湯川潮音が約2年半ぶりとなるフル・アルバム『灰色とわたし』を発表。昨年末に単身渡英し、豊かな自然に囲まれたロンドン郊外のスタジオで制作に臨んだという今作は、必要最小限のアコースティック楽器のみで構成された簡素なサウンドや、自筆の油絵によるポートレイトを大胆にあしらったジャケットとも相まって、シンガー・ソングライターとしての彼女の本質が色濃く浮かび上がってくるような会心の作品に仕上がった。 昨年秋にリリースされたシングル
「ギンガムチェックの小鳥」の歌い出し、“閉じ込められた鳥かごの中へ”の“鳥かごの中”とは、当時、曲作りに悪戦苦闘していた自室の風景がモチーフ。2006年夏の
『紫陽花の庭』、2007年初めの
『雪のワルツ』と、ミニ・アルバムながら薫り高い作品をコンスタントに届けてきた湯川潮音も、ちょっとした壁に当たっていたようだ。
「大変なときでした。でも “小部屋ライブ”という企画を月イチで始めて、そこで必ず1曲新曲をやろうっていうことを目標にしてからは、ちょっとずつ曲が貯まりはじめたかな。なんかこう、去年一年があったことで、本当に大切なものはなんだろうっていうところに立ち帰ることができました。必要なものだけ残して、あとは身を任せてもいいんじゃないかって。大切だと思っていたものを少し手離したら、もっといろんなものが入ってくるようになって。それが去年の成果だと思いますね」
そんな彼女が、書き貯めた曲をレコーディングするために単身ロンドンへ向かったのは、昨年の暮れ。かつて短期留学していたこともあり、帰国後に自作曲を作るようになったことから、ロンドンはミュージシャン・湯川潮音の原点と言える場所。
「アルバムに入っている半分はこっちで書いていたもので、残りは向こう。最初、残りはセルフ・カヴァーとか、英語の曲のカヴァーとかでもいいかなって思ってたんですよ。同じ曲をやっても、きっと解釈が変わってくるだろうし、それでおもしろいものができるんじゃないかなって」
そして、結果的には全曲初収録曲となって完成をみたのがニュー・アルバム『灰色とわたし』。
「“ギターとうた”っていうところだけで作り始めた曲たちだったので、究極なことを言ったら“うた”だけでも成り立つようなもの、うたがあることによって他の楽器が聴こえてきたり、別の何かが聴こえてくるようなものにしたいっていうのは、プロデューサーのクマ(原田)さんと最初に話をしていて。タイトルのように、モヤモヤした、先行きの見えないような気持ちはありましたし、行ったのが冬で、曇りや雨の日も多かってたんで、もっとドヨ〜ンとした感じが音に出るかなって思っていたら、すごく風通しのよい、光の見えるものになりました。ミュージシャンはみんな初めて会った人たちなんですけど、萎縮しちゃうとか、音を録られることに縮こまっちゃうことはまったくなくて、むしろ、なんでも受け入れて自分のものにしていこうっていう気持ちになってましたね。あと、歌入れのブースの窓からおっきな木とその先に山並みが広がっていて、それを見ながら歌っていたから、自然と気持ちが開けた感じもして」
その“うたごえ”だけで空気を一変させる、世界を作るということに関しては、かねてから秀でた“天性”を発揮していた彼女だが、アコースティックな音作りに徹し、気分のままに記録されていった今作では、それをしみじみと感じずにはいられない。
「最初に録った自分のうたをプレイバックして聴いた時に、“私ってこういう声してるんだあ!”って、驚きました。それはもう、自分でも鳥肌が立つような感覚で(笑)。なんなんでしょうねえ……いろんなこと、ミラクルにミラクルが重なって、まぐれもあっただろうけど、そもそも音楽ってそういう魔法みたいなものだから、なるべくしてなったアルバムだなって思いますね」
取材・文/久保田泰平(2008年5月)
【『灰色とわたし』発売記念 湯川潮音インストア・ライヴ情報】
●タワーレコード新宿店
●7月21日(月・祝) 14:00〜
●タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
※タワーレコード新宿店・渋谷店・池袋店にてアルバム『灰色とわたし』をご購入の方に先着でサイン会参加券をお渡し致します。イベント当日、お買い求め頂いたCDとサイン会参加券をお持ち下さい。
●ヴィレッジヴァンガード下北沢店
●7月23日(水) 20:30
●ヴィレッジヴァンガード下北沢店 CDコーナー横スペース
※完全生音のアコースティックライブを予定しております。ヴィレッジヴァンガード下北沢店にてアルバム『灰色とわたし』をご購入の方に先着でイベント参加引き換え券をお渡し致します。イベント当日、お買い求め頂いたCDと引き換え券をお持ち下さい。また、この会場では、前方のお客様に座っていただくことになりますので、お荷物に余裕のあるお客様は、小さなクッションなどをお持ちください。