り返るような歌ですが、これはいつ頃書いた曲なんですか?
「去年リリースしたアルバム
『世界のみかた』を作っていた時期に書いた曲ですね。アルバムのテーマが自分のなかでも定まっていないときに書いてたいんですが、“視点”“見方”みたいなものは共通しているかもしれないですね。“被写体”と“撮る人”という関係だったり、写真には誰が写っているんだろう?とか……」
――ふたりで海に行ったときの一枚の写真がモチーフになっていて。
「そうですね。この歌をシングルにしたのは――いま新しいアルバムの制作に入っているんですが、四季折々の失恋集みたいにしようと思っていて。『世界のみかた』というアルバムは“いままで良いと思っていたものは、本当に良いものだったのか”とか、もっと突っ込んだ言い方をすれば、“日本がいま良いと思っているエネルギーは、本当に持っていてもいいものなのか?”ということまで考えて作っていたんです。ただ、自分の年齢でそういうことを歌おうとしても歯が立たないところがあったというか、果たして上手に表現できたかどうか分からないところもあって。“次はもう少し力の抜けた音楽が聴きたい”というスタッフからも意見もあったし、“上手くいかないことはあるけれど、それでも生きていくのが命”ということを身近な言い方で歌にしてみようかなと思って」
――なるほど。
「『ベター・ハーフ』という舞台に出させてもらったことも影響してるかもしれないですね。痛快なラブコメディで、笑えるところもいっぱいあるお芝居だったんですけど、結局、全員が失恋してしまうんですね。私はそれがとても気持ち良くて。“命を取られたら悔しいけど、恋くらいなら別に失くしても、取り戻せる”と演出家の方が話していたんですが、“その通りだな”と思って。デビューの頃から“上手くかないことがある。しかし、生きるということは諦めたくない”という反骨心みたいなものを歌ってきたつもりなんだけど、それをラブ・ソングとして表現してみたかったんですよね。何て言うか、思いを告げないでいた恋愛って、いつまでも終わらないし、後悔も続くと思うんです。私も今年30歳になるのに恋愛には奥手だし(笑)、たとえ上手くいかなくても、私はここにいるよという感じなのかな。あと、80年代の歌謡曲、ニューミュージックといわれている曲の歌詞を書いている方――たとえば
松本 隆さん――の世界を思い浮かべたりもしていました」
――中さんのルーツの中心にある音楽ですよね。
「ルーツと言われると難しいんですけど、確かに70年代、80年代の歌謡曲はいっぱい聴いてきてますね。その流れから、フォーク、シンガー・ソングライター、ニューミュージックも自然と聴くようになって。そのあたりは確かに根っこになっているのかなと思います。日本の歌謡曲って、ひとりの歌手がジャズもルンバもマンボもシャンソンも歌ったりしてましたよね。そうやっていろいろなものが混ざって出来上がっている音楽がルーツになっているから、私もいろんなタイプの曲を書いてしまうんですよ。デビューからしばらくは“自分の書く曲って一貫性がないな”って悩んだりもしましたが、清濁が混じっていても良しという音楽が根っこにあるんだなとわかってからは、それほど意識しなくなりました」
舞台「ベター・ハーフ」より
――2曲目の「暗室」の主人公の“僕”はもっと若そうですね。
「〈ここにいるよ〉の女性よりも若そうですね。広い世界、広い社会をまだ知らない、狭いコミュニティのなかで悶えている少年の歌なので」
――この歌の少年は、中さん自身にもリンクしているところがある?
