メッセージは“人間性の反逆”―― shing02、6年の制作期間を経てニュー・アルバムを発表!

SHING02   2008/06/18掲載
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  歪曲された社会に突き付けられる、究極の人源サンプリング集。グローバルな視点と変幻自在なスタイルにて、己の“ヒップホップ”を追求するMC/プロデューサー、shing02のニュー・アルバム『歪曲』がついにリリース。総勢30名以上にも及ぶアーティストとセッションを重ね、偏執的なまでに突き詰められたサウンド、まるで一遍の長編小説のように叙情性と高揚感を併せ持った歌詞、聴くものの深層心理をあぶりだす傑作が誕生した。



 その男、言葉の切れ味は極めて鋭利につき、世の中の嘘八百を一刀両断した2002年のアルバム『400』をリリース後、さらなる修練の旅へ。その道の途中では、自身がフェーダー・ボードやシンセサイザーを担当するスペース・ジャズ・トリオ、Kosmic Renaissanceでのライヴや作品リリースを行なってきたが、6年の歳月を経て、その成果がいよいよ世に問われようとしている。彼の名はshing02。カリフォルニアはオークランドと日本を行き来しながら、ヒップホップ・シーンに新しい風を吹かせてきた彼がニュー・アルバム『歪曲』をここに完成させた。

 「僕は新しいことを試みることに音楽の楽しさがあると思っているので、これまでのシーンの流れや今の状況がどうなっていて、そこにどう乗っていくかではなく、いかにそれを避けて、自分の流れを作っていくことを一番考えているんです。ただし、それは周りの状況と関わりを持ちたくなかったということではなく、自分が興味を持っていることの追求に手一杯だったということですね」

 これまでの作品においても、ベクトル・オメガという変名でトラック制作を行なってきた彼だが、今回の作品では彼の興味の矛先がサウンド面の追求に向かった結果、その完成には6年の歳月が必要であったという。

 「自分の中にイメージがあった独特なアナログ感を表現するべく、今回は機材を集めるだけで2年近くかかったんですけど、一つの質感として、曲を綺麗にまとめたかったわけではなく、どこか耳に残る尖った部分が欲しかった。音が回路を通して電気に変換されて、それがさらに増幅される音楽制作の過程は一つのマジックみたいなものだと思うんですけど、60年代、70年代のスタジオ・レコーディングって、そういう機材面での実験があったじゃないですか。僕は卓を使って、そこに何かを込めていくリー・ペリーみたいなスピリチュアルな人には共感しますし、自分もヒップホップを始めたからには、もう一つ上のレベルを目指して、サウンド面を突き詰めたいなと思ったんです」


 邦楽奏者を含む、30名以上のミュージシャンと密に行なってきたコラボレーションを濃縮してまとめ上げたトラックは、リリックと寄り添い合いながら、ディープ・スピリチュアルでトリッピーな世界観を現出させている。本作にあっては、まず、サウンド・クリエイターとしての彼の成長ぶりに驚かされるが、もちろん、ラッパーとしての才能も今まで以上に鋭く研ぎ澄まされている。リリックにおいては、これまで彼の特徴であった事件や今日的なトピックを扱う直接的なニュース性やSF的なストーリー・テリングを封印。過去から現在に至る人の営みを俯瞰、抽出したうえで、新たな世界やストーリーをエモーショナルな語り口で創造しながら、現代社会の多角的なメタファーをちりばめている。

 「人間は歴史を客観視することによって、その普遍性に気が付くんだと思うし、現在のことだけじゃなく未来のことが考えられると思うんですよ。今はテクノロジーを含めた社会的な変化によって、個人の在り方とか意識の持ち方、教育や家族の在り方が急激に変わってきていますけど、そこで生じた歪みに焦点を当てていて、言ってみれば、人間性の反逆がこのアルバムのメッセージですね」

 格差社会や戦争を生み出している新自由主義、地域社会や文化の独自性を破壊しつつあるグローバリズムのネガティヴな側面、あるいは人間性を剥奪し、管理社会化を押し進めつつある技術革新の弊害など、進むも地獄、戻るも地獄という泥沼な現実の風景とそれを塗り替えんとするヒップホップのリベラリズムや音楽そのもののポジティヴな覚醒感。この壮大なアルバムからあぶり出されるものは聴き手の視点によって異なってくるだろうが、繰り返し聴くことでにじみ出てくる高揚感は、彼がこの作品に託したささやかでいて揺るぎなく力強い希望そのものである。


取材・文/小野田雄(2008年6月)



【shing02、“wenod” 夜間店長として登場!】

『歪曲』発売日翌日の6月19日(木)午後、shing02が恵比寿のレコード・ショップ“wenod”の夜間店長として登場! 

※当日、wenodにてアルバム『歪曲』を購入の方を優先対象にサイン会を開催。さらに購入特典ロゴステッカーをプレゼント。
※wenod オフィシャル・サイト(http://www.wenod.com/

【shing02 出演 “GeshiFes2008 in 代々木公園”】

2008年6月22日(日)@代々木公園、13:00〜17:00
入場無料(運営費のカンパを集めています)
【出演】
 Shing02
※Live Set:DJ A-1 (turntables), 山口元輝 (drums), 竹島愛弓 (violin), Emi Meyer (keys, vocals)
 Emi Meyer (solo)
 DJ Top Bill
 HUNUNHUM
※オフィシャル・サイト/http://geshifes.cultivaders.com/

【iTunes Instore @ APPLE STORE SHIBUYA】

2008年6月23日(月)@APPLE STORE SHIBUYA, TOKYO、20:00〜20:30
入場無料
【出演】
 Shing02
※Live Set w/ DJ A-1 (turntables), 山口元輝 (drums), 竹島愛弓 (violin), Emi Meyer (keys, vocals) >
※オフィシャル・サイト/http://www.apple.com/jp/retail/shibuya/

【shing02 歪曲巡礼(ワイキョクツアー) 】

shing02の全国巡礼が、7月4日(金) 苫小牧 CLUB ROOTSよりスタート! スケジュールはオフィシャル・サイト(http://www.e22.com/shing02/)でご確認を。
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