【KERA & THE SYNTHESIZERS】いま、理不尽なことに囲まれて――KERAが音楽にかける想い

ケラリーノ・サンドロヴィッチ   2015/07/06掲載
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ミュージシャン、俳優、劇作家、映画監督など、幾つもの顔を持つKERA。今年はミュージシャンとしても活動が忙しくなりそうだ。みずからがオーナーを務め、筋肉少女帯人生などを世に送り出した伝説のインディ・レーベル、ナゴムを2013年に復活。鈴木慶一との新ユニット、No Lie-Senseを起動させるなど、音楽活動本格化の予感はあったが、今年は6月17日にKERA&シンセンサイザーズの4年半振りの新作『BROKEN FLOWER』をリリース。制作に14か月を費やした本作は、岸田 繁くるり)、田渕ひさ子bloodthirsty butchers, toddle)、ハヤシ(POLYSICS)、白井良明ムーンライダーズ)など8名ものギタリストをゲストに招いた大作だ。そして、シンセサイザーズと同じく6月17日には有頂天の再結成ミニ・アルバム『lost and found』、さらに秋にはNo Lie-Senseの新作も控えている。シンセンサイザーズ『BROKEN FLOWER』を中心に、音楽にかける想いをKERAに訊いた。
――今年一年で3つのバンドの新作を出すということですが、KERAさんのなかでそれぞれのバンドはどんな風に区別されているんですか?
 「最初、シンセサイザーズは自分のやりたいことを何でもぶっこめるバンドとして始めたんです。でも、No Lie-Senseがスタートすると、スーダラ的なものとかシアトリカルなものはNo Lie-Senseでやることになり。そして、この度、再結成した有頂天は非常に男っぽいバンドなのでロック的なタテノリなものになる。そんななかで、シンセサイザーズは次第に歌を聞かせるバンドになってきてますね。“歌もの”って言っちゃうと軽薄ですけど、今のシンセサイザーズは飾らない歌を聞かせるバンドとして機能してます。そうすると、明らかに社会情勢がマズいほうに行ってる社会に対して、僕が理不尽に感じる気持ちがストレートに出てしまう。今回のアルバムがどこか荒涼としているのは、今の社会は悲観的な状況だけど、未来のためには絶対に目を背けてはいけないんだという、自分が日々感じている、ある種の厳しさがアルバムに反映されているからだと思います。1枚聴き通すのに体力がいるアルバムになってしまいました」
――かなりヘヴィな手応えのあるアルバムですね。
 「そうですね。でも、僕にとって理想のフルアルバムっていうのは、一枚を聴き終えた時、ひとつの旅を終えたみたいに感じられるものなんです。演劇とか映画を作っている者としては、(フルアルバムは)それを音楽に置き換えただけの違い。だから曲順や曲間はとても大切だし、何曲目に来るかによってアレンジも、歌い方も、歌詞も変わってくるんです」
――確かに本作はロック・オペラというか、ニューウェイヴ・オペラみたいな雰囲気もありますね。そんななかで、今回のアルバムは60年代のロックからインスパイアされたとか。それがちょっと意外でした。
 「これまでシンセサイザーズではずっとニューウェイヴ的なアプローチをしてきたんですけど、ニューウェイヴが“ニュー”な“ウェイヴ”としたら、それを繰り返しているだけだと、すでにニューじゃなくなってしまうじゃないですか。ハード・ロック好きなバンドがディープ・パープルみたいな音をずっとやっているのと変わらない。“驚きがないニューウェイヴってどうなんだろう”っていう葛藤は常にあったんです。でも、一方でヴィンテージ・ミュージックとしてニューウェイヴをやることは誰にとがめられることでもないし(笑)」
――法には触れないし(笑)
 「そうした側面が自分の中に根強くあるのも否定できません。でも、自分にとって未開拓な音楽というのがいっぱいあって、それが驚きになることがある。例えば慶一さんといろんな話をするなかで、“あれ聴いた?”“あれ面白いよ”とか、いろいろ教えてくれるんです。でも僕は偏った音楽知識しかないから、慶一さんが教えてくれるものをほとんど聴いたことがなくて。そんななかに(ローリング・)ストーンズ『サタニック・マジェスティーズ』があって、それで聴いてめちゃくちゃ笑ったんです。すごくニューウェイヴに感じたんですよね、僕にとって。“サイケ”であろうとするが故に、おもにブライアン・ジョーンズが得体の知れない楽器を、ろくに弾けもしないのに手当たり次第に弾いているじゃないですか」
――パンク / ニューウェイヴ時代の若者達と同じですね。
 「同じなんです。パンク / ニューウェイヴが出て来た頃に、美大生だった連中が楽器を持ってとりあえず弾いてみたとか。シーケンサーを買ってきたけど、どう使うのかわかんない。でも、とりあえず音は出るから、これでいいじゃないかってレコーディングしちゃったとか。そういうものと僕のなかで重なった。だから今回のアルバムでは“自分にとって鮮度があるものこそがニューウェイヴなんだ”っていう考え方になって、67、8年のサイケ・ミュージックに焦点を絞ってみたわけなんですよ。この辺の音を、ニューウェイヴを通過した僕らがやると、また違ったものになって面白いんじゃないか?みたいな展望でレコーディングを始めたんです。それで僕が勝手に1人で盛り上がって、手当り次第に当時の音楽をスタジオに持ってきてメンバーに聴かせたりしてるうちに……まあ、別に聴かせたことが理由じゃないと思いますけど、三浦(ギタリストの三浦俊一)がふっといなくなってしまい、“僕は今日限りで脱退しました”っていうメールが来たんです」
――何の前触れもなく?
