7月4日にリリースされた
町あかり の4枚目のアルバム『
収穫祭! 』は、カシオトーンとGarageBandだけで作り上げた前作『
EXPO町あかり 』から一転して、ライヴでのバック・バンド“池尻ジャンクション”を従えている。
12曲中8曲はこれまで
ギャランティーク和恵 (「夜に起きるパトロン」)、
姫乃たま (「バーヨコハマ」)、美広まりな(「激辛デスソースの人生」)など他アーティストに提供してきた曲や、中村祐太郎監督の映画に書き下ろした曲などの、いわゆるセルフカヴァーが占める。
チープな宅録のイメージが強烈な人だが、池尻ジャンクションの6人(曲によってピアノ、ヴァイオリン、トランペットも加わる)による達者なバンド・アレンジをバックにしても、圧倒的なユニークさは健在。過去最高級にしっとりアダルトな演奏と歌を堪能していただきたい。
――池尻ジャンクションとは何者なんですか?
「メイザーハウスっていう音楽学校の卒業生がメインです。2年前の夏ぐらいからリハーサルに入り始めて、ライヴは秋ぐらいから」
――メンバーはどうやって集めたんですか?
「“誰かいませんか?”って言いに行って……」
――あかりさんが?
「あ、マネージャーさんと一緒に(笑)。もう少し前からガールズ・バンドもやってるんですけど、そっちは“ハッピー! 元気!”みたいな、明るくてテンポのいい曲ばっかりだから、しっとりした曲が得意なバンドもあるといいね、みたいな話になったんです。あてが全然なかったので、音楽学校を探そうってことになって、“ジャズ 都内”とかで検索して(笑)。メイザーハウスとはなんのつながりもないので、“すいません、町あかりっていうんですけど……”みたいな感じで行ったら、最初は“あー”みたいな感じでしたけど、担当の方が歌を聴いてくださって、“面白い!”ってめちゃめちゃ協力してくださいました」
――メンバーはみなさん若い方ですか?
「わたしと同じぐらいですね。卒業して何年、みたいな」
――あかりさんが打ち込みでデモを作って、それを聴いてアレンジしてもらう感じ?
「基本的にそうでしたね。ライヴ・リハみたいな感じで、何度も一緒にスタジオに入って、まずベースになるものができたらそこにみんなのアイディアを盛り込んで、パズルみたいに作っていきました」
――レコーディングは一緒に?
「基本、一緒です。“せーの”でやってますね」
――今回はあかりさんの歌が非常にいいですね。
「ほんとですか? がんばって歌いました(笑)」
――どんどん色っぽくなってきている気がします。
「ンフフ……フハハハ(照れ笑い)。曲のせいもあるのかもしれないですね。ふだん自分のためには書かないような歌がいっぱいあったから」
――「電球を替えてくれた人」とか「やさしい麦茶」とか、テンポからしてこれまでのアルバムにはないタイプの曲ですしね。全体に楽しそう。
「ひとりじゃないって感じで楽しかったです。あと、バンドでレコーディングするのって難しいなって思いました。演奏もすごい上手だし、“あ、みんなめちゃめちゃちゃんと考えてきてるから、わたしもちゃんと歌わなきゃ”みたいなことも、自然と思ってるんだと思います。あと演奏の勢いにつられたりもしてるなって。〈夜に起きるパトロン〉とか」
――これまで感じたことのなかったことって何かありましたか?
「それはあんまりないかもしれないですね。ただ2日間だったんですよ、レコーディングが。それで11曲ぐらい録ったので、時間がない感じが面白かったです。“やばい、まだ5曲あるよ!”“えー!”みたいな(笑)」
――追い立てられるのは苦手じゃないほう?
「そんなにイヤじゃないかもしれないですね。“もう時間ないけど、なんか終わる気がする!”みたいな。根拠はないんですけど」
――あと、ハモりがとても印象的ですね。
――はい?
「(笑)。大ケガしてやって来たんですよ、レコーディングに。家の階段から落ちて、両足にひどい捻挫をしちゃって。駅からスタジオまで歩いて5分くらいなんですけど、30分かけて歩いてきました(笑)。にもかかわらず、コーラスすっごいいっぱい重ねて“すげー!”みたいな」
――手負いのハモりか……と思うといっそうよく聞こえる気がします(笑)。
「負傷してるとは思えないというか、だからこそ……いや、だからこそってことはないか(笑)」
――「ナンタラカンタラっていう人」「電球を替えてくれた人」「乗り換えがチャンスです」「大丈夫よ」の新曲4曲はこれまで出したことのないものですか?
「〈ナンタラカンタラっていう人〉はデモ音源が『EXPO町あかり』の特典になったりはしましたけど、ライヴでもあんまりやってないですし、このバンドのライヴでちょっとやり始めたところです」
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――自慢がましいおじさんを全力で聞き流す歌で痛快ですが、音楽業界には多くないですか? こういう人。
「他の人にも言われました(笑)。めっちゃ嫌いですね、こういう人。実際に会ったことがあるわけじゃないんですけど。〈電球を替えてくれた人〉と〈大丈夫よ〉は、
大竹しのぶ さんのコンペに出してみない?って言われて、大竹しのぶさんをイメージして書きました。今も歌ってくれる歌手の方を募集中なんです。カヴァーしてほしいっていうより、あげたい(笑)。わたしはいいから歌ってくれ、どんどん、みたいな」
――「乗り換えがチャンスです」は?
