2006年のメジャー・デビューから10周年の今年、
いちむじん は、節目の年という月並みな表現では収まりきらないほどの大きな転換点を迎えている。10月25日、公式サイトで新作
『StillMotion』 のリリースが報じられると、そこには「6人組に生まれ変わった“新生いちむじん”」とあった。ギター・デュオからバンドへ。それだけでも驚くべき変化なのだが、同じく公式サイトで11月7日に発表されたニュースはさらに衝撃的だった。宇高靖人から「12月31日をもっていちむじんを卒業する」とのメッセージがあったのだ。『StillMotion』は新生いちむじんの最初のアルバムであると同時に、宇高靖人が参加した最後のアルバムという特別な意味をもつ作品となった。新生いちむじんが表現するのはどんな音楽で、今後、どんな方向へ進もうとしているのか。リーダーでギターの山下俊輔、ヴァイオリンの
白須 今 、ピアノの
永田ジョージ 、パーカッションの渡辺庸介の4人に話をうかがった。
――やはりファンとしては宇高さんの卒業が気になるところです。そこで、その経緯からうかがいたいのですが。
宇高靖人
山下 「そうですね。じつは3年くらい前から変化をさせたいという話は2人の間にあったんです。2年前に出した『恋むじん』というアルバムでも弦カルやサックスが入ったりして、ほかの楽器とのアンサンブルもするようになるなか、宇高自身がもっと自由に音楽をやりたいと希望するようになったんですね。そこからまず宇高の卒業が決まり、僕も一人でやるわけにはいかないので、今年の初めから新メンバーを探したんです」
――プロジェクトごとにサポート・ミュージシャンを招くというやり方もあったと思うのですが、バンドにした理由は?
山下 「長くデュオをやってきてわかるのは、アンサンブルというのはいつも演奏をともにしているグループでなければできないことがあるということです。そういう意味で、みんなにメンバーになってもらいました」
――メンバーはどのようにして選んだのですか?
山下俊輔
山下 「10年もやってきたので、ミュージシャン同士で話をしていると情報は入ってくるんです。まず友だちのヴァイオリン奏者に、クラシックだけでなく、ポップスにも対応できて、アドリブもできる奏者ということで白須を紹介してもらいました。次に白須がジョージさんをみつけてきたのですが、“このきれいなピアノの音がいちむじんに入ったらどうなるんだろう”というワクワク感がありましたね。
鳥越(啓介) はアコーディオンとのデュオのライヴを見て、“こんな人がいるんだ!?”と。ギターのようにベースを弾いて、音程も正確。その場で声をかけました。その鳥越といっしょにライヴを観に行って知ったのがなべちゃん(渡辺)です。“この人しかいない”と、鳥越と顔を見合わせました」
――山下さんが書いたオープニングの「ZIPANGU」は躍動感のあるテーマ部と、穏やかな中間部の対比があざやかですね。ほかにも1曲のなかで曲調が次々に展開していく曲が多く、新生いちむじんの特色になっているように感じます。
山下 「クラシックを学んだからだと思います。クラシックでは1曲のなかにたくさんの要素が入っていますが、そういうのが自然に今回のアルバムのなかで出た気がします」
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鳥越啓介
――白須さんの「麒麟」も緩急のコントラストが強いうえに、曲の半ばでは即興演奏に音響処理を加えた部分もあるなど、変化に富んだ曲ですね。
白須 「いちむじんに入る前からあった曲です。もともとギターが好きで、まずギターの緩い感じから入り、ストロークに変わる構成が思い浮かびました。いちむじんで演奏していると、よくこのメンバーを集められたなと感じます。それぞれルーツは違っても、いっしょに演奏していると、好きなものは同じなんだなとわかって楽しいです」
――「リンゴ追分」はリズムやリハーモナイズがジャズ的で、新鮮です。
山下 「曲の土台になる部分はレコーディングのときに、鳥越とジョージさんとなべちゃんの3人がアドリブでつくっていったので、僕は感動していました」
――永田さんはジャズ・ピアニスト志向なんですよね?
