音楽を作り、演奏する――“覇道を往く”陰陽座の決意表明

陰陽座   2018/06/06掲載
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 譬え我が往く道が王道ではなく、誰にも理解されぬ“覇道”だとしても、行く手阻むモノは全て調伏してたゆまず進まん――。陰陽座14枚目のアルバム『覇道明王』は、そんな強固な意志を力強いヘヴィメタルに凝縮した作品である。妖怪モチーフ曲に女忍者を主人公にした“忍法帖シリーズ”、そして長尺の物語曲と、従来の陰陽座のメソッドを存分に活かしながら、重厚さにおいても旋律の美しさにおいても戦慄するほど粒ぞろいの全10曲。血沸き肉躍る十万億土への扉が今、開かれた。
――前作から1年半ぶりのアルバム・リリースですが、ここのところアルバムは2年、3年置いてのリリースだったので、ややスピーディーなペースのように感じますね。
瞬火 「そうですね。ただ、前作『迦陵頻伽』の前が『風神界逅』『雷神創世』という2作同時発売だったので、必然的に間隔が空いていたものが、どちらかというと通常運転に戻ったという感じなのかなと」
――その『迦陵頻伽』に比べると、今回の『覇道明王』はかなり対照的な作品になったなぁという印象で。ジャケット写真にしても美しい黒猫さんをフィーチャーした前作に対し、まさしく明王と化した瞬火さんの憤怒の形相に思わず変な声が出てしまいました。
瞬火 「……それ、絶対いい印象じゃないですよね? 嫌なものを見たっていう……」
黒猫 「ふふふ(笑)」
――違いますよ! このインパクトというか圧を出せるのは瞬火さんならではだなと。
瞬火 「そう……ですか(笑)。まぁ、『迦陵頻伽』という作品が陰陽座というバンドの持っている音楽性を最大限に振り幅広く表現し、美しい声で鳴くという『迦陵頻伽』の名の通り黒猫のヴォーカルを押し出しそうという意図の元に制作した作品だったので、その次に来るこの『覇道明王』という作品は全く違う肌触りのものにしようというのは、それこそ『迦陵頻伽』に着手する前から決めていました。陰陽座は結成当時からずっと“ヘヴィメタル・バンドである”と表明してきて、そのヘヴィメタルという言葉は世間一般で言われるような、ただ激しいだけの音楽ではなく、無限の可能性を持った音楽であることを『迦陵頻伽』では証明し。ただ、仮に“激しい”とか“ヘヴィである”ということがヘヴィメタルのある一側面だけを表した言葉だとしても、それはヘヴィメタルという音楽が持っている基本的な、とてもわかりやすい要素であることは間違いありませんから。そこを陰陽座が蔑ろにしてきたわけもなく、ずっと培ってきたものだということを、この『覇道明王』でしっかり示すというのが今回の意図です」
――常に数作先までアルバムのヴィジョンを用意していらっしゃる瞬火さんならではの、見事な対比性ですね。道理でストレートなヘヴィメタル色の強い作品だと思いました。
瞬火 「ただ、ヘヴィなところを押し出したヘヴィメタルなアルバムといっても、陰陽座が持っている核とか芯、メロディの部分は一切削ぐことはなく。どこを切っても陰陽座であり、どこを切ってもヘヴィメタルであるという……ま、言ってしまえばそれも通常運転というか、完全にいつもやっていることなんですが。出来上がった作品のニュアンスとして、明らかに『迦陵頻伽』とは違うものでありながら、明らかにどちらも陰陽座であると、そういうところを意図して作った作品ですね」
――確かに聴かせていただくと、メタルな曲とメロディアスでキャッチーな曲が交互に収まっていて……。
瞬火 「……交互に? あ、ホントだ」
黒猫 「気が付いてなかった?(笑)」
瞬火 「言われてみれば。ただ、別に意図して交互に並べたわけではなく、1曲目は絶対コレ、2曲目はコレ、その次はコレ……と、もうココしかないという場所に置いて行った結果、そうなっただけですね。それに例えば3曲目の〈以津真天〉にしても、シンプルにメタルな曲でもあり、シンプルにキャッチーな曲でもありますから」
――もちろんメタルな曲もキャッチーだし、キャッチーな曲もメタルですが、強いて分ければ……ということです。そして今作の大きな特徴が、これまで毎作品1曲は入っていたバラードが一つもないということで。
