この記念すべきタイミングで実現した初対談。
雑誌版「CDジャーナル」2月号 掲載の前編では「『PICTURE』には、ネバヤンからの影響はちょっとあったかもしれない」(王舟)、「僕は“達郎派”より“雄三派”です!」(安部)などなど、気になるパンチラインもばんばん飛び出した。
舞台をWEBに移しての後編でも、さらに打ち解けた2人の話は続いた。
王舟『PICTURE』
never young beach『YASHINOKI HOUSE』
――あらためて、安部くんは王舟くんの新作『PICTURE』を聴いてみて、どうでした?今回は全部宅録なんですが。
安部 「すごいっすよね!これ、宅録でしょ?でも、僕が知ってる宅録じゃないですよ(笑)。昨日音源もらって聴いて、ただただ1日“うわー、いいなー”って思ってました。コードとか、アレンジとか、管楽器の音のいれ方とか、いちいち“うわー”ってなってました」
王舟 「でもそういうのも全部手探りだから。回数重ねて、って感じ」
安部 「1曲目(〈Roji〉)がいちばん好きです」
王舟 「あー、よかった(笑)」
安部 「ほかの曲もみんないいんですけど、あの曲がいちばん、僕のなかでかわいさがあるというか。人懐っこい犬みたいな(笑)」
――宅録なのに、あのよたったリズムとかね。
安部 「親しみやすい感じのメロディとか」
王舟 「バンドでやると意外とちゃんとしちゃうから、あの感じは宅録じゃないとできないかも」
安部 「ドラムとかは、何で録ってるんですか?」
王舟 「今、機材がすごく進んでて、ドラムの音もいいサンプルがあるんだよ」
安部 「管楽器とかも、あんないい音が入ってるんですか?」
王舟 「そういうのも入ってる」
安部 「えーーーー!」
王舟 「でも、宅録であんまり音を良くするのも変っていうか」
安部 「それ、わかります。あと、王舟さんは英語しゃべれるんですか?」
王舟 「どっちかというとしゃべれない。英語の歌詞はもうひとり、手伝ってくれる人がいて」
安部 「めっちゃ発音とかきれいじゃないですか」
王舟 「それはもう、ブロークン・イングリッシュでやっていいんだというのがある。発音がいいとかじゃなくて、音として録れればいいわけだから」
安部 「そうか。英語しゃべれるんだと思ってました」
王舟 「
ルイ・アームストロング が歌ってることをアメリカ人でも結構理解できてないという話を聞いたことがあって。滑舌が独自すぎてよくわかんないんだっていう。俺はそれが衝撃的で」
――歌の意味が正確にわかんなくてもいいし、それよりも伝わる何かがあるという。
王舟 「わかんないまま聴いててもいい。そもそも洋楽なんてちょっとしか意味わかんないのに“いい”と感じられるのは、理屈がいらないというか、その曖昧さがいいと思えるんだよね」
――歌詞の話でいうと、王舟くんの言う“曖昧さ”にも通じると思うんですけど、ネバヤンの歌詞って、おおらかというか、思ったことそのままが言葉になってるのに、それが歌になることでさらに広いイメージを持つっていう良さがありますよね。「ちょっと待ってよ」も“ちょっと待って”って歌だし、「あまり行かない喫茶店で」も安部くんがコーヒー飲まないからあんまり喫茶店行かないってところから生まれてる。だけど、その単純な動機を作品に落としこんで大きくできるというのは、やっぱり才能だと思える。
安部 「なるべくそのまんまでいきたいんです。僕、そのまんまじゃないとバレるから。その人と歌詞が一致しない人は僕は信用できないし、僕自身がウソを歌ってると思うと楽しくないし、恥ずかしくなっちゃうから、そういうのはやんないように思ってます」
王舟 「〈あまり行かない喫茶店で〉の歌詞とか、一周するとどうでもいいことでしょ?でも、そのどうでもいい感じが歌詞にちゃんとあるというか。“あんまり悟ってほしくないよ”って音楽でも言ってる姿勢があるのがかっこいい」
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――ロックンロールの伝統からいうと、昔の名曲の歌詞ってどうでもいいことを歌って共有されてるんですよね。
安部 「そうですよね。海外のバンドの歌詞とか読んでると“おなじ女を取り合った”とか、そんなん多いですよ。みんなどうでもいいこと言ってるのに、サビではこんなに大盛り上がりする、みたいなのがあって」
――じつは、どうでもいいことだからこそ盛り上がれるのでは?
