原初的な輝きに満ち溢れた曽我部恵一BANDの1stアルバム『キラキラ!』

曽我部恵一BAND   2008/05/01掲載
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原初的な輝きに満ち溢れた曽我部恵一BANDの1stアルバム『キラキラ!』
 vo&gの曽我部恵一を中心に、上野智文(g、vo)、大塚謙一郎(b、vo)、オータコージ(ds、vo)の4人からなる曽我部恵一BAND。3日に1回という驚異的なペースで全国津々浦々を廻り、アグレッシヴなライヴ・パフォーマンスを展開している彼らが、ついに待望の1stアルバム『キラキラ!』を発表。バンドが持つエネルギーをハジけんばかりに真空パックした今作について曽我部恵一に話を訊いた。



 「実際問題、若くないこととか歌わなきゃいけないじゃん。そこを無視しても歌えないし。家族もいる、ガキンチョもいる──ってとこで、キラキラしたものを出したいんだよね」と曽我部恵一は言う。アーティストとしてのキャリアも、すでに干支一周以上。しかし、数年前に結成した曽我部恵一BANDの活動は、彼が“キャリアの上から下界を見下ろす”場所に立っていないことを物語っている。ひたすらライヴ。呼ばれればどこでも。客をとことん楽しませる。ウケなきゃヘコむ……「むこうはちょっと先輩って思っているかもしれないけど、若い奴らが楽しめないと意味ない」と、曽我部。そんな曽我部恵一BANDの1stアルバム『キラキラ!』は、バンドがどんな日々を過ごしてきたかをよく伝える、ある種のドキュメンタリーだ。


 「生きてきて“ジミヘンにはなれないな”って分かってくるじゃん。天才がブッ飛んだことをみんなにメッセージするんじゃなくて、いろんなことに大変な思いをしながら生きてきて音楽聴いてる人たちと同じところで演りたい。〈そっちはどうだい?──〉〈こっちはそうさ──〉っていうのは、そういう意味だけどね」

 発言に引用されている「そっちは──」はもちろん、サニーデイ・サービスのレパートリー「青春狂走曲」の一節で、この『キラキラ!』でも再録されている。のだが、もはやセルフ・カヴァーの範疇を超えて、まるで今の高校生が初めて組んだバンドのオリジナル曲のような、原初的な輝きを放っているから驚きだ。





 「音楽性はもういらないの。“音楽性が高いね”っていうホメ言葉は90年代にはあったじゃん。いろんなものを咀嚼して出してるって意味でね。でも今やそんなことはどうでもよくて、重要なのはその人の立ち位置とかメッセージ性の強さとか人間力ってこと。そのためには本当に強くならなきゃいけなくて、“このレコードのここ引っ張ってこよう”ってことでは身に付かないじゃん。だから一回、そういうもの全部捨てて、とにかく個人として強くなろうって」

 その言葉を裏付けるように、“浸ったりウットリするより先にやることがあるだろ”と歌が、演奏が、語りかけてくる。

 「叙情的な世界は歌として成立しやすいからそうなりがちなんだけど、今ははっきりと具体性のある歌をうたいたい。そこは、ヒップホップの影響が強いよ。ヒップホップでは“俺はどこそこ出身でこういうことが言いたい”ってちゃんと言うことが重要じゃん。“空が青い”とか“それで悲しくなった”とか、通用した時代があったかもしれないけど、そんなのどうでもいいじゃん。今はちゃんと言わないとダメだなと思う」

 そんな彼の思いはアルバムのそこここで聴き取れる。虚無感とは無縁に、ただただ“思いの塊”みたいなものがズドンと響いてくる。

 「なんか虚無感が広がっているからね、今の時代は。Wikipedia的な世界で言うと、全部の答えが決まってるじゃん。“戦争をなくそう”とかってすごく陳腐だけど、そう言いたくなる積極性や可能性を求める心だけが、どの時代でも有効じゃん。今はそこをサクッと答えによって消されちゃう世の中だから、“幸せになろうぜ!”ってことも陳腐に響いちゃうけど、だからこそ直球で歌えたりする。幸せを求めていくことは生半可なことではない、非常に難しいことだっていうのを踏まえた上で演りたい──いろんな人に観てほしいね。俺らが今やってるライヴは、お客さんに参加してもらって同じヴァイヴスを共有しないと成立しないものだから、いろんなところで演れば広がっていくと思う。新人バンドの前座でもいいからさ……もう、そういうこだわり、ぜんぜんない。アウェイでやるのに慣れちゃった(笑)」

 そう言うと曽我部は、10数年前に初めて会ったときと同じ、自信と野心に満ちた笑顔を浮かべた。


取材・文/山内 史(2008年3月)
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