瞬火 「そうなんですよ。勢いのあるアルバムを作ろうとしていたとはいえ、やっぱり1曲くらいは……とバラードは作っていましたし、収録候補に最後まで残ってはいたんですが、今回は10曲という収録曲数にしようという意図があったので。最初に用意した20数曲から12、3曲にまで絞って、もう、これ以上絞れないから12にするか、いや、潔くバラードは無しにするか……と迷ったときに、バラードが入るか否かで一番影響を受けるメンバーであろう黒猫に意見を求めたところ、“いや、今回はいらないでしょ”と即答してきたんです」
黒猫 「いや、もちろんそのバラードもすごく良い曲だったし、このラインナップの中に入っていたとしても何ら違和感のないものだったんですけど、やっぱり、このズンズン進んでいくようなテンポ感だったり、歩みの力強さをずっと維持したアルバムがいいんじゃないかと思ったんですね。もちろん私が歌うという前提で作られたバラードだったので、一つヴォーカリストの見せ場の曲ではあったんですが、この10曲のバランスがすごく良いなと感じたので必要ないんじゃないかと。迷っていた瞬火の背中を押す意味で“いらないんじゃない?”って言ってみました(笑)」
――収録曲が10曲というのは、7作目の『魔王戴天』以来11年ぶりですよね。逆に、それまでは基本的にずっと10曲でしたから、そのへんも原点回帰かなと。
瞬火 「僕は世代で言うとギリギリCD世代なんですが、アナログLP世代の人だと1枚に10曲も入っていれば十分じゃないですか。LPの場合8曲とか9曲もザラで、CDになってから10曲超えも当たり前になってきたけれど、個人的には17、18曲とか入ってるアルバムはちょっと多く感じるんです。なのでCDであることを考えても、12、13曲っていうのが僕の中のスタジオアルバムの限界だなと考えてやってきたんですが、もはや今はダウンロードがスタンダードになってきている時代じゃないですか。もちろん昔ながらのファンの方はダウンロードで買うとしてもアルバム単位で買ってくださるでしょうけど、今の音楽を楽しむ若い世代の方は、アルバム単位というよりは気に入ったトラックを買うという感覚のほうが強いと思うんですね。そうなるとアルバムが何曲入りかなんてどうでもよくて、CDだから12曲くらい……という配慮も意味を為さなくなってきている。だったら、昔から自分が一番好きなアルバムの収録曲数である10曲にしようと、それだけのことですね」
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――なるほど。では『覇道明王』というタイトルに込められた意味は? “覇道”を辞書で引くと“王道”の反対語と出てきますが……。
瞬火 「そう。本来は“覇道”って全く良い意味じゃないんですよ。あるべき“王道”とは真逆のもので、ものすごく有り体に言うと、王道が善なら覇道は悪なんです……が、そういった辞書上の意味はこのアルバムには全く込めていなくて。陰陽座を結成してから、とにかくできるだけ良い曲、音楽を作り、それを一生懸命的確に演奏し、実演することがバンドの存在意義であり価値であると信じて、僕たちは粛々とやってきたわけです。ところが20年近くやってきて、いよいよ確信に変わってきたのが……どうも、ただ粛々と曲を作って演奏するというのは全く王道、つまりスタンダードではないぞと」
――どういうことでしょう?
瞬火 「メジャーというシーンで商業的に活動しようとしたら、ただ曲を作ってライヴするなんていうやり方では成立しないし、続きもしないし、道ができもしないんですよ。普通は。僕ら自身メジャー・デビューしてみたら、“こうしていかないと生き残れない”というようなことがいろいろと襲いかかってきて。その中で自分たちの歩む道として問題なく呑み込んでキッチリやれると判断できることならいいとして、そんなことをやったらバンドとして恥ずかしい、と思ったことは絶対やらないというふうに取捨選択して、今日まで基本的には音楽を作り、演奏するということだけで続いてきたバンドなんです。陰陽座というものは。つまり僕たちが道なき道を切り拓いて通ってきたこの道は、どう考えても世間で言うところの王道 / 正道ではなく、むしろ全くの覇道を歩んできて、邪道という扱いを受けているなという結論に至り。とはいえ、僕たちが欲しいものは“王道である”という評価ではなく、今、歩いているこの道――つまりは覇道そのものなので、じゃあ、僕たちは覇道を往くバンドであろうと」
――そんな覇道を20年続けられたのは、陰陽座だからこそですよ。きっと他のアーティストではなしえなかった。