永田ジョージ
永田 「18歳からジャズにはまって、そこからジャズはずっと続けていますが、途中でブラジル音楽も好きになり、ここ10年くらいはボサノヴァ、サンバ、ショーロなどもやっています。そのつながりでポップス系の人とも出会い、ポップス、ワールド系、アジアン・テイストのものなどもやるようになりました。西海岸で2年くらい演奏していた僕の音って、ジャズ・ピアノのなかでもソフトなんですよ。いちむじんでは〈ZIPANGU〉のような激しい曲に自分の音をどうやって混ぜ込んでいくかが課題です。自分の新しい面を引っ張りだしてもらうのは面白いですし、ここぞというところでは人格が変わったようになろうかなとは思っています」
――山下さんの書いたスパニッシュ調の「BELLARABI」は、パーカッションが主役のようなアレンジですね。
山下 「最後のほうの盛り上げは全部、なべちゃんにお願いしました。ほんとにいろんなパターンをもっているんですよ。ミックスのとき、なべちゃんが“こんなにパーカッションが出ていていいんですか?”って言ってきたんですが、すごく気持ちよくて、そうは思わなかったですね」
――ネットで拝見したのですが、渡辺さんのパーカッションはタンバリンを軸にしたスタイルですね。
渡辺 「大学のときにスウェーデンの民族音楽をやるバンドを結成して、そのままプロになりました。スウェーデンのパーカッションは、タンバリンを横向きにして、スネアのようにして叩くのが主流なんですね。いちむじんの音楽はスウェディッシュではないけれど、“なんでも音楽でしょ?”という感じで楽しくやっています」
――サウンド・プロデュースは住友紀人 さんに依頼していますね。 白須 今
山下 「住友さんには過去に一度、2010年の
『TOMA』 でやっていただいています。今回、新メンバーが集まったなかで、まず、音楽的にも人間的にも、おとながひとり、いるべきだろうと考えたんです(笑)。そういう意味では、みんなが尊敬できる人でなければいけないわけで、住友さんしかいないなと。〈万華鏡〉(2017年万華鏡世界大会 in 京都 テーマ曲)は中間部を住友さんに任せて、万華鏡っぽくなったんですよね。発想が普通じゃ考えられない」
――永田さんは、音楽仲間を通して住友さんの評判を聞いていたそうですね。
永田 「はい。シンガーの矢幅 歩が“最高のプロデューサーがいる”と言っていたんです。実際、宇高さんの〈あさやけ〉(編曲: 住友紀人)を聴いて、すばらしいと思いました。僕は1993年くらいに、アメリカで渡辺貞夫さんのコンサートを観て、ジャズを好きになったんですよ。すごくシンプルな音楽だけど、洗練されていて、美しくて、かっこいい。それが〈あさやけ〉の編曲に全部、含まれているんです」
――デュオで演奏する「ゆらり」は、母校の高知県立岡豊高校のある南国市のPRソングですが、市からの依頼を受けてつくったのですか?
山下 「はい。映像もまったくない状態でつくりましたが、結果的に映像にはまったので、担当者の方がびっくりしていました。YouTubeで“いちむじん”“南国市”と検索すると、〈南国ストーリー2〉という動画がありますから、ぜひ観てください」
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渡辺庸介
――アルバムを完成させて、次作に向けてはどんな展望をもっていますか?
渡辺 「いま、できるものとしてはいいものができましたが、さらに深めていけると思うので、多分、次はもっとバリエーションに富んだ面白い作品ができそうだなという期待感があります」
永田 「誤解を生むかも知れませんが、僕はもともと一匹狼なんですよ。いろんなプロジェクトに同時並行で参加していくのが僕のスタイルなので、今後、いろんなプロジェクトをこなしながら成長して、その成長をいちむじんに還したいなと思います」
白須 「山下さんに声をかけてもらったのが、つい最近のことのような気がします。それで、もうCDが出るという速さが山下さんの魅力だと思いますから、ちゃんとついていきたいですね。ヴァイオリンなのでみんなの前へ出てしまいますが(笑)、責任をもってメロディを奏でたいと思います」
山下 「今回は入っていませんが、ジョージさんやなべちゃんのつくる曲も好きなので、次のアルバムでは全部、ごちゃまぜにできたらなと思っています。このメンバーでしかできないオリジナル曲で、グラミーを狙っているんです」
2016年12月10日(土) 東京 調布
KICK BACK CAFE 開演 19:00
S席 前売 5,000円 / 当日 5,500円 (税込 / 別途1オーダー) A席 前売 4,500円 / 当日 5,000円 (税込 / 別途1オーダー) 2016年12月17日(土) 東京 調布
KICK BACK CAFE 開演 19:00
S席 前売 4,500円 / 当日 5,000円 (税込 / 別途1オーダー) A席 前売 4,000円 / 当日 4,500円 (税込 / 別途1オーダー) [出演] 山下 俊輔 (Guitar) / 宇高靖人 (Guitar) ゲスト: 鬼怒無月(Guitar) ※両日通しチケット割引あり (トータル金額より500円引き)