前作『御身 onmi』から1年、並行して活動する5人組バンド、
Thousands Birdies' Legsのアルバムを2ヵ月ほど前にはさみ、寺尾紗穂のくすみない歌声が清々しい春風に乗ってふたたび届けられた。通算3枚目のアルバム『風はびゅうびゅう』。
「タイトル曲は結構前に書いた曲で、“風はびゅうびゅう”っていうフレーズをサビにしようと思って、その部分だけとっておいて。でも、アルバム・タイトルになるとは思ってなかったんですね。でも、アルバムの最後に入っている〈立つことと座ること〉の詞を都守(美世)さんが作ってきた時、今回のタイトルは『風はびゅうびゅう』になるなと思ったんですよ」
アルバムには、自身の詞による1曲目「風はびゅうびゅう」に始まり、“この風の果てる場所が知りたい”と締められるラスト「立つことと座ること」まで、まさに吹きぬける風のように聴き手の感情を優しく撫でていく12編の歌たちが収められている。
「『御身 onmi』を作るときは、こんな音を入れたいなっていう漠然としたイメージがまずあって、それからミュージシャンを選んだりしてたんですけど、今回は最初に描いていたイメージが、より明確になっていたところがあって、レコーディングのときに多少細かいディレクションまでできるようになりました。単にピアノと歌だけのアルバムを作りましたっていうだけじゃなくて、どういう楽器を入れて、どういうところで鳴らしたいのかっていうところまで、ある程度見えましたね」
つまりは、作品の隅々にまで彼女の体温が行き届いている、とでも言おうか。『風はびゅうびゅう』は、寺尾紗穂という歌い手が放つ並々ならぬパッションを、前作にも増して感じとることができるアルバムになった。
「『御身 onmi』のような、ある種の軽さはないですよね。たぶん、この一年で経験したことも影響してるんでしょうけど、やはり、アルバムのテーマ自体“風はびゅうびゅう”をキーにしたからじゃないですかね。“風”ってひと言で言っても、いろいろな風がありますよね。なにかを邪魔する風とか、きっかけになる風とか、〈立つことと座ること〉で書かれている風は超自然的な存在を感じさせるし。“風がびゅうびゅう”って、外で風が吹いている様を言い表わしているわけですけど、人の心の中に風が吹いている様っていう比喩的捉え方もできますよね。人の心の中で吹いてるって捉えると、それは絶望を意味しているのか虚しさを表わしているのか、これも人によっていろいろ想像できますよね。“風”って、すごく幅広い空想を掻き立ててくれる言葉だなって思うんですよ。だから、おのずと曲たちにいろいろな感情が注ぎ込まれていったんですよね。でも、聴き終わったあと疲れませんでした?(笑)」
いえいえ、とんでもない。あなたの音楽にじっと見つめられ、あなたの世界に取り囲まれるようなこの感覚は、むしろ心地よいものです。そして、共に時間を過ごした後たるや……素敵な随筆集を一冊読み終えた時のような、満ち足りた気分でいっぱいです。
取材・文/久保田泰平(2008年4月)