きゃりーぱみゅぱみゅ が2018年第1弾となるデジタル・シングル「
きみのみかた 」をリリースした。曲調はしっとりしていて、歌詞には息苦しい同調圧力社会で少数派に押し込められがちな人々への温かいメッセージのような響きがあり、ジャケット写真やアーティスト写真も大人っぽい。デビュー7年目、25歳になった彼女のイメージ刷新か?とそそっかしく盛り上がったが、話はそう単純ではないのがアートの常、エンタテインメントの常である。きゃりーが語る真意に耳を傾けてみよう。
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――ヴィジュアルにはちょっと驚きました。
「2018年の抱負を考えたとき、今年はきゃりーぱみゅぱみゅの“続編”ではなく“新作”を作ろうと決めたんです。だからヴィジュアルも今までと同じじゃないのにしようって、スタイリストさんもヘアメイクさんもカメラマンさんも変わってないんですけど、提案をしてもらってできあがりました。みんなが思うきゃりーぱみゅぱみゅ像みたいなものがそれぞれあると思うんですけど、その期待をいい意味で裏切っていこうと」
――大人っぽい印象を受けたんですが、狙い通りですか?
「髪は地毛ですし、メイクも“囲み目メイク”っていうんですか、目を茶色で縁取りして。逆に、大人っぽくなるのってこんなに簡単なんだ、余裕だなって思いました(笑)。楽曲もちょっと今までと違った雰囲気だし、ラップを入れたりして新しいことをやってるので、ヴィジュアルも新しい自分を出していこうと」
――「きみのみかた」、いい曲ですね。メッセージ色の強い歌詞もちょっと新鮮です。
「2018年の時代について言ってると思いますね。わたしも昔はツイッターで好き勝手しゃべって炎上したりしてましたけど(笑)、最近は何を言っても叩かれたり、同調しないと“あいつうるせえな”って言われちゃったりする気がしてて。“トップのトピックご覧に 同調コメントばかり ふむふむでもね(違うなでもね)少数派は見えない”っていうくだりがありますけど、すごくわかると思いました。ネットのニュースでもコメントが賛否どっちかに塗り潰されちゃって、あんまり意見が割れてるのを見ないなって」
――サビ終わりが“掻き消されないメロディー”なのがいいなと思いました。少数派の声にも価値があるんだよ、って言ってくれているみたいで。
「実は“掻き消されるメロディー”っていうヴァージョンも録ったんですよ。1個目が“掻き消されない”で2個目が“掻き消される”だったと思います、最初は。最終的に両方“掻き消されない”になって、
中田(ヤスタカ) さんが何を思ってそうしたのかはわからないんですけど。たまに“どういう意味なんですか?”みたいなフレーズもあるんですけど、なんか空気感的に聞きにくいですね(笑)。前に聞いたときに“特に意味とか無いよ”みたいに言われたことがあって、あんまり話したくないこともあるのかな、みたいな」
――中田さんの歌詞って、若い人たちに「やりたいようにやんなよ」って言ってるみたいないい感じのメッセージがあるのが好きなんですけど、インタビューしたときに言ってみたら「いや別に……響きだけですね」って言われました(笑)。
「ありますよね、それ。こっちがいろんなこと想像するように仕向けているのはうまいなと思います。今度、お酒飲んだときに聞いてみよう(笑)」
――ラップしてみてどうでしたか?
