YOUNG MAS 「その時点で思いついたこと、やろうと思ったこと、出来ることを最大限にやったアルバムですね。だから、特に後悔したこと、もっとやっておけばよかったってことは特にないし、自分としては納得がいってますね」
――そして、8月に期間限定フリーダウンロードのミックステープ『PNC』を発表しましたよね。
YOUNG MAS 「その構想自体は去年の年末くらいからあって。一番最初に録ったのは、(KANDYTOWNの)MUDをフィーチャーしたラスト曲〈MAN'S MUSIC〉なんですけど、あの曲を1月に録った後、だいぶ間が空いてしまって。7月くらいに“やらないとな”って思って、一気に作り上げました。リリックは既に書けていたんですけど、スタジオの予約がなかなか取れなくて、それこそ、発表前日にはまとめて9曲くらい録りましたね(笑)」
YOUNG MAS 「普段、アルバムをリリースしているラッパーがミックステープを出すとしたら、どういうものになるんだろう?ってことを考えて、それを自分でやってみたという。ミックステープを作るのは初めてだったし、アルバム以外の作品で自分の好きなテイストを出せればいいなって思ったんですよ。そしてやってみて、ミックステープを出しまくるラッパーの気持ちが分かったというか。ミックステープはレーベルと関係なかったりするから、自分でコントロール出来るじゃないですか。そういう意味で自由だったし、作ってて、すごい楽しかったですね」
YOUNG MAS 「そう。『SO SOPHISTICATED』の完成が見えてきた時期から取りかかりました。その頃、GRADIS NICEに“トラックが欲しい”って電話して、送られてきたのが、10曲目に入ってる〈Yellow x Black〉なんですよ。で、その曲を録ったら、勢いがついて、最初はEPを出そうと思ったんですけど、作ってるうちにアルバムに発展していって、途中でSPACE SHOWER MUSICにリリースを持ちかけて、そのおかげでニューヨークに行ったりも出来たし、その流れは面白かったですね」
YOUNG MAS 「ふざけた音楽だからこそ、本気でやった方がいいと思うんですよね。(ネットのスラング辞典)Urban Dictionaryを調べれば、トラップがどういう音楽、カルチャーなのか、何を歌っているのかは分かると思うんですけど、俺からすると突き詰め方が中途半端というか……。あと、トラップと一言で言っても、俺とその周りの人たちが聴いているトラップとみんなが思っている一般的なトラップは違いがあると思うし、俺たちがいいと思うトラックはみんなが聴いても面白く感じると思うんですけどね。俺も色んな音楽のいいところを吸収した音楽が好きですね。例えば、トラップでも、サンプリングを使ったきれい目なサウンドなんだけど、低音とかキックは(リズムマシン)TR-808でボーンみたいな。クラブでもイケて、家でリスニング用にも楽しいっていう、そういうバランスのいい作品がいいなって思うんですよ。今回のアルバムもそう。トラップは、あのテンションについていけない人が多いと思うんですけど、こういうトラップもあるんだ?!っていうインパクトを与えられる作品になっているはずなので」
GRADIS NICE 「アルバムが出来上がる最後の方に作った〈The First〉と〈Roc A Fella〉をアルバムに入れたのは、トラップについていけない人たちのためだったりもするし、それだけじゃなく、リリックも色んな人が聴いて、感動出来るものになっているし、そのために今回のトラックは薄化粧で仕上げたところもあるので」
YOUNG MAS 「『SO SOPHISTICATED』は『THE SEASON』からブランクがありましたからね」
GRADIS NICE 「やり慣れただけでしょ? Febbとしては普通に戻った感じ」
YOUNG MAS 「いや、『THE SEASON』の切れとはまた違う“新しい普通”って感じですね。例えるとするなら、『THE SEASON』の切れ味がインディーズの切れ味だとしたら、『L.O.C』はメジャーの切れ味って感じかな。作品を人前に出すことを意識しつつ、なおかつ自分の持っている切れ味を最大限に提示しようと思ったら、今の形になっていったんです。あと、今回は言葉の重みを感じて欲しいんですよ」
