知名定男のプロデュースのもと、沖縄を代表するヴォーカル・グループとして1990年の結成から今日まで活動を続けてきた
ネーネーズ。そんな彼女たちも現在のメンバーで五代目となる。2016年の元旦に『
DIKKA』を発表して以降、ハワイや台北でも公演を行うなど精力的に活動してきたものの、今年の1月にはメンバーのひとりである世持 葵が脱退。上原 渚、本村理恵、沖山美鈴というグループ史上初の3人編成となり、約2年ぶりとなる新作『
MAPAI』を作り上げた。アイ・スリーズ編成に生まれ変わったネーネーズによる、今までにないオキナワン・ポップス・アルバム『MAPAI』。本作はどのような思いのもとで制作されたのだろうか?
――今年の1月、世持 葵さんが脱退されたわけですが、そのことについてみなさんどう思われましたか。
本村理恵 「辞めると聞いたときは……“マジか”って感じですね(笑)」
上原 渚 「ひとり抜けるのであれば、誰かが新たに入ると思ってたんですよ。でも、社長から“3人でやっていこうと思ってる”と言われて」
沖山美鈴 「ひとり抜けたことをまだ受け止められていない状態で3人でやっていくという話を聞いたので、感情の揺れが激しくて」
本村 「とりあえず、ちょっと待って!って感じ(笑)」
――そもそもなぜ3人でいこうと?
知名定徳(ディグ音楽プロモーション代表取締役) 「4人だとステージ上でちょっと動きづらいんですけど、3人だと動きが出るんですよ。立ち位置がどんどん変わる。そういうステージはファンのみなさんから見ても楽しいんじゃないかと思ったんですね。あと、今まで1/4だったものが1/3になると、ひとりひとりが背負うものが大きくなるわけですけど、この3人であればそれができるんじゃないかと思ったんです」
――3人でやりはじめた当初は戸惑いもあったんじゃないですか。
本村 「そうですね。今まで4人で歌ってたものを3人で歌うので、最初は気張っていた部分もあった。4人分の厚みがないと、感覚的にちょっと違和感があったんですよ」
上原 「2ヶ月ぐらいライヴを続けるなかで、ようやく3人の形に慣れてきました。“無駄に気張らなくてもいいんだ”と思えるようになった」
本村 「今はむしろ4人のときよりも気張らないで歌えるようになりました」
ネーネーズ(沖山美鈴 / 上原 渚 / 本村理恵)
沖山 「3人だとモニターの聞こえ方も全然違うんですよ。ひとりひとりの細かい部分がよく聞こえるし、今まで気づいていなかった部分にも気づけるようになりましたね」
本村 「そうそう。自分自身の苦手な部分も分かるようになったし、3人でどこを克服していけばいいか考えられるようになりました」
――今回のアルバム『MAPAI』はいつ録ったんですか?
本村 「4月末ですね」
――ということは、まさに3人編成に慣れてきて、自分たちの歌と向き合うようになってからのネーネーズがここに収められているわけですね。
上原 「そうですね。ネーネーズって毎回そういうタイミングでアルバムをレコーディングしてるんですよ。新しいメンバーになって半年後、まだワサワサしている時期だったり。今回もまさにそういうタイミングでしたね」
――そういう時期の貴重な記録でもあるわけですね。
本村 「知名定男先生はまさに“レコーディングは記録だよ”とよくおっしゃってますね。完璧に仕上げなくていいと。だから、録音のときもそう何度もやらせてもらえないんです」
――今回アルバムを作るうえでテーマはあったんですか?
本村 「誰もが口ずさめるポップなものというのはコンセプトとしてありました。あと、メンバーでも作詞作曲してみようと」
沖山 「あと、最初のテーマとしてダンス・ミュージックというキーワードもありましたね。2曲目の〈千惚り万惚り〉はまさにそういう曲で、作曲の前川真悟さん(
かりゆし58)にダンス・ミュージックというテーマで作っていただきました」
――この曲はすごくおもしろいですよね。ベースの効いたエレクトロ・ダンスホールで、こういうネーネーズは初めて聴きました。
上原 「かつてネーネーズが(
ボブ・マーリー&
ザ・ウェイラーズの)〈No Woman No Cry〉を沖縄方言で歌ったことがあるんですが(93年作『
あしび』収録)、それと同じことを2018年にやるとこうなる、というものを真悟さんは目指したみたいです」
――なるほど。ネーネーズ・ヴァージョンの「No Woman No Cry」には“千惚り万惚り”という歌詞が出てきますけど、ある意味オマージュになってるわけですね。
上原 「そうですね。真悟さんはそのフレーズが好きで、今回の曲でもふんだんに〈千惚り万惚り〉を入れたんです」
――本村さんの作詞作曲曲が3曲入ってますよね。以前から曲は作ってたんですか?