「ラップはけっこう好きで、カラオケで歌ったりはするんですよ。
RIP SLYME をひとりで声を変えながら歌ったりとか(笑)。でも自分の曲で歌うのは新鮮だし、この前ライヴでも披露したんですけど(3月24日、25日開催〈POPSPRING 2018〉)、ちょっと韻を踏んでたりして気持ちよかったです。この曲はベタッと歌うとちょっとかっこ悪くて、“ご法度”のところとかも“ごhut!”みたいに、ちょっと英語っぽくリズミカルに歌ってます。レコーディングのときは、少し内容が重いので“もっと明るく歌って”って言われました。わたしはこういう歌詞だと力強く歌ったほうがメッセージが届くかなって思うんですけど、“ちょっとそれだと強いから”って」
――シングルとしてはこれまででも最高級にしっとりした曲だと思いました。
「こういう曲があると、ツアーのコンセプトも考えやすいし、ライヴで歌うと雰囲気が変わるし、すごく気に入ってます。でも中田さんが何を考えてるかはほんとわかんなくて(笑)、この〈きみのみかた〉は大人な感じだけど、今レコーディングしてる別の曲ではまた違った雰囲気なんですよね。きゃりーぱみゅぱみゅを大人っぽくしたいわけではないんだな、って思いました。わたしもあまのじゃくな性格で、常に人を驚かせたいなと思っているので、こういうのは楽しいです」
――僕なんかは職業柄もあってついついわかりやすく物事を解釈しようとしがちなので、大人のきゃりーぱみゅぱみゅを打ち出していくのかな?とか想像しちゃいました。
「さっきインタビューしてくれた方も超戸惑ってました(笑)。“大人っぽい”っていうので決めてきてたから、“違うんです”って言われてわかんなくなりました、みたいな。捉え方は人それぞれだと思うし、どんな解釈でもうれしいんですけどね」
――実際、大人だなって思うことはありますか?
「性格が変わってきました。以前はわりと物事を客観的に見てて“ドライだね”って言われることが多かったんですけど、最近は喜怒哀楽がすごい出てきて、涙もろくなりました。この前、2年ぐらいやってた『SCHOOL OF LOCK!』っていうラジオを卒業したんです。みんながくれた寄せ書きを読んでたら、毎回撮影に来てくれてたカメラマンさんが、ほぼしゃべったことないんですけど、“きゃりーさんがツイッターに自分が撮った写真を載せてくれてて、すごくうれしかったです”みたいに書いてくれてて、“そんなふうに思ってくれてたんだ”ってめっちゃ泣きました(笑)」
――感情が豊かになったのはいいことだと思いますよ。
「あと、年下とごはんに行くようになりました。今までは年上の方にごちそうしてもらってましたけど、最近は年下の人にごちそうしてます」
――逆にまだ若いなって思うこともありますか?
「変わらないところはびっくりするくらい変わらないんですよね。目のつけどころとか、笑いの感覚とか。でも“変わんないな”って思うことより“大人だな”って思うことのほうが多いです。プライベートで、赤い口紅を買ってみようかなとか、全然履かないんですけど、ヒールの靴を見てみようとか。やってみたいファッションの幅が広がって、楽しいです」
「どっちも飽きっぽいなって思います。わたしもけっこうヴィジュアル変わりますけど、彼女は髪型変えすぎ(笑)。でも真逆なところもあって、わたしには中田さんがいてコムアイには
ケンモチ(ヒデフミ) さんがいて、立ち位置的には似てるんですけど、コムアイは本番前に集中する時間が必要で、誰も入れないで30分とか1時間、楽屋にこもるらしいんですよ。でもわたしは本番前もおしゃべりしたり肩揉んでもらったりしてて、ステージ袖でちょっと屈伸するだけで出ちゃうんです。彼女には“すごい! わたしもそうなりたい”って言われましたけど、わたしは“コムアイかっけー、アーティストじゃん!”みたいな(笑)。お互いに“それいいな”って言い合ってます」
――あんまり緊張しないほうなんですか?
「するときはしますけど、めったにないですね。
SMAP と踊ったときぐらいです(笑)。自分がミスしたら忙しい5人に迷惑をかけちゃうって、そのときは超緊張しましたけど、基本的にはほとんどしないです。最近ワンマン・ライヴで何か自分なりの挑戦みたいなことを必ず入れるようにしてるんですよ。木琴を演奏したり、バック転をやったり。そういうときは少し集中しますけど、ちょっとイメトレするぐらいで、ひとりにはならないです(笑)」
――ライヴの話題から強引につなげますが、もうすぐ4回目のワールドツアーですね。
「今まではわりとみんなが知ってる曲を中心に、わかりやすい感じでやってたんですけど、今回は去年のハロウィンに日本でやった“THE SPOOKY OBAKEYASHIKI”のコンセプトを向こうに持っていくんです。まだどうなるかわかんない部分もありますけど、テーマパークみたいな楽しいライヴになりそうです」
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――海外でのライヴ経験も豊富ですが、国内外のいちばん大きな違いは何ですか?
