ハラクダリ, GAZZA CROOKS(MIKUMARI / ILLNANDES)
――お二人の出会いについて教えてください。
MIKUMARI 「DJのCE$くんやね」
ILLNANDES 「CE$くんが名古屋からRC SLUMの人たちを大阪に呼んで、イベントをやったんですよ。みっくん(MIKUMARI)とか
ATOSONE 、
MC KHAZZ とか、みんな来て。そこで初めて話して、その後も地方でのライヴで絡みがあったり、あと、みっくん、
JEDI MIND TRICKS のTシャツ着てなかったっけ?」
MIKUMARI 「(RC SLUM主催のイベント)〈METHOD MOTEL〉ね」
ILLNANDES 「“そのTシャツいいね”っていう話から……」
MIKUMARI 「あれこれ話すうちに“この人、サッカー好きなんや”ってことが分かって」
ILLNANDES 「みっくんは野球派、もしくは球技なんか好きじゃないと思っていたんですけど(笑)」
ハラクダリ 「蹴るより打つ、じゃないの?」
MIKUMARI 「(笑)やかましいわ!」
――ILLNANDESはサッカー発祥の地、イギリス生まれなんですよね?
ILLNANDES 「まぁ、でも、それは関係ないですね。サッカーが好きになったのは日本での話だし、(イングランド主将にて名古屋グランパスエイトでもプレイしたゲーリー)リネカーには全く興味なく、好きな選手は
ラモス さん。スタイルでいったら、南米のサッカーが好きだったりするので」
――MIKUMARIもサッカー少年だったとか。
MIKUMARI 「サッカーもやってたけど、当時はローラーブレードをやってましたね」
ハラクダリ 「岐阜の光GENJIって言われとったもんな」
MIKUMARI 「でも、俺がサッカーを好きになったきっかけは、グランパスの監督だった
ベンゲル さん(元アーセナル監督)なんですよ。その前のグランパスは“なに、この弱いチーム”って感じだったんですけど、ベンゲルが来て、どんどん強くなっていくにつれて好きになって。ただ、自分はグランパスが好きというより、今はアーセナルが好きですし、なによりベンゲルのサッカーが好きなんですよ」
――つまり、GAZZA CROOKSは、南米のサッカーが好きなILLNANDESとベンゲルのサッカーが好きなMIKUMARIのユニットだと。グループ名の“GAZZA”はイギリスの選手、ポール・ガスコイン のあだ名から取られたものなんですよね。 MIKUMARI 「ポール・ガスコインは悪童といわれる選手で」
ILLNANDES 「俺らは悪童タイプが好きなんですよ」
MIKUMARI 「例えば、(スウェーデンの選手、ズラタン・)
イブラヒモビッチ 、(イギリスの選手)ジョーイ・バートンとか。問題を起こすけど、サッカーやらせたらスゴいっていう。まぁ、俺らもこういう2人じゃないですか」
ILLNANDES 「だから、不良のメンタリティを持ちつつ、というか、不良であるだけに、勝つためにストイックになった時、すごいパワーを発揮するっていう、そういうイメージでGAZZA CROOKSという名前を付けました」
MIKUMARI 「そもそも、このプロジェクト自体は俺から持ちかけたんですよ。最初はILLNANDESのMVを観て、“一緒に曲やろうよ”って声をかけたんですけど、話しているうちに、お互いのサッカー好きな側面がどんどん出てきて。それだったら、サッカーをコンセプトにしてやろうかって。そこからグダグダしてた期間を経て、実際に取り掛かってからは早かったですね」
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ILLNANDES 「スタジオに入ったのは合計4日間だったかな。最初は俺がみっくんの家で合宿して、その後、みっくんが大阪に来て、ENDRUNのスタジオで録音したり、名古屋の(JET CITY PEOPLE主宰の)鷹の目くんのスタジオに入ったり」
MIKUMARI 「でも、3曲目の〈CALDERON〉にフィーチャーしているハラクダリとTOSHI MAMUSHIはサッカーに全く興味がないので、2人は放っといて、こっちはこっちでサッカーの話をするっていう」
ILLNANDES 「あくまでヒップホップは通過点にしか過ぎないんですよ」
――ハラクダリとTOSHI MAMUSHIのラップを聞く限り、サッカーに興味がなさそうですもんね(笑)。
MIKUMARI 「〈CALDERON〉に関しては、アトレティコ・マドリードのホームスタジアム、エスタディオ・ビセンテ・カルデロンが題材で、そこでやる試合はいつもバチバチになるので、そういうイメージでラップしてくれたら何でもいいよって」
ILLNANDES 「肉弾戦というか、摩擦の歌」
ハラクダリ 「だから、そのテーマを解釈した俺の場合は性の肉弾戦ってことすね(笑)」
――はははは。しかし、それ以外の曲はサッカー・ネタが濃密ですよね。ILLNANDES aka K-FLASHが手がけた1曲目のインスト「GAZZIONAL ANTHEM」で使っているのは何のネタなんですか?
ILLNANDES 「ブラジル国歌です。2014年にブラジルでやったワールドカップのブラジル対クロアチア戦だったかな。ブラジルのホームゲームは観客が全員ブラジル人なので、スタジアム全員で国歌を歌うわけですよ。で、ブラジルの国歌は2ヴァースあって、曲が長いので、1ヴァースで演奏は終わるんですけど、2ヴァース目を観客がアカペラで歌ったものです。俺にとって、世界で一番テンションがアガる曲は
Naughty By Nature 〈Hip Hop Hooray〉でもなければ、
MOP 〈Ante Up〉でもなく、間違いなくブラジル国歌なので、そのサンプリングで作品を始めたかったんですよ」
――そして、2曲目の「MUNDIAL DREAM」の“MUNDIAL”というのはワールドカップを意味するスペイン語なんですよね。
ILLNANDES 「今日は履いてくるのを忘れたんですけど、アディダスには“MUNDIAL”っていうサッカーシューズもあったりするし」
MIKUMARI 「この曲では子供の頃にサッカー好きだったら誰もが夢見たであろうワールドカップだったり、子供時代のサッカーにまつわるエピソードを歌ってます」
――そして、この曲でサンプリングしているサッカーの実況は?
