ラッパーの
輪入道が今年5月に、渋谷 TSUTAYA O-WESTにて行った主催イベント〈暴道祭〉が
DVD化。輪入道をはじめ、
DOTAMAや
GADORO、
押忍マン、mu-tonといった、フリースタイル・バトル・シーンの中でも名を馳せているラッパーが数々登場したが、エキシビジョンとしてはバトルはあったものの、根本的には“ライヴ”を中心とした構成となった。そこからは彼らのアーティストとしての矜持と共に、輪入道の“バトル・ブーム以降”への視座も感じさせられる。充実のDVDだ。
――今回の暴道祭はO-WESTで開催されましたが、会場を選んだ理由は?
「元々、“大きい場所でイベントをやりたい”っていう気持ちがあったんですよね。それでO-WESTを押さえて、メンツもカチッとしたアーティストを揃えた、ヒップホップ・イベントにしようと思って。ただ、前回の自主イベントが千葉のSTARNITEだったんで、そこからキャパ的にはかなり間をすっ飛ばしてのO-WESTだったので、イベントを企画運営する側としてはけっこう大変でしたね」
――STARNITEが公称でキャパ最大450、O-WESTが1,300ですから、3倍近くの大きさになりますね。
「だから池袋BEDでやったら楽だったんだろうな、って(笑)」
――面子としてはBED感もありますね。それは現場叩き上げの面子が中心になっているという意味で。そして、その面子をBEDではなく、O-WESTのような大きなライヴハウスで見ると、また印象も変わりますね。より華やかに見えるというか。
「それが大きな場所でやりたかった理由なんですよね。それもあって“慣れないながらもやってみよう”という感じだったんですが、やっぱり規模が規模だけに、ちょっと至らない部分も多かったと思うし、出演陣にも相当助けられましたね。“もっとこうすれば良かった”って思う部分も多々あるんですが、それは後悔ではなくて、次に繋げる改善点が見えたという感じですね」
――ポジティヴな発見があったと。今回の人選はどのように決められましたか?
「とにかく、僕が見たい人を選んだというところですね。プラス、例えば“
RHYMEBERRYがこのゴリゴリのメンツの中にいたら面白いな”とか、“輪入道 × DOTAMA × mu-tonの〈TAG SHIT〉が出来たらな”、“輪入道, 押忍マン,
SIMON JAP,
十影,
CIMAの〈覇道任侠伝 仁義の絆〜〉をやるにはどうすればいいかな”という感じでまとめていったら、この面子になったというか」
――それに加えて、“ライヴが上手い”ということも、通底する基準として感じました。
「それが中心ですね。とにかくステージ捌きが上手い人のライヴを観客に提示したかったし、逆にそこしか見てなかったぐらいの感じはあります。例えば、mu-tonはやっぱりバトルのイメージが強いかもしれないけど、一度見れば彼の本当の魅力はライヴだってことが分かるし、暴道祭で初めてmu-tonを見た人が、そう感じてくれれば嬉しいなって。それは登場してもらった全員に言えることで、お客さんにそう感じてもらいたかった」
――バトル・ブームによって、“バトルにしか興味がないオーディエンス問題”というのが話題に上ることも少なくはなかったですが、映像を見て、その状況が変わってきているのかなとも感じました。暴道祭はバトル強者の登場が非常に多いですが、その要素に加えて、ライヴでもしっかりとオーディエンスをロックできるポテンシャルを持っているアーティストであるということが、映像からも伝わってくるし、それにお客さんもしっかりついていっている。
「暴道祭のお客さんに関しては、GADOROくんのファンだったり、DOTAMAさんのファンのような、彼らを通して“既にライヴを見る目”が出来ているお客さんも多かったと思うんですね。プラス、バトルでしか見たことが無かったラッパーがいるとしたら、そのライヴを見てより驚いて欲しかった。一見、無造作に投げ込んだような面子のように思うかも知れないけど、“ライヴ巧者”という部分が、一つの軸になっていると思いますね」
――構成を登場順に伺いたいと思います。まず、和太鼓ユニットであるzigzagと、輪入道×押忍マンのフリースタイルに続いて、N0uTYが登場しましたが、彼は輪入道くんのレーベル「GARAGE MUSIC JAPAN」の所属となりました。 「やつは西東京の出身なんですけど、千葉のバトルだと負け無しなんですよね。僕が幕張メッセでやった〈SEASIDE HOOD〉っていうイベントのバトルでも優勝して、千葉出身じゃないのに、千葉でプロップスが高いんですよね。だから不思議に思って“親が千葉だったりするのか?”って訊いたら、“親は佐賀です”って、余計に関係なかった(笑)。それは冗談にしても、バトルの強さに加えて、ライヴもスゴく良いんだけど、まだそのクオリティに知名度が追いついてないと思うんですよね。それで、もっと知名度を高める協力ができればと思って、レーベルとして声を掛けて。この日のライヴも良かったので、その腕前を色んな人に見てもらえたんじゃないかなと」
――話は逸れますが、現在の千葉の状況は輪入道くんからはどう見えていますか?