瞬火 「実際、デビュー当時に陰陽座を傍から見ていた人たちは“あんな色モノなのに突っ張って硬派ぶってるバンド、何年もつだろうね”って、冷ややかに見ていたでしょうね。実際、20年もちましたよと、今の時点では言えるわけですが。そうやって覇道において立ち塞がり、障害となることを一つひとつ降伏していく明王――つまりは覇道の明王としてあらんという決意表明なんです。この『覇道明王』というタイトルは」
――即ち覇道明王=陰陽座そのものということですよね。
瞬火 「そうですね。覇道明王と書いて“おんみょうざ”と読むくらいでもいいです」
黒猫 「私は最初にタイトルだけを聞いたので、そういった意味合いがあるとは知らなかったんですけど、この『覇道明王』という字面から何か本当に力強く、信念のこもったものになるだろうとは感じましたし。明王であっても"覇道"なので、やっぱり陰陽座が歩いてきた道のりというものは、ものすごく込められたものになるんじゃないかという予感はしましたね」
――まさしく1曲目の「覇王」から、覇王として立たんという陰陽座の心意気を雄々しく表し、2曲目の「覇邪の封印」でキャッチーに展開する流れは陰陽座作品の一種“王道”と呼べるものですが、この“覇邪”とは覇道と邪道のことですよね?
瞬火 「そうです。だから、これは何かに対して“覇邪”と言ってるんじゃなく、ここで“覇邪”なのは陰陽座のことですね。外から見たらネガティヴで覇で邪なんでしょうけど、僕たちの歩んできた道なので、自分たちとしては間違ってはいない」
――そんな覇邪たる陰陽座からの、何か痛烈な批判を歌っているように感じたのですが。
瞬火 「そう思ったということは、きっと清水さんが何かを批判したかったんでしょうね(笑)」
黒猫 「上手く返した(笑)」
瞬火 「……というちょっと意地悪な返しは置いておいて。ま、これをすごく平和的な歌詞と取る人はいないでしょうし、何かに憤っているところが感ぜられるとしても、それをハッキリ“最近こんな腹立つことがあってさぁ”と言葉にしてしまうんだったら、この曲を作る意味がないですよね。なので、なんとなく歌詞の言葉を拾い行間を読んで、それぞれが想像したり汲み取っていただければ充分です」
――おっしゃる通りです。ちなみに昭和の時代、同名のRPGがありましたが、そちらとは無関係?
瞬火 「内容は関係はありませんが、すごく好きなゲームではあります。中二的なセンスかもしれないんですか、カッコいいじゃないですか? 〈覇邪の封印〉っていうタイトル(笑)。だから、すごく昔の骨董品レベルのゲームですけど、いつか曲の名前に使いたいなと思っていたので拝借しました」
――となれば今作でこそ使うべきタイトルですよね。そして次の「以津真天」は妖怪をモチーフにした曲ですが、今作の妖怪曲は他に「一本蹈鞴」と「鉄鼠の黶」の計3曲?
瞬火 「そうですね。ただ、これは“いつまで”と鳴く鳥のような姿をした以津真天という妖怪そのものについて歌っているわけではなく。何がいつまでなのか?というところを想像したときに、今まで覇道を歩んできた陰陽座の歩みがいつまで続くのか?ということに繋がってしまった結果、陰陽座のことを歌っています」
黒猫 「アルバム・タイトルが陰陽座そのものを表しているように、歌詞も陰陽座のことを歌っているものが多かったので、歌っていても気持ちはすごく込めやすかったですね。〈以津真天〉も曲だけ聴いているとスピーディーに駆け抜ける、これぞスラッシュメタル!っていう曲なんですけれど、Aメロはこぶしを利かせているので、普通ならどうしても歩みが遅くなるイメージになるんですよ。それが、このスピードで演ることによって逆に加速感が増すというのが瞬火らしい乗せ方で、さらなる進化を感じながら歌えました」
――ヘヴィに唸る「以津真天」に続き、TVアニメ『バジリスク 〜桜花忍法帖〜』の主題歌として書き下ろされた「桜花忍法帖」が流麗な旋律を聴かせるのも抜群のコントラストで。陰陽座について歌っている詞が多いということは、もしや、荒々しく轟く「隷」も陰陽座自身のことを指しているんでしょうか?
瞬火 「ひいては陰陽座とも言えますが、これはどっちかっていうと瞬火個人ですね。我ながら溢れまくる創作意欲が……恐ろしくなって」
――え?
瞬火 「自らを奮い立たせたり絞り出したり、自分が能動的に出しているつもりだけれど、実は全くこの世のものではない、どこかから出現する物体X的なものが、僕という“隷(しもべ)”を使って外に出ようとしているんじゃないか……いや、違う。間違いなく僕自身の中から生まれてきたものだ、という、ほとんど無意味とも思える自問自答の曲です」