――パーティチューンとしてのトラップの軽いノリも悪くはないんですけどね。
YOUNG MAS 「それだけじゃつまらないというか、俺らには俺らのノリがあるし、トラップは突然発生した音楽ではなく、ヒップホップと地続きの音楽であることは、このアルバムを聴けば、分かってもらえるんじゃないかなって」
Febb aka YOUNG MAS
――そして、このアルバムはサブタイトルに「-Talkin' About Money-」と付けられている通り、リリックでは金について歌われていますよね。
YOUNG MAS 「何でなんでしたっけ?」
GRADIS NICE 「モチベーション」
YOUNG MAS 「モチベーションではあるけど、それが最終目標というわけではないというか、あるというか。あれ? タイトルにするくらいのテーマになった理由は何でなんでしたっけ? タイトルが『L.O.C』だけだと寂しいからだったような……」
YOUNG MAS 「ああ、そうだった(笑)。たまたま、お金のことを歌った曲が多かったから、俺が付けたんです。ただ、お金と一言で言っても、ここでは色んな側面から歌っていて。例えば、〈Quiet Money〉では、音楽から生み出すお金というものが、俺らにとってどういうものかを歌っているし、〈The First〉ではお金について歌ったアルバムのなかで1曲だけ、お金のことじゃなく、俺はみんなに与える音楽という瞬間を生み出しているんだと歌っていたり。お金はただ入ってくるだけじゃなく、出ていったり、使ったり、なくしたり、貯めたり、色々あるわけですからね。一切のお金が介在しないという状況を含め、どんなことであっても、お金は関わってくると思うんですよ。それに対して、どういうスタンスでいるかということで、その人が見えると思うんですよ。そこをまずクリアにしてから行動を起こす流れがベストなんじゃないかって」
YOUNG MAS 「ありがとうございます。お金って、みんな欲しいとは思うんですけど、色んな状況があって、何でか知らないけど、沢山持ってる人もいれば、お金がホントに好きな人、欲しくても手に出来ない人もいるだろうし、そう考えた時に一面的に歌うのは違うと思ったんですよね」
――それから「QUIET MONEY」の“動く金”と“静かな金”という発想も面白いなと思いました。
YOUNG MAS 「ちなみに“QUIET MONEY”という言葉は、前作に参加してくれた(ラッパーの)AZがやってるレーベルの名前なんですよ。そこから発想して、俺らが音楽で稼ぐ金は静かな金だという一節に発展していったんですけど、俺にとって、音楽で稼ぐお金というのは、会社で働いたり、雇われていて、支払われるお金とは意味が違うんですよね。それがどういうことかは上手く言えないんですけど……曲を聴いて、考えてくださいってことにしてもらってもいいですか(笑)」
YOUNG MAS 「自分の周りは完璧なんですよ。ここで言ってるのは、そことは全く関係ない人たちですね。イケてるイケてない以前に何も思わないっていう。それって、イケてないよりも悲しいことだと思うんですよ。もちろん、そこにはいい曲もあったりしますけど、自分のやりたい音楽の範疇を超えてる、出られている人はなかなかいないし、みんな、どこかで妥協、迎合していていて、守りに入っているように見える。否定するわけではないけど、そういうスタンスはラッパーというより、ポップスのそれですよね。そうやって尖った部分をそぎ落として、口当たりの良い作品にするんじゃなく、ノリとヴァイブスだけで作った音楽を、ヒップホップとはこういうものですよということをよく分かっている人がまとめるべきであって、この先、そういうプロデューサーを必要としない、一人で何でも出来るラッパーが出てくると思うんですよ。自分としてはそういう未来の才能に負けないように切磋琢磨したいですね」