神奈川県逗子市にて開催される、映画上映・ライヴ・DJからなるパーティ〈Half Mile Beach Club〉。運営するクルーには、DJやフォトグラファー、VJ、バーテンダーなどと共に、バンドも存在し、本稿で紹介するのはその同名
バンド・サイド。1st EPとなる『
Hasta La Vista』から先行カットされた「Olives」はSpotifyのバイラル・チャートに選出されるなど、既に注目の片鱗を見せているが、そのEPで表現される、マッドチェスターやバレアリックの感触と、現行のインディ・ロックやダンス・ロックとの親和性も感じさせるサウンドは、音楽シーンにおける次の一手としての意志を感じさせる。現在の体制になってまだ1年弱という彼らの、確かな未来を感じさせるEPだ。
――Half Mile Beach Clubはクルーとしてイヴェントも開催されていますが、バンドとイヴェント・クリエイトはどちらが先だったんですか。
Miyano Mafuyu(g) 「最初はイヴェントですね。2013年から始めたんですけど、僕とヤマザキとツヅキで組んでた“Half Mile Beach Group”というバンドも、そのイヴェントでライヴをやってて。それがややこしいんで、バンド名も一緒にしたのが、2017年でしたね」
――イヴェントを始めたキッカケは?
Miyano 「メンバーにコバヤシという兄弟のDJがいるんですが(Kobayashi Ryo / Kobayashi Shin)、その2人と僕で、逗子のお互いの家で音楽を聴いてたんですよね。それを広げる形で、逗子周辺で音楽好きの集まるイヴェントがあればいいなって。同時に、逗子海岸の海の家が、クラブ・イヴェントっぽいことをやり始めて、環境が荒れたこともあって、2014年ぐらいから規制が始まったんですよね。元々の住人である僕らとしては、逗子の環境が悪くなるのも嫌だし、もっと音楽と逗子がいい関係になる状況を作りたいくて。それで、自分たちが思う、逗子に合う音楽を、街に提示できないかなという部分から始まったんですよね」
――みなさんご出身は逗子ですか?
Miyano 「このメンバーだと僕とヤマザキとアサクラが逗子ですね」
Tsuzuki Shinya(ds, per) 「僕とタカハシは横浜です」
Miyano 「逗子って、個人的にはどこにも属してないと思ってるんですよね。湘南の茅ヶ崎とかだと
サザンとか
サチモスが代表してると思うし、藤沢の方はレゲエのシーンがあって、横浜はヒップホップのやハードコアのシーンがある。でも逗子ってあんまりパッと思いつかないんですよね。
加山雄三さんとか、
キマグレンがいるんですけど、僕らが逗子に住みながら作りたい、聴きたいと思う音楽とは乖離を感じたので、僕らは僕らなりのフッドに対する音楽を作りたいと思って」
Yamazaki Yuhei(vo) 「リゾート的な部分は一部なんですよね。それよりももっと“普段の生活”の方が強い。実際、湿度も高くてカラッとしてないし。だから、いっとき海の家でかかってたような、EDM的なものよりも馴染む音楽があるよね、っていう部分が起点になってますね」
Asakura Takuya(synth, sampler) 「夏の海とは反対のイメージがあるんですよね。逗子の海も別にキレイじゃないし。オフシーズンの逗子のほうが愛着はあって、景色もそっちの方が好きなんですよ。逗子の街自体も、若い人が元気に賑わせてる訳ではないし、ある種、ダウナーな感じもある。それが逗子市民の総意とは思わないけど、個人的に好きな逗子は、そういう感じなんですよね。そこにフィットする音楽は、逗子からは今まで生まれてない気がして」
Miyano 「夏以外の季節の逗子にもハマる音楽があるし、イヴェントを組み立てる時も、それを考えていましたね」
――逗子を外側から見るツヅキさんとタカハシさんはいかがですか?
Takahashi Haruka(b) 「私は藤沢の方の、ミクスチャーやレゲエのバンド・カルチャーの中で活動することが多かったんで、ちょっとイケイケな人が多かったんですけど、逗子は同じ海がある街なのに、落ち着いた感じなんですよね。それが面白かったし、自分も落ち着いたんですよね。あと、みんな地域愛が強い」
Asakura 「俺は愛憎入り交じる感じだけど(笑)」
Takahashi 「でも、それは羨ましいなって」
Tsuzuki 「僕は高校の時からミヤノとヤマザキと一緒にバンドを組んでたんで、逗子のイメージは、友達と一緒にダラダラ過ごせたり、日常からちょっと離れられる場所ってイメージですね」
――なるほど。先程「逗子にあう音楽」という言葉が出ましたが、それは根本にあるものですか? それとも、様々な要素の中の一つ?