――それ、ちょうど編集部の方と話していたんですよ。いったいどこからあれだけ緻密で、深い知識に裏打ちされた歌詞と物語が生まれてくるのか? 瞬火さんは恐ろしいって。
瞬火 「瞬火、引くわ!って?」
――いえいえ! この歌詞にある通り、まさしく天佑(=天の加護)だとでも解釈しないと納得できない。それくらい想像力と創造力が豊かで圧倒されるということです。
瞬火 「まぁ、僕自身が引いてますからね(笑)。だって『覇道明王』を作り終えた直後に、普通だったら全て出し切って、もう、しばらく何も作りたくない!ってなるはずのところ、僕、もう次のアルバムを作りたくてたまらないんです」
――さすが(笑)。ちなみに「隷」のBメロで“商売繁盛”と空耳させているのは意図的なもの?
瞬火 「そうです……が、この箇所インタビューでやたら指摘されるんですよ。僕の中では“背負う蠅が繁冗する”と“商売が繁盛する”が音も意味も繋がっているので、自分が一人ほくそ笑む用に書いた歌詞のはずが、今回ことさらココが面白いって言われて。 いや、他にもいっぱい良いところあるからって言いたいけど……ま、音が面白いことも歌詞の面白みの一つですからね」
――それだけ耳に飛び込んでくるインパクトが強いんですよ。音といえば「隷」のヴォーカルは紋切り調で、ちょっと読経っぽく聴こえるのに対し、続く「腐蝕の王」はパッと聴き英詞っぽく聴こえるのも面白い。
瞬火 「そこも意図的にそうしたわけではなく、僕も黒猫も、もともとは音符を跨って言葉が交錯するという歌詞の載せ方が好きではないんですね。音符に対して言葉がキッチリはまっているのが好きなので、陰陽座の曲は基本的にそうなっているんですが、たまには音符を跨ることでノリ方の面白みを出せれば……とやってみただけです」
――結果、突き抜けてキャッチーな曲になっていて、黒猫さんの魅力の一つであるメロディアスな歌が最高の形で発揮されているなと。
黒猫 「ありがとうございます。ただ、非常にキャッチーでメロディアスなんですけれど、どこか胸がざわつくような不穏な感じとか、ある意味すごくヘヴィな曲だとも言えるアレンジも施されていて。それに歌も合わせたかったので、非常にクリアで視界がパッと開けるような感じで歌い出しながらも、だんだんと歌い方を変化させて最初と最後では全然声が変わるという、自分の好きなパターンを込めました。そこも一つ、腐蝕の効果になっていればいいなぁって」
――その“腐蝕”という単語も一般的にはネガティヴなイメージですが、この歌詞の中ではそうではないですよね?
瞬火 「ないですよ。腐蝕という言葉を辞書で引くと、腐って朽ちるという意味ともう一つ、自然界では絶対に接触しない薬品であるとか物質を、主に金属に接触させることで能動的に腐蝕を起こさせて、良い意味で変質させて風合いを変えるという、ポジティヴな意味もあるんです。つまり、この曲で僕が何を言いたいのかというと、陰陽座が結成以来やっているのは先人が作ってきたヘヴィメタルを右から左に動かすことではなく。そのヘヴィメタルという鉄板を腐蝕させ、見たことのないような金属に変化させて“これが陰陽座のヘヴィメタルである”と提示しているんだということです。それに対して“アイツらはメタルを腐らせてる”と言う人もいれば、“こんなメタルは見たことも聴いたこともない!”と喜んでくれる人もいるだろうと。要するに陰陽座がやっていることは“腐蝕”と言えるもので、その腐蝕させるものの王に俺はなる……という」
――海賊王ではなく……。
瞬火 「そう。海賊王はちょっと今からだと無理そうなんで、腐蝕の王になってみせようと」
黒猫 「ははは(笑)」
――そういう意味では如何にキャッチーでメロディアスといえど、これも最高のメタル曲ですよね。しかも次は「一本蹈鞴」と、これまた金属繋がりの曲。
瞬火 「ホントですね、上手いこと繋がってますね(笑)。これも〈以津真天〉と同じく、一本蹈鞴という妖怪そのものを歌うつもりが陰陽座のことを……っていうパターンで。一本蹈鞴は主に一本足だとか、一本の棒のような姿の妖怪と言われていますが、その名にある蹈鞴=鞴との関連性について言及した言い伝えがほとんどないんです。ただ、やはり僕の中では一本蹈鞴という妖怪と鞴を踏むという行為は繋がってほしいので、何か一本筋の通った存在が一生懸命に鞴を踏んで、製鉄して、鋼を鍛える……っていう情景を思い浮かべたときに、それは即ち陰陽座だなと。結局これも陰陽座がどういう気持ちでヘヴィメタルをやっているか?ということを、ただ表明している曲になっているんですよ」