 「ついさっきまで一緒にスタジオにいたのに。彼はバンマスでしたから、メンバーと“どうしよう?”って話になって。でも、やりたいことのヴィジョンは見えているから、とりあえずギタリストがいなくてもやるしかないじゃないかって結論になった。数日間は路頭に迷ってましたけどね。“やべえ、どうすんだよ!?”って感じで。でも、三浦がいなくなったことで、ニューウェイヴを知らないメンバーが、ニューウェイヴに縛られずに自由にアイデアを出せるようになったというのはあります。というのも、これまでは三浦が最終的な音のジャッジをして、それに口を出せるのは僕だけだったんです。その三浦がいなくなったので、バンド内に自由なムードが生まれた。これまでだったら三浦がうんと言わなかったようなこともみんなで提案するようになったし、失敗することを恐れずにいろんなチャレンジをするようになった。それが非常に楽しくて“これがレコーディングだよな”って改めて思いましたね」
――ギタリストだった三浦さんの穴を埋めるために、8人ものギタリストをゲストに招いたっていうのが今回のアルバムの特徴になりましたね。
 「事故みたいな感じでギタリストがいなくなったことでアルバムがうまくいかなくなってしまうのは悔しかったし、もやもやした気持ちのままで新しい正式メンバーを入れるのは嫌だったんですよ。だったら、この状況を逆手にとれないかと思って、こんなやり方にしてみたんです」
――人選に基準みたいなものはあったんですか?
 「なんとなくありましたね。オールド・ロックにある程度興味を持ちつつ、新しいことにも積極的な人達。みんな快く引き受けてくれて嬉しかったです。岸田君なんかもすごく喜んでくれて」
――それぞれの演奏が良い形で曲の世界観にハマってますね。みなさんには曲のコンセプトを説明してお願いしたんでか?
 「縛られない程度に説明しました。あとは例えば白井さんには“トーキング・ヘッズでお願いします!”って頼んだり、田渕さんには“ジャズマスターを持ってきて”ってギターを指定させてもらったり。田渕さんがやった2曲とか、ああいうギターが入るか入らないかで曲の世界がガラリと変わる。“真夜中のギター”にしても、カオティックなギターが入ることで、すごく世紀末的な匂いを感じさせるし」
――最初に“シンセサイザーズは歌を聴かせるバンド”という話がありましたが、〈Long Goodbye〉みたいにストリングスをバックに美しいメロディーを歌い上げている曲も印象的でした。
 「〈Long Goodbye〉は、母親が亡くなって、告別式の帰りに歌詞を書いたんです。母は僕が中一のときに家を出て行って、その後、僕は親父と2人で暮らしていたんですけど、僕が26の時かな?親父が死んで。それ以来、僕は戸籍上、天涯孤独で結婚するまで家族は誰もいなかった。母親とは年に1回か2回、電話で話すくらいで、とても特殊な関係だったんですね。言ってみれば僕と父親を捨てて出て行ったって人なんで、思春期の少年にとっては“許せない”っていう思いもあったし。そんななかで、母親がもう長くない、というのを聞いて見舞いに行って、27年ぶりくらいに会ったんです。訃報が届いたのは、その2週間後でした。その時に感じたことを詞にしたんですけどね……。海援隊の〈母に捧げるバラード〉で少し照れ臭い(笑)。今回はそんなふうに自分の身に起こったことをリアルタイムで歌詞に書いてます。他の歌も前の日にニュースで何を見たかとか、ツイッターで何を読んだとか、誰にどんなことを言われたかとか、そんな日常がリアルに反映されている歌ばかりなんです」
――自分の思いを歌い上げるというのは、ニューウェイヴではNGなことでしたよね。それよりも、できるだけ斜に構えてシニカルに、ニヒリスティックにというのがニューウェイヴのマナーというか。
 「まさにそうですね。ニューウェイヴじゃクールかアヴァンギャルドか。そうでなければ、シニカルでなければいけなかった。でも現在は、80年代とはいろんなことが変わってきている。当時カッコいいと思ったことが、そうは思えなかったりもします。渋谷系なんかもそうですけど、当時はスタイリッシュに思えたことが野暮ったく見えたりする。斜に構えるにしてもいろんなやり方があるし、いまは下手にそれをやってしまうことが一番恥ずかしように感じてて、ここ2作ぐらいはどんどんストレートになっていってますね」
