名古屋のヒップホップ・クルー、RC SLUMに所属するMC KHAZZと東京のビートメイカー、DJ HIGHSCHOOLは6曲入りの共作『I'M YA BOY E.P』で、遊び倒した無数の夜の中で得た感覚と情景を彼らのやり方で音楽化している。それは、MC KHAZZのことばを借りれば、ラップ・ミュージックの一つの定型であるパーティ・ラップとは異なる、生粋の“快楽主義の歌”とでも言えようか。とにかく突き抜けている。2人は本作をいかにして作ったのか。MC KHAZZとDJ HIGHSCHOOLに話を訊いた。
撮影: Yuji Kozakai
――2人の制作はどんな感じで始まったんですか?
MC KHAZZ 「作り始めたのは去年の末からだけど、その前からOS3(DJ HIGHSCHOOLのラッパー名義)の家に泊まりに行ったり遊んだりしながら何かやろうっていう話はしてましたね」
DJ HIGHSCHOOL 「俺の中でKHAZZくんの最初の印象に、『WHO WANNA RAP』(SLUM RC / RC SLUMのアルバム)で際立っているなってのがまずあったんですよ」
MC KHAZZ 「『WHO WANNA RAP』では気張ったのはあった。目立ち倒したろって。そういう意識はあった」
DJ HIGHSCHOOL 「『SNOWDOWN』の〈Start me!!〉っていう曲のトラックは俺が作ったんですけど、あれは俺がわりと遊びで作ったトラックだったんですよ。『SNOWDOWN』はサンプリング主体のトラックが多めの中、俺のトラックを選んでラップするKHAZZくんのセンスが面白くて。ボビー・シュマーダの〈HOT NIGGA〉(ジャリル・ビーツが制作したロイド・バンクス〈Jackpot〉のビートをジャックした曲)のオケでライヴをしているのを観ていたから、そういうビートと『SNOWDOWN』でメインのサンプリングのビートの間をつなぐライヴ映えするトラックがあるといいなとは考えてました」
――1曲目の「NOT GIVE A F ***」に“理屈はそっちのけ スジぬかす前に酒飲み干せ”ってラインがあるじゃないですか。これぞMC KHAZZらしいパンチラインだなと感じまして。EPを通して、一晩の遊びというかドンチャン騒ぎやライヴでの経験やそこで感じたことをラップにしていますよね。
DJ HIGHSCHOOL 「今回の『I'M YA BOY E.P』であの曲だけ俺からテーマを指定させてもらってますね。丸美観光ビル(名古屋市中区栄の繁華街にあるクラブや飲食店など入るビル)の周りで遊んでる時のダーティ感を歌ってほしいって。他の曲は好きにやってもらった」
MC KHAZZ 「そうですね。MVを公開した〈WHITE GIRL〉も〈NOT GIVE A F ***〉ありきなんですよ」
――共同作業する中でお互いに確認し合った全体のテーマはあったりしたんですか?
DJ HIGHSCHOOL 「それが“I'M YA BOY”だったんです。この言葉には、“いつもいるヤツ”とか“その場にいるヤツ”みたいな意味があって」
MC KHAZZ 「あと、“俺に任せろ”みたいな意味もある」
DJ HIGHSCHOOL 「そう。KHAZZくんが名古屋で、俺は東京だけど、お互いに“I'M YA BOY”って感じの関係だよねって」
DJ HIGHSCHOOL 「『SNOWDOWN』も今回のEPも音源を作るってなったらすぐにリリックを書き上げてる感じがある。だから、作品に統一感というか一貫性が出るんだと思いますね。『SNOWDOWN』は車内の情景が多いんだけど、『I'M YA BOY E.P』は車から降りて街で遊んでいる情景が多い」
DJ HIGHSCHOOL 「『SNOWDOWN』と今回で車種が変わってるでしょ。『SNOWDOWN』の時はトヨタで今回はダイハツになってる」
MC KHAZZ 「そうそう」
DJ HIGHSCHOOL 「だから、本人は意図してないかもしれないけど、一日の流れみたいのが自然に出てるのが良いんですよね」
――ビート選びに関してはどんなやり取りがあったんですか?