「これは、架空の提供曲がテーマだった『
あかりの恩返し 』のときに作った中から弾かれた曲です。
石野真子 さんをイメージして作ったんですよ。なんか、わかりません?」
――わかりますね。ひとに作る曲のほうが書きやすかったりしますか?
「そうとも限らないというか、そのときによる気がしますね。ずーっとそればっかり書いてたら疲れちゃうし、気楽に歌える歌が作りたいなって思うので。でもそっちばっかりやってたらそれもまた疲れちゃう。その両方でバランスをとってる気がします」
――“町あかり&池尻ジャンクション”という名義にしたのは何か理由があるんですか?
「バンドと一緒だから。生演奏だよ、っていうことですかね」
――『収穫祭!』というタイトルの由来は?
「ひとに提供させてもらった曲とか映画作品をまとめた感じのアルバムなので、みなさんのおかげで生まれた歌だな、と思って、感謝を込めて。自分のために〈電球を替えてくれた人〉は絶対に書かなかったと思うので」
――あかりさんのライヴはいま3パターンあるわけですね。ひとりと、ガールズ・バンドと、池尻ジャンクションと。
「それぞれ全然違いますね。気づいたら曲もいっぱい増えてたので、曲が足りないとか、かぶっちゃってるみたいな感じはあんまりないんですよ。お客さんもいろいろ違うものが見れて面白いんじゃないかなって、勝手に思ってます」
――しっとり系の曲がけっこうあったのに出しどころがないなって感じだったのが、このアルバムを作るモチベーションだったとか?
「おっしゃる通りです。いま言われてそうかもって思った(笑)。たしかに出しどころが難しいときってあるんですよね。テンション的にいきなり〈やさしい麦茶〉はできない、みたいな。30分とか40分のイベントだと“なんじゃこりゃ”みたいなやつのほうが……やってもいいんですけど、唐突な感じになりそうだし。出しどころを迷いがちなものがいっぱい入ってるかもしれないです。池尻ジャンクションと一緒にセルフカヴァーがテーマのライヴもやったことがあるし」
――5月にカセット『ベストヒット☆ポンチャック』が出て、7月には石野卓球 さんのリミックスで10インチ・アナログ〈もぐらたたきのような人 2018〉も出るし、いま紙芝居のクラウドファンディング も展開していて、あれこれ盛りだくさんですね。 「ポンチャックと卓球さんのはわたしがこうしたい、ああしたいっていうのは特にないんですけど、紙芝居は、8月の終わりから9月の初旬まで上大岡の京急百貨店でやる〈
小鳥のアートフェスタ in 横浜 〉に誘っていただいたんです。じゃあ文鳥がテーマの紙芝居を作ろうって。前からライヴで紙芝居の読み聞かせみたいなことをライヴでやってるんですよ。スーツを着た仕事帰りの大人の方たちが聴いてくれてます(笑)」
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――あかりさんのファンの方って、歌が好きなだけじゃなくて“町あかりがやること”をまるっと面白がっている人が多い気がします。
「文鳥ネタにも付き合ってくれますしね(笑)。最初は“なんだこれ”って思ったでしょうけど、“しょうがないな”みたいな感じで」
――ブンたん(彼女の愛鳥。ツイッターのアカウント / @buntan55 もあり)元気ですか? 「元気いっぱいです! めちゃめちゃかわいいですよ。匂いを嗅いだりなでたり、“ブンたん”って呼ぶと飛んでくるし。かわいくないですか?」
――かわいいですね。
「すんごい怒りんぼなんですけど、そこが癖があってかわいい」
――ツイッターに指を噛まれている写真をよくアップしていますけど、あれは甘噛みじゃないんですか?
「意味はわかんないです。そこだけちょっと理解できない。めちゃくちゃ噛んでくるんですよ」
――逆に言うと他のことはだいたい理解できるんですね(笑)。
「でき……うーん、あんまりよくわかんないですけど、正確には。めちゃくちゃ痛いんですよ。でもかわいいみたいな」
――脱線しちゃいましたが、池尻ジャンクションと一緒にリリース記念ライヴをやるそうですね。
「やります。7月14日から28日までで4回。毎回セットリストが違って、すでに発表してあるので、好きな曲が多い日を選んで来てほしいなと。実際そう言ってくださる方もいて、よかったなと思います」
――来年はガールズ・バンドとアルバムを作る予定だそうですね。
「わたしもメンバーのバンドみたいにしたくって、また別の名義を作ろうかと思ってます。まだ考えてないけど“アカリーズ”みたいな」
――それも楽しみ。あかりさんにはこの調子で30枚ぐらいアルバムを作っていただきたいです。
「あの、生きててくださいね(笑)。わたしが30枚アルバム作って、高岡さん死んでたら意味なくないですか?」
――死んだ後はお墓に供えてください。
「“今年もできたよ”って(笑)」
取材・文 / 高岡洋詞(2018年6月)