「ありますね。あの……今年の年始くらいに起きた、少年が死んでしまう事件をニュースで見ていて。イジメがエスカレートして死んでしまったんですけど、どこがリンクしているかというと、私もイジメを受けていたことがあって。イジメってイヤだなと思ってこの曲を書いたわけですけど、私が何か言葉を投げかけるとしたら、自分の年齢に近い若者のほうなのかなって。小さいコミュニティであっても――何が正しいかはわからないですけど――正していかなくちゃいけないと思うんですよね」
――「暗室」は曲の内容に反してというか、踊りながら聴ける曲でもあると思うんですよ。そのコントラストもいいな、と。
「コントラスト! 確かにそうですね。踊っていいものかどうか、というところもありますが(笑)。保身的な気持ちの表れかもしれないですね、そこは。バランスを取ってしまうというか。こういう曲をじっくり歌う場合もあっていいと思うんですけど、それは以前にもやってきたので。あと、シングルとは言っても“この宇宙は小さくないぞ”ということも見せたいんですよ。ミニ・アルバムくらいの気持ちでやってるんだぞって」
――3曲目の「死ぬなよ、友よ」はフォーキーな手触りのナンバー。アコギ1本でいっしょに歌いたくなりますね。
「私もそうしたいくらいです(笑)。みんなで歌う曲ってやったことないんだよなー」
――そうなんですか(笑)。
「ええ。この曲はですね、来年でデビュー10周年だし、すぐに30歳になるっていう区切りもあって、“そういうときに歌える歌があったらいいな”というおぼろげなところから書こうと思い始めて。最初のアルバム(
『天までとどけ』 / 2007年)に〈さよなら十代〉という曲があるんですが、その20代バージョンがあってもいいのかなとか」
――なるほど。この曲の内容もすごいですよね。誕生日の前日、「死ぬなよ、友よ」と語りかけるっていう。
「確かに“生きよう”って言っても良さそうですよね。なぜなんだろう?って自分でも思うんですけど……。目の前にいなくて、直接祝えない仲間っているじゃないですか。この世のどっかにはいるんだけど、いまは会えない友達とか。そういう人に対して、“もし、心でつながっていられるのなら”と思って書いてるところもあるんですよね。冒頭の歌詞(“出会いの方が多いのに 別れた人ばかり思うのはなぜだろう”)の通り、最近、会えなくなってしまった人のことばっかり考えてしまうんですよ。デビューからの10年の間にも、亡くなってしまった親戚もいますし。あとね、私はぜんぜん優等生ではなかったんですが……そんな言い方しなくていいか。子供の頃はかなりグレていたんですけど(笑)、その頃、いちばん遊んでいたであろう友達が自殺しようとしたんですよね。幸いにも未遂だったんですが、たまに会う学生時代の人たちとも、そいつのことを話したり」
――そういう苦境にある人たちを根本から励ますような言葉ですよね、「死ぬなよ」は。
「とにかく上手くいかないことだらけの世の中ですけど、これまでに出会った人たちが私のことを友だと思ってくれるのなら、“私の為にもいっしょに生きてほしい”って。寿命というものもありますが、自分から生きることを諦めてしまう人がいるというのが悲しいんですよね。だから“死ぬなよ”なんだと思います」
――いまだからこそ書ける歌かもしれないですね。たとえばデビュー当初だったら、違った発想になったかもしれないし。
「10年前は自分のことが心配でしたから。いまは人のほうが気になるかな」
――大人になったということ?
「うーん、なれてるのかどうか……。大人になんかならないぞ!とも思ってるんですけどね(笑)。中途半端な位置だと思うんですよね、30歳って。“よくわからないところにいきなり飛び込んで怪我をする”みたいな無謀なことはしなくなりましたけど、人によっては“まだ若い”と見られるだろうし、旬といえば旬だろうし。でも、それも含めて楽しみです。私は性格も極端だし――ヘンに遠慮してみたり、いきなり大胆になったり――若さと老いもそうですけど、何かと何かの間にいることを楽しめるタイプかもしれないですね」
――現在制作中というアルバムも楽しみです。来年は10周年ですね。
「何をすれば喜んでもらえるのかなと考えているところです。やっぱり感謝かなと思ったり、一方では“もっといろんな人に聴いてもらいたい”という気持ちもまだまだあるので」
中村 中 アコースティックツアー
阿漕な旅 2015 〜どこにいても〜
2015年7月24日(金)兵庫 神戸チキンジョージ
2015年7月25日(土)京都 都雅都雅
2015年7月31日(金)石川 金沢21世紀美術館シアター21
2015年8月2日(日)福井 響のホール
2015年8月3日(月)富山 富山県民小劇場オルビス
2015年8月5日(水)愛知 BL cafe(名古屋 / 今池)
2015年8月6日(木)愛知 BL cafe(名古屋/今池)
2015年8月8日(土)愛媛 松山キティホール
2015年8月9日(日)香川 高松SUMSU CAFE
2015年8月14日(金)東京 和光大学ポプリホール鶴川
2015年8月28日(金)岡山 城下公会堂
2015年8月29日(土)広島 Live Juke
2015年8月30日(日)福岡 Gate's 7
2015年9月10日(木)北海道 登別市民会館
2015年9月11日(金)北海道 KLAPS HALL
2015年9月25日(金)大阪 梅田AKASO
2015年9月26日(土)神奈川 関内ホール
2015年10月3日(土)静岡 K-mix space-K(浜松)
2015年10月4日(日)栃木 HEAVEN'S ROCK宇都宮
2015年10月12日(月・祝)宮城 仙台retro BACK PAGE
2015年10月17日(土)千葉 市川市文化会館 小ホールチケット: e+(イープラス)
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先行受付 eplus.jp/ataru-atariya/ (静岡、栃木、千葉公演分)中村 中 オフィシャル・サイト ataru-atariya.com/