奇跡の積み重ねが“今”なんだよ――2017年、加藤和樹の思うこと

加藤和樹   2017/02/10掲載
はてなブックマークに追加
 昨年4月から続いていた“恋の処方箋シリーズ”が、最新シングル「冬恋」でいよいよ完結。3月には、歌手デビュー以来発表してきた全曲を2日に分けて歌いきった、その模様の後半を収録した2枚組DVD『10th Anniversary Special Live“GIG”2016 Laugh & Peace〜【DAY 2】』も遂にリリース。キャリアに大きな一区切りをつけた感のある加藤和樹。ミュージカルや芝居といった舞台出演と並行させつつも、ブレることのない“歌うこと”への姿勢について、前作「秋恋」に続いて、語ってもらった。
――4連作のシリーズが完結しましたね。
 「一応完結はしましたけど、作詞のCHIHIROさんが書いてくださったヒロインの物語は、これからが始まり。その意味でも、ハッピーな終わり方でよかったです。自分も春から、歌を通じてこの女の子を見続けていたので」
――もはや成り行きを見守っている気分だと、前回取材した際におっしゃってましたよね。
 「そうそう(笑)。そんな気持ちがあったので、最初に歌詞を受け取った時も、ああよかったなと。一方で、CHIHIROさん、さすがだなとも思いました。自身のテーマでもある“人への感謝”、出会えたことへの感謝の気持ちが、ちゃんと歌詞へと着地している。サビの部分とか、本当に素晴らしいですよ。優しさにあふれていて」
――女性目線という以上に、普遍性のある歌詞のように受け取れます。
 「前3作までは、一人の女性の恋模様。悩みながらも前に進まなきゃ。そういう表現だったと思うんですが、今回の〈冬恋〉はそれらすべての総括。歌詞に“遠回り何度もしてきたけど / あなたへと続いて道だったと / 気づけたら愛しくなる”とありますけど、その通りだなと思った。後づけかもしれませんけど、やっぱり楽なことばかりじゃない。でも、次につながると思えたら、それもまた必要だった、という。すごく大きなことを語ってますよね」
――一方、カップリングの「Laugh & Peace」は男性からの視点で描かれている。アンサー・ソングのようにも取れますが。
 「本当ですか? これはもう、単純にファンの人たちに向けての自分の気持ちを込めて書いた曲なんですよ。たまたま、うまくリンクしたんじゃないかな。自分自身、本当にファンとの出会いに感謝しているので。昔はたった一人で始めたものが、出会えて今はこうして笑い合っていられる。それって、本当にすごいことだと思うんです。何かひとつでも違っていたら、こういう道はなかったんですよね。言わば“奇跡”の集合体として、自分たちはここにこうしている。ひとつひとつの奇跡の積み重ねが“今”なんだよってことを、言いたかったんです」
――ファンに向けてのアンサーだったんですね。
 「はい」
――ファンの方たちに対しては、どれくらいの距離で接してらっしゃいますか。時々、お父さんぽい時があるでしょ(笑)。
 「ははは。俺としては、どっちがどっちじゃない。与えて与えられての関係だと思ってますから。一番しっくり来るのは“仲間”ですよね。友だちではないけど、かと言って、まったくの他人でもない。何でつながっているかといえば、それは音楽。一緒に歩んできてくれた人たちも多いので、やっぱり仲間ですよね。一緒にライヴをつくる、という意味での」
――オリジナル曲全曲を歌い通すという最新ライヴDVDも、一緒に歩いてきてくれたファンの存在を前提とした企画とも思えます。
 「いや、曲を知らない人が意外と多くて(笑)。こんなにたくさん歌ってきたんだなという感慨が、僕自身あったんです。ライヴで一度しか歌ったことがない曲もあったし。これだでの道のり自分がを10年間歩んできた、それを再確認するという意味合いもありました。“加藤和樹”の軌跡を、みんなで一緒にツアーしようぜ、みたいな(笑)」
――全曲歌うというアイディアがどこから。