DJ HIGHSCHOOL 「実はこのEPのために作ったトラックはBBH(BUSHMIND + STARRBURST + DJ HIGHSCHOOL)の〈FRFR.〉だけなんですよね。それ以外は自分が作りためていたものからKHAZZくんがピックアップした。トラック選ぶ時点でこのトラックだったらスラスラ書けそうっていうのがあるんじゃない?」
MC KHAZZ 「そうですね。やっぱり大事なのはビートの感情なんですよ。BBHのビートは若干迷ったところもあったんです。このトラックはインストで聴かせた方がいいんじゃないかなって。とにかく一気にバッとリリックを書いて録音して聴いてみて微妙だったらインストにしようと思ってた」
DJ HIGHSCHOOL 「STARRBURSTのビートのワンループを俺が解体して再構築したものをBUSHMINDがまとめる、という制作工程でしたね。俺ら的にはM.O.S(MC KHAZZ、ATOSONE、MIKUMARIから成るグループ / MARUMI OUTSIDERS)のマイクリレーを想定してたけど、KHAZZくんがこのトラックは一人で行きたいってことだったね。直感的にラップしているんだろうけど、練って作ったのかなってぐらいに構成がしっかりしてるんですよ。ラップを入れたトラックを俺が編集し直しているけど、ラップに関してああしてほしい、こうしてほしい、という指示はほとんどなかった」
MC KHAZZ 「俺は練ってラップを作ったりできないっすね。OS3に月一、月二で遊んでもらって、制作のやり取りにもタイムラグがなかったからおのずとこういう作品に仕上がりましたね。〈CLOUNDIN' AT THE KITCHEN〉のOS3のフックだけはERAさんにOS3の家に機材を持ってきてもらって録った」
DJ HIGHSCHOOL 「だから深い打ち合わせしたとかはなかったね。その都度電話で10〜15分ぐらいミーティングしたぐらいだし。そういう作業を通じて、俺はKHAZZくんが生粋のラッパーだなって感じましたね」
MC KHAZZ 「その毎週のキャッチボールがめっちゃ楽しかったなあ」
――なるほど。2人の共通の音楽の趣味で被る部分って例えばどこにありますか?
DJ HIGHSCHOOL 「やっぱりお互いディップセットが好きだしね。キャムロンとジュエルズ・サンタナの〈Oh Boy〉とかね」
MC KHAZZ 「あと、コーク・ボーイズとか。そういうところが合致してる」
――KHAZZくんが最も影響を受けたラッパーは誰ですか?
MC KHAZZ 「難しいっすね。めっちゃいるから。でも日本だったら、やっぱり俺はM.O.S.A.D.が強い」
DJ HIGHSCHOOL 「ところで、なんでラップやろうと思ったの? そういえば、その話聞いたことがなかった」
MC KHAZZ 「単純にラップってカッコイイってなったからですよね。M.O.S.A.D.を観たのは17歳ぐらいでそのころにラップを始めて、18歳ぐらいの時に名古屋で地味に昼間のパーティとかにも出させてもらってた。でも一緒にやってた地元の人間がどんどんやらなくなるし、一人だとまあいいやってなるじゃないですか。そんな時にATOSONEに焚きつけられた感じですね。ATOSONE、MIKUMARI、HIRAGENのライヴを観て“カッケー!”って再びスウィッチが入りましたね」
DJ HIGHSCHOOL 「RC SLUMって名古屋のそれぞれの地域でやってたラッパーとかDJがどんどん集結して来ている感じがあるよね」
MC KHAZZ 「まあ、どうしようもない人たちの集まりですよ。全員がライバル」
――M.O.S.A.D.はやっぱりでかいんですね。
MC KHAZZ 「M.O.S.A.D.はライヴもバチバチにキレてるし、ブッとんどるし、M.O.S.A.D.には夢しかなかった」
DJ HIGHSCHOOL 「だから、名古屋はラッパーが多いんだろうね。明確なヒーローがいたってことだよね。東京もいるにはいるけど、その中でも細分化されてるから」
MC KHAZZ 「M.O.S.A.D.は日本語ラップじゃないから。最先端の不良だった。その上でM.O.S.A.D.の人たちは本当にヒップホップが大好きだったから」
DJ HIGHSCHOOL 「そこが根底にあって雑食性を帯びていまのRC SLUMがある気がする。そういう雑食性で東京の俺とかとつながっていったと思う。ヒップホップだけやっている軍団だったら、俺はつながらなかったと思う」
MC KHAZZ 「そうっすね。俺は今回、『SNOWDOWN』でついたイメージを壊したいのはあった。あのアルバムを聴いて、“ハーコー”とか“正統派”って言ってくれる人がけっこういて、それもぜんぜん悪い気はしないけど、ちょっと首傾げる感じもあったんですよ。俺は、ちゃらんぽらんだしなって」
――このEPは良い意味でチャラいですしね。遊び人の音楽だなって。
MC KHAZZ 「おっ!! そうそう。ヒップホップだからチャラさがないとさ」
DJ HIGHSCHOOL 「俺もトラックを作る上で踊れる音楽というのは意識してる。そりゃもちろん生きててイヤだなって思うことはたくさんあるけど、そういうのを音楽で強調したり、わざわざ遊んでる場所でやりたいとは思わない。これを聴いて感動しろとか、共感しろとか、人に対して要求の多い音楽は好きじゃないんですよね。沁みさせることに重きのある音楽をやりたいわけじゃないから、必要以上の意味はいらないんですよ」