ロック、ブルース、ジャズなどのルーツ・ミュージックをポップに昇華した楽曲、"アコギと歌"を中心にカラフルな色合いを加えたサウンド、そして、キュートな雰囲気と凛とした強さを併せ持ったヴォーカル。ロサンゼルス生まれ、京都在住の20歳のシンガー・ソングライター、
竹内アンナ がE.P『
at ONE 』でメジャー・デビューを果たす。奥深い魅力を備えた彼女に音楽的なルーツ、『at ONE』の制作などについて語ってもらった。
――メジャー・デビューE.P『at ONE』の話を聞く前に、竹内アンナさんの音楽的なキャリアについて伺えればと。
「はい。もともと親の影響で
ビートルズ や
アース・ウィンド&ファイヤ ーなどを聴いてたんですけど、小学校6年のときに
BUMP OF CHICKEN の〈カルマ〉を聴いて“すごい!”と鳥肌が立ってしまって。そのときに“私も音楽をやる側になりたい”と思ったんです。とにかく楽器をやろうと思って、ギターを買ってもらって、好きな曲をカヴァーして。最初は趣味的だったんですが、それが変わってきたきっかけは、
ジョン・メイヤー を知ったこと。顔もカッコいいし(笑)、歌も声もすごくいいし、とにかくギターが飛び抜けて上手くて。ジョンがいまの私と同じくらいの年齢の頃のインストア・ライヴの映像を観たときに、“歌いながらそんなフレーズ弾くの?”ってビックリしてしまって。“このままの練習ではダメだ”と思ったし、その後は更に本腰を入れてやるようになりましたね」
――たとえばどんなことをやったんですか?
「まずはいろんな音楽を聴いて、カヴァーすることから始めました。もともとブラック・ミュージックが好きだったんですけど、聴くだけではなくて、カヴァーしないと自分のものにならないなと感じて。ジャズやブルースもそう。ジャズだったら〈Fly me to the Moon〉みたいなスタンダードからはじめて、4ビートで弾き語りすることだったり、コードの使い方も少しずつ覚えて。それをインプットして、自分の楽曲で活かせたらいいなと。それはいまも現在進行形でやってますね。最近感じてるのは“憧れているアーティストの曲だけじゃなくて、そのアーティストが憧れているアーティストを知る楽しみがある”ということ。たとえばジョン・メイヤーが憧れていた
スティーヴィー・レイ・ヴォーン を聴くとか。カヴァーするのは難しいけど、それがきっかけになって、指の使い方、滑らかさが変わってくることもあるので。今年、SXSWに出させてもらったんですけど、テキサスが地元のレイ・ヴォーンのフレーズを弾いたら、みなさん反応してくれました(笑)」
――素晴らしい。曲を書き始めたのはいつ頃ですか?
「中学1年生くらいです。ずっと日記みたいなものを書いていたから、それに何となくメロディを付けるようになって。“よし、曲を書こう”という感じではなくて、そのときは興味半分だったし、ギターを弾くことがとにかく好きで、自分で歌おうとは思ってなかったんです。でも、ライヴハウスに出たとき、作りためていたオリジナル曲を披露したら、それがすごく楽しくて。そのときですね、プロのシンガー・ソングライターになりたいと思ったのは」
――ライヴで歌ったことがきっかけだったんですね。では、デビュー作『at ONE』について。オリジナル3曲、カヴァー1曲の構成ですが、全体的なテーマはありましたか?
「いまの自分が持っているいろいろな面を見せられる4曲を選ぼうと思っていました。あとは、どんな時間帯でも楽しめる曲を入れたかったんです。〈ALRIGHT〉は夜のイメージで、〈Ordinary days〉はお昼、3曲目の〈TEL me〉は朝、爽やかな気分で聴いてもらえたらなって。ぜんぶ私のなかのイメージなので、いつ聴いていただいてもいいんですけど(笑)、とにかくリスナーの方々に寄り添える作品にしたかったんですよね」
――「Ordinary days」は15歳のときに書いた曲だとか。
「中3のときですね。私が通っていた学校は中学と高校が一緒だったんですけど、高校に上がるときに別のコースを選ぶ仲良しの友達もいて、“離れ離れになっちゃうな”と寂しい気持ちになって。クリスマスや誕生日みたいな特別な記念日よりも、友達と普通にしゃべっている日常のほうが好きだなと思って書いたのが、〈Ordinary days〉です」
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――楽曲を作ったときは、ギターの弾き語りだったんですか?