王舟 「あー」
安部 「意味があることって、重たいですからね。“そこはおのおの勝手に気づけ!”って感じです」
王舟 「
ピート・タウンゼント の言葉で“ロックンロールは誰も救済しない。悩ませたまま躍らせる”みたいなのがある」
――名言キタ!その発言を2人の間に置いてみたら、王舟とnever young beachは音楽的にはやってることは違うように見えるかもしれないけど、根っこにはおなじものが流れてることがわかります。
安部 「ぜんぜん違うから、よけい好きなんですよ。そういうことを思ってる王舟さんになんか惹かれちゃうんです」
王舟 「いやー俺は、安部くんが褒めてくれるのが、ちょっと気がかりではあるんだけど」
安部 「(爆笑)」
王舟 「好きっていう自分のモチベーションをすごく大事にする人なのかな?そこがわかんなくて」
安部 「いや、でも、僕が人を褒めるのって、そんなにないんですよ」
王舟 「あ、ないの?」
安部 「むしろdisしかしないんですよ!ダセーやつとは関わりたくないんです!」
王舟 「それ、いいね!見出しにしてほしいわ(笑)。安部くんがそう思えるのは、やりたいことがはっきりしてるからだよね」
安部 「まあ、そう言いながらも、僕が好きだったらぜんぜんOKになっちゃうんですけどね」
王舟 「昔からそうだったの?」
安部 「いや、昔はCDで言うと“好きだけど買わないな”みたいなタイプの人とも付き合ってました。結局いろんな人たちと付き合ったし、いっぱい友達もできたけど、今はもう好きな人としかやりたくないです。王舟さんもそういう感じじゃないですか?」
王舟 「俺は好きな感じってのがあんまりはっきりしてなくて。逆にいやなことははっきりしてるから。おもしろいなと思ったところには結構長くいるけどね。安部くんもネバヤンのメンバーとか、好きな人たちに出会ったことで、そうやって割り切れるようになったのかなとは思うけど」
安部 「そうですね。そんな感じです。メンバーはみんないいやつだし。すぐケンカしますけどね」
王舟 「バンドってそういうのがあるのがいいよね。ギクシャクはするけど、みんなでやんなきゃいけないじゃない。そういう“やんなきゃいけない”感じが。ネバヤンとか見てると、一緒にいる時間が長いからだろうけど、とりあえずみんな仲よさそうでひとつの団体としていいなというのがある」
安部 「2014年の6月からこのバンドで始めて、そこから今まで95、6本ライヴやってるんですよ。15年だけでも80本とか」
王舟 「え!そんなにやってるの?」
――しょっちゅうライヴしてるなとは思ったけど、それはすごいですね。バンドが固まる上ではとても重要。
安部 「ほぼ週3、4くらいでメンバーと一緒にいるんですよ。練習もあるし、地方もあるから、もっと多かったかも。そういうのですげえ仲良くなりました」
王舟 「組むときはそうでもなかったの?」
安部 「最初は、僕とマツコで作った宅録の音をYouTubeにあげて、バンド・メンバーを募集したんです。それで集まってきたメンバーだから、僕は阿南とか嫌いでした(笑)。“阿南とアナルと名前似てるけど、これ本人に言っていいのかな?”とかマツコと話したりしてて。でもあるとき、ちっちゃい声で“アナル”って言ってみたら、“あ、それよく言われる”って返してくれて、“うわー、よかった!じゃあ言っていいんだ!”みたいな(笑)」
王舟 「緊張と緩和があるね(笑)。高校の仲良しグループができる場面みたい」
安部 「本当にそうですね。今は、おちんちんの話とかおっぱいの話ばっかりしてます」
王舟 「それはおもしろいね。ベース(巽 啓伍)もいいよね」
安部 「いいんですよ。しかもあいつ、ベース弾いたことなかったんですよ。もともとTwitterで、僕らのバンド募集を引用RTして“僕、ギターなら弾けるのにな”とかつぶやいてたやつで、“でもギター弾けるんならベースも弾けんじゃん?”って思って誘ったんです。その時点で初ライヴまであと4日くらいで、ベースがいないとまずかったんで、とりあえず会ったこともなかったけど一緒にスタジオ入ってみて。そしたら意外とうまくいったんです。ベースに対してもすごく熱心なやつで、よかったです」
