お父さんと2人の息子が全員クラリネット奏者。しかも全員が超一流オーケストラの首席奏者という“雲の上のような”オッテンザマー一家の3人が組んだユニットが、
エルンスト(父)、
ダニエル(長男)、
アンドレアス(次男)による“
ザ・クラリノッツ”だ。10年前から活動をスタートさせ、レパートリーを充実させながらじわじわとユニットとしてのクオリティを高めてきた。東京ツアーの真っ最中の彼らをホール楽屋で取材したが、男3人集まれば……まるでお祭りのようなにぎやかさで、やんちゃな末っ子アンドレアスが、ユーモラスなパパをコテンパンに牛耳り、優しそうな兄がそれを見つめている……という光景が繰り広げられていた。新作
『ザ・クラリノッツ』では、父エルンストによって創設されたアンサンブル、
ウィーン・ヴィルトゥオーゼンが大活躍し、ダニエルが参加する“
ザ・フィルハーモニクス”のメンバー、フランティシェク・ヤーノシュカが見事なピアノを披露している。制作のエピソードや日常のことなどを聴いた。
――新作ではモーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』の三重唱「風は穏やかに」をアレンジしたものや、ヴェルディの『リゴレット』をモティーフにした幻想曲がとくに印象的でした。このアルバムの裏テーマのひとつが“オペラ”なのではないかと思ったのですが……。 アンドレアス 「クラリネットは人の声に近い楽器だと言われているし、演奏しているほうも歌手みたいな精神状態になることが多いんだ。僕らはウィーンの演奏家だし、ウィーンらしいキャラクターを出そうとすると、自然に“オペラ”っていうキーワードが浮き彫りになるんだよね」
ダニエル 「実際、オーケストラ・ピットの中で日常的にオペラを演奏しているしね」
エルンスト 「3人のソプラノがリサイタルで一斉に歌い始めたら“こりゃ何が始まった!?”ってことになるんだろうけど、クラリネットなら大丈夫だ。僕たちはいわば、3人のディーヴァが共演しているようなものだね。スリー・
ネトレプコというわけだ」
――面白いです(笑)!クラリネットが登場した時代はモーツァルトの時代で、彼はオペラの中でもシンフォニーの中でもこの楽器をとても効果的に使っていますね。
エルンスト 「モーツァルトによってクラリネットの地位が高まったということは確実に言えると思うよ。昔だったらフルートとオーボエを重ねるようなところも、モーツァルトはフルートとクラリネットを重ねて書いた。そこに新しい響きを発見したんだね」
アンドレアス 「(CDを手にとって)僕、このときのほうが写真写りよくない?カッコよく撮れているよね。ホラ(ダニエルに見せる)」
ダニエル 「僕はすごく緊張している感じに写っているよ」
アンドレアス 「この頃とは名前も変わったよね。“オッテンザマーと息子たち”って書いてあるけど、今や真ん中の人(エルンスト)はだーれ?って感じだね」
※インタビュー中、アンドレアスが父エルンストをやりこめるシーンが多かったです
――レコーディングは、ライヴ的に録っていったんでしょうか?アンサンブルとの共演などはリハーサルをだいぶ重ねましたか?
エルンスト 「その両方だよ。でもリハーサルは3回くらいかな。ライヴ的な録り方をしたものもあった」
アンドレアス 「今回は新しく演奏した曲もあったから、それはけっこう大変だった。ベラ・コレニーが僕らのために書いてくれた〈シネマI〉という曲です」
――3人の息がぴったりで、聴いているとテレパシーのようなものがあるのではないかと思ってしまいます。
エルンスト 「家族だからね。子供たちというのは、母親がなにを考えているか、言葉なしにわかってしまうようなところがあるだろう?あれと同じだよ。呼吸を合わせるには、たくさんの言葉は要らないんだ」
――エルンストさんは、怖いお父さんのように息子さんたちを育てたのではなく、優しいお母さんのように包み込んで育てたのではないですか?