「どこに行っても“待ってたぞ!”っていう熱意がすごくて、めちゃくちゃ盛り上がりますし、いい意味で動物っぽいですね。楽しいって思ったら叫んじゃうし、踊っちゃうし、泣いちゃうし。なんかかわいいです。日本にも熱狂的な人はいますけど、いいなと思ったときに起こるのは拍手だったり、歓声とかも目立っちゃうから恥ずかしい、みたいな人が多いじゃないですか。だからコアなファンの方は海外遠征するんですよ。みんな叫んだりしてる中で見るのがめっちゃ楽しいって言ってました」
――どっちがやりやすいとかありますか?
「うーん……海外のほうがやりやすいっちゃやりやすいですかね。あと毎回、自信がついて帰ってきます。海外のフェスを終えた後のライヴは“全然違った”ってよく言われます。なんとなくどっしりと気持ちが据わって帰ってくるのかもしれないです」
――海外でMCはどうしていますか?
「その国の挨拶をするくらいです。あとは紙に書いて読んでます。日本語でもしゃべるんですけど、この前〈POPSPRING 2018〉に出たとき、外国のアーティストのMCに(日本の観客が)なんとなく笑ったりしてるんだろうなって思いました。ニュアンスってあるじゃないですか」
――3月にケイティ・ペリー が来日したときお会いになったんですよね。お互いに大ファンだそうで。 「きゃりーぱみゅぱみゅも女の子の夢を叶える存在でいたいんですけど、ケイティははるか前からそれをやってて、世界観がすっごい確立されてるんですよね。サービス精神もすごくて、子供からお年寄りまで、誰が見ても楽しいライヴを作ってることもリスペクトしてます。“きゃりーが来てるのならちょっと会いたい”って言われてライヴの前に会いに行ったんですけど、“あなたのファンよ。インスタも見てる”って言ってくれて。そのあとライヴで〈Hot N Cold〉を聴きながら、わたし高校生のときに自転車漕ぎながらめっちゃ聴いてたな……って思い出して、そんな人にあんな至近距離でほめられるところまで自分は行ったんだって思うと感動しちゃって、ずっと涙目で見てました。POPSPRINGで来日したアーティストも2組ぐらいきゃりーのファンだったし、こないだシルク・ドゥ・ソレイユを見に行ったときもメイクさんがファンで、海外に熱心なファンが多いんだなって思うことが増えましたね」
――YouTubeを見ても横文字のコメントが多いですもんね。
「そうですよね。もうちょっと日本でがんばらないと(笑)」
――デビュー7年目の今、最初のころと変わったなって思うのはどういうところですか?
「フェスの出演時間が昼下がりくらいになりました(笑)。最初のころは朝10時とか11時だったのが、やっと午後の1時〜2時になりました。この前、番組(SSTV『きゃりーぱみゅぱみゅのなんだこれTV』)にゲストで
清水翔太 さんが来てくれて、“10周年ってすごいですね”なんて言ってたんですけど、自分も7周年で、意外とベテランだなと思いました。でも、あっという間でしたね」
――2018年に見せていきたいものは?
「いろんなものを見せたいんですけど、さっきのインタビューで、
美輪明宏 さんが“わたしの後を継ぐのはきゃりーちゃんしかいない”って言ってたと聞いたので、美輪さんの期待に応えたいです(笑)。芯はブレずにきゃりーぱみゅぱみゅらしく、そこをベースにしていろんなことに挑戦していきたいですね」
――ブレない芯の部分って何でしょうか?
「好きなものがほんとに変わらないんですよね。“今回のライヴはどうしますか”みたいなとき、毎回同じようなことを言っちゃうんです。例えば衣装の話のとき“こういうデザインで”って言ったら“このときのと似てるよね”って言われるみたいな。それ以上のことがあんまり浮かばなくて、一時期気にしてたんですけど、考えようによっては芯が全然ブレてないとも言えるんですよね。そこをいいほうに持っていくと、よりよい自分が見せられるかなって思います。だからベースは変わらずですけど、みんなを驚かせ続けたいですね。予想外のことを表現し続けたい。そうしないと自分が飽きちゃうから」
取材・文 / 高岡洋詞(2018年3月)