G.RINAがたどり着いた、ヒップホップ的な折衷感 『LIVE & LEARN』

G.RINA   2017/02/10掲載
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 5年というインターバルを経てリリースされた前作『Lotta Love』では、ブラックミュージックに対するオルタナティヴなアプローチがついに時代と合致したシンガーソング・ビートメイカーにして、DJのG.RINA。1年3か月ぶりとなる新作『LIVE & LEARN』は前作の流れを継承しつつ、リヴァイヴァルしたシンセ・ファンクに80年代以降の音楽要素を加えた現代的にして、折衷的なシンセ・ファンク・アルバムとなった。ビートは太く、グルーヴはしなやかに、そして、クールな歌の奥底に込めた思いに彼女なりのファンク感を投影した作品を前にして、果たして彼女は何を語ってくれたのか?
――5年ぶりの作品だった前作『Lotta Love』を経て、今回の『LIVE & LEARN』は短いスパンで完成しましたね。
 「前作(『Lotta Love』)もまさかアルバムを作ることになるとは思わなかった状況からアルバム制作のお話を頂いて、作り終わってからもしばらくはライヴを続けようと思っていたくらいで、その後の作品制作については考えていなかったんですけど、『Lotta Love』がきっかけとなって、“新作を作りませんか?”って声をかけていただいて、“じゃあ、よろしくお願いします”ということになりました(笑)。締め切りが設定されたら、そこを目指して作るんですけど、それがないと、いつまでも終わらないって感じなので、締め切りを含めた具体的なオーダー次第というか(笑)」
――ということは、お話を頂いた時点で今作『LIVE & LEARN』の構想はなかったということですよね?
 「なかったですね。『Lotta Love』はその時点で全てを出し切ったアルバムだったんですけど、こういうものが受け入れてもらえるんだという手応えもありましたし、『Lotta Love』の延長線上にある作品を作って欲しいというお話をいただいたので、それなら出来るかなって。その後、共演してみたい人を想像してみたら、色んなアイディアが出てきたので、そこから自然に制作は始まりましたね」
――G.RINAさんのサイトには、2016年の音楽をご自分なりに総括したDJミックスがアップされていますが、そこにはブルーノ・マーズをはじめとして、USのメインストリームのヒップホップ、R&Bがずらっと並んでいて、『Lotta Love』以降、今回のアルバムにしてもブラックミュージックに対して、真っ直ぐ向き合っていますよね。
 「そういうアメリカのブラックミュージックはずっと好きなんですけど、その多くは肉体性が際立った音楽じゃないですか。UKになるともう少し屈折した表現が多くて、以前はそっちの方がしっくり来てたんですけど、毎回自分なりに精一杯、ポップな作品を作っているつもりではいるんですが、ブラックミュージックの影響をどうやって表現するかという部分で、『Lotta Love』では素直になれたことが大きくて。こういう塩梅でやった方が人には伝わるんだなって、そう思えたことも後押しになりましたね」
――そのうえで今回は、曲の豊かなヴァリエーションやフィクションを交えた歌詞からも作家性が際立ったアルバムだと思いました。
 「特に今回はプロデュース・アルバムのイメージで、俯瞰した視点で制作したことが大きく作用しているんだと思います。その手法はヒップホップのプロデューサーが本人名義でよくやっているアプローチでもあると思うんですけど、いざ、着手してみたら、自分にとっては新しい試みだったというか、ようやく自分がやりたかったことが出来たかなって」
――近年はバンド編成でのライヴも行われていますが、制作はどのように進めていったんですか?
 「今回は前作よりもシンセ・ファンクの要素を強めたくて、エレクトリックな質感や打ち込みのビート感を活かして、まずは全部打ち込みで曲を作ってから、要所要所でプレイヤーに弾き直してもらったり、弾き足してもらったんです。バンドでのライヴ活動と並行していたので前作と比較して、制作するうえでの選択肢は増えましたね」
――シンセ・ファンクといえば、ブルーノ・マーズの新作『24K・マジック』は、どのように聴かれましたか?
