若旦那が作詞・作曲 / プロデュースを手がける「We are Especia 〜泣きながらダンシング〜」をリード・トラックに据えたミニ・アルバム
『Primera』で今年2月にメジャー・デビューを果たした大阪・堀江発アーバン・ガールズ、
Especia。
MINMIの
リミックス・アルバムにサウンドプロデューサー・Schtein & Longerと共に参加したことでも話題となっている彼女たちが、ダブルAサイドのニュー・シングル
「Aviator / Boogie Aroma」をリリース。トレードマークとなっている80sディスコテック、AOR、フュージョンをインターネット以降でフィルタリングした楽曲群はより純度を高め、メンバー5人(冨永悠香 / 三ノ宮ちか / 三瀬ちひろ / 脇田もなり / 森 絵莉加)のスキルも成長著しいことを如実に感じさせるソリッドかつ充実の内容となっています。同作までにEspeciaが経験した内的・外的変化について、リーダー・冨永悠香がパーソナルな心境を交えてじっくりと語ってくれました。
――5人でインタビューするときってみんな一歩引くじゃないですか。性格が出てるなと思うんですよ。
「優しいのもあるし、任せちゃってる部分もあるのかな。誰かが喋ってるからいいか、みたいな」
――5人ともそういうタイプですよね。
「ひとりでバーッと行くタイプの子がいないんです」
――女の子の集まり特有というか。ひとりだけ前に出るのは……みたいな気持ちがある?
「それもありますね。でも、そればっかりはしていられないので。自分の解消のしかたとしては、インタビューとかでは自分が喋ることが多いから、喋っていない子に振ってあげたりするのを意識するようになりました。“どう?”って聞いたり“やんな?”って反応したり」
――それは最近?
「ですね。前までは自分の意見を言うことに必死だったからそこまで配慮できなかったんですけど、私だけのEspeciaじゃないし、私だけでも喋ってても面白くないかなと思うので、引くところは引いたりとか考えるようになりました。(三瀬)ちひろとかはこういう場であまり喋らなかったりするけど、考えていることはあるので、振ると話してくれます」
――空気を読んでしまうのは思いやりだと思うんですけど、それぞれがもっと気持ちを前に出してもいいのかなと思うこともあって。
「そうですね。ライヴのMCとかでもそうかもしれない」
――歌はどうですか?自分のところで目立ってやろうとか。
「そう思っていた時期もありましたけど、いまは考えなくなりました。昔だったら(脇田)もなりと(森)絵莉加が歌のライバルっていう感じで、“今日は負けた”とか“自分の調子を出せなかったな”みたいに思うこともあったんですけど、いまは自分に自信がついてきたのもありますし、ライバル心みたいなのもなくなりました」
Espacio盤
Mar盤
――それはなぜでしょう。
「お互いが努力して成長しているのを認め始めたんです。前だったら“自分こんなに頑張ってるのになんで?”って思って、他の子の頑張りを認めなかった時期があったんですけど、メンバーを尊敬する気持ちが出てきて。ライバル心がまったくないこともないですけど、いい関係にはなってるかなって」
――今日はあっちが目立ってるな、みたいに思ったりもしない?
「昔はよくありました。それはみんな思いますよね。でも、自分の見せ場をもらっているので、ほかの子が目立っていたら自分はそこで見せればいい。それで相乗効果が出ればすごくいいなって考えに変わったので」
――ちょっと話が違うかもしれないけど、新メンバー募集の件をたずねたら、“グループがよくなるならいい”というようなこと言っていて。それにも通じる話ですよね。グループ全体で考えるようになった。 「自分をよく見せたいというのは消えちゃダメな気持ちですけど、それよりもグループが上に行くことを考えないと、いつまでたっても仲間内でごちゃごちゃしてるだけになるので」
――そういうモードになってきたんですね。
「メジャーデビューしてからですね。反抗期が終わった人みたいな(笑)。私、自分を高めるのが好きで。一個一個のダンスとか歌を細かく見直すのが好きなんですけど、自分の練習に納得できている時期は、たとえほかの子が目立ったとしても、自分のやってきたことに自信を持っていけたりするんです」
――いまは納得できている?