王舟 「ネバヤンを初めて見たときの印象は“ベースがすごくいい”だった。すごくうまい人だと、うますぎて逆に前に出なくなっちゃうんだけど、ちゃんと前に出るロック・ベースになってて」
安部 「グルーヴ感があるんですよ。指とか骨格からにじみ出るものがあるみたいで」
王舟 「ほんといいベースだよ」
安部 「それ言っときます。喜びますよ(笑)。でも、王舟さんみたいに宅録ひとりでやるのもうらやましいです。そのうち僕もひとりでやりたいです」
王舟 「あー、でもおもしろそうだよね、それ」
安部 「かっこよさそうじゃないですか、ひとりって」
王舟 「宅録やる人がいっぱい出てきたらいい。昔は宅録の人いっぱいいたけど、今はあんまりいない。みんなもっとちゃんと作るってところから始めるから。宅録って超おもしろいよ。最近、俺も後輩が増えて、歳下との付き合い方ってのがよくわかんなくて。夏目(知幸 /
シャムキャッツ )くんもそう言ってるんだよね。“ずっと自分らが後輩でいちばん下だったのに、気が付いたら先輩になってた”みたいな」
――たしかに。中学や高校だったら、次に進むことでリセットされるけど、この世界は卒業がない。安部くんは、後輩として、どう見ているんですか?
安部 「僕も若くはないですからね。もう25歳だし」
王舟 「俺、もう31歳だから。1st出したとき30歳だし」
安部 「若いやつが音楽やってても、“ウソつけ!”とか思いません?“20歳前後で実家暮らしのやつが何を言っとるんじゃ!聴く気にならんわ!”って(笑)。まあ、かっこよかったら結局納得しちゃうんですけどね」
王舟 「でも、かっこよくなるのにはやっぱり風呂敷がでかくないと。こじんまりとやってるように見える人でも、長く続けてるとそれ自体がでかくなってくるからね」
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――人生経験豊富な人が体感したことじゃないとダメって話ではないですよね。それこそ王舟くんも「Thailand」とか「ディスコブラジル」とか歌ってるけど、タイもブラジルも行ったことない空想の世界なわけだし。だからこそああいう曲ができるというのもあるし。
安部 「そういうのは好きです。王舟さんがブラジルのこと思いながら書いた曲なんだってことがむしろリアルだし、“なんかいいなあ”って」
王舟 「思って書いてないけどね(笑)」
安部 「だとしても、王舟さんとブラジルの組み合わせがおもしろいし、似合ってるし。そういうのは僕は好きです。なんか都合のいい話になっちゃいますけど(笑)」
――never young beachが出てきた瞬間の新鮮さというのは、今は作品を出すときに、自分たちの世界観や狙ってるポイントをしっかり考えて提示してくるバンドが多いし、そうならざるをえない時代で。ネバヤンがそういうことをぜんぜん考えてないとは思わないんですけど、それよりも障子に穴を“わー!”とか言って開けちゃう子どもみたいな楽しみの感覚があって。
王舟 「あー、たしかに。考えてやってはいるんだろうけど、やってる途中で障子に穴開けちゃう感じかも」
安部 「それ、すごくうれしいです。なんか“考えてます”みたいなこと言いながらやるのって、あんまり好きじゃないんですよ。“がんばってます”とかとも一緒で、それって才能のないやつが言うことだと思うし、がんばるって超つまんないじゃないですか。“好きでやってるんだから、がんばるなんて当たり前でしょ”って感じです。僕は当たり前がちゃんとできてる人が好きなんです。当たり前の基準が高い人は、適当にやっても普通の人よりは上を行ってると思うんですよ。僕もそうでありたい。僕も外から見たら“適当にやってる”とか“楽しそう”とか言ってもらえるんですけど、でも自分の当たり前はちゃんとやってる。曲作りのときはメンバーにも“それは違う”とかちゃんと言うし、そういうのを当たり前にやってる人が好きになります。そういう人が世に出てくるんだと思うし」
王舟 「俺はがんばってる意識があんまりないから、がんばってる人に憧れちゃう意識がちょっとある。“やべえ、俺こんなにがんばれねえ”みたいな(笑)」
