――アメリカでレコーディングすることになったのはなぜですか?
Ryugo 「セカンドはアメリカに行って作ろうって最初から言ってたんです。それが現実になったって感じ」
NENE 「そう。アメリカでやりたかったから」
――LAは初めて?
Ryugo 「自分は初めてでした」
NENE 「わたしはちっちゃいときに行ったことはあるけど、ほとんど初めてみたいなもんです」
――何か驚いたことはありましたか?
Ryugo 「夢が現実になったかなっていう感じですかね。何かを見て驚いたっていうよりは、自分がそこに立つということをイメージしてずっと生きてきたから。自分はこれでよかった、間違ってないって確認したみたいな。好きなものが全部つながるっていうか」
――アメリカに外国人として滞在して見えてきたものはありましたか?
Ryugo 「特に。どこに行っても同じ人間だから、っていうか、外国人として行ったって意識ではなかったから。やばければやばいって言ってくれるし。もともとアメリカっていうか世界中に届けるのが目標だし、自分たちがそこに立ってる気でいるから。どこにいようと自分たちに変わりはないし。家族を何よりも大切にする向こうの人たちのあり方をリスペクトしてます」
――頼もしいですね。日本との違いは?
NENE 「全部が大きい。だからすごい自由を感じました。日本が小さく思えたし、自分たちはここでやるべきだって。すごいよかったと思います、行って」
――向こうの人たちとも言葉や文化の違いを意識せずに付き合えた?
NENE 「人と人っていうだけであって、そこに壁はまったくないかな」
Ryugo 「もともと、外国人だからどうとかは基本的に気にしたことがないかもしれないです」
――ライアン・ヘムズワースと一緒にやったのは?
Ryugo 「いいビートメイカーがいるって紹介してもらいました」
NENE 「そしたらちょうどロスにいるときにビートを送ってくれて」
Ryugo 「レコーディングだって言ったら“すご!”って(笑)。聴いたらよかったから」
NENE 「曲作って、って言って。やばいのができました」
――Automaticさんとestraさんの曲もLAで?
Ryugo 「ビートはもともと出来ていたのは2曲くらいあったけど、ほとんどLAで3人で作りました。みんなでCD探しに行って、ひとり1枚ずつジャケ買いして、その中から作っていったりしました」
NENE 「聴きもしないでね」
レーベル担当者 「〈Antwood〉がそれですね」
――「Antwood」っていう曲名はカナダのトラックメイカーの名前をもらったんでしょうか?(※後からクレジットを見て知ったのだが、「Antwood」では彼の「Don't Go」という曲をサンプリングしている)
NENE 「名前をもらったというか、その言葉の意味が自分たちにはまったんです。ロスで使ってたスタジオのエンジニアが南アフリカ出身の人で、意味を訊いたら“南アフリカの言葉で正解って意味だよ”って言われて、“わっ!”てなったから、そのまま」
――とにかく解放感のある、気持ちのいいアルバムでした。
Ryugo 「そうですね。今回は自分たちのやりたいことが全部、納得いくまでできたから。アメリカでやってよかったと思います」
――ファースト、『NENE』、今作と聴き進めてくると、もともと特徴的だった迷いのなさが、ますます強化されてきている感じがします。
NENE 「自分たちは今を、誰よりもリアルなことを歌ってるって思ってて、だからこそアメリカで作れてる自分もあったし、イチバンっていうヴァイブスで作ってるから、そうなってるかもしれない。あんまり比べたこともないですけど」
――前に比べてどうこうとかも特に思わない?
NENE 「そう。とりあえず今を歌ってるだけであって」
Ryugo 「リリックのことに関してはあんまり考えたことがないですね。自分たちが思ってることを素直に書いてるだけだから。人によっていろんな感じ方があるだろうと思うし、それでいいんじゃないかと」
NENE 「自由に聴いてほしいです」
――資料に“厳選された12曲(+ スキット)”とありますが、全部で何曲くらい作りましたか?
