透明感溢れる歌声を聴かせてくれるシンガー布施尚美とブラジリアン・ギターの名手・伊藤ゴローからなるボサ・ノヴァ・デュオ、naomi & goro。
6枚目となるニュー・アルバム『Bossa Nova Songbook1』は「イパネマの娘」や「三月の水」といったボッサ・スタンダードを愛情たっぷりに演奏したシンプルながらも味わい深いカヴァー集に仕上がった。 ギターとヴォーカルというミニマムな編成から、おだやかで繊細なボサ・ノヴァのムードを紡いでいくデュオnaomi & goro。彼らにとって初となるボサ・ノヴァ・カヴァー・アルバム『Bossa Nova Songbook1』は
アントニオ・カルロス・ジョビンの作品、そして
ジョアン・ジルベルトのレパートリーで構成されている。ボサ・ノヴァの真髄とも言える数々の名曲のなかでも「三月の水」そして「エ・プレシーゾ・ベルドアール」は、これまでも交流のあった
坂本龍一がピアノで参加し、同じスタジオで一発録りでレコーディングが行なわれたという。
「Morelenbaum2/Sakamotoでも、教授はジョビンのスタイルで演奏していて、そこにたまに教授らしいハーモニーがこっそり入っている、その加減が素敵で。教授は、ジョビンの音楽について深く知っているので、スタジオでも僕がこうしたいと思っていたハーモニーをすぐに完璧に理解してくれた」(伊藤ゴロー)
「ジョビンに対する敬意や愛情がすごく伝わってきました」(布施尚美)
と、坂本のボサ・ノヴァへの解釈に共鳴する点は少なくないようだ。今作には、一曲だけ「ウン・セロ」というイマジネイティヴなインストゥルメンタルが新曲として収録されており、いわゆるティピカルなボサ・ノヴァだけでなく、ジョビンのクラシカルな側面が補完されているところにも、彼らのボサ・ノヴァに対する世界観の捉え方が提示されていて興味深い。
「ボサ・ノヴァの譜面は、コードとメロディと歌詞しか書いていなくて、一を見せられて、そこから十を読み取らなきゃいけない、そのどれを表現するかというのを悩みました。10年以上同じ曲を演奏していても終わりがないというか、どんどん欲しいものが見えてきて、歌うたびにいろんな発見がありますね」(布施)
「音の流れやハーモニーのちょっとしたひねりもジョビンの魅力です。日頃、ライヴなどで流して演奏しまうところも、こういうことになっていたんだと気付くことができたのは、今回のレコーディングの中で感じた喜びの一つですね」(伊藤)
言葉に表現できない空気感、作曲家そして演奏家の自由な感覚が、さざなみのような気持ちよさを持って伝わってくる。『Bossa Nova Songbook1』には彼らの感じるサウダージ、そしてボサ・ノヴァの秘密を巡る探求がさらに研ぎ澄まされ、美しい結晶となっている。
「一曲目に収録されている〈三月の水〉は、初めて聴いたときに“なんだこの曲は! 楽しいけれどほのかに悲しくて、今まで聴いたことがない”って感動したんです。なので聴いてくださる方にも、ここからボサ・ノヴァに興味を持ってもらってもらえたら嬉しいですね」(伊藤)
「私は海外に行ったときに、自分のいた土地とか日本のこと、自分の血が見えてくることがあるんです。naomi & goroの曲には、そういった雰囲気、自分の中のサウダージがそのまま入っているなと思うんです」(布施)
ボサ・ノヴァが生まれて50周年、そして日本人のブラジル移住の100周年となる今年。初めてボサ・ノヴァに触れるリスナーから、スタンダードを新たな解釈で楽しみたいファンまで、あらゆる音楽リスナーに聴いていただきたいアルバムだ。
取材・文/駒井憲嗣(2008年4月)