U.G MAN、GOD'S GUTSなど数々のバンドを経て、現在はフォーク・シンガー“FUCKER”として活動する父・谷ぐち順と、Limited Express(has gone)やニーハオ!を率いる母・YUKARI、そして人生初のハードコアパンク・バンドであるチーターズマニアを結成した一人息子の小学生・谷口共鳴(ともなり)以上の3人からなる、ある家族の日常を捉えたドキュメンタリー作品、大石規湖監督による初の劇場用長編映画「MOTHER FUCKER」が8月26日(土)から、東京・渋谷HUMAXシネマを皮切りに公開。図らずも、谷ぐちが代表を務める音楽レーベル「Less Than TV」の25周年という節目に完成した本作は、周りに集まった人々の姿も映しながら約1年にわたって密着し、一家が気負いなく自然と実践している、音楽と生活の関係性をわかりやすく伝える。
――Less Than TVとの出会いは?
大石規湖監督 「15年前ぐらいですね。fOULと(bloodthirsty)butchersのスプリットCDなんですよ。大学で軽音楽部に入って、その先輩の家でこれを見つけたら、もう衝撃的で。ジャケットも音源もカッコいいし、butchersがfOULのカヴァーしてたりとか“なんだ、これは?”みたいなところに惹かれて。そのうちCD棚に“Less Than TV”って書いてあるのが増えてきたなと。当時fOULが下北沢のSHELTERで〈砂上の楼閣〉ってイベントをやってたので通ったり。そこに、谷さん(谷ぐち順)のいたGOD'S GUTSが出ていて、ベースをぶん回す姿も目撃しました(笑)。アクションも凄いけど、ライヴのとき、谷さんって、ずっと笑ってるような表情をしてるじゃないですか? ベースが機関銃みたいに見えてきて、“ヤバい人がいる”という印象が強かったです。学生時代はホントただのお客さんで、Less Than TVは、好きなバンドが所属してる、好きなレーベル」
――そこから距離が近づいたのは?
「自分と同世代のバンドの撮影をしている現場で、butchersの吉村(秀樹)さんと顔を合わせたりしていて、気に掛けてくれたのか、映画『kocorono』(2011年)にお手伝いとして誘ってくれたんです。そこから上の世代とも少し繋がりができて。Less Than TVが主催してる〈METEO NIGHT〉は2012年に初めてひとりで撮りに行ったんですけど、そのときも谷さんとは話せてないです。“何を喋ったらいいかわかんない”みたいなのもあったので」
――ライヴの印象も強いし(笑)。
「そう(笑)。リミエキ(Limited Express(has gone?))が震災についての曲〈we love this country like banana〉(2012年)を発表したとき、映像も作りたいってメンバーの飯田(仁一郎)さんから連絡が来て、レコーディング・スタジオに行ったら谷さん家族が揃っていて、共鳴くんは泣いちゃってたり(笑)。そんなこともしてたんですが、ちょっとまだ距離があるというか。“撮影する人”だったんですよね。でもその頃からこの家族面白いな、漠然と撮りたいなとはずっと思ってたんですよ」
「一応、ドキュメンタリーを作る上では、構成は練りたいなと。谷さん家族だったり、Less Than TVを中心に、日本の色んな音楽を見れればいいなっていうぐらいでしたが。あわよくば、チーターズマニアの後で、U.G MANのライヴも撮れたらいいなとか、考えてたことはありましたが……。ハプニングばっかり起こるんですよ(笑)。“毎日がMETEO NIGHT”じゃないですけど、筋書き通りにいったためしが一回もなくて(笑)。ドキュメンタリーでありがちな仕掛けも最初は考えましたけど、勝手に何かが起こるし、想定外のことしか起こらないから。あるがままを全て、受け入れようと(笑)。そういう方針に」
――個人的には最初、Less Than TVって“勝手に盛り上がってる”って印象があって。世間とかをすごいスピードでぶっちぎってて。その頃の自分にとっては出会いが早過ぎたというか、聴ける耳も持ってなかったですし。
――ある意味、今回の映画はそれに対する答えだとも思いました。「谷ぐちさんたちとLess Than TVは違うもの」って証言がありましたけど、いま現在のLess Than TVの魅力は同じことなんじゃないかなと。
「言語化することはやめたんですよ。言葉にならないからこそ、Less Than TVの軸は成り立ってるんだろうなと。Less Than TVを知らない人でも、“ここだったらわかる”“この感覚は面白い”とか、どこかにシンパシーを感じてくれるといいな。集まっている人たちは、そこらへんの道を歩いてる人より優しいだろうなって私は思うので(笑)。社会のことからご近所さんについてまで、常に何かしらこう……気を配ってるんですよね。意識せず。内輪に見られがちだけど、外に対して、いちいち言わないだけで。もちろん、入っていけない感は多少あるでしょうけど。今回の撮影で障がい者の方の施設に行ったとき、谷さんが言ってたんですよ、“偏見を持ってるだけで、実際に話してみたら絶対なんてことないんですよ。自分で壁を作ってるだけですよ”って、まさしくそうだなと。この映画にも壁を作らないで欲しいですね(笑)。タイトルがタイトルだけに」
「優しい部分だけは変わらないから、大丈夫だろうなあって思いながら。でも、おばちゃんはちょっと心配してる(笑)。見た目とかで壁を作らず、それぞれの持つ“この人らしさ”を感じ取ることについては、YUKARIさんだったり谷さんが、生活の中で共鳴くんに教えてる。そういうことが普通で、当たり前だという環境で育ってる共鳴くんは、めちゃくちゃいいやつになるんだろうなとは思う。すでにいいやつですが(笑)。言わずとも感じるというか。例えば、谷さんは直接言葉で“これはこうしたほうがいい”とか“レーベルはこうあった方がいい”って絶対言わないんだけど、何かしらLess Than TVがLess Than TVたる部分をみんなで共有できていて。引き継いでいる人たちが、じわじわじわじわと“いる”みたいな。私もきっと一緒にいたことでそれを感じて、映画にしたんだろうなっていうのはすごい思いましたよ。だからこの際、谷ぐちさんの家に遊びに行ったらいいんじゃないかな(笑)。映画を見に来た人は抽選で1名とか、絶対面白い」