“状況は整った”ヒップホップ・バンド韻シストが6人で作り上げた名盤『CLASSIX』

韻シスト   2016/06/15掲載
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 2013年に発表した『HIPSTORY』から現在までの間には、Charaと共演した「I don't know」、PUSHIMとの「Don't stop」といったコラボレーション楽曲を発表し、コンスタントにライヴを展開するなど、グループとしての活動の幅をさらに広げてきた韻シスト。ニュー・アルバム『CLASSIX』はPUSHIMの立ち上げたレーベル「Groovillage」からのリリースとなり、そういった意味でも新たな一歩を踏みだしたと言えるだろう。そしてそのアルバムは、名盤を表す“クラシック”という言葉を冠した訳だが、その名前に恥じない充実ぶりであることはしっかりと記しておきたい。どこを切ってもグッド・ヴァイブスのあふれ出すサウンドとリリックは、まさに韻シスト印。新たな名盤の誕生を聴き逃すな。
L to R Shyoudog(b) / BASI(MC) / TAROW-ONE(ds) / TAKU(g) / サッコン(MC)
――2年8ヵ月ぶりのアルバムですが、この期間は韻シストにとってどんな手応えがありましたか。
BASI(MC) 「制作はもちろんですが、ライヴに特に力を入れてた期間ですね。結成18年目のグループですけどライヴの度にパフォーマンス力が上がっていってるし、ステージで気付いたことが次に繋がって、質も上がってると思いますね」
Shyoudog(b) 「バンド隊は“韻シストBAND”としても動いてるんですけど、韻シストBANDとして動く時は、やっぱり韻シストとは違う感触や手応えがあるんですよね。だから、その感覚を韻シストに持ち帰ることも出来るし、それによってどんどんライヴが磨き上げられるようになっていってるというか」
――具体的には?
Shyoudog 「バンドではジャズやソウルをカヴァーする場合があるんで、そういったアイディアを、どう韻シストにフィードバックするか、とかですね。それから、ライヴって、かっちり全部の構成を決めてエンターテインする場合や、セッションやジャムの形式で進めていく場合って、いろんなパターンがあると思うんですけど、韻シストはある程度の流れを決めた後は、そこから外れたり、状況によって変化したりっていう、その場で作っていく感じが好きなんですよね。そういった部分が鍛えられたのかなって」
――自分たちであえて“事故”を起こしていくというか。
BASI 「それが自分たちにとっての刺激になるんですよね。有機的な動きで展開していくのが楽しいし、それはバンドならではなのかなって」
――今作は『CLASSIX』との言うタイトルですが、自ら“クラシック”と作品に冠するのは、そこに自信を感じさせられます。
Shyoudog 「タイトルはBASIが決めたんですけど、めっちゃ早い段階でそれは言ってたよな」
BASI 「『HIPSTORY』のレコーディングの時にはもう“次は『CLASSIX』”って決めてて。韻シストは紆余曲折が少なくないグループやけど、ここ最近は結束力がより固まって、スゴく良い状態だと思うんですね。そして、俺ら5人にマネジャーのタコライスも含めた、6人で進めてるような感じがあって。だから、6人で6枚目のアルバムを作るんやから、これは名盤になるやろうなって。その気持ちは芽生えてましたね。だから『CLASSIX』という冠を付けて、6人でええものを作ろうって」
Shyoudog 「今回の制作では、作ったけど収録されてない曲も大分あるんですよね。“クラシック”って言った時に、ちょっと感触が違うかなって曲は外れて。だから、ホントに“クラシック”というイメージが、作品の中心線になったと思う」
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BASI(MC)
――今回のレコーディングも沖縄ですか?
BASI 「『awamori four dayz magic....』(2011年)からレコーディングは沖縄でやってて」
Shyoudog 「スタジオハウスがあって、そこに完全に合宿しながら、一緒に生活しながら作るスタイルですね」
BASI 「一番好きなことだけをやるための環境が出来てるんで、最高ですね」
Shyoudog 「ホントに朝から晩までずっとスタジオにいて。外に出るのは飯に行くときぐらい」
――沖縄なのに?
Shyoudog 「ビーチとか全然行かない(笑)」
BASI 「でも、一瞬だけ出る外の雰囲気がもう良いよな。スタジオはコザにあるんですけど、やっぱり大阪とは違うし、そのフィールを吸い込んで、制作に集中出来るのは良いなと」
――現在の作品の作り方は?
