高橋幸宏が発したバンド結成の一声で集まった高野寛、
高田漣、堀江博久、
権藤知彦からなる4人の男たち。彼らのキャリア紹介は省かせていただくが、そのいずれもが長年にわたって音楽シーンを腕一本で乗り越えてきたトップ・オブ・トップ・プレイヤーである。しかし、そんな彼らがヴォーカル、作詞を担当する原田知世とともに結成した6人組バンド、pupaは、エレクトロニカの可能性をバンドという枠組みでフリーフォームに追求しながら、そのバンド名同様、実に可愛らしく、大人の無邪気さに満ちた作品世界を現出させている。
「普通のバンドって、音楽的なリーダーが一人ないし二人いて、あとは演奏者っていう場合が多いんですけど、全員が曲を作って、ソングライター、プロデューサーの集合体でもあるpupaみたいなバンドって珍しいと思うんです。きっとね、幸宏さんの中には一番大きなバンドの理想型として
YMOがあるはずなんですけど、YMOはものすごい才能を持った3人のぶつかり合いだったのに対して、pupaの場合はぶつかり合いではなく、いい意味での譲り合いですよね。それにはいろんな理由があるんですけど、音楽的に言えば、楽器編成が普通のバンドとは違いますから、全員が同時に音を出したら、アンサンブルにならないので、そこはみんながプロデューサー感覚で引き算したことによって、ある種の緩さや居心地の良さになっているんだと思います
(高野寛) 多忙な彼らは、昨年8月に全員が一同に介したものの、その後、今年2月まで顔を合わせることなく、メーリング・リストとウェブ上の共有ぺージに置かれたデータをやりとりしながら曲作りを行なったというが、アルバム『floating pupa』では、ほどよい距離感を保ちながら、時間をかけてイメージを共有できたことで、ポップとアヴァンギャルドがゆるやかに、そしてカラフルに同居している。
「ルールはなかったけど、デタラメでもない。そこは大人だなって思ったりもするし、幸宏さんがいるとそんなにみんなハメを外したことにはならない……ようでいて、そうでもないなと思ったり(笑)。幸宏さんって何事にも大きく構えているから、レコーディング中、何が起きても驚かない(笑)。驚かないけど、変化を見つけるのも早いし、リズムを打ち込んでも、生で叩いても感覚がまったく変わらないんです。今も昔もとても鋭い感覚で、作業の速さも中華料理なみ(笑)。火力も強いから、火から下ろすタイミングも絶妙で、これがまた美味いんです。そういう幸宏さんのビートが全曲に染みわたったところでアルバムの全体像が見えてきたところはありますね」 (堀江博久)
男性陣が巧みを極めれば、バンド初参加となる原田から放たれる持ち前のフレッシュネスが表現のバランスを保っている。つまり、彼女の存在が馴染むサウンドこそ表現の普遍性であるというヘルシーな構図。さて、その彼女の判定やいかに?
「バンドって、どんなものなんだろうって興味はありつつ、みなさんとどう接したらいいか分からなかったので、
MOOSE HILLの
(伊藤)ゴローさんに相談したら、“バンドって、ソロとは違うから、いい意味でリラックスして、とにかく楽しんだ方がいいよ”って。実際の作業では私の横で高野さんがすごく丁寧に指導してくれたにもかかわらず、いざ、レコーディングが始まると、あっという間に忘れられて置き去りにされたり(笑)。面白いですよ、みんなが集まると。あまりにもスムーズに、どんどん作業は進むし、ずっとレコーディングが続けていられそうな雰囲気でした。楽しめたかって? もちろん、十分に楽しませていただきましたよ」
(原田知世)取材・文/小野田 雄(2008年6月)