「この2週間くらいは落ちてます。でもその前までは自信持ってできてました」
Tierra盤
Cielo盤
――けっこう短い周期で変わるんだ。ストイックなんですよね。
「一個のことを完璧にやらないと気が済まない性格なので。昔からテスト勉強とかめっちゃ真面目にやってたし。真面目なんですよ!見えますか?」
――勉強できるのは知ってますよ。でも、そういう人って落ち込むときはガラガラ崩れたりするじゃないですか。
「たしかに。完璧主義者だから中間がないんですよ。気持ち的にはすごい上がるか下がるかしかない。でもいまは大丈夫です。ここから1週間で立て直そうって計画してます」
――それが真面目!具体的にはなにで落ちて、どう立て直そうと思っているんですか?
「この2週間は自分の練習をできなかったんです。そんなに忙しくもないんですけど、今日はちょっとしんどいなと思って練習をできなかったりすると、自分自身に落胆するんです。できないとめっちゃ落胆するし、できたときには“やるじゃんお前”と思ったりする」
――自主練はどういうことをやるんですか?
「ダンスだったら手の軌道とか角度をどうやったら綺麗に見えるかとか、一個一個確認します。ダンスがすごいヘタだったんで、ほかのメンバーに追いつけるように研究してました」
――この3年間、それをずっとやってきたんですね。
「毎日やってた時期もあるし、全然やれてない時期もあるので、波はありますけど。自分を鍛えたうえでメンバーと練習したいんです」
――それについてはメンバーに言ったりもしない?
「特にないです。
Twitterに書いたりしますけど。もちろん書かない日もあります。でも、みんなの歌もすごくよくなっているから、絶対(自主練を)してると思います。そこはお互い話さないからわからないですけど、それぞれのやりかたがあると思う」
――ライヴの本数もものすごく多いですしね。
「そうですね。やっぱりライヴが一番ですね。土日は2、3本あって、1日1本っていうことが少ないので、そこで鍛えられるかなって思います」
――ところで最近、うまくなりすぎるのはどうかということが気になっていて。“ゆるいのがよかった”みたいに言う人もいるじゃないですか。
「そうなんですか?うまくなりすぎたっていう評価をもらったことがないのでわからないです(笑)。完璧よりもちょっと抜けてるくらいのほうがかわいい、みたいなことですよね」
――自分は見る側だからその気持ちはわかるんですよ。でも、やる側はよくなりたいと思ってやるわけじゃないですか。数をこなしていれば自然と上達するだろうし。
「どのあたりで止めたらいいのかって感じですよね。わざと失敗したらいいわけでもないし。ベルハーさん(
BELLRING少女ハート)とか、ヘタに歌ってって言われるらしいですよね」
――大人が正解を教えなかったりして。
「それがああやって面白いのを生むんですよね。Especiaはパフォーマンスを磨け、うまくなれって言われるのでそこは気にならないです。楽曲も、音程を外したりする系ではなくて、うまくなればなるほど映えるだろうし。まだまだ曲には追いつけていないから、歌もダンスももっと頑張って磨きたいです」
――新曲ってレコーディングを済ませたあとにライヴで歌い込んでいくパターンがほとんどですよね。CD音源を振り返ったときにどう思うんですか?
「やっぱり全然声出てないなってめっちゃ思います。でも、今回の〈Aviator〉と〈Boogie Aroma〉は絶対にそうしたくなかったんですよ。それくらい歌い込んでやろうと思ってめっちゃ練習したので、自分のなかではライヴのイメージと音源とでそこまで差が開いてないんじゃないかなって」
――今回はそういう目標を設定して臨んだんですね。
「初めて試みました。これまでのCDが全部そうだったから、絶対やだと思って。残るものなのにライヴのほうがいいじゃんって思うのがイヤだったんですよ。ライヴは進化していくものだし、音源はそのときの記録だから、越えていかないといけないとは思うんですけど」
――実際に「Aviator」と「Boogie Aroma」はすごく変わったし、それがよかったです。かなり歌いかたを意識したんですよね。
「意識しました。腹の底から出す感じをイメージして頑張りました」
――東名阪広のツアーでの集客の伸び悩みを気にしていたじゃないすか。それについて詳しく聞きたいなと。
「でも
FM OSAKAさんでレギュラーが決まったり、パワープレイも決まったりしているし、こうしてひとりでお仕事をさせてもらったりして、幅が広がった感があります。それが集客に繋がればいいなと思っています」
――こういう話を聞くと必ず前向きな答えが返ってきますよね。Especiaはいつも順調だっていう返事をするイメージがあります。でも、こっちとしては、しんどいなって思ったりしてるんじゃないかと勘ぐってしまうんですよ。
「それはありますよ。あるけど……そんなこと言っていいんですか?こういうのって前向きに話さないといけないんですよね」
――そんなことはないですよ。普通に思っていることを話してくれるほうが読んでいる人も嬉しいかと思います。あまりネガティヴなことを言ってはいけないという空気がグループで共有されているのか、もしくは危機感を持ったりしないタイプなのか。
「いや、危機感めっちゃありますよ。言わないだけです(笑)。新しいグループはいっぱいできていくし、ペシストさん(Especiaファン)がそっちに行っているのをいっぱい見てるし。でも、やることと言ったら頑張るしかないので。いまはライヴのやりかたもぶつかっているというか、難しいなと思っていて」
――というのは?
