ビートメイカーであり映像ディレクションも手がける
kamui と、なかむらみなみという2人のラッパーで構成されるヒップホップ・ユニット、
TENG GANG STARR が初めてのフィジカル・リリースとなるファースト・フル・アルバム『
ICON 』を完成させた。漫画やアニメのヒーローのように、ぶっ飛んだポップな魅力を持つふたりは、全ての経験を力に換えて、始まったばかりの夢に生きる。
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――『ICON』はアルバムとして、見事にまとまった作品だと思います。
みなみ 「ストリーミングとか、いまは曲単体で音楽を聴く時代だから、曲を飛ばされずにアルバムを上から下まで聴いて頂けるよう、kamuiさんがイメージした世界観をトータルで作品にしていくような意識はありました」
kamui 「1曲目の〈INTRO〉はどうでした? 最後に完成した曲なんですけど、ものすごく手こずったんです」
――この曲で、おふたりの空気感と関係性が“キャラクター”ではないと確信できました。
kamui 「嬉しいです、ふたりともギミックを演じているわけではないので。実際、みなみはめちゃくちゃ礼儀正しい。親がいなかった分、神奈川・辻堂の祭り文化の中、墨だらけの男たちに育てられて、挨拶とか上下関係とか叩きこまれていて、健全」
――特に「きっと」には説得力が溢れていて、これまでの活動が意味をなしているように思えました。
kamui 「〈きっと〉から伝わる“情緒”のようなものは(ミックスを担当した)
ILLICIT TSUBOI さんのおかげです。俺、ビートを作るところから含めて自分の曲は1,000回以上聴くんですけど、TSUBOIさんがミックスしてくれた音源はデモとは違って、よりエモーショナルで切実なものになっていて、聴いたときめちゃくちゃ泣いちゃいましたね」
――それは信頼関係があるからこそですよね。
kamui 「昔、TSUBOIさんだけが俺のソロ音源を“最高だ”って言ってくれたんですよ。その言葉に救われて、音楽やっていて良かったなって思えて、自分を信じられるようになった。迷ったとき、何も言わなくても全部わかってくれる。TENG GANG STARRも面白がってくれているし、ラブしてくれてる。お世辞とかは絶対に言わないんで、ほめてくれると嬉しいです。ミックス後の〈S.T.E.P〉も勢いから違って、すげえアガって」
――「S.T.E.P」では、“祭り囃子をちゃんと聞け!”というみなみさんのヴァースがありますね。神輿はまるでモッシュ・ピットみたいだし、木札や半纏をあつらえてもらうというのはフッドに認められることでもある、私は“祭り”は完全にストリート・ミュージックだと思うんですね。みなみさんにとって祭りからの音楽的な影響はありますか?
みなみ 「はい、あると思います。“祭り”を知らない人にもちゃんと音楽として聴いてもらいたくて、お囃子の太鼓を叩くし、リリックにも書いています。いま首に下げているこの木札は、私の所属しているところの會長のもので、裏に會長のお名前も彫ってあってお守りにしています。“お前は辻堂の宝だから、これを持って東京でがんばってこい”って。ありがたいです。甚句っていう民謡的なものがあるんです。口伝で習ったり、自分たちで作るものもあるんですけど、飲み会の時に即興で5・7・5・7・7で言葉を選んで、フリースタイルみたいにリズムに合わせてやることもあって。固有名詞を入れたりは甚句ありきです」
kamui 「みなみのラップやリリックについては、俺がスパルタなんで完全に監修しています。アドバイスはするけど、彼女にしかできないラップ、より具体的な固有名詞を使って、彼女のルーツである辻堂や祭りのことを入れてもらう。聴いてると、呪術的なフレーズとして耳に残るんですよ」
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――かたやkamuiさんは“カンダタ”“蜘蛛の糸”など独特の言葉選びをしていて、ソロ曲「
Nikes 」では“スニーカー”からの視点で語るという、構成の上手さはどこか文学的。「
ダチュラ(DATURA) 」というタイトルはどこから?