「そうですね。当時、
アヴィーチー の〈Wake me up〉が流行っていて、カヴァーしてみたら半音下げのチューニングだったんです。“半音下げるとこんなに雰囲気が変わるのか”と思って、そのチューニングで曲を作ってみようと。コードとメロディがいい感じにまとまってきて、そのときに思っていたことを歌詞にして乗せてみたんですよね。その後レコーディングして、自主制作のCDに入れたんですが、そのときも昼間のカラッとしたイメージのアレンジで。今回はそれをさらにブラッシュアップした感じですね」
――レコーディングは竹内さんが生まれたロスだったそうですね。
「そうなんです! SXSWの後、USツアーを7本やらせてもらったんですけど、そのなかにロサンゼルスも含まれていて。ロスには5歳までしかいなかったんですけど、15歳のときに書いた曲を生まれ故郷で録るのは、感慨深かったです。ロスのことはぜんぜん覚えてなかったんですけどね(笑)。実際に行ったら思い出すかなって思ってたんだけど、滞在中はずっと雨で、ロスのカラッとした空気もぜんぜん味わえなかったし(笑)。レコーディングはすごく楽しかったですね。現地のミュージシャンと一緒に演奏したんですけど、みなさんすごくフレンドリーだったし、その場の空気感もしっかり感じてもらえるんじゃないかなって。録りはサクッと終わって、あとはずっとピザ・パーティだったんですけど、それも楽しかったです(笑)」
――「ALRIGHT」は打ち込みをベースにしたナンバー。心地よい疾走感と前向きな気分がひとつになった楽曲ですね。
「曲を書いたのは大学生になってからです。高校が丘の上にあって、いつも自転車で坂道を上っていて。夏の暑い時期に学校に遅くまで残っていたことがあって、その帰り道、長い下り坂をダーッと下ったときのことがすごく印象に残ってたんです。蒸し暑さが吹き飛んで、なんとも言えない高揚感があって。理由はないんですけど、“できる気がする!”という無敵感があったんですよね、そのとき。それを大学生になってから思い出して、“あのとき感じたことって、ティーンエイジャーの気持ちだな”と思ったんです。10代のときって、何の根拠もなく“たぶんできる。大丈夫!”って思える時期だし、そのことを曲にしたいなと思ったんですよね」
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――竹内さんの場合はもちろん“ミュージシャンになる”という気持ちとリンクしていたわけですよね?
「そうですね。どういう形であっても、音楽の世界に携わりたかったので。本当になれるかどうかはわからないし、何の保証もないけど、“でも、大丈夫”と思ってましたね」
――そのモチベーションを支えていたものって、何だと思いますか?
「なんだろう……。自分の音楽の原点は、アース・ウィンド&ファイヤーの〈September〉なんです。20年生きてきたなかでいちばん大好きな曲だし、いつ聴いても最高で。落ち込んでたり、イライラしていても、〈September〉を聴けばハッピーになれる。私にとって“どんなときも、これさえ聴けば大丈夫”と思える曲なんですが、いつか自分でそういう曲を作ってみたくて。それがいちばんのモチベーションかもしれないですね」
――3曲目の「TEL me」は洗練を感じさせるポップ・チューン。確かに朝に似合う気持ちいい曲ですね。
「ありがとうございます。高校2年くらいのときに、音楽理論の勉強をはじめたんですよ。そのなかで学んだこと、耳触りの良いコード感を意識して作った曲ですね」
――どうして理論を学ぼうと思ったんですか?
「ふだんはパッと思いついたコードをもとに感覚的に作ることが多いんですけど、それだけだと曲作りが進まなくなることもあって。理論を知ることで“こういう場合、次のコードはコレかな”と選択肢が広がるんじゃないかと思ったんです。いろんなアーティストの楽曲を譜面に起こして“こういうコード進行だから気持ち良く感じるんだな”ということを分析したり。ギターのコードの押さえ方、押さえる位置もいろいろあるので、そういうところも研究して」
――感覚に頼っていると、似たような曲ばかりになりそうですからね。
「そうなんですよね。音楽ってある程度“型”があるし、知らないよりは知っていたほうがいいので。理論通りにやるだけではなくて、“これだけだと普通だから、裏のコードを使おう”ということもできますからね」
――「TELL me」は今回のE.Pのなかで唯一のラブ・ソング。
「歌詞は、あとから考えたんですけど、テーマは電話越しの会話です。好きな人と電話しているときって、声をいちばん近くに感じられる。でも、物理的な距離は離れていて。その感じを表現できたらなって。だからヴォーカルもささやいているイメージで歌ってるんです」
――そしてTLCの名曲「No scrubs」のカヴァーも収録。これもギターを押し出したアレンジですね。
「いままでやったことないことに挑戦したかったんですよね。R&Bの曲はそこまで馴染みがなかったし、〈No scrubs〉をギターを活かしてカヴァーしたらおもしろいだろうなって。原曲はコードが4つくらいですごくシンプルなんですが、フレージングにもこだわって、自分らしいカヴァーになったと思います。ラップにも初挑戦したんですけど、難しかったです(笑)」
――4曲を通して、竹内さんの個性と音楽的なルーツがしっかり伝わる作品になっていると思います。シンガー・ソングライターとしてのアイデンティが確立できつつあるという手応えもあるのでは?
「そうですね……。SXSWのときに、最初は“アウェイだな”と思ってたんです。12歳くらいに見られていたみたいだし(笑)、お客さんは私のことをまったく知らないので。でも向こうのお客さんは“カッコいい”と思ったら、熱いレスポンスを返してくれるんですよね。いまの自分のスタイルは間違っていないと思ったし、“自分はこうしたい”という方向性も決まってきているんじゃないかなって。自分がカッコいいと感じているものは、今回のE.Pにもたくさん詰められたと思ってます。将来的には世界に羽ばたいて、どこでも戦えるアーティストになりたいですね。まずは知ってもらうことが大事だから、いろんなところでライヴをやっていきたいです!」
取材・文 / 森 朋之(2018年7月)
2018年9月12日(水) 大阪 心斎橋 Music Club JANUS 開場 18:30 / 開演 19:00前売 3,500円(税込 / 別途ドリンク代) 学生証提示で当日1,000円バック ※お問い合わせ: Music Club JANUS 06-6214-7255