「煽りを一切やめてるんですよ。Eespeciaの世界観をどんどん出していこうという期間なんです。清水(大充 / Especiaマネージャー)さんがそういうふうにしようって提案して、それをやっているんですけど、やっぱりアイドルイベントとかに出ると、物足りない感があるというか、やってやった感みたいなのが得られない時期もあって」
――ほかと比べると、単純にお客さんの声の音量が違ったりしますもんね。でも見る側が声を出して盛り上がることと、ライヴを見たことで得られるものとか満足度はまた別なんじゃないですか?
「それもわかるんです。声を出してなくても、楽しかったって言ってくれる人はもちろんたくさんいるわけで。でもダイレクトに声を出すっていうのは楽しさがわかりやすいんですよね。
〈アイドル横丁夏まつり!!〉みたいなフェスとか、自分たちの出番の前のアイドルさんが盛り上げてるのを見ると、出るのがこわいなと思っちゃうんですよ」
「やってきたんですけど、一時期、煽りの快感を得てしまったから。こっちがなにか言ったら“うおー”ってなるじゃないですか。それがなくなった途端にちょっと不安になるみたいな」
――ロビンさん(岡田ロビン翔子 / チャオ ベッラ チンクエッティ)も一時期煽りすぎていたけど今は減らしてるって言ってました。演者が煽れば、見る側はほぼ必ず反応してくれますからね。でもそれは条件反射みたいなものかもしれなくて、本当に心が動いているかどうかは違う話ですもんね。 「ロビンちゃんはそれに自分で気づいて変えたのかな。すごい。どのアイドルさんも色々な時期があるんですね。Especiaは歌とパフォーマンスで見せるのが一番合ってるのかな。それで自分たちの雰囲気がどれだけ作れるのかが勝負だと思います」
――この春から、今までずっとそばにいた清水さんが大阪営業所から東京に移ったじゃないですか。それは大きな違いがあるんじゃないかと思うのですが。
「違いますね。今までは現場についてくれたんですけど、関西のライヴでは違うスタッフさんがついてくれていて。清水さんがいるとその場の雰囲気でセトリが変わったりするんですけど、いない場合はCD-Rになっちゃうので、急なチェンジがないですよね。そのチェンジがメンバーの楽しみのひとつだったんですよ。意図がわかったりすると楽しくて。こう来たか、みたいにテンションが上がって。MCひとつでも清水さんに確認を取っていたので、いないと困ります。やっぱり3年間やってきたので、そこで学んだことを自分たちで判断できるくらいまでにはならないといけないんだなって思います」
――それこそ自分たちでセトリをその場で変えてみるとか。
「ああ、やってみたいかも!ちょっとステレオちゃん(
STEREO JAPAN)とかぶっちゃうかも(笑)。でもEspeciaはメンバーでやるのもどうかなって思いますね」
「そういえば昨日、もなりと話してて。よく考えたらEspeciaはできた時点で話題があって、80年代のディスコがテーマで、初めての東京でのインストアはタワレコ新宿で300人くらい来て、みたいな。東京に行ったら人が来るっていう錯覚に陥っていたから、今は止まってるように思っちゃうのかも。やっぱり浮かれていた自分たちがいるんですよ。これからのEspeciaは、話題性だけじゃなくて、自分たちの実力で勝負していかないといけない段階に来ているのかなって思います」
――そんな話をしたばかりだったんですね。
「もなとはよく話します。売れたいね、お金ほしいねって(笑)」
――それはアイドルでも歌手でも、続けようという人みんなが思っていることで。
「私はちっちゃい頃から歌手になるのが夢だったし、歌って踊れるのは楽しいので、いくらしんどくても、バイトしながらでも続けたいなって思ってますけど」
――メジャーにいる歌手がアルバイトをするのって普通ですけど、やっぱりなんか寂しいなって思っちゃいますよね。
「私自身はいいんですけど、見る側からしたら夢を見たいですよね。それで価値が下がっちゃうのもなんかあれだし。お金がほしいというか、食べられるくらいになりたい」
――個人としては、もっと広く芸能の仕事をやりたいと考えたりは?