 「単純に、俺がやりたくなっちゃった(笑)」
――あとには退けないですね(笑)。周囲の反応は?
 「“全曲……ですか?”みたいな(笑)。いや、1日では絶対できないから、何日かに分けて、とは言ってたんです。嵐だったり、いろんな方たちのアニヴァーサリー・ライヴ映像を観たり、知り合いが全曲ライヴをやったことの影響もあって、自分でもやってみたくなった。調べてみたら、全部で80数曲あったんですよ」
――やるなら今のうちだと。
 「そうなんです(笑)。100曲超えると大変だと思った。そこからメドレーにしたり、構成をあれこれ考えて……バンドと一緒に、曲順を決めていきました」
――曲順には苦労されましたか。
 「1日目と2日目でメニューがまたく違ったので。しかも、いつもと同じ曲順じゃおもしろくないから、2日目には、ふつうなら後半でやってる曲をどあたまに持ってきたりしたんです。ほんと、パズルみたいでしたね」
――盛り上げセクションを冒頭に持ってきちゃったら、後半が大変そうですけど。
 「ところが、意外と残ってたんですよ、盛り上がるメニューが。今まではぶいてきていた曲で、いいものが思ってた以上にあった。DVDの編集用に2日分の映像をチェックしたんですが、長かったです(笑)。1日につき3時間、よくお客さんは立ちっぱなしで聴いてくれてたなと。俺なら絶対無理(笑)……というのは冗談としても、本当にライヴとして見応えがあったし、聴き応えもありました」
――ライヴで歌いやすい曲と、歌いづらい曲って、あるものですか。
 「あります、あります。今回DVDに収録した中だったら、〈Just You〉とか」
――すごく好きな曲です(笑)。
 「リリース・イヴェントでしか、歌ったことがなかったんですよ。けっこうダンサブルな曲なんで、ダンサーを後ろにつけて、俺もちょっと振り的なものをつけてもらって歌った。今回、なんか物足りない……と思ったら、ダンサーがいなかったという(笑)」
――いい曲だと思いますけど。
 「僕も好きな曲なんです。今までなかったような楽曲で、おもしろかった」
――リズムがはきはきしているので、昔の曲と言いながら、“新しい”感じがしました。
 「知らない人が聴いたら、こんな曲あったっけ……と思われるような曲ですよね。印象に残ったといえば、〈APORIA〉かな。これも1回しか歌ってなかった。発表当時、歌うのがすごくむずかしかった曲なんです。自分にとって“大人の楽曲”だった。今なら……っていうのも変な言い方だけど、また違う歌い方ができるようになった気がしましたね」
――曲の理解って、台詞を理解することに近い感覚がありませんか。
 「わかりますね、それ。曲によって、こういう歌い方をしてみてもいいんじゃないかってことが、歌い続けるにつれて、だんだん見えてくる。逆に言うと、(当時は)よくこんな歌い方していたな、と思う曲もあるし」
――ひとつの表現である以上、歌もまた“フィクション”ではあると思うんですけど、ライヴ映像を観ていると、加藤さんのある種“素”の部分が、最も素直に出ているのかな、と思ったりするんですが。
 「ノンフィクションにしないと、お客さんに届かない。そこはお芝居も一緒ですけど。僕らのやってる仕事って、そういうことだから。ステージで語られるものや歌われるものはフィクションでも、“本物”と思わせないといけない。歌もそうで、自分の世界、自分の想いにして伝えないと、やっぱり伝わらないですよね。ただ歌っていたのでは、だめなんです」
――そう自覚するようになったのは、いつ頃からですか。
 「わりと早い段階から、意識してはいたと思うんですけど、なかなかうまくできなかった。自分はけっして歌がうまくない。だからこそ、よけいにうまく歌わなきゃって、力んでた時期もありますし。そりゃテクニカルなことで言えば、聞こえがいいに越したことはないんだけど、そこに気持ちがこもってなかったら、やっぱりただの歌になっちゃう。より強く、そう思うようになったのは、やっぱりミュージカルをやってからかな。3〜4年前からですね」