「群雄割拠という感じですかね。ただ“千葉といえば”という存在が、今はいないと思うんですよね。それは、千葉の広さにもよると思うんですが」
――千葉は電車の路線によって行動範囲が大きく変わるし――故に常磐線を冠した“JBL”のようなクルーが生まれたと思うんですが――県庁所在地のある千葉駅が県下で最も栄えているかといえばそうでもないし、遊びに行くなら東京に出てしまう人が多い。“千葉の一番”と言ったE.G.G.MANさんや、千葉発のレーベルであるKINGDOM RECORDSを立ち上げたMr.OMERIさんのような、千葉を強烈にアピールしたアーティストももちろんいましたが、そのアピールの需要が、他の県よりも決して強くは無かったのは、そういう地理的な要因もあったのかな、と僕も千葉出身なので思います(笑)。それは余談としても、輪入道くんが現在の千葉を代表する存在だとも思うのですが。 「そう思ってもらえれば嬉しいし、それもあって“千葉!”って言い続けてきた部分もありますね。そして、僕が千葉をレペゼンすることで、千葉シーンの発奮材料になればいいなと思ってたんですよね。“東京で活動してるくせに千葉千葉言ってんじゃねーよ!”みたいなやつが出てきたらいいなと。でも、もう“レペゼン千葉”みたいなことを言ってる段階でも無いのかなって。その意味でも、自分がどう進むべきなのか、過渡期ではあると思ってます」
――それは具体的には?
「輪入道というアーティストとしての方向性ですね。このイベントを終えて、今までとは違うフィールドで戦いたいっていう気持ちがより強くなってきたんですよね。だから、“千葉のラッパー”という根っこは変わらないけど、それだけじゃなく、それを超えて動きたいと思っていて。ただそう言うからには、最終的にはそういう考えが必要だったんだな、意味があったんだなっていう結果を残さないといけないとも考えていますね。その意味では、今回暴道祭にも登場した11歳のラッパーTAIKIとかが、大人になっていく中で千葉のトップになってくれたりしたら嬉しいですよね。ただ、まだ言うても彼はまだ11歳なんで、ラップに飽きないでくれるとな、と(笑)」
――11歳だから体もまだ小さくて、マイクがスゴく大きく見えるんだけど、ラップ度胸は大したもんでしたね。話はそのまま出演者に戻ると、押忍マンは進行の裏回し的な役回りもありましたね。
「押忍マンさんとは一緒には〈わにゅう道場〉をやっていることもあって、今回は一番力になってもらったし、頼りにしましたね。zigzagとのパフォーマンスでも、和太鼓と一緒にラップをするのは若干の迷いもあったんですが、押忍マンさんの誘導によって全力で行けた感じですね。本当に力を貸してもらいました」
「イベント自体を楽しんでくれたと思うし、終わった後も円山町を一番楽しんでて(笑)。彼らの手腕を東京の多くの人に見てもらうキッカケになって良かったと思います」
――そしてSIMON JAPはヒリヒリする異彩を放っていました。
「SIMONさんに出てもらって、本当に正解だったと思いますね。このメンツの中にSIMON JAPがいて、“SIMON JAPここにあり!”って言うのをビシッと見せてもらえたと思います」
――続くRed Eyeは高校生ラップ選手権で準優勝を果たしたMCですね。 「そうですね。しかも、その年齢で“シラフでライヴしたのは今日が初めて”って言ってましたからね。どんな10代だと(笑)」
――リリックの内容が完全に公序良俗から外れてて素晴らしかったですね(笑)。
「リハーサルでみんな一瞬止まりましたね。これは……大丈夫か?と(笑)」
――このラップの内容で、ライヴがヘロヘロだったら“イキったダサい若者”っていう感じになるけど、めちゃめちゃ良くて、只者ではない存在感を既に提示してましたね。
「パフォーマンスのしっかりした、ばっちりなライヴだったんで最高でしたね。本当にいいアクセントになりました」
――そしてRed EyeからのRHYMEBERRYという流れは衝撃的です。
「どっちもこの並びでよく受けてくれたなって(笑)」
――流れが、DOTAMA〜RHYMEBERRY〜TAIKIだったら、他のイベントでもあってもおかしくない感じもありますが、SIMON JAP〜Red Eye〜RHYMEBERRYは、完全に地場が歪んでますよ。