エルンスト 「そうだなあ……たしかにあまり厳しくなにかを言ったことはなかったかもしれない。同じ仕事に就けなんて一度も言わなかったしね」
――でも、息子さんたちはウィーン・フィルの首席クラリネット奏者として活躍するお父様を見て“僕もこうなりたい”と憧れていたんでしょうね。 アンドレアス 「たしかに、家の中で父がクラリネットを吹いている様子が、なんといったらいいか、とても“いい景色”だったんだ。それを見ていたら、自然にやりたくなったんだよ」
――お兄さんもすでにクラリネットを吹いていたわけで……クラシックの世界では違う楽器を選ぶ弟さんも多いですよね。
アンドレアス 「家は自由な雰囲気だったし、比較されるようなこともなかったから、まあ、環境がよかったんだね」
――3人の相性も絶妙だと思います。それぞれウィーン・フィル(エルンスト、ダニエル)とベルリン・フィル(アンドレアス)で首席奏者として活躍されていますが、オーケストラのレパートリーとして“耐えられない”と思う曲があったら、教えてください。 エルンスト 「嫌いだ、と思っちゃったらもうリハーサルから苦痛でしかなくなるから、どの曲もがんばって好きになるようにしているよ。そのときに演奏する曲は、すべて好きな曲だと思うようにしている」
ダニエル 「それがいちばんだね」
アンドレアス 「僕は現代曲も嫌いじゃないよ。新しい委嘱作品にはつねにエネルギーを感じるし、この1月にも僕らのための委嘱作品を演奏してきたばかりなんだよ。クラリネットのいいところは、ヴァイオリンと違って耳のすぐ近くでは鳴らないところなんだ。この独特の距離感は、いいと思うよ」
――なるほど。クラリネット奏者は明るくて、楽観的でなければ……それがこの楽器の魅力なのですね。
3人 「そうだね」
――最後にエルンストさんに質問ですが、息子さんたちの世代と、エルンストさんが彼らの年頃だった頃と、クラネリット奏者にはなにか大きな変化は訪れましたか?
エルンスト 「まず、楽器の質がものすごくよくなったんだ。時代が進むにつれて、どんどん優秀な楽器が登場する。だから、ウィーンの正統派のオリジナルな型をもった奏者たちが、とても正確な技術で演奏をしている。素晴らしいことだと思うな」
――ウィーン・フィルは保守的で、若い人たちは肩身が狭いと思っていましたが、さすがエルンストさんは心が広いです。(開演直前のため、ダニエルとアンドレアスは練習開始)今日は、お話を聞かせていただいてありがとうございました!
3人 「こちらこそありがとう!」
・アンドレアス・オッテンザマー&カメラータ・シュルツ・ウィーン
2016年5月19日(木) 19:00〜福岡シンフォニーホール※お問い合わせ: アクロス福岡チケットセンター 092-725-9112・カメラータ・シュルツ・ウィーン 演奏会
2016年5月20日(金) 18:45〜広島国際会議場フェニックスホール※お問い合わせ: グリーンコンサート広島 082-241-8868・カメラータ・シュルツ・ウィーン
2016年5月22日(日) 14:00〜東京オペラシティ コンサートホール※お問い合わせ: ヒラサ・オフィス 03-5429-2399・カメラータ・シュルツ・ウィーン 〜昼下がりのモーツァルト〜
2016年5月25日(水) 14:00〜兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール※お問い合わせ: 兵庫県立芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255・びわ湖の午後シリーズ(48) アンドレアス・オッテンザマー クラリネット・リサイタル
2016年5月26日(木) 14:00〜滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール小ホール※お問い合わせ: びわ湖ホールチケットセンター 077-523-7136・アンドレアス・オッテンザマー クラリネット・リサイタル
2016年5月28日(土) 15:00〜神奈川 鎌倉芸術館 大ホール※お問い合わせ: 鎌倉芸術館チケットセンター 0120-1192-40・アンドレアス・オッテンザマー クラリネット・リサイタル クラリネットの声“the voice of the clarinet”
2016年5月29日(日)15:00〜東京 三鷹市芸術文化センター 風のホール※お問い合わせ: 三鷹市芸術文化センターチケットカウンター 0422-47-5122※上記ほか、5月のベルリン・フィル来日公演メンバーとしても出演予定。