kamui 「〈Nikes〉は
フランク・オーシャン のリミックスなんですけど、初めて俺が歌っているのを世に出した曲です。長く付き合ってきた恋人と別れる時に、ちょっとくたびれてるNikeのスニーカーと自分を照らし合わせて。自分の話をしようとしたら、だんだんNikeが語りだしてくれました。“DATURA”は
村上 龍 の『コインロッカー・ベイビーズ』に出てくるキーワードです。キクとハシっていう、コインロッカーに捨てられた男の子の話にめちゃくちゃ共感して。俺も世の中に対して漠然と抵抗したかった、世の中に復讐したいんだって、わかってもらうための合言葉です」
――選んだ言葉に背景があるんですね。
kamui 「みなみと違って、俺にはレペゼン出来る場所がないからこそ別のアプローチからラップしてます。 俺らは“陰と陽”ですね。ソロでやっていたけど行き詰っちゃって、みなみと出会って。最初は息抜きのつもりだったけど、俺が救われている面もある。釣り合ってよかったね」
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――「ダチュラ(DATURA)」や「
LIVIN' THE DREAM 」は、すでにkamuiさんがプロデュースしたMVが公開されていて、映像と併せてこそ完結する楽曲だと思いました。
みなみ 「kamuiさんはビートを作ってる時から映像が浮かんでいらっしゃると思う」
kamui 「映像は、音楽にとって必要なものだと思っているから、セットで楽しんで欲しい。〈LIVIN' THE DREAM〉で“夢に生きる”って言ったから、次の〈ダチュラ(DATURA)〉では、その“夢”を見せなきゃいけない。だったら海外行くしかねーなって、香港で撮影しました。サイケデリックなごちゃごちゃした街で“ここから始める、いやもう始まってるぜ”っていうテーマ」
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みなみ 「私たちが撮影した次の日に、あの場所は撮影禁止になって、映像では私たちが最後になりました」
kamui 「普通の住宅地だし、よっぽど俺ら暴れたんじゃない(笑)。香港は俺も初めてだったけど、みなみは本当に辻堂から出たことなくて、撮影のときもすげえテンションあがってて。“着いたらこいつどんな反応するんだろう、大丈夫かな”って気になったんだけど、スケジュールは2泊3日しかないし、絶対にいい絵を撮らなきゃいけないから、俺は気が気でなくて」
みなみ 「kamuiさんが楽しい感じで撮りたいって仰ったんで、ベッドでめっちゃ跳ねてたら警察がきたんですよ。日本のパトカーとは音が違って、怖くて。ガイドさんとkamuiさんが"こっちの警察は銃を持ってるから気をつけろ"とかだますから、もう撃たれると思って泣いちゃって。銃には勝てないです……」
――撮影はそんな感じだったんですね(笑)。先行シングルとして配信された「
DODEMOII 」はどんなアイディアから生まれたんですか?
kamui 「“異種格闘技”とか“夢のコラボ”は大好きだったし、
A$AP ROCKY と
SKRILLEX が共演したように、俺らもダンス・ミュージックのホープと共演したくて進めたのが〈DODEMOII〉。コラボした
Masayoshi Iimori とは、ヒップホップのリスナーにも気持ち良く踊ってもらえる曲を作ろうよって話し合って。実際に反応がほかの曲とは違って、Spotifyでのストリーミングの伸びが良かったり、嬉しいですね」
kamui 「誰もやってないことをやるのがTENG GANG STARR。
MIYACHI とも最初にやるし、MinchanbabyとWillyWonkaが一緒なのも普通は到底無理ですよ」
――ジャケットのアートワークについても教えてください。
kamui 「これはAlice(
Alice Bloomfield )さんってイギリス人。雑誌で見た絵がまるで俺らみたいだったから、描いてもらいたくて自分で調べてお願いしました」
――描かれたおふたりのヴィジュアルは、まるで『AKIRA』の“金田”と、『花のあすか組!』の“美子”みたいで、すごく素敵。「
ニートtokyo 」ではフリーザとアラレちゃんのTシャツを着てましたけど、漫画やアニメからも影響を受けていますか?
kamui 「ニートtokyoはたまたまなんです。別の服に決めてたんだけど、ふらっとユニクロで“あれこのフリーザ……ヤバいな”って見つけて。当日行ったらみなみがアラレちゃん着てて、マジかよって思ったけど、“鳥山明シバり”で、まぁいっかって。俺も訊きたいわ、何に影響受けたの? アニメめちゃ好きなのは知ってるけど」
みなみ 「『銀魂』とかジャンプが好きです。『ドラゴンボール』に出てくる女の人って、みんな強いじゃないですか。最初はランチさん! ランチさんはくしゃみをすると金髪になって超ヤンキーになるんですよ。マジ強いっすよ。女が守られるんじゃなくて、自分の力でなにかして、しかもかわいい。それってすごいことで、憧れます。アラレちゃんは、首がパカってとれちゃったり、自分の身体の使い方をわかってないんです。めっちゃ強くて、いっつも笑ってるじゃないですか。あれ、すごい幸せだなって思います」
kamui 「俺が個人的に一番好きなのは、映画『
凶気の桜 』で
窪塚洋介 が演じている“山口 進”です。誰よりもケンカが強くて、誰よりも頭がいい。そして純粋なんです。セックスもしない。
エミネム と『凶気の桜』が、暴力とか衝動、感情を言葉にしていかなくちゃいけないって思ったきっかけですね。もちろん『AKIRA』も好きなんですけど、アニメのキャラってなると具体的にはいない。金髪にしたのは〈LIVIN' THE DREAM〉が初めてで、自分をヴィジュアルでも表現していこうって決意もあの曲からです。髪を染めたことはなかったけど“AKIRAになろう”って思ったんです。でも金田じゃなくて、ネオ東京の名もなき暴走族のひとり」
取材・文 / 服部真由子(2018年8月)