20代から30代へ、そして母親へ。人生の大きなターニング・ポイントを回った
YU-A が3年振りに放つミニ・アルバム、その名は『
OFF 』。離れる、外れる、休む、脱ぐ、様々なニュアンスの感情を込めたタイトルのもと、集められた8曲の中には、これまで以上にナチュラルな素顔をさらすYU-Aがいる。代表曲「
ごめんね、ママ 」の最新リマスターや、
リンダ・スコット の名曲カヴァー「I've Told Every Little Star」など話題曲もたっぷり。これはYU-Aの二度目のデビュー作なのかもしれない。
――アルバム、3年振りですか。
「そうみたいですね。3年たっちゃいました」
――結婚されて、お子さんも生まれて。その間、音楽はまったくお休みしてましたか。
「ほぼ歌ってませんでした。10代からずっと仕事をしてきて、こんなに長いお休みをいただいたのは初めてでしたね。そういう意味でも"オフ"だったし、20代にいろいろとガチガチに固めてきたものを1枚ずつ“オフ”してきたなと思います。今までの作品以上に本当の意味でナチュラルな楽曲が集まったなと思って、『OFF』というタイトルを決めました」
――YU-Aさんは、デビュー曲「逢いたい… 」の頃はナキウタ、セツナソングと呼ばれて。アルバム『2 Girls 』の頃は“二面性”とか、『DREAM 』の時は“夢”とか、毎回テーマを掲げて楽曲を作ってきたイメージがあるんですよ。 「コンセプトを決めて、そこに向かって作品を作るのがすごく好きだったんです。そういう手法でずっとやってきたんですけど、今回は前作『
PURPLE 』ライヴ・ツアーの頃から少しずつ録っていた曲が自然と集まってきて“じゃあアルバムを出そうか”という、今までとはまったく逆の流れで作ったんですね。この3年の間に20代から30代になって、30前後って女性にとってはいろんな決断や選択をしなきゃいけないことが多い年齢だと思うんですよ。そういう時に書いた曲がたくさん入っているので、今までも“等身大”と言ってきたんですけど、今回のアルバムがもしかしたら一番等身大に近いのかなという気がします」
――というと?
「今振り返ると、10代・20代はかっこつけてたと思うんです。なりたい自分になろうとして必死に頑張ってたんですけど、20代後半ぐらいから、自分というものを認めざるを得ない時がやってくる。それを受け入れることが20代はできなかったし、見ないようにしていた自分もいて、それはそれですごくパワフルだし、青春だなと思うんですけど、そこと向き合わなきゃいけない時期が来るんですね。そうやっていろいろ考える中で、だんだんいろんなものを“オフ”してきたので。すごく体が軽くなりました」
――今回、あらためての自己紹介盤のような感じもありますね。代表曲の「ごめんね、ママ」がまた入っていたり。
「間隔があいたので、久しぶりの方は“お久しぶりです”ですし、はじめましての方には名刺代わりとして、昨年私の楽曲も各聴き放題サービスの配信も始まり、いまだにこの楽曲がいろいろなプレイリストに選曲され、私の曲の中でも今なお一番聴いてもらっているということもあり、リマスターして1曲目に入れました」
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――YU-Aさんのママに向けた歌ですけど。今は自身がママになりました。
「〈ごめんね、ママ〉は25の時に書いた曲で、その時はもう私は大人になったし、お母さんのことも理解してきたと思ってたんですけど、やっぱりどこか許せてない部分もあったりしたので。今自分が親になって“ああ、そういうことか”と思うことがたくさんあったりします。出産してから、まだこの曲を歌ってないんですよ。もうすぐ(ライヴで)歌うんですけど、どういう気持ちになるんだろう?と思いながら、楽しみです」
――今回、まさにオフっぽいというか、リラックスして聴けるような曲が多いですよね。
「そうなんです。今まではアップかバラードかのどっちかで、でも今回はミディアムが多いので新鮮だし、心地よく聴けると思います。いい意味で感情を揺さぶられすぎない曲というか、そういう曲が何曲か入れられてすごく良かったなと思います」
――2曲目「feeling」は、ミディアムのグルーヴがすごく気持ちいい。
「うれしい。〈feeling〉と〈Shaping Up〉はヨガがテーマで、私は小さい頃からずっと運動をやっていて、体を動かすことには自信があったので、みんなで何かやれる曲はないかな?と。でも私がステージで見せてるダンスをみんなでやりましょうと言っても難しいから。そこで“ヨガだったらできるかも”と思って、ライセンスをすぐ取って、ライヴのためにこの2曲を作りました。ヨガで言う“心技体”が私はすごく大事だなと思っていて、どれが欠けてもダメだし、それを整えるのにヨガはすごくいいなと思っているので」
――はい。なるほど。
「ヨガをしていると自分の体に集中できるから、普段は気づかない体の不調に気づいてあげられたりするんですよ。精神的にも、日常の中ではいろんなことを考えているけど、どんどん流されて、結局何も解決しないんですけど、でもヨガの時間ならあらたまっていろんなことを考えられるし、逆に何も考えない時間も作れるし、それがすごくいいなと思っていて。それをライヴでみんなでできたらいいなと思って書いた2曲ですね」
――2、3曲目は実用的ソング。
「〈Shaping Up〉はダイエットしたくて書いた曲ですね。ちょっとしたおふざけソングです。出産後に20キロ太ってしまって、10キロしか落ちてないので、そろそろ本当にヤバい(笑)。この曲で踊らなきゃと思ってます」
――リンダ・スコット「I've Told Every Little Star(星に語れば)」のカヴァー。これは?