――個人的な感覚を繋ぎ合わせていくなかで、KERAさんか感じた世界がアルバムの風景として浮かび上がってくるわけですね。そんななかで、〈フラワー・ノイズ〉〈BROKEN FLOWER〉と“花”がタイトルに入っている曲が2曲ありますが、この花が象徴するものは何でしょう。
 「荒涼とした風景のなかに役目を終えた花がある、水も与えられずに、ただそこにある。当然なんですけど、枯れるまではそこに咲いてなきゃいけない。“咲いてなきゃいけない”という言い方もできるし、“咲き続ける”という意思を持っていると言ってもいい。それは視点次第なんです。そういう“枯れた花(BROKEN FLOWER)”のイメージと、いま理不尽なことに囲まれて、いろんなことに翻弄されざるをえない人間達の姿が重なったんです。曲によっては、明らかにファシストを揶揄している曲もありますし」
――〈問題アリ〉とか
 「そうです。権力者側に立って“花なんか知らねえよ、燃やしちまえ”っていう。だから、ほんとロック・オペラっぽいですね」
――密度が濃い作品だけに、かなりレコーディングに時間をかけたそうですね。
 「スタジオ以外のところでミーティングとかプリプロをやった分も入れると、40日以上はメンバーと一緒に作業しましたね。ちょうど、芝居を一本作るのと同じくらいの日数です。こんなにアルバムに時間をかけたのは久し振りで、シンセサイザーズでは初めてです。大変といえば大変でしたけど、これくらい大変じゃないと作った気がしない」
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有頂天
『lost and found』
『lost and found』
――でも、さらに今年は有頂天とNo Lie-Senseの新作が出て、しかもライヴも予定されている。すごいですね。
 「音楽だけやってるわけではないのにね。昔から極端なんですよ、やり方が。バランスを欠いている。だから商売的にはすごくヘタクソというか。もうちょっと、消費者にお金を払ってもらいやすいペースとを考えられればいいんですけど」
――あえて、利口に立ち回りたくない、っていう気持ちがあったりもします?
 「ああ、それはあります。普通、“CDが売れないこのご時世に、なんでこのタイミングで?”って思われますよ」
――こういうご時世にCDを4枚出すという行為自体が、KERAさんのアティテュードのようにも思えます。今年は音楽モードで突き進むようですが。演劇モードの時と気持ちの面で違いはありますか?
 「演劇の台本は、やっぱり2か月くらいそれだけに没頭しないと書けないんですね。でも、音楽の場合はアルバム作りに没頭してても、1曲の歌詞を1か月書いてるわけではないし、なんていうか、息継ぎが多いので楽ですね。ただ、ちょっと行動が粗野になってるところはあるかもしれない(笑)。演劇は関係者が100人くらいいて、その100人をまとめなきゃいけないでしょ。そうすると粗野だとやってけない。いろんな人が一斉にいろんなことを訊いてくるから、嫌でもオバサン的になってくるんですよ。“洗濯物はこうやって”“ご飯はちゃんと炊けた?”みたいに事細かに指示を出さなくてはいけない。でも、ロックはそういう必要がないから、バンドは良くも悪くも楽ですね」
――じゃあ、演劇と音楽のバランスはとれてるんですね。
 「ええ、今後ももう少し音楽をやる時間がとれるといいんですけどね。両方やったほうが精神衛生上良いというのは、ずっと前からわかってて。お互いの活動からフィードバックするものって確実にあるんですね。で、不思議なことに演劇の人ってみんな“ロックはカッコいいよな”ってコンプレックスを持ってるし、音楽の人は演劇人に対して“よくセリフ憶えられますね”とか、1ヶ月以上も稽古して毎回同じことをやるなんて信じられないとか、畏敬の念を抱いている。僕はそのふたつの楽しさや難しさをよく知ってるから、希少な人間なんですよ」
――ということは、これからも音楽活動は継続していく?
 「やめる気はまったくないですね。ローリング・ストーンズという誰もが知ってる“今さら”なバンドでも、自分達にとって新鮮であれば、それを動機、あるいはひとつの手掛かりとして、それまでやってきた音楽ではない、新しい音楽をやることができると思えば、まだタマはいくらでもある。別にロックじゃなくてもいいんですから」
取材・文 / 村尾泰郎(2015年6月)
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