“呼吸”こそ歌――双子ソプラノ・デュオ、山田姉妹が歌う昭和の名曲たち

山田姉妹   2017/03/06掲載
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 双子の姉妹が歌う「昭和の名曲」。そんなコンセプトだけを聞いた時点では、よくあるカヴァー集に少々ひねりを加えた内容を予想していたのだが、さにあらず。2人の歌声はもとより、編曲のはしばしから意欲が伝わる、聴きごたえ十分のアルバムだった。姉の華(はな)は東京芸大、妹の麗(れい)は国立音大と、同じ声楽を学んではきても異なる道のりをたどってきているのもおもしろく、それぞれの持ち味の違いが、デュオとしてのデビュー作となる『あなた 〜よみがえる青春のメロディー』を、愛らしさの中にも実験精神がきらりと光る、小気味いい一枚にしている。
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山田 華 「CDを出したいという夢はずっと温めていたんですが、こういう曲を歌いたいと言うアイディアが明確にあったわけではなかったんです。2人ともクラシックを勉強してきたし、ポピュラーを歌った経験もある。幅広いジャンルを歌ってきた中で、そう言えば、小さい頃から昭和の名曲を聴いて育ってきたなあ、と」
――1991年生まれですよね。ご両親がお好きだったとか?
山田 麗 「父がクルマでかける、大好きな曲ばかりが入ったオリジナルCDがあったんですよ(笑)」
――お父さまの選曲集(笑)。
 「子供時代、それをひたすら聴かされていたんです。私たちも昔から歌うことが大好きだったので、すぐ覚えては歌っていた。たまたまそれが、昭和の名曲だった」
――ということは、いわゆる“懐メロ”の感覚というよりは……。
 「どちらかと言えば、小さい頃を思い出すような感覚なんです。そういう話をスタッフとしていたら、“それでいこう!”と、満場一致になって」
――小さい頃から歌っていたのは、どの曲ですか?
 「〈切手のないおくりもの〉がそうですね」
――この曲、じつは存じ上げなかったんですが、ペギー葉山さんがオリジナルなんですね。ある意味、シブい選曲だと思うんですが。
 「ところがこれ、幼稚園で習った曲なんですよ(笑)」
――ええっ! びっくり。
 「CDでの歌い方はジャジィな感じですよね。符点が多いんです。幼稚園時代は、符点なしで歌ってましたけど」
――ですよね。幼稚園児がジャジィに歌ったら、余計びっくりします。
 「あはは。当時は、ゆっくりしたテンポで優しく歌ってましたね。今も、幼稚園で歌われることが多いみたいですよ」
――それが今回、オリジナルに回帰したかのように、ジャジィに歌ったというのは?
 「何パターンか歌ってみて、いちばんしっくりきた形になったという感じです。5番まである曲なので、中盤はゆっくり歌ってみようとか、あれこれ試行錯誤はしています。レコーディングの現場で、やっぱりスウィングしたほうがいいんじゃないかということになって。今回のスタイルに落ち着きました」
――逆に、まさかこの歌を歌うとは、と思っていた曲はありますか?
華・麗 「〈結婚しようよ〉です」
――なるほど(笑)。
 「吉田拓郎さんが歌われた時の、オトコ臭いイメージが強かったので、“私たちが歌ったらどうなるんだろう?”って、じつは最後の最後まで疑ってました(笑)。それが歌えば歌うほど、大好きになっていって……最後には、2人のブレスがコンマ1秒のレベルで合うようになったんですよ」
――双子でも、そこまで合うのは珍しい?