「子供を寝かしつける時に歌を歌うんですけど、この曲でよく寝るなという感覚があって。適当に口ずさんでいたんですけど、だんだん歌詞を覚えてきて、あらためて聴き直してみたんですよ。そしたらリンダ・スコットの歌声がすごく独特で、可愛らしくて味があるから、私が歌ったらどうなるかな?と。誰が歌ってるか知らなくても、いろんな人がカヴァーしたり、何十年たってもTVで流れたり、そういう曲って本当にパワーが強いんだろうなと思うので。アルバムには毎回1曲カヴァーを入れていたので、今回はこの曲にしました」
――「30-My Thirty-」も、新しいミックスで再収録ですか。
「この曲はデジタル配信で出ていて、CD盤にはなっていなかったんです。それを生バンドで、語りで、やってみました。30歳になる1日前にレコーディングしたんですけど、すごい暗いですよねこの曲(笑)」
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――暗いというか(笑)。30歳になる葛藤が赤裸々に描かれていて、痛いですね。ある意味。
「この曲は言葉をぐさぐさ刺していきたいと思ったので、語りにしてみました。ちょうど30代になる頃の人が聴いたら、ぐさぐさ来ると思いますよ。歌詞には実体験もそうじゃないものも入ってるんですけど、誰しもが通るところだし、“どんな30代の大人になるんだろう?”っていう不安もあるけどワクワクもある。20代後半も十分大人なんですけど、やっぱり女性にとって30歳って、日本が作り上げた固定概念というか、植え付けられてるじゃないですか。30ってすごく大きいんですよ。“終わる”みたいな感覚があって」
――うーん。そうですか。
「女子にはみんなあると思います。その壁が女性を苦しめてる部分もあると思うし、男性が、30歳の女性を見る目線も変わるんですよ。シビアですよ。顔と年齢に関しては、男の人はすごくシビア」
――それは、全男性を代表して謝ります。今後そういうことは絶対にいたしません!
「(笑)女性も30代で仕事してるし、だんだん変わってきているとは思います。でもきっとこういうことって、30代になる時にみんな通る道なのかなと思います」
――ラスト・チューン「君に詠フ」は、お子さんのことを思って書いた曲だと聞きました。
「子供といると、何もないのに突然泣けてきたり、キュンキュンしたり、そういうことが日々あるんですね。すごく不思議なんですけど、その気持ちを曲にしたいなと思って書いた曲です。子供に限らず、愛情というもの自体が……私は愛情=願いなのかなと思っていて。“こうあってほしい”という、その人を思って願う気持ちが愛情なのかな?と。その人のことを思って願うって、愛ですよね」
――そうかもしれない。いや、きっとそうです。10年前に「願い」を歌ったYU-Aさんの口から、同じ言葉が出てハッとしました。
「そうですね(笑)。あの歌詞は、
童子-T さんが私のことを取材して書いて頂いた曲なので。あの時は願い=愛情なんて考えたこともなかったけど、自分より大切な存在ができて、そういうふうに感じるようになれましたね」
――では最後に、みなさんへメッセージを。
「あらためまして、YU-Aです。女性のみなさんにはいろんな葛藤を抱えて過ごす年頃があって、30じゃなくてもみんなあると思うんですけど、それを真正面から歌っている曲もありますし、ぜひ聴いてもらって、素敵な30代にしましょう。“30代はすごく楽しい”という話もよく聞くので、楽しい30代にしたいですね」
――あ、そう、ひとつ言い忘れてました。DVD付きのType-A には、豪華出演者によるショートフィルムが入っているという、これはすごい力作じゃないですか。 「
森川 葵 ちゃんと
成田 凌 くんに出演していただいて、〈Always〉という曲でショートフィルムを撮りました。脚本は曲からイメージして監督が書いてくださったのですが、夢を追う男子とそれを支える女子の物語で、だけどいつの間にか逆転して、葵ちゃんのほうが先にどんどん行ってしまう。凌くんは“目を覚ましなよ”って活を入れられるんですけど、プライドが邪魔して素直になれなくて、二人のバランスが崩れていく……というお話で、すごく面白いです。私、PVしか撮ったことなかったので、見させてもらって“ああ、俳優さんだなー”と思いました」
――そのままじゃないですか(笑)。
「PVじゃ表現しきれない細かいニュアンスが、ショートフィルムではできるんですよね。セリフもあるので、より感情移入しやすいものになってると思います。葵ちゃんと凌くんは今激アツのお二人だし、ぜひチェックしてほしいなと思います」
取材・文 / 宮本英夫(2018年5月)
YU-A Mini Live & Sign Session