――なるほど。これも鋼を思わせる重厚なメタル曲になっていますが、間奏にかなり長尺のベースソロが入っているのが陰陽座では珍しいなと。
瞬火 「戦慄しますよね」
――え?
瞬火 「いや、ちゃんとギタリストが二人いてソロも弾いているのに、それを押しのけてあの尺のベースソロを、お前が弾くのか?!っていうのが、もう戦慄です!」
黒猫 「いや、そこもちゃんと意味がありますので。蹈鞴を“踏む”でしょ? だったらワウペダルを踏もうと」
――だからベースソロの前に、ギターもワウを踏んでいるんですね!
瞬火 「そう。鞴を踏むという行為をより音で強調するために、ワウペダルを踏んでいるんです。ただ、ギターのワウは当たり前のものすぎてピンとこないかもしれないので、あえてベースで野太くワウワウした……というコンセプトはいいんですけど。そのベース・ソロを瞬火ごときが弾いているという事実が戦慄するなっていう」
――いや、私はライヴが楽しみで仕方ありませんよ!
黒猫 「ですよね(笑)」
瞬火 「いや、そこは僕も戦慄です」
黒猫 「後ろを向いて弾こうかな?とか言ってましたよ」
――絶対ダメです! そして「飯綱落とし」のタイトル由来は、白土三平の劇画「カムイ外伝」に登場する忍術ですよね?
瞬火 「そうです」
――疾走感たっぷりのスピードメタルな展開といい、歌詞といい、歴代の“忍法帖シリーズ”に登場してきたくノ一の物語に属する曲のように思えたのですが……。
瞬火 「その通り、あの無敵の女忍者の曲ですね。『迦陵頻伽』の〈氷牙忍法帖〉でも彼女のことが語られましたが、その直後の話がこの〈飯綱落とし〉なんです。今回は〈桜花忍法帖〉が先にあって“忍法帖シリーズ”は間に合っていたので、その話は一回見送ることになるかなと思っていたのですが、早くあの女忍者の話の続きを書いていかないと間に合わない気がして。だからと言って“忍法帖”を二つ入れるわけにはいかず、外伝的楽曲として収めることにしましたが、実はあの女忍者が初登場した曲って〈卍〉なんですよね」
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――ああ、そうでした。「甲賀忍法帖」のカップリング曲だった「卍」に、『雷神創世』収録の「神鳴忍法帖」、前作収録の「氷牙忍法帖」と続いてきて。
瞬火 「だから、そもそも“忍法帖シリーズ”の中で出てきたキャラではなく、外伝でスタートしてから“忍法帖”に組み込まれていった話なんですよね。言ってみれば外伝と本編を自由に行き来できるヒロインなので、“忍法帖”を冠しない曲で歌うことはむしろ自然だなと思っています」
黒猫 「この女忍者を歌うときって、特にこういうメタリックな曲調の場合は今まではガッと怒りを表現することが多かったんですけど、今回は諦めの境地だったりある種の悟りだったりを背負って闘いに臨んでいる場面なので。怒りだけじゃなく、いろんな彼女の背負ってきたものを含ませて歌いました」
――中でもサビのファルセットは、特にグッと胸に迫りました。
黒猫 「ありがとうございます。あのファルセットは瞬火からの指定で。こういう曲調ですから、ファルセットを乗せたときにどうなるのかな?と思ったんですけど、逆に刺さるようなファルセットを使うことで、より胸に刺さるというか。彼女の心情が伝わる形になったように感じられて、自分でも非常に気に入ってます」
――今作における黒猫さんの、個人的には一番の推しどころです。対して瞬火さんのヴォーカルは「鉄鼠の黶」が圧巻で! 歌い出しからあまりの艶やかさに驚いて、よくよく聴いてみると、この曲って主人公のパートを瞬火さんが歌っていらっしゃいますよね。陰陽座のアルバムには毎回長尺の物語曲が収録されていて、黒猫さんが主人公を、瞬火さんが悪の側を担当されることが多いのに、今回は逆なところが今までにない歌声の艶を生み出している一因なのではないかと。
