活動休止からの復帰作
『INCOMPLETE』 以降立て続けに作品をリリース、ラウドやメタルコアを内包した殺傷力の高いサウンドが評価され、急激に存在感を増す
ギルガメッシュ 。前作
『gravitation』 リリース後、ツアーの開催や大型イベントへの出演、さらに海外での公演など精力的なライヴ活動を経て、1年4ヵ月ぶりとなるミニ・アルバム
『鵺-chimera-』 を1月20日(水)にドロップ。いずれも複数の種族の体を持った想像上の怪物である“鵺(ぬえ)”と“キメラ”。示唆にとんだタイトルを冠したこのアルバムについて、メンバー全員に話を聞きました。
――まずタイトルについてですが、鵺もキメラも、いわゆる“合成獣”として知られているものですよね。
Яyo(ds) 「楽曲のバリエーションもそうだし、現在のポジションも含めて総合的な意味で“おれらっていまキメラだよね”という話をしていて。どこにも属さず、自分たちのスタンスでやってるっていう意味を込めて」
――現在のポジションっていうのは、ラウド系とかV系とか、ジャンル的な部分のことですか?
Яyo 「カテゴライズっていうもの自体がめんどくさいというか。V系っていうならそれでもいいし、ラウドならそれでもいい。いちばん大事なのは自分自身の個の塊じゃないかなっていう想いがあって」
――たしかに『MONSTER』 を出したときにされていた“ラウド・ミュージック・シーンに進出”という評価には少し違和感を感じました。V系っていう言葉にしたって、本来的には音楽がどうこうっていう話じゃないですからね。 左迅(vo) 「そうなんですよね」
弐(g) 「そういうことを言われる前からいろんなところと対バンしてたし。おれたちからしたら普通のことで、いまさらなんですよね」
――とはいえ、そういう評価が広く知れ渡ったこともあって、ラウド・シーンをはじめさまざまなイベントへの出演が実現したわけではありますが。
Яyo 「昔だったら出られないようなイベントとか、“こんなところから!”っていう誘いは多くなりましたね」
愁(b) 「
SiM がやってるフェス(〈DEAD POP FESTiVAL 2015〉)に誘われたっていうのもあるし、ほかのバンドからの見られ方も変わっているんだろうなっていう認識はあったんですけど、イメージ先行だったものが、実際ライヴをやったことによって認めてくれたんじゃないかなっていうふうには感じます。
Dragon Ash や
ACIDMAN 、
ROTTENGRAFFTY とかが出ていた〈SKULLMANIA〉もそうでした」
Яyo 「そういうところにも普通になじめるようになりましたし、いいものを得て帰ってこられたなって。ヴィジュアル系としてのギルガメッシュが好きっていうお客さんも多いので反感もあるとは思いまけど、変わるには必要なことですからね。博打的なことだったかもしれないけれど、自分たちの気持ちを押し通したのは正解だったなと」
――そういったライヴを精力的にこなしていくなかで、2015年5月くらいからЯyoさんと弐さんの兄弟Twitter に音源の断片を上げたりしてましたよね。 Яyo 「そのぐらいのときは制作に追われてましたね。毎日家にいるし、ケンカもするし、このフラストレーションをどうするかっていたら、酒飲むかオナニーするかくらいしかないじゃんみたいな。そういうなかで、なんか乗っけてみようかなって」
弐 「でも、乗っけてるあたりはまだ調子よかったときですね。なにも乗せなくなったときくらいから、末期に突入した感じが」
――ははは(笑)。そのくらいの時期からアルバムを作りはじめたんですか?
愁 「『gravitation』ツアーのファイナル(3月14日 / 東京・新木場STUDIO COAST)が終わってからですね」
――方向性としては、これまでのやり方をさらに深めていったという感じですか?
Яyo 「前作はメタルコアに特化した作品になっていたんですけど、自分たちはメタルコア・バンドでもないし、とにかく自分たちのエッセンスを大事にしたい。今回に関していえば、2015年という年がコンプレックスだったりとか負のオーラが多い1年だったんですよね。それを大きなテーマにしたいなっていうのがあって。昔は殺すだなんだって歌詞を書いたり、若いときの怒りを吐き出すような感じだったんですけど、今のうちらだったらどういう表現ができるかなっていうのも楽しみで」
――アルバムを通じて、“キメラ”という言葉の効果もあってか、ダーク・ファンタジー的などろっとした重苦しさのようなものを強く感じました。
Яyo 「おっしゃるとおりです。でも、狙っていたというよりは無意識に、曲がそういう音を求めてたという感じですね」
――コンプレックスや負のオーラというものを抱えていた作り手側のモードが自然とそうさせたんですね。具体的にはどんなことが起きたんでしょう?
