ほかの誰でもないKIRINJIのポップス、ストレートでシンプルな新作「真夏のサーガ」

KIRINJI   2015/08/14掲載
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「Verve」レーベル音源の中からメンバーがセレクトしたサマーソング・コンピレーション『KIRINJI presents Sixth x Six -summer edition-』を挟み、2015年第1弾シングル「真夏のサーガ」をリリースしたKIRINJI。今年開催された〈ARABAKI ROCK FEST.15〉〈GREENROOM FESTIVAL '15〉といったフェスでも熱い反応を得ていた本作と共に、夏本番を迎えた堀込高樹(vo, g)、田村玄一(pedal steel, steel pan, g, vo)、楠 均(ds, per, vo)、千ヶ崎 学(b, syn, vo)、コトリンゴ(vo, pf, key)が語る。
――新作についてお話を伺う前に、KIRINJI名義としては初となるアルバム『11』からちょうど発表から1年が経ったということで、それぞれこの1年間を振り帰ってもらえますか。
堀込 「アルバムを出してからツアーがスタートしたんですが、やはりこれまでとは様子が違いましたね。当然、自分が歌う分量が増えて大変だったということもありましたが、新しいメンバーとバンドを組んでの最初のツアーだったので充実感は常にあった。初日から楽しめましたね」
千ヶ崎 「宇多田ヒカルさん、坂本真綾さんのトリビュート作への参加もありましたし、このシングルの制作もあったし。ツアーが終わっても、そのツアー中の呼吸が合ったまま制作に入れたので、そうした雰囲気が反映されてる気がします。うん、ツアーが終わったあとも常に動いている感じの1年でしたかね」
 「居場所を確認することができた1年でしたね。ぼくの場合、それが音楽にどう反映されるかはわからないんですけど、サポートでいると自分の居場所は特になくて、野良犬みたいにうろうろしているというか」
千ヶ崎 「かっこいいですね(笑)」
 「そう(笑)? でも、メンバーになって、これだけ一緒にいると常にKIRINJIの一員であることを意識せざるを得ない。それが日常になっていって、自然と居場所ができたなという1年でしたね。そのリラックス感はライヴでもレコーディングでもちょっとずつですが、表れてきていると思う」
田村 「ツアーの時はもうアルファベットのKIRINJIとして市民権を得て定着したなという印象がありましたね。ぼくらも自然体で演奏できたし、ファンのみなさんも自然に受け入れてくれている感じで。KIRINJIとして最初に行ったライヴではお客さんの方が緊張して腕組みして観ているような感じだったのが、ツアーの終わりあたりには手を上げて観てくれるようになったというか」
コトリンゴ 「私も居場所ができたというか(笑)。ツアー中は反省部屋というか、ひとりでこもる空間が欲しかった時もあったんですけど、いつもはひとりであたふたして、慰めて、泣いて、笑って、ケンカするという現場なので、みんなで一緒に動くのは新鮮で楽しかったです。最初はバンドという形態に慣れなくて気疲れもしましたが、そんなに気を遣わなくてもいいんだと気付いてからは、自分で力を抜くことができた。堀込さんのディレクションの感じもつかめてきたし、みんながどう曲に入ってくるかという間合いも想像することができるようになってきたので、自分だけが張り切って音を詰め込まなくても、みんながやってくれることを考えて演奏することができるようになってきましたね」
――なるほど、よりバンドとしての結束力が高まった1年と言えそうですが、その状態をキープしたまま、このシングルに至ったと思いますが、フィジカルのシングルとしては久々ですね。そして、夏をテーマにした曲だと「夏の光」以来です。
