GEZAN が
スティーヴ・アルビニ と組んでアルバムを出す。これがどのくらいとんでもないことなのか、わかる人だけわかればいいとは絶対に言いたくない。少なくともオルタナ・ロック好きを自任するならば、聴かずに通り過ぎてはいけない。ドラマーをチェンジして再スタートを切った今、彼らはなぜ、無謀とも言える大勝負に打って出たのか。オルタナ界のレジェンド、アルビニは彼らに何をもたらしたのか。そしてバンドはどこへ向かうのか。
マヒトゥ・ザ・ピーポー (vo, g)に話を訊こう。
――アルビニはとても魅力的な、しかしとても毒性の強い人です。
「いろんな噂も聞いてたし、アメリカ・ツアー中に“このあとシカゴでアルビニと仕事するんだ”という話をしたら、“おまえらの英語で大丈夫か? スティーヴはアメリカで有名なASSHOLE(ゲス野郎)だぞ”ってすごい心配された(笑)。ツアーの最終日に、TOYS THAT KILLというバンドの、Recessレコードって老舗のパンク・レーベルをやってるTODという奴と一緒で、彼にもその話をしたら、“スティーヴにこう言え。おまえも日本語しゃべれないだろって”とか言って。かっこいい奴は言うこと違うなって」
――ふふふ。アドバイスなのか、煽ってるのか。
「でも結局、シカゴのエレクトリカル・オーディオ・スタジオでスティーヴに会ったら、いきなり“ワタシハニホンゴ、ウマクシャベレマセン、スイマセン”とか言って、歩み寄ってきてくれて。言葉がどうこうじゃなくて、やっぱり音の人なんで、安心しましたけどね」
――そもそも、なぜアルビニだったんですか。
「アルビニって、その場所の空気感とかブレスの感じとか、生き物の感じを録るのがすごく長けてるし、存在感あるように録ってくれるんで。ベース・ミュージックとかヒップホップをやってる友達の音源を聴くと、レンジも広いし、使える音の幅も広いから、音楽的に見ても迫力あるし、そことまっすぐケンカするのは無謀だと思うんですよ。バンドで一生懸命シンセサイザーを入れて、打ち込みと同期させてとか、そういうバンドもいると思うんですけど、そことケンカするより、バンドって人がやってる存在感がものすごく強い編成だと思うし、それが一番の武器で強さだと思うんで。それを一番強く録れる人とやりたかったから、スティーヴ・アルビニが最初に浮かんだんですね」
――アルビニには直でメールしたと聞きました。
「普通に送りました。誰かに間に入ってもらうわけでもなく」
――何て書いたんですか。
「“音を聴いて気に入ってもらえればお願いします。駄目だったら別にいいです”みたいな感じで送りましたね。人の話を聞いてると、選定があるっぽかったんで。アシスタントに回すとか」
――すぐ返事は来たんですか。
「わりとすぐでしたね。詳しい内容は忘れましたけど、OKとか書いてあって、テンション上がりました」
――実際、どうだったんですか。現場では。
「スティーヴ・アルビニはプロデューサーと呼ばれることを嫌うって、よく言われてるじゃないですか。でも実際やってみて、プロデューサーと呼びたくなる気持ちはわかりましたね。その場所の主であるという感じがあるし、音の扱い方もほかと違って、信頼関係の作り方が普段のエンジニアの方とは違うんで。スタジオのあり方についてのこだわりがいろんなところに見えるし、“ここにあるものは何使ってもいいよ”と言われて、機材がいっぱいあるんですけど、アコギが1本もないんですよ。"エレクトリカル"というものへのこだわりがすごい」
――おおー。
「ドラムの音もすごく鳴ってるし、ドラムだけでマイク十何本立ててましたね、エレクトリカル・オーディオ・スタジオは、オープンリールでアナログ卓で、トラックの数が決まってるんですよ。パソコンだったら無限にオーバーダブできるんですけど、ドラムで十何個取られてるから、“コーラスは3人まとめて”“ギターのオーバーダブは一回だけ”とか、そういう感じ。“ギター2個重ねたかったけど無理っすね”みたいな。でもその感じも良かったですね」
――とんでもない音ですよ。これはほかのスタジオでは絶対出せないだろうと思います。「NO GOD」の深いドラムとか、「Ambient red」のフィナーレのすさまじいカオスとか。
「行った甲斐があって、良かったです」
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――曲調はスロー、ミッドテンポのものが多いですよね。すごくヘヴィで重心が低い。
「単純に今のムードですね。東京で生活してて、そんなにいい世界でもないなというか、ちょっと曇った感じが自然と出た気がする。前のアルバムは、快晴みたいな青いアルバムだったですけど、そこに比べるとうねってる感じがします」
――心象が自然に出た。
「これを聴いてどういう感想を持つか、よくわからないけど、自分はこれはSFだと思っていて。いわゆるシンセサイザー的なSF感はまったくなくて、カサカサして乾いてるんですけど、でも自分はSFなんですよね、アルバムの印象は。血生臭いというか。……どう思いました?」
――音の迫力とかっこよさを別にすれば、世界観としては“終わりと始まり”のイメージを強く感じたんですね。GEZANがずっと歌ってきたことだと思うんですけど、何度目かの終わりが終わって、何度目かの始まりが始まる、それが同時に起きているような、でも最後には希望の余韻が残るような、そんなアルバムだと思いましたけどね。
「ああ、それはそれでうれしいです」
――壊れてゆく世界はもうしょうがないとして、おまえの中に新しい神を作って、新しい世界を作ろうぜというふうに、泣きながら拳を振り上げるみたいな、そんな感じがしました。今言ったSFというのは、空想とか架空という意味じゃないですよね?