安部 「僕は冷たい人間なわけじゃないんですけど、人間ってそんな別にフレンドリーじゃねえし、お互いにやることきっちりやんなくちゃ仲良くできねえよって感じなんですよ」
王舟 「中学校のときに友達だったヤンキーの人みたいな親近感が安部くんにはあるんだよ。はっきり物事は言うけど、でも仲間だったら面倒見てあげる、みたいな。そういう男らしさは感じるね」
安部 「僕は王舟さんにもそういう印象があります。初期から僕らを好きでいてくれてる
neco眠る の人たちもそうだし。僕が好きな人たちはそういうことを当たり前にやってる、というか、そういう人が好きだから。そういう人としか、あんまり一緒にやりたくないですね」
王舟 「いや、でも意外と俺、あんまりちゃんとやってないよ。ここでハードル上げられちゃ困る(笑)」
――いや、『PICTURE』聴けば、王舟はちゃんとやってるって誰でもわかるでしょ。
安部 「そうですよ。あんなの聴いたら、そう感じざるをえない。“うわー、変な人なんだろうな”と思いつつ聴いて、でもじっさいに会ってみたらこういう人で、なんかスルメみたいな良さがあるんです」
王舟 「スルメ?」
安部 「噛んでくうちにさらに味が出てくる、みたいな。初めて会ったWWWの打ち上げでも、王舟さんが酔ってたのもあるんですけど、言いたいことを言ってて。僕は“王舟さんってこんな人なんだ。いいぞいいぞ!”って思ったんです。僕はそういう言うべきことを言う人が好きなんですよ」
王舟 「悪口を言う人のほうが、ちゃんと付き合いできる」
安部 「“悪口とかよくないよ”とか言うやつとか、“おまえ、何言ってんだ?”って思っちゃいます(笑)」
王舟 「悪口を言ったほうが、仲が深まることもある。そういう文化があんまりない感じで、みんなが“自分はちゃんとやってます”っていうていでこっちに来られると、どう接したらいいかわからないし」
安部 「ちゃんと本音を言う人のほうが愛着が出るし、僕は好きです」
――では最後に、お互いにこれだけは相手に言っておきたいこととか、2016年の抱負とか。
王舟 「俺は安部くんがこれからどういう音楽を作るのか、不安(笑)。今、歳下でいっぱいバンドあるけど、never young beachがいちばん好きだから、期待があるぶんだけ不安もあるという(笑)」
安部 「もっと楽しくやりたいです。もっと責任を持って、もっと楽しくやりたい。もっと大きいところでもやってみたいし、いろんなバンドともやってみたいし、ダサやつとやりたくないって言ったけど、ダサいやつが売れてる世の中だったりするから、そういうやつらのキャパの広さの中にもっとまぎれてみたいです。そこでの反応はどうなのかとか思うし、もっとアウェーなところでやっていろいろ試してみたい。最近はすごくウェルカムな状況になってきてるから、もっと知らないところに行ってみて、そういうののほうが燃えるというか。あと、おっきい音出したいですね。宅録の超チープな音も楽しいですけど、おっきい音も楽しい。レコーディングも全部アナログの機材で録ってみたいです。合宿所みたいなところに行くとか。あと、よみうりランドでライヴしたいです」
――もうなくなりましたよ、2013年に(笑)。
安部 「うーわ!マジか(笑)!」
――今後、会ってみたい人とかは?
――加山雄三さん、キタ(笑)!このインタビュー前編(雑誌『CDジャーナル』2月号)でも、安部くんは“雄三派”だって公言してたし。最近、PUNPEE も「お嫁においで」をリミックスしてたし。 安部 「なんか加山さんとふざけたいです。お尻とか触って、“おい!”とか言われてみたいです。もちろん、好きなバンドの人とかも含めて、タメ口するとかじゃなくて、リスペクト込みで対等に会いたいです。僕もいやなんですよ、下手から来られるのは。それに出会うんだったら、そのうち必然的に出会うから」
王舟 「いいねそれ。よくわかる」
安部 「直接会うまで、自分からはSNSとかではいきづらいんですよ。できるだけ対等にいたいし」
王舟 「俺も対等な関係でレア・セドゥに会いたいと思ってるから(笑)」
安部 「対等じゃないと、つまらんですから(笑)!」