Яyo 「自分たちの演奏力のなさという面で、ラウド・ミュージックをやってるバンドに“殴り返された”んですよね。
HER NAME IN BLOOD との対バンがもう衝撃的で。ドラムのUmeboが、自分が必死になって叩いてるようなところを普通にやってたりして。歳を聞いたらすごい若いし、悔しいなって」
愁 「そういうバンドは楽屋でも本気で練習してたりするんですよね。それ以外にもパンクとかメロコアとかいろんなバンドとやって、それぞれのよさや、自分たちと異なる部分が明確になって。バンドを結成して10年以上経っても、まだやれることはあるなって痛感しました。」
――そういうコンプレックスをぶつけたおどろおどろしい雰囲気のなかでも、最大の魅力といえるメロディのキレイさは健在です。
Яyo 「やっぱりそこはすごく重要視してますね。リフのなかでメロを書けるバンドってほかにあんまりいないんですよ。ぼくはそこが超得意で。ほかの人だったらスクリームを乗せて処理しているであろうメタルっぽいサウンドのところに、うまくメロを乗せることができるのが自分の強みだと思ってます」
――今回の「slip out」や「END」でも、Djentっぽいリフの上でキッチリとメロディを歌ったりしますもんね。
Яyo 「そこが“おれら節”というか、大事にしたいなって」
愁 「結成当初から、ヘヴィなサウンドにきれいなメロディを乗せるっていうのは変わってないかもしれないですね」
左迅 「歌に関しては、J-POPの影響が強いと思います。やっぱり日本の音楽ってメロが命じゃないですか。キャッチーでポップで、口ずさめるような。そこがいま活きてるんじゃないかな」
――基本的にはЯyoさんと弐さんの2人でデモをしっかり作ってバンドに下ろす、という方法をとっているそうですが、そういう部分はメンバー全員がしっかりと共有している部分なんですね。
弐 「そこに太い軸はあるんですよね。それ以外にも、いまこういう感じの音楽を聴いているとか、こういうことをやってるよっていうのは、メンバー同士で共有してます。もちろん、それを押し付けるわけではないですけど」
――冒頭を飾る「Introduction」で世界観を提示しつつ、そこから「slip out」への繋ぎもすごく考えられていて。そういうオープニングから1曲目の流れっていうのはこれまでのアルバムでもすごく凝った作りになっていますよね。
弐 「今回でいうと、〈Introduction〉は最後に作りました」
Яyo 「新宿BLAZEのワンマン(〈2015→2016“鵺”〉)のSEで使ったんですけど、直前に作り直したんですよね」
弐 「それまでのやつはファンキーなノリノリ系な感じだったんですよ。メンバーにもSEはこれだからって聴かせてたんですけど」
Яyo 「アルバムを通して聴いてみるとこれじゃないなと。最初はカッコよさを求めちゃったんですよね。メンバーもお前が気に入らないんなら作り直していいよと言ってくれたので」
弐 「“ドロっとしたもの”を作りたいっていう明確なイメージを持っていたから、直すといわれても迷わなかったですね。なんかわかんないけど直したいって言われたら、死ねっていいますけど(笑)。今までにない感じの雰囲気で。これができてよかったなっていう気がしますね」
――強烈なダンスビートで幕を開ける「Horizon」は、ライヴの鉄板曲でもある「evolution」をさらに進化させたようなイメージを受けました。
Яyo 「そうですね。
『MUSIC』 を作ったときのエッセンスがほしくて。簡単なんだけどわかりやすいリズムで、バカ騒ぎできるような感じというか。ヨーロッパで盛り上がってるハードスタイルのエッセンスを取り入れたら“新しい〈evolution〉”になれるんじゃないかなって。ハードスタイル自体はリズムはもう少し遅いんですけど、キメラなんだからなんでもいいじゃんと思って」
――「Horizon」のコーラスと、そのあとに続く「END」の冒頭のリフのフレーズがリンクしている部分がありますよね。曲自体の雰囲気は間逆ともいえる曲ではありますが。
Яyo 「あ、そうですね。意識してなかったな。それ、次の取材でいいます」
(全員爆笑)
愁 「そこまで考えてたんですか!って(笑)」
Яyo 「でも〈END〉を作ったあとに〈Horizon〉を作ったので、余韻は残ってたのかもしれないですね」
――アッパーな曲でガンガンおしていって、「END」できれいに終わるっていう構成は最初から想定していたんですか?
