1966カルテット というユニット名は、
ビートルズ の日本の初代ディレクター高嶋弘之氏が、ビートルズの日本公演が行なわれた1966年にちなんで付けたものだ。あれからちょうど50年。2016年に1966カルテットはどんな動きを見せるのかと思っていたら、新録音5曲を含むベスト盤
『1966カルテット Best of Best 抱きしめたい』 が登場した。1966カルテットの大きな魅力は、通常のクラシカルなカヴァーにはないビートの効いたロック色の強い曲を積極的に取り上げているところにあるが、今回、新録曲のリハーサルとレコーディングに立ち会う機会もあり、その“攻めの姿勢”を目の当たりにした。ビートルズをクラシカルにカヴァーするユニットとして2010年に結成されたそんな1966カルテットの4人――松浦梨沙(ヴァイオリン / リーダー)、
花井悠希 (ヴァイオリン)、
林はるか (チェロ)、江頭美保(ピアノ)に、ベスト盤(とビートルズ)の話を中心に伺った。
L to R 林はるか / 花井悠希 / 松浦梨沙 / 江頭美保
――まず、ここまでの6年間を振り返ってみて、どんな思いがありますか?
松浦梨沙(以下 松浦) 「最初は手探りだったけど、いまはたとえば音を切る場所なんかも言わなくても“ここね”とみんな同じ感覚になってきた」
花井悠希(以下 花井) 「みんなの音がグループとしての音になっていると思う。合わせようとしなくても合うという感じで」
林はるか(以下 林) 「最初は作るのにいっぱいいっぱいだったけど、余裕が出てきたと思う。音に対するイメージが、いまは同じ色になりました」
江頭美保(以下 江頭) 「
『アビイ・ロード・ソナタ』 (2014年)を作った時にロックとクラシックを使い分けることができる技を習得し、いまは切り替えるスイッチがみんな同じところになったと感じています」
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松浦梨沙
――そうして臨んだベスト盤用の新録音曲については、実際に立ち会ってみて、緊張感と集中力の必要な作業だったと思いましたが。
松浦 「そうですね。レコーディングは大変じゃなかったけど、ちょっと詰め込みすぎたかな。1日に5曲も録っちゃったから」
江頭 「1曲何時間ってだいたい決めて臨んだけれども」
花井 「そう、何があっても今日中に終わらせなきゃってね」
松浦 「ちょうど私の弾いてるところから時計がよく見えるんだわ(笑)」
林 「しかも針がどんどん動いていく(笑)」
江頭 「1曲録るごとに“押してる”とか“巻いてる”とか言いながらやったね」
松浦 「でも妥協はしなかったからね」
――最後に収録した「デイ・トリッパー」はたいへんでしたね。
林 「同じ音をひたすら続けるからしんどかったですね。最初のテイクでかなり体力を使い果たしていたので、“えー、まだやるの?”と思いながらも、指もつらずに頑張りました。そこは気合で(笑)」
花井悠希
――新録曲を選ぶのもたいへんでしたか?
松浦 「1966年から50年という記念の年だし、〈抱きしめたい〉は日本でのデビュー曲だからすぐに決まったけど、加藤(真一郎)さんがもう一度アレンジしてくれて、いまの1966だからこそできる曲になりました。〈プリーズ・プリーズ・ミー〉も、初期の名曲はメドレーで録音していてもったいないなと思い、自分たちでアレンジしてみました。その2曲はぜったいにやりたいなって思っていた曲です」
花井 「〈イン・マイ・ライフ〉は、去年にライヴハウス・ツアーをした時にお客さんにリクエストを募ったら人気が高かったので、すんなり決まりました」
松浦 「あと2曲のうち、1曲はかっこいいのを入れようということで〈デイ・トリッパー〉になり、もう1曲は、いつも最終選考で落ちてた〈エイト・デイズ・ア・ウィーク〉になったんです」
花井 「それ、ポールが2013年に来日した時に1曲目にやりましたよね。その印象がすごく強くて、初めて生で聴けたので、あまりの衝撃に泣きながら聴いたんです。泣くような曲じゃないのに、出てきて歌いだした瞬間に、なんだか生き別れた人と再会したというか、会えると思っていなかった人と会えた時の喜びというか。それぐらい思い出深い一曲だったので」
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林はるか
――ちなみにいま好きなビートルズ・ナンバーは?
松浦 「私はずっと〈マーサ・マイ・ディア〉。最初、
小曽根 真 さんのピアノを聴いて好きになったけど、その時はビートルズだって知らなかったんです。“やりましょうよ、この曲”っていつも言ってるのに、でもそれ以上にやらなきゃならない曲がいっぱいあるでしょって言われて選曲から落ちていく(笑)」
花井 「私は〈ノルウェーの森〉ですね。最初からもう6年間も弾いていて、メロディが体に入っているのに、ずっと新鮮なままなんです。シャッフルで急に曲が出てきても、とくに始まりが幻想的で、世界が開ける感じがする。別世界が始まる感じもする」
林 「私は〈ドント・レット・ミー・ダウン〉です。最初に聴いたときは、叫んでるだけの(笑)、印象に残る曲じゃなかったんですが、自分で演奏していくうちに、不思議な和音の響きや曲の構造が面白くて発見もあって、よくできてるなあって。今ではじっくり楽しめる曲になってます」
江頭 「わかりやすく抒情的で、歌詞を知らなくても惹かれる〈ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード〉が私は子供のころから好きなんです。自分で演奏するようになってますます好きになっていきましたが、今好きなのは〈イン・マイ・ライフ〉ですね。音が派手に動くわけじゃないし、音数も少ないけれども、なんかクセになる良さがあるんです」
江頭美保
――最後に、ライヴについても聞かせてください。
松浦 「6月18日(土)には銀座の王子ホールでビートルズの武道館公演を再現するんですが、これまでに一度もやっていない曲が多いので、アレンジも自分たちで頑張ってやろうと思ってます」
林 「これで〈イン・マイ・ライフ〉のリクエストにもやっと応えられる」
花井 「みなさま、ずっとお求めになっていた〈イン・マイ・ライフ〉、1年経って持ってきましたが、いかがですかって」
松浦 「バナナの叩き売りみたい!(笑)」
――今後は、武道館再現ライヴをはじめ、まだ演奏していないビートルズ・ナンバーにも挑んでいくと。
花井 「完全に混ざり合ってるけど別々に聞こえる……ジョンとポールのそんなコーラスの絶妙なバランスを表現していきたいですね」
林 「クラシックとロックの両方を経験してきた1966しかできないビートルズのカヴァーをやりたいなと」
江頭 「ビートルズの独得の緩さ……かしこまってない、力が抜けてる緩さが作る独特のグルーヴ感をピアノで表現していければと思ってます」
松浦 「ゆくゆくは全曲網羅したいです。〈マーサ・マイ・ディア〉は早めに(笑)」
1966カルテット Live & Concert Schedule
■ live ・2016年5月26日(木) 大阪 梅田 Billboard Live OSAKA1st 開演 18:30 / 2nd 開演 21:30 ・2016年6月26日(日) 愛知 名古屋 NAGOYA Blue Note1st 開演 16:00 / 2nd 開演 19:00 ■ concert ・2016年6月18日(土) 東京 銀座 王子ホール開演 14:00