 「普段、ブレスについて話し合うことって、ほとんどないんです。でも〈結婚しようよ〉では、確認してみたら完全に合っていました」
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――言ってみれば、完全に男性目線の歌ですよね。感情移入するのが難しくなかったですか。
 「男性から女性へのプロポーズの歌ですものね(笑)。でも、私たちが歌うことによって、かわいい曲になった気はしています。自分たちとしても、体を揺らしながら、楽しんで歌えました」
 「今回収録した中だと、〈木綿のハンカチーフ〉のように、前半は男性、後半は女性の言葉で歌われている曲もある。その場合、聴いてくださる方にも情景を感じてほしいので、男性目線のパートは私が、後半の女の子の気持ちは華が歌う。そういう工夫はしています」
――双子とはいえ、歌声を聴くと、はっきりと違いますよね。
 「二卵性ということもあって、双子という以上に“姉妹”の声帯という感じではあるんです。音は似ているけど、声質は違う。なので、そのメロディに合うほうが歌う、そういう歌い分けはしています」
 「一方で、ユニゾンになった時、自分たちでもわからないような感覚になることがあるんです。まったく同じ声ではないけれど、1人が軸になって、もう1人がそれを太くする。結果的に、新しいひとつの音が聞こえる瞬間というのがあって……そこは双子ならではかな、と思ったりします」
 「ヘッドフォンから聞こえてくる声の、どっちが自分なのかわからなくなったりね(笑)。今回、そういう不思議な瞬間に出会うことが多かったです」
――お2人とも、小さい頃から“歌が目標”だったんですか?
 「中学時代には、2人ともブラバン。それぞれフルートとクラリネットをやっていました。私は歌も好きだったので、フルートを選ぼうか迷った時期もあったんですが、やっぱり歌が好きだったので歌を勉強しだして。麗はその頃、『3年B組金八先生』(第8シリーズ・諏訪部裕美役)に出たり、芸能活動をしていたので、私が何をやっているのか知らないくらい忙しかった(笑)」
 「私は中学時代から書道が好きで、書道が盛んな高校に進学したんです。大学も書道学科があるところを目指していたんですが、どうも書道さえやっていればいいわけじゃないらしいと気づいて(笑)、華が音大に行くことを知って、自分も音楽にシフト・チェンジしました」
――お2人とも声楽を専攻されているのでうかがいたいんですが、日本語で書かれた“詩”に曲をつけた作品を歌う時って、かならず“縦書き”を意識されて歌うんだそうですね。今回、昭和の作品を歌われていて、“これは縦書き的”とか“こちらは横書きっぽい”といった意識をされたことはあるのかなと。
 「イタリア語のオペラの場合だと、当然横文字で書かれている。日本語訳も並べて記されてはいるけど、もしかしたら横の意識、流れるような感覚で歌っているところは、あるのかもしれないです。言われてみれば、日本語はやっぱり“縦”」
 「“歌詞を伝える”というのが、今回のアルバムのコンセプトのひとつだったんですが、歌詞を解釈する上で、実際に書いて覚えたり、イメージをふくらませていくという作業をするんです。電車の中でスマホを見て覚える時は当然横書きを読みますけど、書く時には縦書きが多いような気がします」
――まして、麗さんは書道を通過しているわけですから。
 「そうですよね! 私、細い筆で歌詞を書いて覚えることがあるんですよ。筆で書くと味が出るし、情景も反映させやすい。歌詞と書道ってどこかでつながっている。ずっと、そう感じてきました」
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――歌詞に即して言うと、「誰もいない海」も、一見失恋の歌でありながら、最後の最後に”死にはしないと”という、最近の歌ではとうてい使われないような重いフレーズが、さりげなく出てきますよね。
 「私たちって逗子、海辺で育ったんです。そのせいもあって、〈誰もいない海〉を歌っている時も、逗子の海をずっと思い浮かべていました。死まで意識したことまではないにせよ、この歌のような暗い気持ちを抱えて、海辺を歩いた経験はあるんです。ああ、海に助けられてきたんだなあって、あらためて逗子の海に感謝しながら歌っていました。そういう意味では、一般的な解釈とは違う側面があるのかもしれない」
――また、ギターのバッキングが素晴らしくて。
 「ギターの伴奏で歌うことが、小さい頃からの夢でもあったんですよ」
 「単音で弾いているギターが、波の音のイメージをぴったり表わしていて、自分たちが波の中で歌っているような感覚になりました。今回、13曲収録した中で、いろんな歌い方をしているんですけど、この曲がいちばん暗い。つぶやくような声で歌っているんですよね。歌い終わってから発見したことなんですけど」
――けっして明るいだけではない歌も、取り上げているというか。「ひこうき雲」もそうですよね。
 「松任谷(荒井)由実さんの歌は、1曲入れたかったんです。〈卒業写真〉を入れてもいいかな、と迷ったんですが、ジブリのアニメ映画『風立ちぬ』に使われたこともあったので、〈ひこうき雲〉を選びました。レコーディング直前に、中学時代の同級生が亡くなるということがあったんですよね。ことさら意識せずに歌入れに入ったんですが、歌っている最中、なんの前触れもなく、その人の顔が浮かんできた。しかもそれが、麗と私、同時のタイミングだったんです。涙が出そうでした。もしかしたら、この歌にはこういう意味があったのかもしれない……と、涙をこらえながら歌ってましたね」
 「2人して、同じタイミングでその子のイメージが降りてきた。すごく不思議な体験でした」
――曲の構造的にも、飛躍の多い作品ですよね。歌いやすかったですか?