瞬火 「まぁ、単純に正義が悪に勝つという話でもないんですが、これは今作の妖怪曲の中でも唯一、鉄鼠という妖怪そのものについて歌っている曲で、確かに主人公である頼豪という僧侶を僕が、彼を謀略で嵌める悪役を黒猫が担当しています。言い伝えによると、この頼豪は騙され、侮辱されて屈辱を味わい、憤りのあまりに断食を強行して死んでしまった結果、怨みが強すぎて巨大な鼠に化けて出るんですね。ところが相手もお坊さんなので、お祓いされて終わり……っていう、僕の一番嫌いな結末になっているんです。そんなことで済ませるなんて許せないし、ただ、頼豪も非常に徳の高いお坊さんなので、そんな人が、直接殺されたわけではないのに怨んだ末に復讐を果たすというのも腑に落ちない。なので化け鼠になってしまった頼豪だけれど、涙ながらに悔いて謝ってくれれば許そう。ただ、謝らないんだったら……っていう余地を残した曲にすることで、頼豪阿闍梨には鉄鼠になっても徳の高い怨み方をしてほしいという僕の希望を表現したんです。要するに、僕はお坊さんだとか僧侶の人たちをものすごく尊敬しているし、したいからこそ尊敬できない面を見たときに、より腹が立ってしまうんですね」
黒猫 「それを受けて私のほうも、腹黒い計略を張り巡らしているくせに、お坊さんだからこそ穏やかに“そんなことするわけないじゃない”って静かに微笑んでいるような、自分で聴いても腹が立つような表情を歌に出してみました。何より、この曲はホントに瞬火の歌に惹き込まれるので、ぜひ世界に没頭して聴いていただきたいです!」
――素晴らしくドラマティックでした。そしてラスト曲の「無礼講」は恒例のお祭り曲で、弦楽器隊の出身地である愛媛・八幡浜市の方言がベースになっているのもいつも通りなのに、Cメロだけ標準語になっているのは何故なんでしょう? “ぼくたち”というワードを使っているのも、かなりレアですよね。
瞬火 「まあ、珍しいかもしれませんね。陰陽座あるあるだと“我”とかでしょうから」
黒猫 「そうですね(笑)」
瞬火 「じゃあ、なんでこのパートだけ方言を使わずに“ぼくたち”を使っているのかというと。ライヴという空間では無礼講で共に楽しく騒ぎましょうと歌っている楽曲で、このCメロは改めてお客さんとバンドが一体になれることを噛みしめているパートになっているんです。陰陽座のメンバーはお客さんが来てくれて、そこでライヴができるということを夢に見るくらい大事にしているから、願わくばファンの皆さんにも客席で陰陽座のステージを観ることを夢に見てほしい。だから、方言を使って陰陽座の歌詞を主に書いている僕の言葉として届けるのではなく、ファンもメンバーも全員が等しくこう思っているよね……ということを表すために、“ぼくたち”という普遍的な一人称にしたんです。そうすれば誰にとっても"自分"の気持ちとして捉えられるだろうと」
――私も含め、みんな夢に見るくらい陰陽座のライヴを楽しみにしていますよ。特に『覇道明王』はライヴの熱い情景がストレートに浮かぶ楽曲ばかりなので、8月24日から始まるツアーも楽しみです。
瞬火 「勢いがある曲が詰まっていますから、ライヴ映えするというのは聴いての通りだと思いますよ。アルバムを引っ提げてのツアーであるからには、アルバムの楽曲を十分堪能してもらいつつ。それが今までの曲と一体になって、一つのライヴになるというところを楽しんでもらうという、良い意味でそれだけですね」
黒猫 「皆さんアルバムを聴いて、この楽曲たちがどんなふうにライヴで再現されるか?っていうのを、すごく期待してツアーに来てくださると思うんですね。なので、その期待に応えられるように私自身も精進して臨みたいですし、とにかく陰陽座のライヴは何時如何なるときも、どんな曲をやっても最終的に笑顔になって“楽しかったね”と帰ってもらえるライヴなので。今回もそういう充実したライヴができるように頑張ります!」
瞬火 「一言付け加えさせていただくと。ヘヴィさを強調したアルバムになっていると言いながら、メロディアスさを強調していた前作『迦陵頻伽』と比較してもメロディの豊かさも、それを歌う黒猫の"歌"の存在感も、なんら覆い隠されることなくヘヴィさの中で冴えわたっているんですね。引けを取らないどころか、その部分もアップデートできたという気持ちもある。つまり『迦陵頻伽』よりヘヴィなものを期待してくださった方はもちろん、『迦陵頻伽』のようにメロディアスな作品を望んでいた方にも完全に応えられる作品になっていますので、とにかく聴いてみていただきたいです」
――ちなみに15枚目のアルバムタイトルは、もう決まっているんですか?
瞬火 「決まってます。さすがに、まだ誰にも言ってないですけど」
黒猫 「まだ私も知らないです(笑)」
――今作のツアーも始まっていないのにあれですが、早く聴きたいですね。
瞬火 「いや、僕ももう次が作りたくて仕方ないです!」
取材・文 / 清水素子(2018年5月)
陰陽座全国ツアー2018『覇道』
www.onmyo-za.net/
※会場により一部指定席あり。