NENE 「こぼれたのは2曲ぐらいかな」
Ryugo 「ちゃんと完成してないのもあるけど」
――いつもながら、その無駄のなさもすごいですね。
Ryugo 「あんまり考えないからですかね。こういうものを作ろうとかは考えない。常に前のやつを超えるっていうヴァイブスで、出たものを作った感じです。自分たちのやりたい音楽、言いたかったことを全部出せたと思ってます」
NENE 「もともと感情を大事にしてるけど、今はよりいっそう大事にしてるんです。みんなの気持ちがひとつになって、全員の感情を乗せられて、自分自身も完全に出せた曲しか入れたくない。そこを重視して選んだから、ちょっと乗り切れてないな、っていう曲がこぼれた感じです」
――僕は無駄に考えすぎちゃうタイプなので、考えないで正解にたどり着けるっていう境地が今ひとつわからなくて。
Ryugo 「考えないっていうか、考えてるかもしれないけど、考えてない」
NENE 「Automaticさんはすごい考える人で、私はまったく考えないから、いいバランスなのかもしれない。Automaticさんがブレーキをかけてくれて、いったん考えよう、ってなるときもあるし、これは突っ走っていいでしょ、ってときは黙ってついてきてくれるし」
Ryugo 「どっちかっていうと、考えるっていうより思いが大事かな。自分がどうしたいか、やりたいのかやりたくないのか、ってところに尽きると思います」
――なるほど。ここで反省会してもしょうがないけど(笑)、僕が無駄に考えちゃうのは、ひとのことを気にしすぎるのと、後から違う考えが湧いてきて迷っちゃうからかもしれないですね。“その一言、ないほうがよかったよね”みたいな。
NENE 「それと似たようなことで言うと、後から聴き直して“ここ、こうすればよかったかな”と思ったりすることはありました、前は。でも今は、そこにはそのときの自分のヴァイブスや感情が詰まってるんだから、これはこれで超いいんだ、って思えるようになりましたね」
Ryugo 「一個一個、修正していってもね」
NENE 「後から直しても、そのときの気持ちが乗らないんですよね。だからそのときはそのときで絶対にいいんだって確信できた。だから一曲一曲すごい大事だし。そのときの自分たちが完全に出せてるから」
――今のお話を受けて思うのは、僕もたまにエモくなって筆が滑ることがあって、ちょっと恥ずかしいけどこれで行っちゃえ、ってそのまま出したら、意外にそのほうが評判がよかったりするんですよね。
Ryugo 「それがいちばん大事なんじゃないかと思います」
NENE 「ね。やっぱり感情が乗ってないと、ひとには伝わらないから。わざとエモくなる必要はないけど、そのときそうなったなら、もう書くしかない。そういうときにバーッと書けたりするし、そういう気持ちには自分で早く気づきたいし、大事にしたいとは常に思ってます」
――おっしゃる通りです。“kingdom”の境地ですね。この言葉がアルバムには再三出てきます。
Ryugo 「勝ち上がるっていうか、そこに登った感じですかね。〈Antwood〉の正解っていうのもそうだけど、自分たちが正解なんだ、自分たちはこうあるべきなんだって」
――NENEさんの“私は王様 女王様じゃ嫌だ”(「Psychedeligood」)も最高のラインです。
NENE 「Automaticさんも含めてひとりひとりが、自分は王様だと思って作ってたと思う。アメリカで、リラックスできるスタジオでやれてるってことが、やっぱりすごく大きくて。ほんと、王様になった気分でした」
――「Antwood」では“神様 どうか 答えを教えてください 幸せとは 全ての人に愛をあげたい”と歌っていますね。
Ryugo 「いろいろ思い出したというか。自分のまわりには犯罪に走る人が多くて、家族のことも思ったり。なんだろう……とりあえず出てきたんです」
NENE 「神が降臨した(笑)?」
Ryugo 「大事な友達が自由じゃなくて、悲しんでる人たちがたくさんいて、金のことで困ったりとか、夢を諦めたりとか、誰かが亡くなったりとか……そういうことにずっとムカついてるから。法律はクソだし、どいつもこいつも何もわかってないなって、すごい溜まってたんです。自分は父親が亡くなってるんですけど、気づくと考えごとをしてることがすごい多くて。父親はどういう人だったのかとか、自分がどうあるべきなのかとか、どう伝えなきゃいけないのかとか。迷ったのかわかんないけど、それを自分で壊したって感じですかね。降りてきました(笑)」
――無意識に近い状態で出てきたみたいな?
