角川映画40周年記念作として、名作の続編として注目を集める
「セーラー服と機関銃 -卒業-」の
オリジナル・サウンドトラックを手掛けた
きだしゅんすけ。
前田弘二監督とタッグを組むのは本作で10作目となるきだは、企画の段階から監督と意見を交わして作曲を進めていたというサントラは、コメディ、アクション、青春など、様々な要素が詰まった本編そのままにバラエティ豊かな内容だ。サントラを手掛けるごとに作品の世界に入り込み、深い愛情と洞察力でサントラを作り上げていくきだは、「セーラー服と機関銃 -卒業-」という物語に何を感じ、音楽を通じて何を描こうとしたのか、きだに話を訊いた。
――企画の段階から前田監督と話をされていたそうですが、サントラの方向性についてはどんなことを意識されましたか?
「脚本が出来る前に監督からどんな物語になるかを聞いて、背筋が凍るほど恐い話だと思ったんです」
――というと?
「ヤクザ映画の怖さよりさらなる怖さ、シャッター商店街とか置き去りにされる老人とか。今の社会に忍び寄る恐さ、情報化社会での今の子たちが感じている目に見えない圧力みたいな恐怖を、監督と脚本の
高田(亮)さんは描こうとしていると感じ、そのストーリーの真髄に怯えました。そして、そういう外圧を音楽的に表現するには“ノイズ”だと直感的に思いました」
――そういうきださんのプランに対して前田監督の反応はいかがでした?
「最初は拒否されました。僕はそういう外圧に呑み込まれる星泉を描きたかったんですけど、監督は外圧や宿命に立ち向かう勇敢な星泉を描きたいというご意向でした。何度も何度も議論を重ねました。そして徐々に互いに理解をし、そんな監督の意向にそって作ったのが〈組長-学校から商店街へ〉なんです」
――マリンバの音色が印象的な明るい曲ですね。
「マリンバは監督からのリクエストで、跳ねた曲にしてほしいと言われたんです。最初、僕はピンと来てなくて、でも監督のニュアンスを捉え直感で作りました。そして出来上がった曲を聴いた監督が“これだ!”って言うのを聞いて“なるほどな”と思いました。でも、やはり外圧に押される星泉も描きたくて、監督からも“さらなる力強い曲も必要だ”とのご要望があり、それで作った曲が〈星泉〉です。監督の思いと僕の直感“ノイズ”が合致した曲になりました」
――「星泉」を書くにあたっては、シューゲイザーの曲をいろいろ聴いてヒントにされたそうですね。
「ノイズのなかから祈りのようなメロディーが立ち上がる、そういった曲を考えていて、それでシューゲイザーを。元々、
スペースメン3とか
マイブラや、その辺りの音楽に馴染みがあって久しぶりに聞きあさっていたのですが、さらにそこから広げていってオルタナ系のバンドも聴いていきました。そのなかで
アーケイド・ファイアの音が星泉の外圧に対する向き合い方にピッタリだと思ったんです。アーケイドファイアって、ノイズのなかに素朴な力強さがある。それが星泉っぽいなと思いました。その一方で、外圧を象徴する悪役、安井は
レディオヘッドかなと。監督は安井に対してクラシックのイメージを抱いていたそうですが」
――「安井、登場」も「ホリウチ都市デザイン」も、安井関連の曲はレディオヘッドを思わせるような危うい美しさがありますね。
「そうですね。レディオヘッドとアーケイド・ファイアの闘いになりました(笑)。そうして今まで何年もかけて作ったノイズ曲、何曲かを映像に曲をつけていく中で、監督が“きださんが言ってたことがやっとわかった”って言ってくださった事もありました」
――もうひとりの主要キャラクター、月永の曲は安井とは対照的に男っぽい荒々しさを感じさせます。
「月永は外圧に押されそして正面から戦う象徴的な存在なので、最初はノイズから出発したんですけど、月永のアウトローなカッコ良さを引き出したくなり、ノイズの上にエレキ・ギターとアコースティックギターの即興演奏をしたらハマりました。
ニール・ヤングが音楽を手掛けた映画
『デッドマン』のサントラを参考にしたところもありますね」
――アーケイド・ファイア、レディオヘッド、ニール・ヤング。そうしたロックのフレイヴァがありつつも、いろんなタイプの曲がサントラには入ってます。例えば「目高組」とか、バンジョーとバリトンサックスという不思議な組み合わせの曲ですね。
「ワケわかんないですよね、この組み合わせ(笑)。最初、〈目高組〉は任侠ものっぽい感じで書いて監督に提出したら“違う!”って怒られて。それでバンジョーとバリトンサックスで作り直したんです。そしたら、すごく監督が喜んでくださって、随所にこの曲ばかりを付けようとしたんで“監督さすがにそれはちょっとヤリ過ぎです!”と叱ったこともあります(笑)」
――「宇宙人マスクの男」や「銃撃戦」も不思議な歪みを持った曲ですね。襲撃シーンで流れるとは思えないような。
「〈宇宙人マスクの男〉は、宇宙っぽい戦闘の曲、という難しいオーダーが監督から届きまして、凄く悩みましたが、ランダムにデジタル音色のバスドラムを鳴らしたら上手くいきました。そして〈銃撃戦〉はどんな曲にするか、さらにすごい悩んで、魘されるように寝てたら夢の中でノイズが聴こえてきて。それを再現しようと思って、無我夢中でシンセをウニョ〜っとやって録音したんです」
