約1年9ヵ月ぶりとなる2ndアルバム『Bondage Heart』を発表するフルカワミキ。前作『Mirrors』発表後に行なわれたツアーでの手ごたえをもとに、今回、彼女が試みたのは、ポップな彩色が施された、荒々しくもカラフルなバンド・サウンド。閉鎖した時代への思いが反映された歌詞の世界も含め、今作はフルカワミキというアーティストの実像をリアルに感じられる会心の一枚に仕上がっている。 前作
『Mirrors』でソロ・キャリアをスタートさせたフルカワミキが、約1年9ヵ月ぶりの2ndアルバム『Bondage Heart』を遂に完成させた。ギター・ロック、パンク、サイケなど、 さまざまなフレイヴァーがちりばめられた楽曲をバンド・サウンドで聴かせる新作は、フルカワミキの音楽性をさらに確立した作品といって良いだろう。
「ツアーをやったことで、フルカワミキのバンド・サウンドというものが、すごくいい感じになったので、アルバムでは、バンドの手法を突き詰めてみようと思ったんです。〈サイコアメリカ〉〈C.Stereo〉〈Jet Coaster〉とか、ライヴで試した曲も結構ありますね」
アルバムでは、シングルにもなったフィードバック・ノイズと甘いメロディが絶妙な「Candy Girl」や、疾走感たっぷりの「B.B.W.」、ソフト・サイケなポップ・チューン「La La La」、曲が進むにつれて音の景色が変化していく「Sweet Surrender」や 「C.Stereo」など、カラフルに富んだナンバーを次々と披露している。あらゆる曲で、サウンドにヘヴィさを感じるのは、彼女含め、ベーシストが2人いる、ダブル・ベース・バンドだからだ。
「音のボトムはありますね。〈Candy Girl〉の冒頭も、ギターのリフって思われてるけど、実は私のベースの音なんです」
さらに、フィードバック音と静けさの絶妙なバランスは、彼女の音楽的ルーツを感じさせてくれる。そんな、ヘヴィさと荒々しさと可愛らしさの同居した音楽性は、彼女が作り上げたオリジナルなサウンドといえる。
「分かる人が聴いたら、自分が影響を受けた音楽の背景を想像できるような音作りではありますね。あと、乱暴な感じは、意識的に出したくて。音的にも、刃物が光るようなものにしたかったし。一筋縄ではいかない雰囲気というか……一言で言えば、“優しくないの”って感じかな(笑)」
彼女のヴォーカルも、楽曲によって、時にハードに時にキュートにさまざまな歌を聴かせ、ヴォーカリストとしての成長ぶりを見せている。そして歌詞には、“オーバースピードで”“飛び出す”“羽を磨け”といった、外へ向かうワードが多く見受けられるが、それらは今の世の中にはびこる重たい空気との関係がありそうだ。
「抑圧みたいなものをかわして、今とは違う場所を見つけ出すとか、それは自分が描きやすい世界観なのかも。でも、無理が生じるシステムをブッ壊してやるとか、デカいハサミでジャキジャキ刻んでやる〜って感覚もありますね(笑)。目の前の最悪な状況をクラッシュしたいって気分もあるし。本当は氷の地面でいつ溶けるか分からないのに、その上で気付かず暮らしてたり。歌詞ではそういうことを書いてるかな」
抑圧の中での反発心。それは『Bondage Heart』というアルバム・タイトルにもつながってくる。
「たとえば、もの作るにしても、いろんな制約がある。その中でも、作り出す喜びってあるでしょ。『Bondage Heart』は、抑圧の中でも、勢いや情熱、遊んでやるって思いは生まれるし、快感を見出してるよってイメージ。あと歌詞の中にもあるけど、今って、表面的には華やかだけど、その下では混迷してたり、お互いを監視しあうような風潮がありますよね。その中に、“ボンデージ”って言葉を投げかけたら、みんなそれぞれどういうイメージを抱くんだろうって思いもあったんです」
ポップでキャッチーでありながら、さらに奥へ踏み込むと、今の時代が抱える問題まで辿り着く。『Bondage Heart』は、彼女が、まさに“一筋縄ではいかない”アーティストとしての存在感を示した作品なのである。
「基本的には、ノリで楽しんでくれたらいいなって。あと、普段アンダーグラウンドな活動もしているメンバーたちと共に作り上げた、自分なりのポップな世界観を投げかけることで、同時代の多くのバンドに対するアプローチもさりげなく意識してたりするので、そのあたりも作品から感じ取ってもらえたらうれしいですね」
取材・文/土屋恵介(2008年3月)