――仲間うちのためだけに制作された(ラップグループ)D.U.Oの未発表アルバムを経て、日常やストリートの緻密な描写と内省的な世界が溶け込んだ独特な佇まいの作品が静かな衝撃を巻き起こした2011年のファーストアルバム『3 WORDS MY WORLD』から2012年のセカンド・アルバム『JEWELS』では、前作から一転して、意識が外に向けられた作品でしたよね。リスナーの反応も含めて、この2作の流れを振り返ってみていかがですか?
「かつて(ERAがツインヴォーカルの一翼を担っていたハードコア)バンド(
WIZ OWN BLISS)やってた時は聴き手のことは無視してたというか(笑)、むしろ、距離を置いていたし、誉められてるのに“それ、なんか違うだろ”って思ったり。でも、『3 WORDS MY WORLD』を出したことで色んな人からもらった感想はありがたかったですね。そんなリアクションを踏まえて、『3 WORDS MY WORLD』のスタイルとかスキルに関して、自分のダメな部分を修正しながら、『JEWELS』を作ったんです。でも、あのアルバムでは、スタイルやスキルを意識しすぎてしまったこともあるし、周りを意識せず作ったD.U.Oのアルバムや『3 WORDS MY WORLD』を聴いてみたら、時間が経っても聴ける作品だったんですよ。やっぱり、自分は周りのことを意識すると空回りしちゃうというか、普段どおりにやった方が上手くいくタイプなのかなって思ったこともあって、今回はDUOのアルバムや『3 WORDS MY WORLD』を作ってた頃のように、もう少し簡単なラップに戻そうと思ったんです」
――その後、客演やライヴは精力的に行なっていたこともあって、『JEWELS』から今回のアルバム『LIFE IS MOVIE』の完成まで3年近く経っていたことに驚きました。
「ホントはもうちょっと早く出したかったし、ずっと制作は続けていたんですけど、時と共に気分も変わっていくので、なかなか、完成しなかったんです。『JEWELS』までは友人宅がスタジオみたいになってて、その友人にエンジニアをやってもらっていたんですけど、今回、録音は全て自宅、作業も全て独りだったこともあって、誰かの意見を聞くこともなく、途中でいっぱいいっぱいになって、“外で録ったほうがいいんじゃないか”と何度も思いましたね。でも、そのうちにいい曲が徐々に出来てきて、自分のなかで自信が生まれていったことで、完成までの作業に本腰が入った感じですね」
ERA/LIFE IS MOVIE
――今回のアートワークは、街を歩くERAくんの写真が使われていますが、リリックで描かれているのは、誰かとつるんで遊んでいる日常ではなく……。
「ほとんど独りです(笑)。誰かといると気を使わなきゃいけないじゃないですか。でも、自分はそういうのが苦手だったりするし、もうちょっと外に向けて書こうとチャレンジはしてみたものの、しっくり来なかったんですよ」
――しかも、外に出ているのに、どこか特定の目的地に向かっているわけではなく、リリックで頻繁に出てくる「5丁目」というワードが象徴するERAくんの身近な行動範囲内の日常を漂っている感じ。
「まさにその通りです(笑)。自分はあまりインドアなタイプではなく、家にずっといられない人間なので、制作している時は、頭がすっきりしている午前中にリリックを書いて、それを午後に録ったりしつつ、とりあえず外に出るんです。まぁ、やることはこれといってないんですけど、外に出るとすっきりするんですよね。だから、何て言うんだろ……まぁ、散歩みたいなものですよね(笑)。ただ、自分はリリックの題材を見つけるためにアンテナを立てて、ぶらぶらしているわけじゃなく、内から出てくるのをただひたすら待つ感じ。出てきた言葉のその先を考えて、そのまま、するっと出てきた言葉が一番格好良かったりするんですけど、なかなか、そうもいかないところが難しくて、書いては消してを繰り返すことになるという」
――そうやって歌い綴られているリリックには、メロウできらきらしている、浮遊感のあるトラックが最高に合いますよね。
「ゴリゴリなラップも好きなんですけど、リル・Bだったり、クラウドラップ / トリルウェーブ以降のトラックも聴いていますし、自分のラップにはちょっとしたユルさのあるトラックの方が合うのかな、と。今回、トラックは
BushmindにStarrburst、
TonosapiensといったSEMINISHUKEI周りのやりやすい人たちにお願いしつつ、C.O.S.A.、
jjjなんかはフレッシュなものをチョイス出来たと思いますし、ファーストの頃から毎回曲を提供してもらってる
DJ HIGHSCHOOLも、ラッキーなことに“(名古屋のトラックメイカー)Ramzaと一緒に作った曲が合いそうだから……”ってことで、共作曲を送ってきてくれて。それから、
KID FRESINOをフィーチャーした1曲目の〈Endroll Creator〉はVyvっていう全く面識のないプロデューサーのトラックで、まとめて10曲くらいメールで送ってきてくれた中から気に入ったものを使わせてもらいました」
――どういう人か分からないまま、音を聴いて判断して選んだんですか?
「そうですね。ホントはそういう感じでもっとやりたいんですけど、トラックが送られてくることはなかなかないんですよ」
――でも、知らない人から送られてきた曲を律儀に聴いて、作品に使うラッパーって、なかなかいないですよ。
「そういう意味では、去年出したシングル〈Soda Flavor〉に入ってる〈Whistle〉と今回のアルバム9曲目〈I'm Talkin'〉のトラックを提供してもらったtrinitytiny1もそうですよ。ネット界隈で有名な人なんですけど、彼とも会ったことないですからね」
――そういう意味で、リリックでは独りの時間を描いていることが多い今回のアルバムは、音がよければいいというERAくんのスタンスもあって、閉じたものではないというか、むしろ、大きく開かれている。
「今までフィーチャーしてきたラッパーはDUOのO.I.とOS3、WDsoundsの
(Lil)MERCYだったり、近しい人間だけだったんで、今回、ラッパーをフィーチャリングすることに関しては、すごい悩んだんですよ。果たして、頼んで、上手く行くのか行かないのかは賭けみたいなものじゃないですか。だから、想像を膨らませて、合いそうだなと思って、KID FRESINOと
仙人掌、
Campanellaと
CENJUを選んだんですけど、みんな、ばっちり曲に合わせてくれたんですよね」
――作品を締めくくる「DAYLIGHT」のトラックとアルバムのミックスを手掛けたIllicit Tsuboi氏のファイナル・タッチを含め、このアルバムはERAくんの何気ない日常を描きつつ、その色使いや表現の多彩さ、ラッパーやトラックメイカーの配役は映画を作るように綿密に考えられている。だからこそ、ぐっと引き込まれる、そんなアルバムなんじゃないかな、と。 「そうですね。自分の作品では一貫して同じようなことを歌っているし、正直、自分の日常は映画のようにはなっていないんですけど、“俺の人生は映画のようなものになってもいいんじゃないの?”っていう感じ。そのなかでリリックにちょっとずつ手を加えたり、書き直したりっていうことは結構やっていて、1曲1曲掘り下げると、それぞれに色んなことがあったりするし、それぞれにドラマがあるんですよ」