Yamazaki 「“逗子のフィーリングを体現しよう!”みたいなイメージよりも、イヴェントをキッカケに知り合った仲間で、組み上げていった部分が強いですね。コミュニティの中で生まれた会話だったり、つながりの中で、こういうのが合うよね、っていう部分が擦り合って、今のサウンドが生まれたんだと思う」
――「逗子の音楽を作りましょう」みたいな話だと、商工会議所が作るような感じにもなっちゃうけど、イヴェントの中で醸成された空気が音楽に反映されているし、同時にそれが逗子で行われているからこそ、生まれる部分もある、と。その相互作用の中で生まれていってるのが、自分たちの音楽というか。話はバンドの成り立ちに移りますが、Half Mile Beach Groupを結成していた3人に、アサクラさんとタカハシさんが加入したのは?
Takahashi 「1年ぐらい前ですね」
Yamazaki 「アサクラさんは東京でハウスやテクノのシーンで活動してて、僕らをイヴェントに呼んでくれたりしてたんですね」
Asakura 「共通の友人から紹介されて、音楽を聴いたらスゴく格好いいし、バンド編成なんだけど、打ち込みも基本になってたんで、テクノやハウスが中心だった僕らのイヴェントにも是非出て欲しいなって。且つ、ライヴがスゴく良かったんで、定期的に交流も増えていって」
Yamazaki 「並行して僕らが
SoundCloudに上げてた曲を聴いて、オファーしてくれるイヴェントも増えたんですけど、バンドの手が足りなくて、サンプラーやシンセでサポートして下さい、って形で、アサクラさんには加入してもらったんですよね」
Miyano 「僕らと共感する音楽性も、無い音楽性もあったんで、ぜひメンバーになって下さい、って」
Yamazaki 「タカハシさんは、僕がベース弾きながら、歌いながら、サンプラーも動かしてっていう、手も回んない形だったのを見かねて、ベース弾こうかって言ってくれて」
Takahashi 「お互いに高校ぐらいから、彼らと対バンをする機会があったんですね。だから友達でもあって。それで、ベースの手が足りないって話で、ライヴを見たら、あ、ベーシストとしては私が弾いたほうがいいのかな、って……失礼だけど(笑)」
Yamazaki 「みなまで言うな(笑)」
Takahashi 「それで入ったという感じですね(笑)」
Yamazaki 「それで現在の形になったんですけど、5人でライヴやったのは今年に入ってからなんですよね」
Miyano 「だから、今回は過渡期のEPでもあるんですよね」
――ではEPの制作はどのように?
Miyano 「バンドで“せーの!”で作ったっていうよりは、ドラム・パートは、アサクラさんがビートを組んでる曲もあるし、ツヅキがドラムを叩いてる曲もあったり、作り方はかなりばらばらで」
Yamazaki 「僕がデモを作るのが基本にはなってるんですが、これはツヅキにドラムを叩いてもらおう、これがアサクラさんに打ち込みでリズムを作ってもらおう、DJチームの持ってきた元ネタをサンプリングしてみよう、VJチームに全体のディレクションをしてもらおう……みたいに、ある程度の骨格とコンセプトから、色んな形で広げていってますね」
――サウンドの幅として、一定のトーンがあるけど、それぞれの感触が違うのは、それが影響しているんですね。
Asakura 「一貫しているのはギターとヴォーカルだよね。それが世界観を統一させてると思う」
Yamazaki 「バンドだから生楽器は必ず入れようみたいな部分で、フィーリングを統一させてるのかもしれない」
Miyano 「〈Monica〉を作る時は、メンバーで
プライマル・スクリーム『
Screamadelica』のドキュメンタリーを見てて(『メイキング・オブ・「スクリーマデリカ」ドキュメンタリー』)、こういうのを作りたいよね、っていうところから始まったり。そうやって漠然と話したものが、インスピレーション源になってる場合も多いよね」
Yamazaki 「酒飲みながら話題になったものが、原点になる部分があるかも(笑)。でも、そういう雛形やインスピレーション源を話してしまうと、そこにアレンジや構成が引っ張られる部分もあるから、そこはあんまりメンバーには話さないですね」
――構成としては、一つのフレーズやモチーフをどう演繹させていくかという方法論が強いですね。
Asakura 「そうですね。レイヤー・ベースと言うか」
Yamazaki 「ツヅキのドラムが元々フィルが少ないパターンが多かったんで、ループでもそのフィーリングが活かせるという部分もあって」
――ドラムにフィルが少ないのは?
