前作『
BUTTERFLY』が〈CDショップ大賞2016〉“ジャズ部門”を受賞。2016年に入ってからもヴォーカリストの
Keishi Tanakaとのコラボレーションによる『
透明色のクルージング』発表、〈FUJI ROCK FESTIVAL '16〉〈東京JAZZ〉といった大型フェスティヴァルへの出演、さらに
bohemianvoodooとのスプリット・ミニ・アルバム『
Color & Monochrome』のリリースなど精力的な活動を続けている
fox capture planが、2017年の幕開けを告げるニュー・アルバム『
FRAGILE』を完成させた。エレクトロニカの導入をキーワードとして制作に入ったという本作は、キャッチーなピアノのループと4つ打ちのビートを軸にしたダンス・チューン「エイジアン・ダンサー」、fox capture plan流のシティポップをイメージしたという「Bouncing walk」、
アークティック・モンキーズのカヴァー「Brianstorm」など、奔放なアイディアと緻密なアレンジ、そして、高いテクニックに貫かれた演奏がバランスよく共存する作品となった。結成5周年を経て新しいフェイズに突入したメンバー3人に、本作『FRAGILE』について語ってもらった。
――前作『BUTTERFLY』で“現代版ジャズ・ロック”というコンセプトはひとつの完成形を見たような印象もあって。本作『FRAGILE』の制作にあたっては、どんなヴィジョンがあったんですか?
岸本 亮(pf / 以下 岸本) 「それがすぐには生まれなかったんですよね。今回のアルバムは2016年の後半にリリースする予定だったんですけど、いろいろあって2、3ヵ月延びて。その間にメンバーと話し合ったり、曲のデモを作ったりして方向性を練っていたんです」
カワイヒデヒロ(b / 以下 カワイ) 「そのときのトレンドもあるしね」
岸本 「うん。ただ、いまのジャズ・シーンに合わせるようなことはやらなくてもいいと思っていて。それを違うかたちで発信したいというか……。それは最初から変わってないですね。1stアルバムの『trinity』はポストロック的なアプローチだったんですけど、“ジャズに聞こえなくてもいい”くらいの感じだったので」
――現行のジャズ・シーンはブラック・ミュージックの要素が濃いですが、fox capture planはその流れとも距離を置いてますよね。
岸本 「そうですね。できなくはないと思うんですけど」
カワイ 「たとえば
ロバート・グラスパーの影響を受けているような日本のグループもけっこう出てきてたから、あえてそこに参戦しなくてもいいのかなと。ラーメン激戦区に出店しなくてもいいんじゃないかと(笑)」
岸本 「それよりもジャズ・リスナー以外にも興味を持ってもらいたいんです。今回はそこをさらに意識しました。いろいろ話をするなかで“エレクトロニカ”というワードが出てたんですけど、ピアノのインスト・バンドで、その道を選んでいる人はあまりいないと思ったし」
――なるほど。エレクトロニカ系の音楽はみなさんのルーツのなかに入ってるんですか?
カワイ 「もともと電子音を使った音楽も好きなんですよ。ただ、ライヴで電子音を使うのは抵抗があるんです。同期の音を使うことも考えてないので」
井上 司(dr / 以下 井上) 「『BUTTERFLY』にもメンバー3人以外の音を使った曲が入ってますけど、ライヴでは3人だけでやってますからね」
岸本 「そう、ライヴはやっぱり人力でやりたいので」
カワイ 「特別なライヴというか、“今日はストリングスと一緒にやる”みたいなテーマがあるときは別ですけどね」
岸本 「予算があるとき(笑)」
カワイ 「同期の音を使ったら、こっちが合わせなくちゃいけないじゃないですか。機械がこっちに追従してくれればいいんだけど、そうもいかないので。ライヴを機械に支配されるのはよくないと思うんですよ」
――現在のジャズを代表するドラマー、マーク・ジュリアナもエレクトロからの影響を公言してます。 井上 「マーク・ジュリアナは自分でもエレクトロをやってますからね」
岸本 「ジャズのドラマーであり、ビート・ミュージックもやるっていう。僕らもそういう部分は最初からあったかもしれないですね。3人で演奏した音源をProToolsで編集したりして」
カワイ 「ディレイとかモジュレーターでエフェクトしたりね」
岸本 「生のベースをあえてシンセ・ベースみたいに加工したこともあったし。ピアノ・トリオなんだけど、ピアノ・トリオではないふうに聞こえるようにしたというか。今回は最初からシンセを使ってる曲もあるから、そこはいままでとは違いますね。いままでは生音で演奏することにこだわっていたから」
カワイ 「制約を解放したのかも」
岸本 「うん。僕らにとっては、生のストリングスを入れるのと感覚は近いんですよ。自分たち以外の音を入れるという意味では」
井上 「今回はデモの段階からシンセが入ってる曲もあって、それがすごくなじんでたんです。だから“これならイケる”と思って」
――アルバムのリード・トラック「エイジアン・ダンサー」は、エレクトロニカの要素がいちばん強く表れた楽曲ですね。
岸本 「デモは僕がDTMで作ったんですけど、イントロにポリ・シンセみたいな音を入れていて、そのインパクトがけっこうすごいなと思って。いままで自分たちの音楽を聴いてくれてた人も“思い切った方向に行ったな”って、いい意味で裏切れられたと感じてくれるんじゃないかな、と。メロディはピアノだから、自分たちらしさも残ってるし」
カワイ 「いままでだったらもっと複雑にすると思うんですけど、この曲はかなりシンプルですね。踊れる感じもあるし」
――ダンス・ミュージックとしての機能もあるんですよね。そこは意識してました?