「SFの意味が分からずに、今言ってた気がするんですけど(笑)」
――空想の物語を作っているという意味ではない。
「という意味ではないですね。今言ったようなことに近いのかもしれないですけど、いろんな意味で破綻してるなとは思っていて。でもそれはあくまでも背景で、それに飲み込まれる必要もないし、自分が信じていくべき神様やヒーローや価値観を、誰かに用意してもらう時代でもないと思うし」
――まったくそうだと思います。
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「インターネットとかで、そういうものを無限に追い掛けまわしているよりは、それこそ〈忘炎〉の歌詞とかにも入ってるけど、家で花瓶の花に水をあげたりする、そういう勝ち方みたいな、自分としてはそっちのほうがしっくり来てて。新しい神様の画をネットから探してきて、やっぱり違ったとか言って、みんなでそれを蹴落として次の神様を探すとか。いい加減みんな気づいてるんじゃないの?って思うんですけどね。それよりは、おじいちゃんにもらったおもちゃが今も家にあるんですけど、そういうもののほうがいいな、みたいな。それのほうが俺にとっては神様っぽいというか。SFってそういうことじゃないのかもしれないけど」
――ああ。わかります。
「俺はこういう感じで行くけどね、という気持ちですね。スティーヴ・アルビニも、時代とマッチしてるかというと、だいぶ怪しいと思うし。90年代のオルタナの時だったらトレンドだったかもしれないけど、今は何のトレンドでもないし。そういう意味ではまったく関係ないんですけど、いろんな面で意思表示はありますね」
――「NO GOD」のリリックは今言われたことまんまだし、アルバムの歌詞はすべて、すごくリアルでストレートだと思います。終わる感覚って、常にあるんですか。終わりに取り憑かれてるような感じもするんですけどね。
「取り憑かれてるのかもしれない。なんかずっと、思っちゃうんですよね。あんまり言いすぎると、終末論者みたいになっちゃうけど。おかしいですよね、天気一つとっても」
――何かがおかしいです。
「結局いろんな社会の仕組みとか、音楽業界とか言われるものもそうだと思うし、いろんなものが延命延命で続いてきてるけど、それが破綻したら困る人たちが延命させてるだけで、本来はいろんなものが破綻してると思っていて。それは地球というものも同じだと思っていて、まだ行けてるよってアピールするために、春の次に夏が来て秋が来て……っていうふうにはしてるけど、ちょっと無理が出てきてるんじゃないか。そういうことを節々で拾っていってる人が、形にしていってると思うんで」
――芸術家の役目ですね。時代のサインを読む。
「たとえば映画にしても、『ブレードランナー』の新しいやつ(『
ブレードランナー 2049 』)もそうだし、去年の『
メッセージ 』とかも、もはやSFのジャンルも……昔のSFって、エイリアンが来ましたとか、違う世界の人がいるんだとか、地球の側に腰を置いてエイリアンを遠くから見てる図式だったと思うんですけど、最近のSFはもはやエモになってきてる。宇宙人側のエモを描いたり、違う世界のものとして描かれてなくて、ここまで来てるんだなあと思う。音楽で俺がしっくり来るものはみんな、そういう要素を持ってる気がしますね。たとえば
坂本慎太郎 さんの詞を見てても、俺にとってあれはSFなんですよ。いわゆる、ジャンルで言うSFではないと思うけど」
――ああー。
「ああいう、この先にある違和感とか、そういうものにピントが合ってきたら、SFにならざるをえない。この音からSFを想像してくれる、耳のいい人がどれだけいるかわからないですけどね」
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――僕は今言われて、初めて理解しましたけど。もっともっと勘の鋭い人はたくさんいると思います。
「突き詰めると、人間ってみんなヘンじゃないですか。それもSFですよね。みんな壊れてるな、みたいな。道を歩いてる人は、服を着て、エスカレーターを上る時は右側は追い越しでとか、信号は赤で止まるとか、みんなルールを憶えてるから、人間ごっこみたいなものをちゃんとできてるふうなんですけど、突き詰めると、動物のプリミティヴなところに行くと、宇宙とつながっていくというか。アルビニはすごく生々しい音だと思うんですけど、そういうふうに下に潜れば潜るほど、宇宙という感じがある。それは伝わりづらいかもしれないですけどね」
――それを伝えるのが僕らメディアの仕事なので。任せてください。最後に一つ。どんな人の胸に響く音楽だと思いますか、GEZANって。
「結局、疲弊してる人ですよね。自分で意識してるかしてないかは置いておいて、今の自分の周りの環境の、当たり前とされているいろんなものに疲弊してる人。疲弊するには理由があるんで、それは社会的責任だったり、こうあるべきだという自分で勝手に作ったルールだったり、そこで頑張ってるから不自然になっていく、そういう人に新しい勝ち方を提供することはできないけど、“俺はこういう感じも有りだと思うけどね”ぐらいの感じですね。あとタイトルに関して言うと、『
Silence Will Speak 』って、何も言ってないと言えば言ってないタイトルなんですけど、寝る前に一人でベッドに寝そべって考えた時に、1日の自分の言動や行いが自分に跳ね返ってくるというか、そういう一人になった時の静寂が、結局は語ってしまうという。さっき言った違和感とか、疲弊したという部分も、ごまかさずにそれはそれでいいというか、“正直にならざるをえないでしょ”というのはあるかもしれないですね、全体的に。クリーンにやろうぜっていうことだと思います」
取材・文 / 宮本英夫(2018年8月)
十三月 presents“全感覚祭 18” 2018年10月20日(土)、21日(日)
大阪 ROUTE26 / PINEAPPLE EXPRESS / ROUTE26 野外特設会場
開場 11:00 / 終演 20:00(予定)
pyouth-mag.com/zenkankaku18/