いちばん大切なのは、いい雰囲気を保つこと――メタリカ8年ぶりの新作『Hardwired...To Self-Destruct』

メタリカ   2016/11/16掲載
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 ついに完成したメタリカの最新アルバム『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』。トータル・タイムは80分近くあるものの、2枚のCDに分けて収められた各曲は、2008年の前作『デス・マグネティック』よりもスッキリと聴ける仕上がりだ。1990年代以降、つねに問題作を世に突きつけてきた印象もある彼らだが、いよいよ安定期に入った様子がうかがえる前作を経て、今回のアルバムは、おそらく昔からのファンの大多数が満足できる内容となったのではないだろうか。バンドのスポークスマンとしておなじみ、ドラマーのラーズ・ウルリッヒに話を聞いた。
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――今回のアルバム制作にあたっては、当初から自分たちの本拠地となるHQで作業し、とくに期限を設けたりせずにじっくり進める方針だったのでしょうか。前作『デス・マグネティック』から8年ぶりという期間はべつにして、過去の作品よりもいい雰囲気でスムーズに作り上げられたと感じますか?
 「あとから考えて気がつくことだけど、新作のレコーディングは、以前より早いペースでやれたと思う。作曲にしても録音にしても、過去の作品より比較的スムーズにできた。前作はロサンゼルスで作ったんだけど、ニューヨークとかヨーロッパとか、自分たちの本拠地以外のところでやる方が、レコーディングにかける日数も多くなってくるんだ。今回、ずっと自宅にいられたのはよかったね。子供たちを学校に連れて行けるし、みんなで夕食を食べたり、家族サービスをすることもできる。メタリカにかける時間と、家族や自分自身にかける時間のバランスをとるためには、いくらか物事に時間がかかっても構わないと今では思っているよ。健康的でハッピーでいたいし、過去とは違ったアプローチなんだ。昔だったら、1日16時間レコーディングにかけても構わないとか思ってたけど、今は1日6時間とか、長くても8時間ぐらいで終わらせている」
――そうした環境で、最新アルバムの方向性は、どのように決まっていったのでしょう?
 「今度の作品は、前作の延長線上にあると思う。同じ方向へ突き進んで行ったという感じ。大きな違いを言うと、今回はグレッグ・フィデルマンと仕事をしたこと。グレッグは、ルー・リードとの共演作(※2011年リリースの『LULU』)も含め、このところずっと一緒にやってもらってるし、それを通じて、俺たちの作品をよりよく理解してくれていると思う。メタリカをどういったサウンドにすべきか、2016年のメタリカのエモーションがどういうものであるべきものなのかを把握してくれているんだ」
――最新作の収録曲は、冒頭の「ハードワイアード」が3分なものの、ほかのナンバーはだいたい6分半平均くらいの長さなので、ものすごく短くなったわけではないですが、前作と比べ、全体的に引き締まった印象を受けます。
 「そうだね。その意見に関しては、俺も同じように感じるよ。〈ハードワイヤード〉に関しては、とにかく短くて早いテンポの曲が必要だなと考えたんだ。アルバムのオープニング・ソングがほしかった。今年の5月になってから、オープニング・トラックがないように思えて、わずか2日ぐらいでジェイムズ(・ヘットフィールド)と一緒に書き下ろし、2日ぐらいでレコーディングしたんだよ。カーク(・ハメット)ロバート(・トゥルージロ)はその場にいなかったと思う。とにかくパンチがある曲が必要だと思ってさ。メタリカのアルバムを作るときって、こういったオープニング・ソングを制作初期の段階で必ず書くんだけど、今回はそういう作品がなかったから最後に書いたんだ」
――最近のあなたの発言では、前作をプロデュースしたリック・ルービンの名前が出てくるたびに、なんだか気を使っている様子が感じられ、かえって彼のやり方はメタリカに合わなかったのではないか?という印象を受けてしまうのですが、彼と仕事をした経験が本作に反動として表われていたりはしませんか?
 「その意見は、ちょっと白黒ハッキリさせすぎかもしれない。リックは、メタリカをよりクレイジーで、よりプログレッシヴな普通ではないものにして、曲も長めにしていきたいと考えていた。『デス・マグネティック』は、それで良かったと思う。新作の曲は少し短めだけど、それはリックとやった経験に対する反動ではなく、ときが変われば違うことをやっていく必要性みたいなものに応えたんだと思う。俺の中では、今度の作品が前作へのステートメントであったり、反動だったり、反撃だったりはしない。過去の作品と比べても、『デス・マグネティック』はもっとも満足のいくメタリカのアルバムにはなっているよ。もっとも純粋で、バンド内のダイナミクスが正しい意識として表われていると思うしね」
――もちろん『デス・マグネティック』も好きな作品なんですが、個人的には、たとえばライヴDVD『ケベック・マグネティック〜戦場の夜』で聴いたときのほうが、あのアルバムの収録曲の魅力はより増しているように感じられました。こちらはグレッグ・フィデルマンが単独でミキシングしていましたが、新作のサウンド・プロダクションを考えるにあたって、そうしたことも意識していたりはしなかったでしょうか?
 「それは間違いないね。グレッグは独自の手法を持っている人だ。リック・ルービンにはリック・ルービンなりのサウンド作りがある。グレッグがリックのもとを離れてからは、リックの指示に従わずに、彼自身が感じているメタリカのサウンドを自由に作ることができるようになったんだ」
――すでにメタリカのキャリアは30年を超え、あなたも50歳を超えています。人間として、バンドとして経験を重ねてきたことが、現在の自分たちの音楽表現にどう影響していると思いますか?
 「年齢を重ねていくと、いろいろなことが起こってくる。メタリカに関しては、経験を積んだことによって、やっていることがよりうまくこなせるようになってきた。何がうまくいくか / いかないかがわかってくるし、自分たちの境界線や限界点が見えてくるしね。以前は、ある曲のパートについて、ああでもないこうでもないと口論したりもしたけど、今はそんなことをする必要は感じない。いちばん大切なのは、いい雰囲気を保つこと。それに、今後まったく曲を書かなくたって、これからのキャリアに困らないぐらいのマテリアルはすでにあるんで、仲良く、いいエネルギー、いいヴァイヴを保ち続けることのほうが大事なんだ。逆に問題点は、マテリアルがあまりにも多すぎることさ。それらを全部ちゃんと見ていくのは、かぎりなく時間がかかるクレイジーな作業だ。でも、それは幸せな悩みだよね。まあ、ベストはつくしてるよ(笑)」
――さて、アルバム発売後のツアーをどのようなものにしたいと考えていますか。すでに年明け早々に韓国や香港でライヴをやることがアナウンスされているようですが、日本にはいつ来てくれるのでしょう?
 「香港 / シンガポール / 韓国 / 中国で1月にショウを演る予定なんだ。その後、3月にメキシコや南米で何日かショウが入っている。これから数年間のうちに、どこかのタイミングで、地球上の今までライヴをやっていない場所すべてを網羅しようと考えてるから、もう演奏する場所は無限大にあるね。今はスケジュールをいろいろ調整してるところで、日本に関してもわかり次第、お知らせするよ。日本に行くのは待ち遠しいから、可能なかぎり早く行きたいと思っている」
取材・文 / 鈴木喜之(2016年11月)
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