岸本 「そうですね。4つ打ちのわかりやすさは需要があると思うので。そういう音楽をピアノのインスト・バンドとして、誰よりもカッコよくやりたかったんですよ」
井上 「fox capture planの4つ打ちの代表曲で〈疾走する閃光〉という曲があるんですけど、〈エイジアン・ダンサー〉は同じ4つ打ちでもぜんぜん違うノリなんですよね。〈疾走する閃光〉はもっとロックな感じで、〈エイジアン・ダンサー〉はクラブ・ミュージック寄りなので」
――そして恒例のカヴァーはアークティック・モンキーズの「Brainstorm」。前作に収録されていたミューズの「Plug In Baby」に続き、2000年代の楽曲ですね。 カワイ 「僕は聴いたことがなかったんですけどね、アークティック・モンキーズもミューズも(笑)」
岸本 「アルバム全体のバランスを考えたときに、ライヴ映えするような速くてアグレッシヴな曲が欲しいと思って。わりと単純な動機で選んだんですけど、僕はもともと好きな曲だったし、問答無用のカッコ良さがありますからね。日本のバンド・カルチャーにもすごく影響を与えたバンドだし」
井上 「もうライヴで演奏してるんですけど、すごく盛り上がりますね。アレンジもそんなに変えてないので」
――冒頭のリフをそのままピアノで弾いていて。
岸本 「ちょっと難しいんですけどね(笑)」
カワイ 「なかなか激しい仕上がりになりました」
井上 「すげえ疲れます(笑)」
岸本 「2000年代のバンドのカヴァーはもう少し続けたいですね。僕もそんなに詳しいわけではないので、これから聴いてみようと思ってます」
――まさに他ジャンルのリスナーに対するアプローチにもつながりますからね。そういえばグラスパーもニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」をカヴァーしてますよね。 岸本 「僕らも〈スメルズ〜〉をカヴァーしようかって話したことがあるんですけど、結局、みんなやってるからやめようということになって」
カワイ 「ちょっとヒネくれてるんですよ(笑)」
――それは性格の問題?
岸本 「僕は思い切りそうですね。皆が向いているところとは違うところに行きたがるっていう。“このタイミングで、何でコレをやるの?斬新やな”っていうのが好きなんですよ。ジャズにもクラブ・ミュージックにも流行はあるけど、たとえば
ハイエイタス・カイヨーテを聴いて“いいな。自分たちもやってみよう”と思ったところで、音源として出せるのは1年後くらいだったりするじゃないですか」
――作曲の時点から、トレンドと距離を取ろうとしてるんですか?