華・麗 「……歌いやすくはない」
――ユニゾンになりましたね(笑)。
 「けっして楽しく歌える曲ではないけれど、一方で希望の余地を残すためにも、しっとり歌い過ぎるのもいけない。どういうトーンで歌おうか、直前まで迷いました」
 「それこそ自問自答。迷いながら歌っているような曲だと思うんです。休符がたくさん入っていて、そのひとつひとつで感情が変わっていくような気がする。“そうだ。いや、違う”って、逡巡している部分を、すごく感じさせる。松任谷さん自身も迷ってらしたんじゃないかな。実際自分が歌った時には、ただただ夢中でしたけど」
 「目をつぶって歌ったよね。もう何も考えずに」
――休符に気持ちを感じるという感覚が、歌っている人ならでは。
 「どんな歌を歌う時にも、休符は大事にしています。休符って、いろんな思いがこもっている。中でも、次のフレーズの始まりに置かれた休符。跳び箱を跳ぶためのジャンプ台のようなもので、その休符をどう感じるかによって、次の声の音色が変わってくるんです。2人で歌う時に大切にするのも、休符をいかに合わせるか、なんですよね」
――まさに“呼吸”ですね。
 「そう。呼吸こそ歌だな、と感じます」
――さだまさしさんの「雨やどり」は、対照的にお茶目な曲ですね。
 「歌っていても、すごく楽しかったです」
 「純粋に楽しみながら、ヒロインになった気分で歌いました」
 「大きなメロディではない曲なので、今回の中では、ちょっと挑戦的な選曲ではありますよね」
――さださん独特の言葉づかい、“一言多い”感じがよく出ていて。
 「語尾の“ませませ”とか(笑)。シリアスな曲が並んではいるので、聴いている人もここでふっと力が抜けるんじゃないかな。すごく好きな曲です」
――3月20日には(月・祝)には発売記念コンサートが予定されています。今回収録されている曲以外の作品も、歌われるんですか?
 「クラシックの曲も、コンサートでは歌おうと思っていて。二部構成のうちの第一部がクラシック系。本来1人で歌うアリアを、二重唱に編曲した作品なども聴いていただけると思います。第二部では、CDからの曲を数曲と」
 「あと、平成の名曲も数曲歌いたいなと。1人で歌うのも魅力的だけど、2人で歌うとパワーが倍増する。そういう力を借りて、それぞれの曲の魅力を伝えていけたらいいなと思っています」
取材・文・撮影 / 真保みゆき(2017年2月)
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2017年3月20日(月・祝)
東京・銀座 王子ホール
開場 13:30 / 開演 14:00
税込・全席指定 一般 4,000円 / 当日 4,500円 完売
[予定曲目]
雨やどり
結婚しようよ
なごり雪
あなた
ひこうき雲
切手のないおくりもの
木綿のハンカチーフ
トルコ行進曲
プッチーニ: 歌劇「ジャンニ・スキッキ」より『私のお父さん』
モーツァルト: 歌劇「魔笛」より『夜の女王のアリア』 ほか

※曲目は変更する場合がございます。



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