堀込 「さっき気付いたんですが、〈夏の光〉からCDでシングルをリリースしてないんですよ。5年ぶりのCDシングルです。やっぱりシングルだから押し出しの強い曲にしなきゃって意識はあったんですが、曲を書いていたのが真冬で(笑)。さすがに冬に夏の曲を書くのは難しくて、結局3月、4月になってから完成したんです。KIRINJIとしては比較的ストレートでシンプルな曲調になりました。あまり複雑なことを歌ったり、暗喩を散りばめたりするよりも、聴いてすぐに情景が浮かんだり、歌っていることがすっと入るようにと念頭に置きながら作っていったんです。アレンジをしながら歌詞を書いていったんですが、その歌詞がまだ完成していない時点ですでに夏っぽさはあって、みんなで演奏してみるとしっかりと夏の曲に仕上がっていた。あと今年の夏は積極的にフェスに出ようとしていたので、そういう場でも映える曲を求めていたので、自然とそういうキャッチーな方向へと向かっていったんだと思います。KIRINJIのファンではないお客さんがパッと聴いても何を歌っているんだということが伝わらないといけないというのもありましたね」
――今までとは違ったアプローチの曲作りでしたね。
堀込 「今までフェスを意識して曲を作ったことなんてなかったですからね(笑)。そもそもあまり出ていなかったし。曲ができてから、フェスで演奏したら気持ちいいんだろうなというのはありましたが。フェスのリハーサルを通じて、アレンジも詰めていったので、完全にフェスに出るんだということがなければ生まれていない曲だったと思います」
KIRINJI / 真夏のサーガ
――歌詞もおっしゃられていたようにストレートな内容です。今まで比喩や暗喩を用いて複雑で示唆のある世界を広げていましたが、歌詞を平易にして書くのは逆に難しかったのではないですか。
堀込 「作文みたいになってしまうのは気を付けましたね。言いたいことをそのままに綴ると、そうなってしまいがちなので、暗喩を避けながら詩的な表現をすることを心がけました。生命力や、怒涛のように降り注ぐキラキラとした陽の光を描きたいと思いつつ、青い空と白い雲という情景描写を別の言い方で表現できないかなと考えて、漢字にルビを振らなくてもいいようなわかりやすい言い回しをしようとしたのは確かに難しかったですね」
――生命力というテーマや、なるべくわかりやすくというのはアルバムから引き継がれている要素でもありますよね。
堀込 「日々の生活でそういうことを実感するようになったからですかね。体力が少しずつ衰えていく一方で、子どもたちはどんどん成長していく。そういう現実に影響されていると思う」
千ヶ崎 「曲の成り立ちから、高樹さんがずいぶんと挑戦しているのは伝わってきますね。全体の流れやハーモニーにしろ、一見シンプルなんですが演奏していると、とてもおもしろい」
 「キリンジ時代のレコーディングは、ここはハイ・サウンドみたいなアプローチを求めているんだろうなと意図を汲み取ることがまあまああったんですけど、KIRINJIになってからはそういう何々のように、みたいにというのはなくなっていった気がしますね。曲が自然と教えてくれるというか、自分なりにこのシングルもそう。ほかの誰でもないKIRINJIのポップスという感じがします」
田村 「うん、以前サポートで呼ばれていた時は詳細にディレクションしてくれたので、あまり考えることがなかったよね。楽だったというわけじゃないですけど(笑)、その通りに一生懸命やればよかったのが、KIRINJIではある程度自分の裁量に任されている。高樹くんのディレクションの数は減ったけれど、それでもできあがったものはちゃんとKIRINJIになっているのはさすがですね」
堀込 「どういう曲を目指そうという話はあまりしないんです。なんか暑い感じとか、静かに始まってラストがいちばん盛り上がるようにとか、ざっくりと抽象的なことを伝えるだけで、そこのサビはもう少し勢いを落とした方がいいんじゃないのというやりとりをリハでするくらいですかね。共通の認識を探っていくような進め方になってきたと思います。そうじゃないとバンドでやっている意味があまりないですからね。ぼくが一から十までああしてくれ、こうしてくれと言ってしまっては、ここまで力のある人たちが揃っているのにぼくの限界点で曲の成長が止まってしまう。KIRINJIではなく、堀込高樹のレコードですよね、それは。みんなの知恵が入ることで、曲としての深みや広がりが出てきて、KIRINJIのサウンドになるんです」
――コトリンゴさんもソロ・アーティストとして活動しているわけですから、そのあたりはよく理解できるのでは?