カワイ 「でも、今回のアルバムに入っている〈Bouncing walk〉は“シティ・ポップを作ってみよう”というコンセプトで作曲しましたね。この曲もシンセが入っているんですけど、思ったよりも上手くまとまって。2016年の年明けか春前くらいに作ったから、ちょうどその頃、シティ・ポップが自分の中でブームだったんでしょうね。ちょっとAOR寄りで、ポップで都会的な感じというか」
岸本 「それを狙ってやってる感じがいいですよね。ジャズ・サイドからシティ・ポップにアプローチするのも、ほかのバンドはやってないと思うし」
――cero、Suchmosのようにジャズの要素を取り入れているバンドは増えてますけど、逆のアプローチは確かに少ないかも。井上さんが作曲した「Prospect Park」はどんなコンセプトなんですか? 井上 「曲を作るようになったら、ドラマーとしてではなくヒップホップのトラックメイカーみたいなアプローチをしたいと思っていたんです。もともとそういう音楽が好きなんですけど、2015年の
ドレイクのアルバム(『
イフ・ユーアー・リーディング・ディス・イッツ・トゥー・レイト』)を聴いて、そのなかに“こういう感じで作ってみたい”と思う曲があって。ドラム以外の楽器はできないので、トラックを組んで作ったのが〈Prospect Park〉です」
――リズムはシンプルで、ベースライン、ピアノのリフが際立っている曲ですね。
岸本 「つかっちゃん(井上)が作る曲はドラムがシンプルなんです。カワイくんの曲のほうがドラムの見せ場があるっていう」
井上 「演奏しているといろいろフレーズを入れたくなるんですけどね」
岸本 「バンドとしてはそれくらいがちょうどいいと思いますね」
――3人の演奏センスが楽しめるという意味では、「Terminal 2」も印象的でした。
岸本 「こういうダブステップっぽい曲はアルバムのたびに書いてるんですけど、この曲は最初が機械的で、終盤に向かうにつれて生っぽいライヴ感が出てきて。中盤はカオスな感じになってるし、バンドっぽい仕上がりになりました」
井上 「練ってる感じもないんですけどね。レコーディングのリハもそんなにやってないので」
カワイ 「1回くらいだよね(笑)。(2016年は)CDこそ出してないですけど、いろいろなプロジェクトも重なって、そんなに時間が取れなくて。ぶっつけ本番で録った曲もあります。僕ら、もともとプリプロもやらないんですよ」
岸本 「DTMでデモを作るんですけど、それがプリプロみたいなもので。人数も少ないし、“こういう演奏をするだろうな”ということも何となく想像できますからね」
カワイ 「うん。レコーディング前にやり過ぎると、演奏の精度は上がるかもしれないけど、新鮮さはなくなっていくので」
――新鮮な状態でパッケージしたいと。“FRAGILE”というタイトルについては?
岸本 「締め切りギリギリまで考えてたんですよ」
カワイ 「ライヴの楽屋でいろんな英単語を出して」
井上 「そのうち(岸本が)FRAGILEしか言わなくなったんです」
――それほど意味はないということですか?
岸本 「いや、アルバムに入っている〈FRAGILE #1〉〈FRAGILE #2〉の仮タイトルが“インダストリアル”だったんですよ。そこからイメージが(ナイン・インチ・ネイルズに)つながったのかなと。今回のアルバムは自分たちとしても一歩踏み込んだ感じがあるし、危うさ、ドキドキ感みたいなものとシンクロしているのかな。メンバーにナイーヴな人はいないんですけど(笑)」
――2017年のfox capture planはこのアルバムからスタート。どんな1年になりそうですか?
岸本 「曲のストックがけっこうあるんですよ。『FRAGILE』制作のときにレコーディングして、収録しなかった曲もあって」
カワイ 「作れって言われたら、まだまだ作れますからね」
岸本 「ほかの活動とのバランスにもよりますけど、次作はそんなに遠くないと思います。あと1月からOAされるドラマ(TBS火曜ドラマ『カルテット』)の音楽もやるんですよ」
――豊作の年になりそうですね。『FRAGILE』の楽曲をライヴで聴けるのも楽しみです。ライヴはやはり3人の音だけでやるんですよね?
カワイ 「そうですね。年明けはそのことを考えるところから始めようと思ってます」
2017年1月25日(水)
“KICK OFF ONE MAN LIVE”
東京 代官山 UNIT開場 18:30 / 開演 19:30
前売 3,900円(税込 / 別途ドリンク代)※お問い合わせ: UNIT 03-5459-8630(平日 13:00〜19:00)
2017年3月20日(月・祝)
福岡 春吉 INSA開場 17:30 / 開演 18:00
前売 3,900円(税込 / 別途ドリンク代500円)※お問い合わせ:
キョードー西日本 092-714-0159
2017年4月13日(木)
大阪 梅田 Zeela開場 19:00 / 開演 19:30
前売 3,900円(税込 / 別途ドリンク代)※お問い合わせ:
GREENS 06-6882-1224(平日 11:00〜19:00)
2017年4月14日(金)
広島 4.14開場 19:00 / 開演 19:30
前売 3,900円(税込 / 別途ドリンク代)※お問い合わせ:
夢番地(広島) 082-249-3571(平日 11:00〜19:00)
2017年4月15日(土)
東京 恵比寿 LIQUIDROOM開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,900円(税込 / 別途ドリンク代)※お問い合わせ:
iTONY ENTERTAINMENT03-5784-1788