横浜のアーバン&メロウなクルー、Pan Pacific Playaから登場し、2010年の『
ヨコハマ・シティ・ブリーズ 』と2011年の『
HOTEL PACIFICA 』という2枚の名作アルバムを残し、解散したトークボクサー・デュオ、
LUVRAW & BTB。その一翼を担っていたBTBが名義を
BTB特効 と改め、初のオリジナル・アルバム『
SWEET MACHINE 』をリリースした。甘茶ソウルなチューブさばきをハウスミュージックからレゲエ、ラテンにまで応用した楽曲の豊かな色彩に加え、研ぎ澄まされたソングライティング、アレンジメントが光る本作では、トークボックスを基調としつつ、オートチューンを用いる一方、地声のラップや歌唱にも挑戦。熟成とフレッシュネスを同居させたBTB特効らしいメロウな音楽世界を展開している。
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――今回のアルバム『SWEET MACHINE』は前作『BACK TO BASIC 〜俺とお前篇〜 』から4年ぶりの作品ではありますが、前作はカヴァー・アルバムだったこともあり、今回が正式なファースト作になるんですね。 「そうですね。前作はLUVRAW & BTBのサイドビジネス的な作品として作り始めたんですけど、その制作途中にグループが解散になったので、完成したカヴァー・アルバムを背負って、その後の4年間をどうにかやりくりして、今回、ようやくファースト・アルバムが完成したという」
――ソロの方向性が定まるのに時間が必要だったということもあるんでしょうね。
「どこに行っても、メロウなもの、スウィートなものが求められる状況があって、それはそれで好きでやってきたことでもあるし、ありがたいことではあったんですけど、それが自分の全てというわけではなかったので、一時期、周囲の期待に対して、反抗したい気持ちもあって。その後の紆余曲折もあり、オリジナルを作るのになんだかんだ4年かかってしまったんですけど、時間がかかったからこそ、色んな側面を自然に爆発して出せるようになったんだなとも思いますね」
――オリジナルを制作する前に、特効くんのルーツ再訪にあたる前作『BACK TO BASIC 〜俺とお前篇〜』を作ったことも土台固めという意味でプラスに作用しているように思いました。
「そうですね。全てはこのアルバムに辿り着く為にあったのでは、と思えるくらい。あのカヴァー・アルバムを作ったことで、自分の好きな曲の構造だったり、メロディ進行を分析して、それがその後の曲作りに活かされていると思いますし、“これが出来るならあんなのやこんなのも出来るじゃん”とかを周囲に言われたりもあって、今にして思えば、作ってよかったですね」
――特効くんのキャリアがヒップホップ・ユニット、レッキンクルー から始まっていることを考えると、ソングライティングやアレンジを学ぶ期間でもあったというか。 「そう。以前の自分には、作詞、作曲という部分に対するリスペクトの気持ちがそこまでなかったというか、誰かにビートを渡して、歌をお願いした時に“作曲のクレジットはどうなっていますか?”って言われて、“そうか。そういうものなんだ”って初めて知る、みたいな。あと、カヴァー・アルバムを出しても、作詞作曲の印税は自分に入らないじゃないですか(笑)。そういうところからも世間的には作詞、作曲に対するリスペクトが強いことに気づかされたんですよね」
――今回の曲作りはどのように進めていったんですか?
「今回は以前から作り貯めていたトラックもありつつ、歌詞で言いたい、テーマとなるようなこと、例えばパーティ明けに二日酔いでカレーを食べに行くとか、横浜をクルマで流す感じ、初体験でエロエラい目にあった恋愛やさぐれ話や、未来への話などが頭の中に何個かあったので、それを書き出した後、譜割りをしたり、韻を踏んだりして、その歌詞に合うトラックはどれだろうということで、過去に作ったトラックにハメてみたり、新しくトラックを作ってみたりといったやり方ですね」
――詞先で曲を作ったんですね。
「そうですね。今まではクラブミュージックを作っているつもりだったんですけど、今回に関しては、制作の途中から急にシンガー・ソングライターという意識も芽生えましたね」
――ラッパーが気づいたら、シンガー・ソングライターになっていた、と。
「ラップしている時も
ネイト・ドッグ なんかは歌うようなフロウじゃないですか。ああいうフロウに対する憧れがずっとあったんですけど、俺、地声がすごい音痴というか、キーが取れなくて、だからこそ、BTBとしてトークボックスを始めたところもありましたし、今回、オートチューンを使っているのもそういうことだったりして」
――自分なりに歌を成立させる手段がトークボックスであり、オートチューンだったんですね。ラッパーが歌ったり、オートチューンを使ったりするのは、昨今のヒップホップのトレンドですけど、ここ最近のヒップホップはいかがですか?