「ホントに“誰がこのメンツを組んだんだ!”って感じですよ」
――あなたですよ(笑)。
「でも、ゴリゴリのヒップホップの中にRHYMEBERRYが混ざるっていう画を見たかったんですよね。それに、暴道祭の前にRHYMEBERRYのライヴを見て、普通に感動したんですよね。ラップがどう、アイドルがどうっていう自分のモノサシは、本当に狭かったんだなと思ったし、考え方が変えられましたね。そこで、ぜひ出て欲しいと思ってオファーして。お客さんにも喜んでもらえましたね」
――mu-tonのこの日、全て新曲だったんですね。
「自分が彼ぐらいの歳にやりたかったけど、“でも出来ねえだろうな”って勝手に自分で閉ざしてた部分を、彼はナチュラルに出来てるなと感じて、羨ましくもあるんですよね。それはざっくりと言えば、ステージ上の雰囲気。ステージ上で必ず“mu-ton”になれる、あのヴァイブスの出し方がスゴいですよね」
――続いてはDOTAMAが登場します。
「この日のドタさんはやばかったですね、押忍マンさんが“もう降参”って感じで、完全に屈服してました(笑)。緻密かつエンタテインメントな内容でしたね」
――今の彼はスゴく自信に満ち溢れてる感じがしますね。
「“オラオラ!”って感じですよね(笑)。〈TAG SHIT〉のトリオも出来て良かったですね」
――十影のライヴでは、UZIがスッと出てくる感じがまず最高でした。 「何事もなかったかのように(笑)。ホントに出てもらえて良かったですね。十影さんのライヴは、もう理屈じゃないですね。“十影さんがいる”っていうことが僕にとってはスゴく大事なことだし、嫌だって言われない限りは、オファーし続けると思いますね」
――彼はバトルに積極的に出るタイプではないから、この中の並びだと意外な感触もありますね。
「でも、自分にとってもう10何年来の先輩なんですよね。LUCK ENDが千葉でライヴやる時に呼ばれたり、僕も東京のライヴでは色々面倒を見てもらったり」
――トリ前にはGADOROが登場します。
「持ち時間の中でかなりがっちりやってもらいましたね。彼は色んなところで毎週のようにやってるから、ライヴがどんどん上手くなっていってるんですよね。それを暴道祭でも感じましたね。O-WESTのスタッフさんはあんまりヒップホップ・リスナーじゃなかったみたいなんですけど、GADOROを見ながら涙を流してて。それを見てGADOROのリスナーを惹き付けるスゴさを改めて感じたし、こういうイベントをやって正解だったなって」
――輪入道くんは3曲が収録されていますね。
「自分の中の先発メンバーであり、イベントを締めくくるに相応しい曲ということで、あんまり気をてらわないで自分の出来る一番いいライヴを収録しようと」
――この中で、“今が正念場”だと言うMCがありましたが、その意図を教えて下さい。
「今年、2018年という年が、日本のヒップホップにとっては正念場なんじゃないかなって。まだヒップホップの波は收まらないとは思うんですが、流れがいいか悪いかで言ったら、僕は悪い流れだと感じてるんですね。その中で、どう生き残るかは考えていかなければいけない。それに、いままで日本のヒップホップが積み上げてきたものを自分たちで終わらせるって言うのは嫌だし、そうならないために、いろんなアクションを起こさないとと思ってますね。このイベントに出てくれた人は、先を見て自分でセルフプロデュースができる人たちだと思うんで、そういう人たちの動きを注目してもらいたいと思います」
――これからも暴道祭は続きますか?
「第2回もやりたいですね。ひとまず何事もなく終わったし、ニュースや話のネタになるようなエピソードが生まれなくて逆に良かった、と(笑)。僕ら世代はもちろん、TAIKIやRed Eyeみたいな10代のラッパーが、こういう大きなステージに登れる機会を作りたいし、それが出来たのが自分的にも誇らしかった。だから、大きな場所でやることの意味を広げられるようなイベントを、今後も形に出来ればなと思いますね」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2018年8月)