「はい、芸能のお仕事大好きなので。裸以外は(笑)。脱いで世界中がファンになってくれるなら脱ぎますけど。なんでもしてみたいですね。お芝居の仕事とかもしてみたい気持ちはあります」
「めっちゃヘタですよね!大根役者って言われました。めっちゃうさんくさい。逆にあれはトレンディドラマっぽくていいって言われたりしましたけど」
「すごかった!見に行ったんですけど、
茉里ちゃんめっちゃ演技うまくて。なんでもできるなと思って、超尊敬ですよ」
――BiSもベルハーも映画が作られたんだから、Especiaもチャンスがあるかもしれない。 「ありますかねえ……。でも、意外と演技できるかもって思いますよ。だから一度チャンスをくださいと言いたいです。〈パーラメント〉のときは当日にいきなり台詞を渡されたので、もっと練習してたらできましたよ!という言い訳」
――MVはいくつも撮ってきているから、カメラの前でリップシンクするのは抵抗がない?
「私は慣れないです。撮影のときは自身満々でやってるんですけど、できあがったのを見ると不自然な動きだなとか思います」
――今後はそれがなくなって、演技もいけるようになったらいいですね。しかし自分のMVもよく見てるんですね。
「めっちゃ自分好きな人みたい(笑)。でも自分研究はしますね。歌はその日の調子とかにもよりますけど、動きは癖とかが出てしまうことが多いで、ここキモいなと思ったら、次はキモくなくしようって思います」
――もともとはシンガー・ソングライター志望だったんですよね。いまはどう考えているんですか?
「歌はもとから好きなんですけど、ダンスがすごい楽しいなって思うようになって。いまは歌と踊りができる人になりたいなって思っています。最初は本当にダンスがダメで、頭の上で手を回すフリもできなくて。円を描くのすらできなくて、ただ空気を殴ってるみたいでした(笑)。それくらいだったのが、HIROKI先生っていう振付師の先生のおかげもあってダンスが好きになりました」
――Especiaでなにかしてみたいというのはあったりしますか。それこそソングライターとか。
「Especiaはメンバーがどうこうしたいっていうよりは、もらった仕事をどうこなしていくか、どれだけ自分たちを発揮できるかっていうスタンスでやってきたんです。うちらがやるべきことをやったら、やりたいことを言える日が来るのかなって思ったりもしますけど。でも、私たちがやりたいことを言うと、Especiaというブランド自体が壊れてしまう気がする。もともと80年代ディスコっていう、私たちがわからないことをやっているから、そこを自分たちが勉強したとしても口出ししていい領域じゃない気がするんです。かっこいい音楽を作ってもらっているのに、口出しすることでかっこいいEspeciaじゃなくなったら元も子もないじゃないですか」
――プロの仕事はプロに任せると。
「そのほうがいいのかなって考えたりします。“自分たちの意見は?”って聞かれることもあるんですけど、正直、Especiaは難しすぎてわからないんですよ。作詞してって言われても、Mircoさんの素晴らしい詞を見たあとだと自分たちが書いたらレベル下がるやんって思う」
「書きましたけど、4割くらいはRillsoulさんが英語に直したりしているので」
――なるほど。でもその考えには賛成です。松任谷由実さんが松浦亜弥さんにラジオで話したエピソードが有名ですよね。ヘンにアーティストぶらないで、人が書いたものを自分のものにして歌えるほうが素晴らしいと。詞を書く人は言わなくても自然と書いているものだと。 「そうなんですか。めっちゃ納得しました。私たちが口出ししたところで専門のかたには敵わないですからね。与えられた仕事のなかで自分たちがやれることはいっぱいあるので、それをまっとうしたいです」
取材・文 / 南波一海(2015年7月)
撮影 / 久保田千史
2015年7月26日(日)
大阪 千日前 味園ユニバース開場 17:00 / 開演 18:00
指定席 5,000円 / 後方スタンディング 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ(P 271-793) / ローソン(L 53166) / e+[special guest]
SAWA / STEREO JAPAN