「
チャンス・ザ・ラッパー と
KOHH には特に衝撃を受けましたね。それもあって、今回のアルバムでオートチューンを使ってみたんですけど、今のラッパーはキャラ立ちも歌詞も面白いし、フロウもすごかったりするし、チャンス・ザ・ラッパーなんかはラップなのにメロディもあって、ヒップホップの進化には驚かされますよね」
――そして、今回のゲストに関しては、どのように決めていったんですか。
「〈Funkaflash -航海だ-〉と〈Suga Suga Disco Nights〉の2曲にラップでフィーチャリングした
ZEN-LA-ROCK 、〈Yokohama Flames〉のトラックを作ってもらった
Latin Quarter 以外のゲストにはトラックで楽器を弾いてもらいました。
KEN2D SPECIAL のICHIHASHI DUBWISEくんには〈Amayadori Dub -傘がない-〉と〈Suga Suga Disco Nights〉のダブミックスをやってもらい、
井の頭レンジャーズ のgo max 剛田さんは〈Dirty Talk〉のピアノ、
KASHIF くんには〈Funkaflash -航海だ-〉のギター、
JINTANA & EMERALDS のJINTANAくんは〈Overnight 39 Jah〉でスティールギター、
思い出野郎Aチーム の高橋 一くんには〈トロピカルダメージ〉でトランペットを吹いてもらいました、感謝感謝です。今回は、自分だけの作業で曲のかなりの部分が完成していたので、ヴォーカル(作詞を含めて)や世界観という部分でのゲストはそこまで必要としなかったというか、本当に音を加えて欲しいところだけに参加してもらったんです」
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――言い方を変えれば、それだけ自分から発信するものが多かったということになりますよね。音楽的には、ハウスあり、レゲエやラテンあり、ファンク、R&Bあり、様々なタイプの曲が収録されていますけど、それを一つにまとめ上げているのが、歌とメロディであり、トークボックスでもある、そんな内容ですよね。
「自分がいい年齢になってきたこともあってか、音楽的に特定のジャンルや方向性を打ち出したいという気持ちは薄まって。いい意味でも悪い意味でもこなれてきたところがあるので、だからこそ、自分の地声で歌ってみたり、ラップしてみたり、今年1月から始めたギターを単音で入れてみたり、未完成なりに新たな挑戦をしてみました。あと、敢えて地声で歌ったのには、トークボックスにはお洒落なイメージもあって、それが鼻につくなとも思っていて、そういうイメージを崩したかったという意図もありました(笑)」
――そんな気取った音楽をやっているわけではない、と。個人的には、2曲目の「ワイルドに最高の未来へ」でソウルIIソウル が90年代に打ち出したグランドビートを用いているところは洒落てるなと思いましたけどね。 「はははは。この曲は一番最初に作った曲なんですけど、あのビートが曲に偶然上手くハマっただけなんですけど、また流行ったりしないかなって(笑)」
――かたや、ダンストラックの「Overnight 39 Jah」や「どうにも止まらない」はトークボックス使いが他にはない特効くんならではの個性ですよね。
「去年、4曲入りの12インチ・シングルを出したんですけど、それによって、地方など色んな場所でライヴをする機会が増えて。今回のアルバムにはそこでの強烈なパーティ体験やバイブスを曲に落とし込んだ曲が何曲かあったりします」
――ただし、ダンスミュージックは今の特効くんの一側面であって、「ワイルドに最高の未来へ」もそうですし、特効くんのお子さんの声をフィーチャーしているその次の曲「Funkaflash -航海だ-」もそうですけど、このアルバムはお子さんが生まれたことで、未来に対する心境の変化が反映されているように思いました。
「おっしゃる通りです。いま子供は2歳なんですけど、生まれた子供の未来を考えるようになり、それが少なからず作品に影響していると思います。あと、最近、個人的には量子論に興味があって、それによるとパラレル・ワールドはどこにでも存在する、と。そのうちのどれを選択するのか。それが自分の未来を作っていくという発想になったり、自然環境や食事のことを考えたり、宇宙、太陽の力を吸い取った野菜を食べるのがいいとか、そういったことが全て繋がって考えられるようになったのは、子供が生まれたことが大きいと思いますね」
――かたや、横浜の地名があれこれ歌われている「Yokohama Flames」は、横浜のクルーであるPan Pacific Playa出身という特効くんのバックグラウンドを思い起こさせる曲だったりもしますし。
「そうですね。その曲は等身大の歌詞だったりするんですけど、背伸びしてもしんどいだけというか、そういう歪みが周りに悪影響を与えるんだろうなって。だから、地に足を付けて、出来た曲のバランスを取りつつ、作品としてはパーソナルな内容になっているのかなって思いますし、そこまで音楽に詳しくない人にもすんなり受け入れてもらえたらうれしいんですけどね」
――その“すんなり受け入れて欲しい”という感覚、ポップス的なマインドは、以前の特効くんにはなかったものという気がします。
「昔は“それは分かってるでしょ?”っていう感覚でしたから、そうかもしれない。イケてるかどうかってことは、今はいいかなって思ってますからね。ただ、そういうスタンスだと舐められるのも分かっているので(笑)、だからこそ、〈Dirty Talk〉みたいな曲をぶちかましておくっていう(笑)」
取材・文 / 小野田 雄(2018年7月)