2018年8月24日(金)
福岡 DRUM LOGOS
開場 18:00 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 16:00〜17:30
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ GreeN Music 092-714-0230



2018年8月26日(日)
佐賀 GEILS
開場 17:30 / 開演 18:00
※物販先行販売時間 15:30〜17:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ GreeN Music 092-714-0230



2018年8月29日(水)
愛媛 松山 W studio RED
開場 18:30 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 16:30〜18:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ デューク松山 089-947-3535



2018年9月1日(土)
大阪 なんばHatch
開場 17:00 / 開演 18:00
※物販先行販売時間 15:00〜16:30
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ 大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506



2018年9月8日(土)
青森 QUARTER
開場 17:30 / 開演 18:00
※物販先行販売時間 16:00〜17:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月23日(土)〜
※お問い合わせ キョードー東北 022-217-7788



2018年9月11日(火)
宮城 仙台 Rensa
開場 18:30 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 16:30〜18:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月23日(土)〜
※お問い合わせ キョードー東北 022-217-7788



2018年9月14日(金)
北海道 札幌 PENNY LANE24
開場 18:15 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 16:00〜17:30
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月30日(土)〜
※お問い合わせ ミュージックファン 011-208-7000



2018年9月21日(金)
富山 MAIRO
開場 18:30 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 17:00〜18:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ FOB金沢 076-232-2424



2018年9月23日(日)
愛知 名古屋 DIAMOND HALL
開場 17:00 / 開演 18:00
※物販先行販売時間 15:00〜16:30
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 6月9日(土)〜
※お問い合わせ サンデーフォークプロモーション 052-320-9100



2018年9月25日(火)
岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
開場 18:30 / 開演 19:00
※物販先行販売時間 17:00〜18:00
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 7月7日(土)〜
※お問い合わせ 夢番地(岡山)086-231-3531



2018年9月29日(土)
東京 TOKYO DOME CITY HALL
開場 17:00 / 開演 18:00
※物販先行販売時間 15:00〜16:30
スタンディング 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
チケット一般発売日 7月29日(日)〜
※お問い合わせ ディスクガレージ 050-5533-0888


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