Яyo 「作る段階で“殺して終わりたい”とは思っていて。ただその殺し方も、静かに殺すっていうか、そういうフォーマットはできてたんですよね。それにあてはまるように楽曲を作るのが大変でしたけど」
――ありものから選曲するわけじゃなくて、フォーマットから新たに曲を作っていくんですね。
Яyo 「うちはゼロから作りますね。ストックができないんですよ。バンドって日記だと思ってるので、そのときの気持ちとかを大事にしたくて。だから作るってなったら、まっさらな紙に書き出すというか。大変なのはわかってるんですけど、そのほうがお客さんにも伝わるし、やりたいこともできるかなって」
――それはすごい苦労しそう……。
Яyo 「最初にできたのが、Twitterに上げた〈鵺-chimera-〉の断片ですね。そのあとにできた〈wither mind〉はいっかいボツっていて。ドアタマのダブステップみたいなシンセのセクションの先が思い浮かばなくて。でも、あれはかっこいいから入れなきゃだめだって(弐に)言われて」
――とても強度の高い楽曲がそろっているので、あまりよくない言い方かもしれませんが、少し世界を補完してフルレンスにすることはそんなに難しくないはずなのにもったいない、とすら感じました。これだけの楽曲群をミニ・アルバムで出すところが、ギルガメッシュがいかに真摯に音楽をやっているかの証明でもあると思います。
弐 「でも、流れ的にフルアルバムを作りたいっていうモードではなかったんですよね」
Яyo 「フル・アルバムを作るには、物語や気持ちが自分のなかでは足りなくて。ただ、今回は〈Introduction〉だったりリミックスを入れて、前回と同じパッケージにはしたくないなっていうのはありました」
――歌詞のことに話を移すと、すべての楽曲において、現状を受け入れつつもなにかを変えていこうという強い気持ち、ポジティブな諦めのようなものが込められているように感じました。
左迅 「このバンドは“見返してやろう”とか“ふざけんじゃねぇ”っていう反骨精神でかけあがってきたバンドなんですよね。何年たっても、その部分はなにも変わってなくて、そこが一番の強みでもあるんですけど、自分たちの根底にあるものを見つめなおして、いまの経験を踏まえたうえで表現したらどうなるかなっていうのはすごく考えました。そういう部分はメッセージに反映されてるかも」
――メッセージの核となる部分は、時間を重ねても大きな変化はない。
左迅 「そうですね。昔の歌詞とか読んでみても、大きなテーマ自体は変わってないというか。それを表現する言葉だったり、まわりの状況だったりが違ってる。ほんとに根っこの部分は大きくは変わってないんだなって」
――メロディに対する言葉のノリの良さも大きな特徴だと思うのですが、こういう気持ちを書こう、というものを抽出してから、実際に音に乗せて確かめていく感じなんですか?
左迅 「そうですね。まずは曲を聴いて、こんなことを歌おうと考えて、そこから膨らませていく。言葉をメロディに乗せる作業はЯyoと一緒にやってるんですけど、海外でもそのノリの良さを評価されてるので、日本語を大事にメロディを大事に、っていう部分は大前提として考えてます。どんなに内容がよくても、そこが悪いと耳にパンと入ってこないから」
――スクリームの部分でもそこは意識されていて、たとえば「鵺-chimera-」の“腐っちまった感情は……”というフレーズとか、日本語であのリズムを生み出すのはすごいと思います。
左迅 「あそこ気持ちいいですよね(笑)。デモをもらうときって、Яyoの仮歌詞みたいなものが入ってるんですよ。こういうイメージで、こんな感じの声で、こういう譜割りで乗せたいんだっていうのを提示してくれるので、やりやすいですね」
Яyo 「ここにカンペキにはめろ、なんて残酷なことは言わないですけどね」
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――伸ばす母音のイメージなんかは伝わりやすいですよね。『INCOMPLETE』以降、Яyoさんがミックスやマスタリングをみずから手がけるようになってから、サウンド面でもすごく高い評価を受けていると思うんですけど、今回もすべて自分の手で?