――ミュージカルって、言ってみれば“非日常”の極地なわけだけど、その一方で、ミュージカルなりの言語もあるわけですよね。
 「うまい方って、感情の乗せ方が絶妙なんです。聴かせるべきところはちゃんと聴かせて、見せるべきところは見せる。音楽とお芝居はけっしてイコールではないけれど、歌う以上はそこに感情の揺れ動きがないといけない。そこはプロですから。ミュージカルをやってよかったと思うのは、歌に対するアプローチの善し悪しを、自分なりに判断できるようになったことなんです。この歌詞のどの部分が大事なのか、わかるようになってきた。サビだから強く歌えばいいわけでもないし、逆にAメロのここは大事にしなくちゃいけない、とか」
――ミュージカルで共演された中で、刺激を受けた方を挙げるとすると。
 「中川晃教さん。『フランケンシュタイン』で共演中なんですが、とにかく歌声がすばらしいんです。なんだろう、うまいだけじゃない、本当に心に届く歌声というのを感じる。中川さん自身、自分で曲もつくって、CDも出してらっしゃるし。共演することによって、すごく刺激を受けてますよね。今後も、一緒に何かできたらいいな……と思っています」
――『10th Anniversary Special Live“GIG”2016 Laugh & Peace〜【DAY 1】』DVDの1曲目に置かれた「僕らの未来〜3月4日〜」は、加藤さんご自身の自伝的な意味合いのある曲ですよね。どあたまの曲だし、気負いがあるのじゃないかと想像していたんですが、すごく素直に歌われていて、かえってぐっと来ました。
 「上京した当時の、自分の心情を書いた曲なんですよね。上京してからもう14年以上経ってますけど、今でも当時の気持ちを忘れないことって、すごく大切。この曲を歌うことを通じて、当時のことを思い出しながら、はにかみながら歌っている。お客さんの中に、ひょっとしたらこの頃の自分のような人がいるかもしれないし。そういう意味でも大切な1曲なんです」
――10年のキャリアを総括されたライヴ作品、そして連作シングルの完結を経て、2017年、どんな活動をしていこうとイメージされていますか。
 「個人的には、もうちょっとロック。アップテンポな曲を書きたいなという思いがあります。“恋の処方箋”シリーズではしっとりした曲が続いたので、今度はライヴでがつんと盛り上がれる曲を書きたい。全国ツアーにに向けて、攻めの姿勢を見せていきたいと思っています」
取材・文 / 真保みゆき(2017年1月)
Kazuki Katol Live“GIG”TOUR 2017
-pop'n splash!-

www.katokazuki.com/
2017年6月6日(火)
東京 お台場 Zepp DiverCity TOKYO
開場 18:00 / 開演 19:00
全席指定 7,000円(税込 / ドリンク代別)
お問い合わせ ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999
チケット一般発売 3月12日(日)よりチケットぴあ、ローソンチケット、イープラスにて



2017年6月7日(水)
愛知 名古屋 Zepp Nagoya
開場 18:00 / 開演 19:00
全席指定 7,000円(税込 / ドリンク代別)
お問い合わせ ズームエンタープライズ 052-290-0909
チケット一般発売 3月12日(日)よりチケットぴあ、ローソンチケット、イープラスにて



2017年6月9日(金)
大阪 なんば Zepp Namba
開場 18:00 / 開演 19:00
全席指定 7,000円(税込 / ドリンク代別)
お問い合わせ サウンドクリエーター 06-6357-4400
チケット一般発売 3月12日(日)よりチケットぴあ、ローソンチケット、イープラスにて

最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015