本村 「いや、今回をきっかけに作り始めました。前々から“曲を作っておけよ”と言われてたんですけど、みんな話を流してたんです(笑)。私たちはプロデューサーである知名定男先生の作った曲を歌うグループなので、まさか自分たちで作るとは思ってもいなかったし。でも、ある日今回のアルバムの企画書を見せてもらったら、そこに“メンバーの作詞作曲曲も収録”って書いてあったんですよ(笑)」
――逃げ道ない感じですね(笑)。
本村 「それまで日記みたいに歌詞は書いてたんですけど、その企画書をきっかけに本腰を入れて書くことになりました(笑)」
――そんな本村さんのオリジナル曲である「FaiFai」が1曲目を飾ってます。
本村 「嬉しいですよね。八重山の島の風景を描いた身内ネタみたいな歌詞で、沖縄だったらどこでも覚えのある光景だと思うんですよ。沖縄特有の“食べなさい食べなさい”という攻撃があるんですけど、八重山では“ファイファイ”というんです。年中ファイファイと言われて育ったので(笑)、その風景を描いてみました」
――沖山さんは南大東島がご出身ですよね。この曲の内容には親近感を感じますか?
沖山 「そうですね。“食べなさい食べなさい”は私もよく言われてたし、沖縄の伝統的な風習みたいなものなので(笑)、イメージしやすかったです」
上原 「私は那覇で育ったシティ・ガールなのでちょっと分からなかったです(笑)。両親は漁師でもないし、私の体験してこなかった島の風景ではありますよね。そのぶん自分のなかで空想を広げて、おじいやおばあの温かさを想像しながら歌ってみたんですけど、なんだか泣けてきてしまって……」
沖山 「賑やかで明るい曲なのに、気づくと声が震えてるんですよ(笑)」
――曲はどうやって書いたんですか?
本村 「あるとき、家族のグループLINEに“今日もじいじいがヤシガニを取ってきたよ。こんなことがあったよ”という書き込みがあったんですよ。“ティラザーとギーラ、アマピタン(いずれも貝の名前)も取れたよ”って。それを見ていたら、“ティラザー、ギーラにアマピタン”っていうこの曲のメロディが浮かんできたんです」
沖山 「へえ、メロディが出てきたってこと?」
本村 「そうそう。言葉からそのままメロディが出てきた」
上原 「知らなかった(笑)。すごい!」
沖山 「定男先生は“僕は曲を書くんじゃなくて、曲を蘇らせるんだ”ということをよくおっしゃってるんですね。すでにあるものを自分たちが蘇らせているだけだって。それに近いものを感じますね」
――今回はさまざまなソングライターも参加されています。「若夏ジントーヨー」はBEGINの島袋 優さんが作詞作曲をされていて、“誰でもみるような夢を見て 故郷を出たけれど”という歌詞が心に沁みますね。 上原 「この曲の歌詞はすごくストレートですよね。理恵さんは共感度120パーセントだったみたいで、一行読んでは泣き、一行読んでは泣き……(笑)」
本村 「そろそろ慣れないといけないんですけど、一行歌うごとに泣いてしまうのでなかなかサビまで行き着けないんです(笑)」
――島袋さんは本村さんと同じ石垣島のご出身ですが、同郷ゆえの共感度120パーセントってこともありそうですね。
本村 「それもあると思います。でも、故郷を離れている方は誰でも共感できる歌だと思いますね」
上原 「すごく奥深い歌で、歌い続けていかないと理解できない部分が多い感じもしますね」
本村 「宮沢さんから曲の解説をしてもらったんですけど、私たちのなかでも“ここはこういう風に解釈できるんじゃない?”といろいろ話し合ってるんですよ」
沖山 「ただ、自分たちの歌や振り付けはブレないように、芯を大事にして歌っていこうと思ってます」
――「梅の香り」は新川嘉徳が1933年にマルフクレコードから発表し、その後数多くの歌い手が歌ってきた曲ですね。
上原 「これは難しかったです。私にとってはキーが高いんですよ」