コトリンゴ 「そうですね。ひとりの時は目一杯ピアノを使えますが、KIRINJIになると中域から低域の音ばかりを弾くと、ほかのみんなの音とぶつかってしまうから高域を意識するようになりました。それが新鮮で勉強になる部分もある」
――カップリングの「水郷」はインストゥルメンタルとなりました。
堀込 「〈真夏のサーガ〉よりも全然早くできて、1週間ほどで完成しました。自分の中では早くできた方の曲ですね。真ん中あたりのパートの一部に昔書いた〈冠水橋〉のメロディを流用したんです。前半のメロディで川が流れていて葦が生えているような情景が浮かんだから、川つながりでかつて書いたメロディだけど違う曲に挿入されると色んなイメージやつながりが自分の中で生まれるなと思って。ただそれで終わって、誰かのソロが続くとなってもおもしろくないから組曲っぽくしてみた。小さい頃、海よりも川で遊ぶことが多かったので、そういう記憶から生まれたのかもしれません」
コトリンゴ 「〈真夏のサーガ〉はファッ〜と夏感のあるテンションですが、カップリングでインストゥルメンタルの〈水郷〉はもっと身近な夏感の気がします。弾いている時も景色をイメージしていますし」
――フェスで流れると、すごく癒やされるというか、のんびりした気持ちになれそうですね。このあと8月22日に日比谷野外大音楽堂で田村さんの還暦を祝う〈NATURAL FOUNDATION Presents Return of“SUMMER CAMP”〜Gen Tamura 60th Anniversary Party〜〉や9月6日の〈Slow LIVE '15 in 池上本門寺〉など野外でのライヴが続きますので、そこでもぜひ聴いてみたいです。
堀込 「夏って、みんな色んなところでライヴをやってるじゃないですか。自分たちだけが夏にライヴをやってないという気持ちがずっとあったんですよね(笑)。いっつもスタジオにいるよねって、いいのこれで!?ということで、今年はフェスや野外のライヴを入れてみました。〈エイリアンズ〉しか知らない人は新しい態勢になったということも知らないと思うので、そういう人たちになるべく知ってもらうために出かけていこうと。でも、野外も慣れると気持ちいいですね。最初はなんか楽器がベタベタするなって思ってましたが(笑)。このあとの野外ライヴも楽しみながら、多くの人たちに観てもらえたらいいですね」
取材・文 / 油納将志(2015年7月)
NATURAL FOUNDATION Presents
Return of“SUMMER CAMP”
〜Gen Tamura 60th Anniversary Party〜

natural-llc.com/

2015年8月22日(土)
東京 日比谷野外大音楽堂

開場 16:30 / 開演 17:30
一般指定席 7,500円(税込)
※雨天決行 / 荒天中止
※3歳以上要チケット


[出演]
田村玄一(KIRINJI / the BM's / LITTLE TEMPO / LONESOME STRINGS) / KIRINJI / 青山陽一the BM's / LITTLE TEMPO / 堀込泰行 / LONESOME STRINGS

[Special Guest]
片平里菜 / SANDII / 中村まり / ビューティフルハミングバード / 真城めぐみ ほか

[Welcome DJ & MC]
ミズモトアキラ





Slow LIVE'15 in 池上本門寺

lultimo.jp/smsl/

2015年9月4日(金)、5日(土)、6日(日)
※KIRINJIの出演は9月6日
東京 池上本門寺 野外特設ステージ

全席指定 8,000円
らくらくシート 13,400円
2日通し券(9月5日〜6日)13,400円
3日通し券(9月4日〜6日)18,500円


[出演 / 9月6日]
ORIGINAL LOVE(アコースティックセット) / KIRINJI / 原田知世 / 野宮真貴 / が〜まるちょば / paris match ほか


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