Shyoudog 「トラック先行が基本ですね」
BASI 「メンバーのTAKU(g)、Shyoudog、TAROW-ONE(ds)の3人それぞれが作ったトラックが入ってるフォルダがあって。そこにデモが何曲も、100は余裕で超えるぐらい入ってて、共有して聴けるようになってるんです。そこから各々がチョイスして、曲作りをしていく感じですね。プリプロは大阪でするんですけど、それが溜まってきたら……」
Shyoudog 「スケジュールを合わせて沖縄に録りに行って」
――「GARAXY BAND」は、いわゆる“韻シストっぽい”感覚を覚えますが。
BASI 「確かに。それは俺も思いますね」
――ただ、「PARTY SIX」は音の感触としても鳴りとしても「GARAXY BAND」とは違うし、楽曲ごとに振り幅が大きいですよね。『BIG FARM』(2011年)ぐらいから、楽曲のバラエティが広がることによって“韻シストっぽい”といったイメージが想起し辛くなってると思うんですね。それは悪い意味ではなくて、一つのイメージで括れないぐらい、韻シストの作品はカラフルになっていることだと思うし、例えば1st『Globalスピーカー』(2005年)、2nd『FONKY & LOVE』(2006年)の頃のような“バンドで、ラップで”という事柄すら、キーワードにならないぐらい、自由になってるなって。
BASI 「3人がジャムって作るんじゃなく、まずは1人の世界があるから、その時点で昔の韻シストとは違うやろうなって。その1人の打ち出した個性を、全員で手を付けて、完成まで引っ張っていくって作業が今の韻シストの作り方なんで、それによって、バラエティに富んだ作品になるんだと思いますね。だから、“何が韻シストっぽいか分からへん”って言われた方が嬉しいし、“韻シストっぽい”っていうイメージのその先に進めてるのかなと思いますね」
Shyoudog 「ドラムのチューニングを変えたり、ギターやベースも違う機材に変えたりしても、バンドだけで作ると、どうしても似てしまう部分はあるんですね。だけどもっと、音の質感自体まで、バラエティに富んだものにすることが出来ないかなっていうのが、今の作品の作り方だし、求めてることなのかなって。昔はバンド系が少なかったこともあるし、バンドであることが自分たちのアイデンティティだとも思ってたので、“バンドっぽさ”を出すのを大事にしてたんですね。だけど今は作品を作る上で、バンドでやってるといった方法論はあんまり関係無いなって。バンドは音を表現するためのひとつの手法だから、それを優先させるよりも、楽曲の完成度を優先させる。だから作品として必要なら、ベースを弾かないでシンセ・ベースでもいいと思うし、ぐらいの気持ちがありますね」
――当然のことですが“ラップ×バンド”ではなく、“韻シスト”がコンセプトというか。
Shyoudog 「楽曲も盤とライヴでは違うアプローチになるし、バンド性はその部分で現れるのかなって」
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Shyoudog(b)
――BASIさんとサッコンさんのラップも、メッセージを潜ませながら、パッケージとしては非常にフランクな、話芸に近いものになってるなって。
Shyoudog 「今回のラップには、めっちゃやられたわ」
BASI 「ホンマ?」
Shyoudog 「“ネクスト”って気がしたし、レコーディング中からめっちゃ上がってて。BASIはソロとは違う、もっとバラエティに富んだ進め方をしてて、それがめっちゃ面白かったし、サッコンはサッコンでそれにきっちり返すっていう。そういうお互いのスキルの上がり方が、めっちゃスゴいなって」
BASI 「それは嬉しいな。『HIPSTORY』のリリックは沖縄で楽しんで書いたんで、ちょっと感覚が違ったなって」
Shyoudog 「沖縄で書くと、沖縄タイムになっちゃって、いざこっちに帰ってきたら感覚が変わるって言うてたな」
BASI 「そうそう。だから、大阪できっちりリリックを纏めて、沖縄ではラップを集中して録るっていう。大阪のわりとセカセカした生活の中で、みんなと同じような日常感を共有して、その中で言葉を拾いたいし、そっちの方が共感してくれるやろうなって。それから、『HIPSTORY』を超えるためには、同じ方法論でリリックを書いたらあかんなって。あと、サッコンがいる限り、俺は自由に出来るなっていう感覚があるんですよ」
――と言うと?