 「このアルバムをほぼ作り終えたタイミングで彼のアルバムが出て、クオリティの高さに興奮しましたし、メロウなファンクがメインストリームで受け入れられていることにうれしくもなりました。80sだけじゃなく扱いづらさもある90sリヴァイヴァルもやっていて、それらを今の音像でセンス良く丁寧にやっている。圧倒的エンターテインメント性にのけぞりつつも、アルバムの収録時間が短かいという共通点にイエス!という感じでした」
――デイム・ファンクがストーンズ・スロウより登場した2008年前後からじわじわ熱が高まっていったシンセ・ファンクのリヴァイヴァルは、G.RINAさんにとって、どんな意味を持つものでした?
 「いわゆるファンクバンドとかだったら、細々いたんだろうと思うんです。昨今の流れはヒップホップ・レーベルであるストーンズ・スロウが歌ものを出しているセンス、功績がすごく大きいと思います。デイム・ファンクはそのモダンファンクの流れの最初の道しるべを作った感じがありますよね。わたしの今回のアルバムも、ヒップホップを好きな人間が作るシンセ・ファンクがベースにあるのは変わらず。メロウな歌と太いビート、日本語のディスコ、歌謡曲的な風景描写、このアルバムでやりたかったのは、そういうトライアルですね」
――シンセ・ファンクと一言でいっても、そういう折衷感覚にこそ、G.RINAさんらしさが感じられる作品ですよね。
 「その絶妙なさじ加減を見つけるのに、これまでの作品での試行錯誤が必要だったというか。そこにはもちろんオマージュもあったりはするんですけど、カヴァーに近いようなオマージュではなく、ヒップホップ的な折衷感とか日本語の使い方によって、自分なりのオリジナリティを出せるかなって」
――鎮座DOPENESSをフィーチャーした「想像未来」は、トラップが4つ打ちに変化するビートや火を噴くようなギターなど、1曲に詰め込まれたアイディアがこのアルバムの折衷性を象徴していますよね。
 「その曲は一番苦労した作品だったんですけど、最初にギターフレーズを思い付いた時点で、このフレーズがあれば、何をやっても面白いことが出来るかもしれないって思ったのと、鎮座DOPENESSくんがこのトラックでやりたいって言ってくれたので、どれだけ遊べるかと思って、聴いたことがないものを作ろう、と。でも、落としどころが難しくて、これはほんとうに実験でしたね(笑)」
――Kick A Showをフィーチャーした「ヴァンパイア ハンティング」は、敷き詰めたシンセサイザーがアンビエント・マナーというか、R&Bのオルタナティヴな表現だと思いました。
 「この曲は聴いた方がそれぞれ色んな解釈で聴いてくださっていているんですけど、歌詞は結構ベタで、ちょいセクシーな感じ。サウンド面では、音数が少なくて、サビにしか出てこないキックにとにかく思いを込めた1曲、ブーンっていうキックが出るR&Bにしたいなと思って作りました(笑)」
――そのビートは前作以上に、ビートの多彩なアプローチと出音や音色へのこだわりが強く感じられます。
 「4つ打ちに関していうと、鎮座DOPENESSくんも田我流くんもラッパーだけど4つ打ちも聴く人なんですよね。だから、結果的にそういう人に縁があるというか、それは前作にも言えることなんですけど、オルタナティヴな感性を持っている人に自分は惹かれるんだなって思いました。そして、以前に比べると、オルタナティヴな、折衷的な視点で音楽を追いかけている人が増えていると思いますし、アメリカのR&B自体、意外なものがヒットしたり、ヴァラエティに富んでいて、時代の移り変わりを感じますね。だから、以前だったら、そのオルタナティヴ感は一つ一つを説明しないと伝わらない部分もあったんですけど、今はそのオルタナティヴ感が当たり前になっていて。そして、ビートの出音や音色へのこだわりは、前作に引き続きミックスをお願いしたILLICIT TSUBOIさんもそういうところを得意としていらっしゃる方ですし、私の意図にプラスアルファ、どういう音像になって返ってくるのかが楽しみでしたね」
――鎮座DOPENESSやG.RINAさんが新作に楽曲提供している土岐麻子さん、田我流にKick A Show、underslowjamsのyoshiroさんといったフィーチャリング・ゲストはどのように決まっていったんですか。