本村 「通常のコーラスだったら高音担当、低音担当と分かれると思うんですけど、私たちの場合はユニゾンなので、誰かが無理をしないといけないんです。この曲は渚ねえ(上原)が苦しみながら歌ってくれました。みんなが楽に歌える曲は一曲もないんですよ」
――そういうふうに誰かがキーの合わない状態で、毎日3ステージを島唄(ネーネーズが定期出演している那覇のライヴハウス)でこなしているわけですよね。ノドはそうとうキツイんじゃないですか。
本村 「そうそう、辛くて当たり前なんです」
上原 「私はネーネーズに入る前はもっと高い声だったんですよ。でも、ネーネーズで歌うようになってからノドをツブしました。ただ、母には“お前の声はうるさいから、声を張り上げるな”と昔は言われてたんですけど、ツブしてから“聴きやすくなった”と言われましたね。他のメンバーと無理なく共存していければと思うし、精神面でも強くなったと思います。必要以上に自分を追い込まないようになったし、無理に気張らなくていいんだって」
――それは最初にお話していたことにも通じますね。3人になって、より気張らなくなったという。
上原 「そうですね。たとえ声が出なくても、2人がカヴァーしてくれる。無理に気張ると逆におかしなことになるんですよ」
本村 「どんなに疲れていても、その場を楽しもうと思えた瞬間に声が出たりするんですよ。その一方で、気持ちが落ちていると、いくら体調がよくても声が出ないんですよ。他の2人の精神面や体調も一緒に歌うとすぐ分かるんです。“何かあった?”“寝不足?”とか」
――まさに心と歌が直結してるわけですね。
上原 「そうそう。毎日一緒にいますからね」
――みなさんで五代目のネーネーズになるわけですが、メンバーが変わっても変わらないネーネーズの根っこはどういうものだと思いますか。
上原 「知名定男という方の存在ですね、やっぱり」
本村 「先生は常にいろんな音楽に興味があるんですね。ラップやレゲエにも目を向けていて、ネーネーズのヴァージョンでやってみようと挑戦する。それはずっと変わらないと思うし、このアルバムからは私たちもそういう気持ちで新しいことにチャレンジしていければと思ってます」
取材・文 / 大石 始(2018年6月)
2018年7月9日(月)東京 小岩
居酒や こだま開場 17:30 / 開演 19:30
ライヴ・チャージ 4,000円(税込 / 飲食代別)2018年7月10日(火)宮城 仙台
enn 2nd開場 18:30 / 開演 19:30
前売 3,500円 / 当日 4,000円(全席自由 / 税込 / 別途ドリンク代)2018年7月11日(水)北海道 札幌
KRAPS HALL開場 18:30 / 開演 19:30
前売 3,500円 / 当日 4,000円(全席自由 / 税込 / 別途ドリンク代)2018年8月27日(月)大阪 梅田
バナナホール開場 18:30 / 開演 19:30(休憩1回 / 2部構成)
前売 3,500円 / 当日 4,000円(全席自由 / 税込 / 別途ドリンク代)2018年8月28日(火)愛知 名古屋
オキナワAサインバーKOZA開場 18:00 / 開演 19:30
[ライヴ・チャージ]
大人 前売 3,500円 / 当日 4,000円
子供(中学生まで) 前売 2,000円 / 当日 2,500円
未就学児(席無)無料
※税込 / 別途ドリンク代
※要予約 / 要2オーダー2018年8月29日(水)愛知 名古屋
オキナワAサインバーKOZA開場 18:00 / 開演 19:30
[ライヴ・チャージ]
大人 前売 3,500円 / 当日 4,000円
子供(中学生まで) 前売 2,000円 / 当日 2,500円
未就学児(席無)無料
※税込 / 別途ドリンク代
※要予約 / 要2オーダー