Яyo 「いちばん大事なところは一番弟子に任せました。今は育成のほうに目を向けていて」
――もう発言が“匠”じゃないですか(笑)。自分たちの作品を自分でいじっていると、満足するラインが高すぎて終わらないんじゃないかなって思っていたんですよね。
Яyo 「終わらないですね。唯一信じられるのはいつまでに上げなきゃいけないっていうデッドラインだけ。やりはじめると風呂も入らなくなるんですよ。もうハエがたかるくらいの」
弐 「それは言いすぎだよ」
左迅 「それは盛ったな」
Яyo 「……ちょっと盛った(笑)」
――盛っちゃいましたか……(笑)。
愁 「意味合いはわかるよ(笑)。それぐらい煮詰まってるってことで」
Яyo 「そうです。ほかのこともできなくなっちゃうのでよくないなとは思っていて。だから今回、人に任せるっていうのは新たな挑戦でもあったんですよね」
――かなり勇気のいる決断ではありますよね。
Яyo 「そうですね。ミキシングとかエディットはいちばん大事なので。任せられる相手がようやくできたっていうのは嬉しかったですね」
――音作りに関しては、メンバー自身が細かく要求するんですか?
愁 「いや、そこはわりと任せていて。刺青でいうならこの2人が筋彫りしてくれるので、そこからどういう絵を描きたいんだろうっていうのを想像して、共有して、色を塗っていくっていうのが最近のスタンスですね。さっきの〈Introduction〉の話もそうですけど、直前に変えるってすごいことではあるんだけど、明確なヴィジョンを持っているので。そのおかげで一貫性のある、コンセプティヴな作品ができたかなと思います」
Яyo 「こうやって言ってもらえるとほんと嬉しいですよね。普通に考えたらただのワガママですから。だからこそ、みんなの顔にドロを塗るようなことはしたくないと思えます」
――冒頭に話してくれた立ち位置という意味では、年末に日本武道館で開催されたMAVERICK DC GROUPのイベント〈BATTLE ARENA in BUDOKAN〉 でも感じたんですが、MUCC やシド といった上の世代の分厚い陣容と、DIV をはじめとした勢いのあるニューカマーのちょうど中間にあたる世代でもありますよね。難しさは感じませんか? Яyo 「そこはあまり気にしてないですね。たとえば、これまで下に追い抜かれて悔しい気持ちとかも経験したりしてますけど、急に伸びたバンドっていきなりつぶれるんですよね。“為替か!”みたいな」
弐 「ははは(笑)」
Яyo 「自分たちのペースで地道に階段をあがっていくのがいちばんの近道だなって。プレッシャーはありますけどね」
愁 「個人的には瀬戸際だと思ってて。そろそろギルガメッシュとしての“個”を確立しなきゃなっていうのは思ってますね。むしろ、おれたちが下を作っていくくらいの気持ちで。今の位置で満足ならそれに甘えてればいいと思いますけど、それは違うんじゃないかっていうのは、メンバー内の会話でもあって。インディペンデントな気持ちはもってないと、上にも下にも立ち向かっていけないんじゃないかなって思います」
――まもなくツアーが始まるわけですが、ツアーに向けてひと言いただければ。
弐 「今までやったことないチャレンジはしてみたいかなと思っていて。この作品だからこそ組み込める曲もあると思うし、バンド4人の結束力も高めていきたいですね」
愁 「ここまでコンセプティヴなアルバムもできたので、それを100パーセント活かせるように、音響から照明、ステージまで追い込んで、しっかりやっていこうかなと思います。昔の曲も掘り下げ始めて、久々にやる曲もあったりするんで、そういうのも楽しみに待っててもらえたら」
Яyo 「完全ワンマンのツアーが久々なので、いまのギルガメッシュが届けられるように頑張ります。ぜひ遊びに来てください」
左迅 「この作品は絶望に引きずり込むアルバムなんで、悩んだり悲しんでたりする人は、このアルバムでどん底まで落ち込んでもらって。ライヴにきてくれたらそこからケツを蹴っ飛ばすので、一緒に笑えるように、音源聴いて待っててくれたら。全身全霊で全国に届けていきたいと思います」
取材・文 / 木村健太(2016年1月)