Ryugo 「そうですね。父親のことを思い出したりとかして、自分は強くあるべきだと思ったから。“全ての人”っていうのは世の中の全員ってわけではなくて、自分の大事な人のことなんですけど、救ってあげたい、そのためにはいちばん上に立つしかないって気持ちですね。なんだろう、感謝したいんですかね。アメリカ、ヒップホップ、自分の生まれた場所。それが出てきたときは、そういう気持ちがありました」
――遊び心も感じました。高い声を出したり、エフェクトをかけたりして、楽しそう。
Ryugo 「基本的にはずっと楽しかったので(笑)。その中にちょこちょこ溜まってるものが出てくる感じです」
NENE 「〈ICY (Peppermint Acid)〉とか作ったときのことはあんまり覚えてない(笑)。最初、普通に録ってたんですけど、これ全部スクリューにしようか、ってみんなで話して、やばいじゃん! みたいな」
Ryugo 「今回はみんな、ひとりひとり思いがあったよね」
NENE 「そうだね。Automaticさんも詳しく聞いたわけじゃないけど思うことはたくさんあったと思うし、わたしもあったし、りゅうくんもすごいたくさんあるし、それがうまくみんなでぶつかって、うまくみんな感情を乗せられたかなと思います」
――「Antwood」じゃないけど、お二人が見つけた“正解”がここに詰まっているんですね。
NENE 「セカンドはここまでの正解で、まだ見つかってない正解もあるけど、ちょっとずつわかっていけばいいかなって。それは自分の正解だから、みんなにとっての正解じゃないけど」
Ryugo 「かなり感謝してるっていうかね。ピースなアルバムだと思います」
NENE 「感謝してるね」
――正解を見つけて楽しそうにしているお二人を見て、“自分も楽しくなりたいから、自分の正解を探そう”って思ってもらえたらいいですね。
NENE 「Automaticさんは“ドラマがやりたい”って言ってたんです。他人に何か言うっていうよりは、自分たちのリアルなドラマをそのまま曲にするっていう。みんなはそれが聴きたいのかなと思うし、ゆるふわギャングとしてはそういうことをしたいから。ソロはまた違いますけど」
――納得します。僕はお二人に出会ったとき、映画の中のカップルが飛び出してきたみたいだって思ったので。
NENE 「映画の主人公だって思ってるから。“Life is a movie”って言葉があるじゃないですか。みんなそう思って生活したほうが楽しいよって思います」
――最後の曲が「We're not gonna die young」なのがすごく余韻が残りますが、そういうことを言われたりするんですか?
Ryugo 「あるけど、ひとに言われることは気にならないですね。俺の場合はそういうものが常に近くにあったから」
NENE 「最初〈Die Young〉って曲を作ろうとしてたんですけど、それじゃ終わってしまうと思って(笑)」
Ryugo 「そう。生きよう、生きたいって」
NENE 「チラチラそういう考えが出てきちゃった時期があって、たぶんりゅうくんもそうだけど、“いや、死ねない! まだまだ全然やることあるし!”って、バッと起きるみたいな。リル・ピープが亡くなったときとか、同年代で、しかも同じ音楽をやってる人が死ぬのってこんな悲しいんだって思ったんです。悲しいというか、変な気持ち。何か言いたいけど言えない、みたいな。理由もわかるし、けど死んじゃいけないなと思って。死ぬことだけは絶対やだなって、そういう気持ちもあったかもしれない」
Ryugo 「自分が折れちゃったら死ぬのとおんなじだから。アメリカに行って、立って、生きてる。音楽がやれてる。そのことに感謝した感じです」
――以前から、アルバムを3枚作って海外に行くって仰っていましたよね。『NENE』を含めてこれで3枚と考えていいですか?
Ryugo・NENE 「そうですね」
NENE 「次もアメリカで作りたいし、もうイメージはできてるから、突き進むだけだなって」
――英語で歌うみたいなこともありそう?
Ryugo 「あっていいかなって思うけど、あんまり考えたことがないですね。とりあえずそのときにできる自分の限界でやってみるっていうか」
NENE 「外国の人にも聴かせてますけど、みんなやばいって言うから、そこはあんまり関係ないなって思って。できたらやりたいけど」
――海外といってもことさらに構えることなく、これまでとあまり変わらない気持ちで臨んでくれそうですね。ますます楽しみです。
NENE 「このまま自分をレベルアップさせていきたいです。2ndよりも3rd、3rdよりも4thって。アメリカ、日本ももちろんだけど、世界中でやりたい。そこが最初から目標だったから、一直線って感じです」
取材・文 / 高岡洋詞(2018年6月)
2018年7月16日(月・祝)
東京 渋谷 WWW
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
WE WANT LOS ANGELES feat.ゆるふわギャングMARS ICE HOUSE II RELEASE PARTYwewant.jp/