BASI 「彼のリリックは、“B-BOYの聖書”とまでは言わないけど、その時は分からなくても、5年後、10年後に“そういう意味やったんや!”って思わせるぐらい射程の長い、奥の深いリリックだと思うんですよ。そういうポジションに彼がいるから、俺は自由に出来るなって。かつ、サッコンは歌詞をこっちに寄せてくるってこともしないんで、それがめっちゃ面白いところですね。俺が何しようが、自分の世界をでリリックを書くっていう。でも、テーマが決まった段階では、ごっつコミュニケーションとってくるんですよ。“それはどういう意味なん?”とか、“そんなとこまで気になんの”ってところまで聞いてくる。そういうディスカッションした上で、リリックを書くから、全くズレたモノにならないと思うんですよね」
――Shyoudogさん、TAKUさんもヴォーカルを取られていますね。
Shyoudog 「以前メンバーだったKENJI(sax)が抜けるまで、メロディ・パートはサックスで担保してたんですね。だから、抜けた後にメロディ・パートをどうしようかなと思った時に、もう歌おうかって。それが今の韻シストのスタイルとして確立されてきてるし、楽曲制作の上でも強みになってますね」
――その部分も含めて、曲が時間で進行してる感じがあるんですよね。ループが基本にあるんだけど、それがちゃんと進んで、時間が経過していってる。
Shyoudog 「それも意識してますね。僕らが影響受けたヒップホップは、ワン・ループのトラックが基本になってたし、バンドでやるからこそ、逆にループ感を大事にしようって感覚が昔はあったんですよ。かつ、トラックでワン・ループだからこそ、ラップやフロウ、声の質が映えるって部分は確実にある。だから、ラップの映えるトラックは意識しながら、僕らしか出来ないことを考えたら、トラックでありながらちゃんと動いて、展開していく音作りが必要なのかなって」
――その意味では、ヒップホップ性と韻シスト性の両輪が作品の肝になっているという。例えば、「ひょっとしたら」は、柔らかでソウルフルな質感やリリックなど、韻シストならではの部分を感じる作品ですね。
Shyoudog 「“ひょっとしたら”って、前向きになれる、未来に期待できる、魔法のワードだと思うんですよね。韻シストも長いことやってきて、全部が良い訳じゃなかったけど、悪いことばっかりでもなかった。だから、“ひょっとしたら”っていう気持ちでやってきたのかなとも思うし、僕らにマッチする曲だと思うんですよね。この言葉で次に進めるっていうか、夢が見られる曲だなって」
――一方で、「STILL NO.1 CHAMPION」は、自分たちのことやレペゼンといった、ヒップホップ性が強い。
BASI 「自分たちの核となるものを入れておきたいと思ったんですよね。韻シストはヒップホップを聴かない人にも届くグループだと思うけど、自分たちの根本や、俺らはこれが大好きやって部分を出さなきゃなっていう、B-BOYスタンスだと思いますね」
――ラップ×バンドが増えたからこそ、そのオリジネイターであることや、ヒップホップであることを表明したいのかなとも感じて。
BASI 「ああ、そういうのもあるな」
Shyoudog 「それかも知れへん。言われて気付いた(笑)」
BASI 「ヒップホップってカルチャーに衝撃を受けて、そこに同時に楽器があったから、こういう編成になったのが韻シストなんで。だから、ヒップホップであることは、自分たちの存在意義でもあると思いますね」
Shyoudog 「ただ、もちろんそこに縛られてる訳ではなくて。昔はもっとヒップホップヒップホップって考えてたと思うし、バンドだからこそ、特にヒップホップ・マナーみたいな部分は考えてた。それが体に染み込んでるし基礎にあるから、もっと韻シストとして、そこを広げられるかってことを考えてますね」
BASI 「いま、韻シストは状況が整ったと思います。だから、もっと色んなフェスやイベントにも出たいし。そこに“ヒップホップ・バンド”として出たいですね」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2016年5月)
韻シスト NEW ALBUM 『CLASSIX』 RELEASE SPECIAL
Neighbor Food

2016年6月25日(土) 東京 渋谷 VUENOS
LIVE: 韻シスト / KenKen / STOCKMAN ほか
DJ: FENCER / 高橋マシ(SLD Entertainment. Inc / LOOP)
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,500円 / 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)



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