ILLNANDES 「
マラドーナ が5人抜きした時の実況です(笑)」
MIKUMARI 「ボールを持ったら、行けるところまで行くよっていう」
ILLNANDES 「つまり、俺たちにとってのボールというのは、ラップでいうところのフローです(笑)」
MIKUMARI 「ヒップホップというとバスケ・ネタが多いと思うんですけど、俺たちはラップとサッカーを混ぜるよっていう」
――グライムにはサッカー・ネタのリリックがちらほらありますけど、さすがにヒップホップの母国アメリカではそこまでサッカーが根付いてないですからね。
MIKUMARI 「今はアメリカにもメジャーリーグ・サッカーが出来たんで、昔よりは流行ってきてますけどね」
ILLNANDES 「でも、バスケもサッカーもストリートで遊ぶ感覚があるというか、相手の裏をかいたり、イメージしたり、トリッキーな動きは自分たちのラップにも影響があるような気はしますけどね」
MIKUMARI 「トリック……トリップ……(笑)」
――そして、4曲目の「ONE ON ONE」はMIKUMARIとILLNANDESが2人でばちばち火花を散らして戦っているイメージの曲ですよね。
MIKUMARI 「FC RC対バンガ大阪ですね(笑)。ENDRUNのスタジオで、用意しておいてくれたビートをもとに、“まずは俺が攻めの1ヴァース書くわ”って」
ILLNANDES 「それに対して、俺はディフェンダーの視点で書いて」
MIKUMARI 「その後に攻守交代して、俺がディフェンダー、ILLNANDESがフォワードの視点で書いて。そんな感じですぐに出来上がったんですよ」
――ソロ・アルバムを作るのは時間がかかったのに(笑)。
MIKUMARI 「そう。この曲は1時間くらいですぐ出来たんですよ(笑)」
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――5曲目の「PIG HEAD」は何やら物騒なタイトルですけど、この曲はポルトガル出身の選手、ルイス・フィーゴ がチームを移籍したことで古巣のファンからピッチに豚の頭を投げ込まれた事件がモチーフになったマニアックな曲ですね。 MIKUMARI 「サッカーのドープなところも歌ってみようかなということで、自分はフーリガンの視点でラップしてて」
ILLNANDES 「俺はフィーゴの立場で歌ってるんですよ。“ヤバい、狙われてる。でも、やるしかない”って。だから、ヒップホップにおけるビーフみたいなものですよね」
MIKUMARI 「周りにはこういうディープな話を分かってくれる人がいなくて。でも、ILLNANDESはこっちが1言うと10返ってくるんですよ」
ILLNANDES 「(笑)俺も。これだけ話題についてこられるやつはおらんかったもん」
MIKUMARI 「だからこそ、GAZZA CROOKSが出来たわけなんです」
――続く、出場停止を意味する6曲目の「SUSPENSION」もサッカーのラフな側面をヒップホップに重ねた曲です。
ILLNANDES 「この曲はケンカ両成敗ということで2人ともレッド・カードっていう曲なんですけど、イントロで使ってるのは(マンチェスター・ユナイテッドの名選手)
エリック・カントナ が退場になった実況の音声なんですよ」
MIKUMARI 「(笑)あいつも悪いからね」
ILLNANDES 「サッカーは揚げ足の取り合いでもあって、キレやすいやつをわざと挑発したり。勝つために綺麗なことも汚いことも渾然一体になっていて、日本の選手にはない、そういうアグレッシヴさはヒップホップによく馴染むと思いますね」
――そして、ラストの「ADDITIONAL TIME」は日本が1998年のワールドカップ出場を決めた“ジョホールバルの歓喜”の実況がサンプリングされていますが、今回はサッカー・オタク2人が実に活き活きとしていて、細かいネタが分からない人にとっても熱いムードは伝わる作品だと思いました。
MIKUMARI 「そうですね。やってみようかというところから始まって、やりたいことがどんどん出てきて。それが形に出来たこともそうだし、よその土地に住んでる者同士がこんなにトントン拍子でことが進むことなんてそうそうないですからね」
ハラクダリ, GAZZA CROOKS(MIKUMARI / ILLNANDES)
――個人的には、誰もが歌えるアンセムというか、サッカーでいうところのチャントにあたる1曲があってもよかったのかなって。
ILLNANDES 「ああ……」
MIKUMARI 「個人的には、今年ロシアでやるワールドカップの裏テーマを狙ってたんですけどね。プーチンにこのアルバム送らないかんのじゃない?(笑)」
――日本で作られるスポーツのテーマソングは歌謡曲的なものばかりで、カルチャーとしての音楽、スポーツの結びつきが薄い気がしますが。
MIKUMARI 「うちらはそうじゃなく、完全なファン目線ですからね」
ILLNANDES 「曲単位ではいい曲もあるのかもしれないですけど、EP1枚丸ごと、サッカーをテーマにした作品はないんじゃない?」
MIKUMARI 「ヒップホップ界で初やね」
――しかも、曲のネタはいくらでもありそうですし。
ILLNANDES 「日本がワールドカップでベスト16に入ったら速攻で出します」
MIKUMARI 「その時は強力なチャントを1曲作りますよ」
取材・文 / 小野田 雄(2018年5月)