 「前作はそれ以前にやろうと思っていた人、やりたいなと思っていた人とコラボレーション出来たので、今回のゲストは一から考える感じだったんですけど、PUNPEEくんはじめ、前回参加してくれた人たちは全員がプロデューサーでもあって、自分で作って、自分で歌える人だったのに対して、今回は歌声やキャラクターという観点で魅力的なシンガー、ラッパーに声をかけさせていただきました」
――つまり、“プロデューサー G.RINA”として、適材適所に才能を配したわけですね。歌詞も、「夏のめまい」のようにフィクショナルなラヴアフェアーを歌ったものから「そばにおいで」や「memories」のように歌よりインストパートの比重の高い曲まで、作風の幅が作品の豊かさに繋がっているように思いました。
 「〈memories〉に関しては、こういう曲が作りたかったという1曲なんです。インストが入ったアルバム作りはいつも意識していることで、歌詞を書くのは好きな作業ではあるんですけど、言葉っていうのは、感情なりムードを特定してしまうじゃないですか。特定されない、その人なりの感じ方で解釈する余地が大きいところも音楽の魅力だと思うので、インストでどれだけ情感を出せるか、言葉を考えるのと同じくらい考えています。同じように歌詞についても、なるべく“悲しさ”という言葉を使わずして、その情感を漂わせたい」
――悲しさといえば、G.RINAさんはもの悲しいファンクが好きだとおっしゃっていましたよね。
 「そうですね。さっき話題に出たデイム・ファンクが私のなかで“まちがいない……!”って思ったことばがあって、彼がとあるインタビューで“ファンクってどんな音楽ですか?”っていう質問に対して、“微笑みながら涙を流してる音楽だ”って。音楽を作るうえでは、悲しいこと、やりきれないこと、怒りとか、そういう感情がモチベーションになることも多いと思うんですけど、表現する時はそういう感情をそのまま出さずに表現するのがじぶんの理想でもあります」
――死について歌われている「memories」は、婉曲的な感情表現が結実した1曲だな、と。
 「前のアルバムに入ってる〈LIFE〉でも、その年に亡くなった父について歌っているんですけど、曲自体は全然悲しい曲ではないですし、死について歌っていたとしてもお葬式の音楽として作ることはないというか、そうと分からない形で気持ちを歌っていきたいと思っていて。フィクショナルな曲も完全にフィクションというわけではなく、自分の気持ちや経験のコラージュでもあるので、1曲1曲には熱い思いがあって。だから流れ作業でできることでは決してなくて、毎回、アルバムを出すのはこれが最後かなと思いながら作っているんですけどね(笑)」
――前作のインタビューでも同じことをおっしゃっていましたよね。
 「いまはリリースの形態もD.I.Y.な配信だったり、音楽の在り方が変わってきているということもあるし、私の場合、子育てをしながらの音楽制作は集中力の限界への旅っていうか(笑)、自分でもその時期どんな生活をしてたんだろう?って(笑)。それくらい搾りに搾って、終わった時には“音楽を取るか、健康を取るか。この活動を続けていたら健康を害するんじゃないか”ってことを考えてしまったくらい(笑)。でも、出来上がってよかった。何事もやってみないと分からないというか、やってみて、初めて学ぶことが出来るんだなって。『LIVE & LEARN』っていうタイトルにはそんな意味も込められているんです」
取材・文 / 小野田 雄(2017年1月)
G.RINA & Midnight Sun
LIVE & LEARN リリースワンマンショウ

www-shibuya.jp/schedule/007467.php
2017年3月2日(木)
東京 渋谷 WWW
出演: G.RINA & Midnight Sun(※豪華ゲストとともに)
開場 19:00 / 開演 20:00
3,300円(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
チケット取り扱い: e+ / ローソンチケット(L 75024) / WWW店頭
お問い合わせ WWW 03-5458-7685


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