――そうしたユニークな曲がある一方で、「星嗣夫」みたいに、どっしりしたメロディアスな曲もあります。
「悲しさにも優しさにも、行きそうで行かない曲にしたかったんです。星泉の宿命を感じさせる曲にしたかったので。彼女の抱えている宿命って、よくよく考えるとスゴく辛いじゃないですか。でも、彼女はあっけらかんと元気に生きてる。そこが彼女のすごいところなんで、ひとつの感情に行ききらない大きい曲にしたかった。印象派の音楽のドミナントにいく手前で展開していく手法を使い、どんな感情にも染まらない曲を目指しました」
©2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会
――確かに、星泉の周りではどんどん人が死んでいってひとりぼっちになってしまうけど、彼女は決して後ろを振り向きませんね。
「監督が変わらずずっとおっしゃてっいたのが、星泉は
ナウシカなんだと。ナウシカも大変な宿命を背負いながら、脇目も振らず臆せず前に突き進むじゃないですか。星泉もそうなんです。振り返らず、でも哀れみを持って前に進む。〈組長-学校から商店街へ-〉〈星泉〉は、そんな星泉の強さの象徴の音楽であり、〈星嗣夫〉は星泉の優しさ、母性の象徴の音楽とも言えます」
――ラストの「星泉-卒業-」は、そんな彼女を見守るような曲ですね。
「彼女を卒業式に送り出す気持ちで仕上げました。死んでいった彼女の仲間達の気持ちにまでなれたかわかりませんが、僕も少し彼女の背中を押しています。亡くなった仲間も、そうしたいと思っているだろうし」
――なるほど。こうやって話を伺っていると、きださんはすごく脚本を読み込んでいて、自分なりの解釈を持っているんですね。
「まあ、そういう性分ですから(笑)。好きなんですよ、そうやって読み込んでいくのが。脚本を読んで(曲を)書くこともあるし、映像を見て書くこともありますが、書いている時はただ共感して書いてるだけで細かいことは考えてないんです」
――共感というのは物語に?
「物語だったり、役者さんの演技だったり、監督の演出だったり。照明さんに感動することもありますし、いろんなことで刺激を受けて曲を作ります。で、いざ監督と一緒に映像に音を付けてみて初めて、“これは違った!”とか“これはハマった!”とか気がつく。細かく考えるのは曲を作った後ですね」
©2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会
――曲を書く時は考えるより、まず感じる。
「そうですね。何も考えないようにしています。撮影現場に行って、カメラの後で曲を書いてたりもするんです。ちょっと邪魔かもしれないけど(笑)。でも、すごい頑張って演技をされてる姿を目の前で見ると刺激を受けるじゃないですか。衣装さんがすごく拘った衣装を持ってきて役者さんに着てもらっているところとか、そういうのを見ていると、すごく刺激を受けて曲を書きたくなる。だから、曲を作るときはピュアな気持ち。そして、音楽を映像に付けてアレンジをする時にいろいろ考えて、もっと深いところまで突き詰めていく。この二面性で曲を作るんです」
――きださんの場合、まず映画の世界に入り込むことが重要なんですね。
「役者さんの役作りというのは言い過ぎかもしれませんが、僕が映画と向き合い音楽を作る時は、その映画ごとに役作りをしているんだと思います。その映画と向き合う自分を作り出すというか。だから作品ごと映画ごとに向き合い方は全く違ってくるんですよね。そして、そうやって作品と密な関係を持つには、まずその作品に感動することを何よりも大切に考えています」
――では最後に、完成した映画をご覧になった感想を聞かせてください。
「荒削りですけど、光るものが随所に輝いている作品だと思います。いろんなことに各部署が思いっきり挑戦しているので洗練はしてない。もちろんそれは自分の音楽も含めてですけどね。でも、超えたものがふんだんにある映画だと思いました」
――“超えたもの”というのは?
「自分の限界を越えたものです。僕自身“なんだ、この曲は?”って驚く曲があったし、そんな驚きが、監督、俳優、撮影など、いろんな部署にあったんじゃないかと。そういう意味で、すごく挑戦的な作品だと思いますね」
[出演] 橋本環奈
安藤政信 / 大野拓朗 / 宇野祥平 / 古舘寛治
北村匠海 / 前田航基 / ささの友間 / 柄本時生 / 岡田義徳 / 奥野瑛太
鶴見辰吾 / 榎木孝明 / 伊武雅刀 / 武田鉄矢
[監督] 前田弘二
[脚本] 高田 亮
[原作] 赤川次郎「セーラー服と機関銃・その後―卒業―」(角川文庫刊)
[主題歌] 橋本環奈「セーラー服と機関銃」(YM3D / YOSHIMOTO R and C)
[配給] KADOKAWA
[制作] 「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会