Tsuzuki 「フィルが嫌いなんです」
――スゴい発言だ(笑)。
Tsuzuki 「高校生の時とかは“やってやろう!”みたいなのがあったんですけど、プライマル・スクリームとか
オアシスみたいな、イギリスのバンドを聴いて、シンプルなドラムなのに、上に乗ってくる音だったり、ヴォーカルの要素でグルーヴを生み出す部分があるじゃないですか。自分もそういう部分を活かせるドラムをやってみたいと思ってたら、気づいたらタムが無くなってて(笑)」
――ループやシーケンスとも違うんだけど、ドラムに「どや!」っていう派手さがない分、ミニマルなグルーヴが出ていますよね。ずっと聴ける感触になってるのは、ドラムの味付けが濃すぎないからなのかなとも感じて。
Tsuzuki 「〈Olives〉のビートは凝ってると思うんですけど、基本的にはルーディメンツというか、基礎練習的な部分を落とし込んでますね」
――リズム隊で言えば、ベースもあまり泳いだリフにはなりませんね。
Takahashi 「全体的にベース・ラインがループしてるので、そのフレーズを活かしながら、もっと生身の、ベースとして躍動感を出そうと思ったんですよね。ループだけどもっと有機的な感触のあるベースにしようって。そのタイム感はスゴく意識してますね。フレーズ的にはシンプルなんだけど、人間的っていう」
――泳ぐのではなく、タイム感でグルーヴさせるという。シンセも上ものもビートもと、効果的に使われていますね。
Asakura 「彼らのライヴは何度も見てたんで、その世界観はひしひしと伝わっていたし、理解出来てると思ってたんですね。だから、自分が今まで研究してきた、テクノやハウスのスキルや、機材の感触で、その世界観をもっと広く描きたいなって」
――「Olives」はサブスクリプションでのバイラル・ヒットを果たしましたね。
Yamazaki 「自分のよく聴いてるプレイリストに乗ったのが素朴に嬉しかったですね。
セイント・ヴィンセントと同じプレイリストに入ったのは嬉しかったし、そういう音楽を楽しむ人向けの枠に入れたのは単純に嬉しかった」
Miyano 「洋楽と感触として繋がると思ってもらえたのは嬉しいですね」
――洋楽的と言えば、ヴォーカルも「素材」として使われていますよね。言葉に意味性やメッセージ性が強くない分、外国語が不得手な人間にとっての洋楽的な感触になっていて。
Yamazaki 「日本語を強く乗せるのはあんまりさまにならないし、じゃあ英語で歌うのもネイティヴじゃないのになんか違うなって。その塩梅でいまのバランスになってると思いますね。楽器として人間の声が好きだし、そういう感じでヴォーカルを使いたいんです。ヴォーカルが中心にあるけど、歌ものにならない、でも無機的になりすぎない、っていうバランスが欲しかった。そして言葉としては不明瞭なんだけど、人間の声らしきものが真ん中にある、メロディを奏でてるのは人間の声なんだけど、それを楽器的に、アンサンブルの一つとして使おうと」
――今回のEPはマッドチェスターであったり、90S初中期のブレイクビーツ感を感じる部分がありますが。
Miyano 「DJチームが90年代のUKサウンドが好きで、その中でプライマルや
ハッピー・マンデーズを聴く機会が多くて、いま聴いても新鮮だと思ったし、それを今の解釈で作れたら面白いと思ったんですよね」
Yamazaki 「メンバーが共通で好きなのが、USよりUKなんですよね。あと、ミヤノが“今のバンドはディストーションが無くてダメだ! 俺らはもっとギターを歪ませたい!”って」
Miyano 「シティ・ポップ的なクリーン・トーンのカッティングに対して、もうちょっと歪ませても、もっと荒い音にしてもいいんじゃないかなって」
Yamazaki 「その時に『Screamadelica』みたいに、ダンス・ミュージックであり、ロック・バンドでもあるというバランスのフィーリングで作ったら面白いかもね、って。それで出来たのが〈Monica〉だったんですよね」
Asakura 「〈Monica〉は聞いた時に、めちゃくちゃ嬉しかったんですよね。この路線で行くんだ、って」
Miyano 「でも、マッドチェスターとかUKロックのテイストはあるけど、それとは非なるものを目指してる部分はありますね」
――ではEPを形にして見えたものは?
Yamazaki 「バンドの形も固まってきたんで、これからはより肉体的なものが作れるんじゃないかと思いますね。ライヴの回数も増えていくことで、これまでのフォーマットを踏襲しつつ、もっと新しい世界観を提示したり」
Miyano 「イヴェントにも、僕らのバンド目当てで来てくれる人も増やしたいですね。このメンバーで曲が作れるのがスゴく楽しみですね」
Tsuzuki 「個人的にはドラムンベースがやりたいんですよね。それは生ドラムで。単純に昔から好きなんですけど、ミクスチャーにならない感じの、"バンドのドラムンベース"が、いよいよ作れる時がきたんじゃないかなって」
Takahashi 「海外の人から好評なのが面白いんですよね。イギリスの人が“めっちゃ地元っぽいサウンドで気に入った”とか言ってくれることも多くて。サブスクリプションとかを通して、もっと海外の人にも聞いてもらえたら嬉しいですね。バンドとしては大きいフェスに出たいな〜って」
Asakura 「曲を根本から作るところから携わっていきたいし、更にバンド的なアレンジで広げていくことで、何かの固定的なイメージに縛られない状態でいたいですね。それに伴って、Half Mile Beach Clubの音楽を、自分たちの存在を広めたい。バンド・シーンもそうだけど、自分が現場にしてたクラブ・シーンにも愛されるようなバンドでいたいと思いますね」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2018年3月)